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第33話

 11月収穫祭が王都の中で開かれた。昨年よりも出店の数は減ったのだけど、国中て集められた新しいレシピのお陰か、新しい料理が店先に並んでいる。


「ミタリア嬢、行こうか」

「はい、リチャード様


 本日、私とリチャード殿下は腕に国のマーク入り腕章を付けて、収穫祭を視察している。


 ジャガイモのスコップコロッケ?

 ジャガイモさつまいもの素揚げ、ごま塩風味?

 苺のヨーグルトかけ、桃と苺のコンポート。

 焼き芋、まんまるジャガイモどれも美味しそう。


 色々な出店に目移りのなか、桃と苺の果実水のお店を見つけた。


「リチャード様、桃の果実水と苺の果実水どちらが良いですか?」


「俺は桃味がいいな」


「なら私は苺にしよっと。買ってくるので、近くのベンチで待っていてください」


「おい待て、1人で行くな。俺も行く」


 行こうとした私の手を殿下が掴む、その大きなひらには前は無かったマメができていた。最近にってリチャード殿は早朝の騎士団との訓練以外に、お昼過ぎからも剣の訓練を始めた。


 だから、お昼頃にお会いしてもリチャード殿下は週2日が3日、早めに切り上げて剣の訓練に向かわれている。


 ――寂しかったら、訓練場へ見学においでと誘われている。


「少し離れたベンチで休もう」

「はい、休みましょう」


 結局、リチャード殿下に果実水のお金を出してもらった。今日は日頃のお礼をしようと思っていたのに『ミタリア嬢は黙って、俺に奢られなさい』なんて、リチャード殿下がおっしゃるから……こちらは何も言えなくなる。


 ――それに、ベンチに座っても繋いだ手は離さないし。……照れる。




 ♱♱♱




「ふぅっ、甘くて美味しいです」

「ああ、美味いな」


 視察だけど楽しい、この収穫祭に訪れた人達もみんな笑顔だ。新しい料理に舌鼓を打ってる。もっともっと新しい料理、保存食を工夫すれば、これから来る冬を乗り越せるだろう。


 ベンチに並んで座り、果実水を味わう私達の近くで喜びの声が上がった。


「これは凄い!」

「ありがたいわ」

「国王様、ありがとうございます」と、胸に何かを抱きしめ、国王陛下に感謝していた。


「リチャード様、あの出店すごい人気ですね。それに、みんな喜んでいるわ」


 大勢の人が集まり、よく見ると手に本のような物を待っていた。


「あーあれか、あれは国中から集められたレシピをまとめたレシピ集だ。父上と話し合って作ったんだ。今日の収穫祭で無料で配られている」


(ええ、レシピ集ですって?)


「リチャード様、私もレシピ集が欲しいわ。みんなと一緒に並んできます」


「いや、待て。ミタリア嬢はそう言うと思って数冊、俺の部屋に作った者の特権でとってある。――あ、でも紙が曲がったり表紙がインクで汚れた物だが、ちゃんと読めるから……新品じゃなくて悪いが」


「そんなことは気にしませんわ。嬉しい、ありがとうございます、リチャード様」


「おい、そんなに喜ぶなよ。まぁ、お礼はブラッシングでいいぞ」


「はい、いくらでもブラッシングします。あ、……そのブラッシングの事なのですが……リチャード様がよかったら、また私にもブラッシングしてくだ……」


 言い終わる前に殿下の驚きの顔と、ゴホッと果実水にむせた。


「えっ? またミタリア嬢を、ブラッシングをしてもいいのか?」


「はい、お願いします……フフッ、口元をお拭きください」


 慌てている、リチャード殿下にハンカチを渡した。


「よし、いますぐ……いや、この視察が終わったら、いくらでもブラッシングするよ」




 ♱♱♱




 この時、リチャードの心の中は荒れていた。


(また、俺にブラッシングをしてくれ、だって? ……まじか! ミタリアはブラッシングの後、かなり照れていたから出来ないかと思っていた)


 あの無防備で可愛い、ミタリア嬢がまた見れる。


「果実水、美味しい」


 俺の気も知らないで、呑気に隣で苺の果実水を美味しそうに飲むミタリア……可愛いな。  


(今日はなんていい日なんだ。この腕章のお陰で人目を気にせず、ミタリアと堂々とデートできる)

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