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第30話

 王城の客間、ベッドの上にオオカミ姿のリチャード殿下と猫の私。寝ぼけて外せるようになった腕輪を外してしまったみたい。


 目が覚めてモゾモゾ私が動いたからか、リチャード殿下も目をさます。


「おはようございます、リチャード様」

「ん? おはよう、ミタリア嬢」


 スリスリ、スリスリ、オオカミのリチャード殿下と、猫の私は頬を擦り寄せて、言葉での挨拶の後にもう一度朝の挨拶をした。


 ――あれ?


 今朝のリチャード殿下を見ても、昨夜までの欲求が嘘のように収まっていた。それはリチャード殿下もだったのか、どこかスッキリした表情をしている。


「ふうっ、お腹空きましたね」


「そうだな。ミタリア嬢、僕はいちど部屋に戻って着替えてくるから、ここで待っていてくれ」


「はい」


 リチャード殿下は着替えに客間を出ていった。




 ♱♱♱




 メイドがタオルと新しい服、そして客間のテーブルに朝食を準備している。どうやら部屋に戻ったリチャード殿下がたのんだみたい。


 本日の朝食のメニューはポテトサラダのサンドイッチと、ジャガイモのポタージュとサラダ。このポテトサラダに使われている、マヨネーズはウチのコックと一緒に作った私の自信作だ。


 少し前、王宮がジャガイモの料理を募集したときに、コックの名前でレシピを提出して採用されたものだ。口に出しませんでしたが――選ばれたとき、心の中でガッツポーズしました。



 しばらくして着替えを終えたリチャード殿下が戻り、客間のテーブルで朝食をはじめた。


「いただきます。ん! このポテトサラダ美味しい……マヨネーズの味が変わりましたか? なんだか、すごくマイルドになってる」


「そうか? ……ああ、俺さ、前のマヨネーズだったかな? 味は嫌いじゃなかったが、僕は酸っぱいものが苦手で……マイルドにならないかと、城のコックに頼んだんだ」


 ――へぇ、酸っぱいものが苦手なんだ。


「そうだったのですね。前のマヨネーズも好きでしたが、これも好きですわ。でも、このマヨネーズだと食べるのがもっと好きになって……太りそう」


 だって、私が作ったマヨネーズよりも。

 リチャード殿下、考案マヨネーズはかなり美味しい。前世、マヨラーだった私はこの味にイチコロだ。


 ――このマヨだったら、目玉焼き、コロッケ、何にかけても美味しいわ。


「ハハッ、ミタリア嬢が太るって? 自分が思っているほど太くないぞ、むしろ俺の好きな体型だ」


「リチャード様の好きな体型? ――そそそ、そうななんだ……ですね」


 しどろもどろで真っ赤になった私と、楽しげなリチャード殿下との朝食は続いた。朝食が終わると殿下に『この後、一緒に執務室に来るか』と言われて、つい。


「リチャード様に着いていっても、いいのですか?」


 と言ってしまった。


 言った後に「しまった」リチャード殿下のお仕事の邪魔になるのでは? 側近のリルに文句を言われるのでは? など考えたのだけど。リチャード殿下と一緒に執務室に着いてきた私を、側近のリルは嫌な顔ひとつもせずに中に入れてくれて、書類整理という簡単な仕事までくれた。


 ソファに座り、もらった書類整理をしていた。

 執務中のリチャード殿下が1枚の書類を手に持ち、リルに聞く。


「リル、この書類の内容は父上も知っているのか?」


「はい。その書類は国王陛下が一度、目を通した書類です」


「そうか、そうか――よかった。今年の収穫祭は中止ではなく、規模を小さくして開催されるのだな」


「はい、規模は小さくなりますが。予算内で出来そうだと、陛下の側近ソウ様がそうおっしゃっておりました」


 ――収穫祭? 収穫祭って出店が王都の外まで並ぶ、あの収穫祭⁉︎ 私も毎年、両親、ナターシャと一緒に来て出店をまわったなぁ。


 串肉、揚げドーナツ、ホットドッグ、飴細工と美味しかった屋台料理を思い出した。


「その収穫祭、時期は11月ですか?」


「ああ、今年は11月5日に開催する予定だ。なんだ、ミタリア嬢も楽しみか……。あの、なぁミタリア嬢、今年の収穫祭一緒に俺とまわらないか?」


(リチャード殿下といっしょ?)


「え、リチャード様とご一緒に収穫祭をまわる? ……その日はお忙しくないのですか?」


「ああ大丈夫だ。まあ、俺と一緒だと視察になるが色々見られて、楽しいと思う」


 ――いろいろ見られるし、収穫祭をリチャード殿下と一緒かぁ。


「喜んでお受けいたします。いまから収穫祭が楽しみですわ」


 その答えに、プッと吹き出した側近のリル。

 いきなり笑ってどうしたの? と彼を見ると。

 リルはリチャード殿下を見て、ニヤニヤ笑い。


「リチャード様、良かったですね。その手にお持ちの書類をミタリア様に見せたくて、仕方なかったのですよね。いつ切り出そうか、ソワソワと悩む姿がコチラから丸見えでしたよ」


「バッ! それを言うなリル!」


 顔を赤くして、怒るリチャード殿下。

 殿下が、私をどう誘おうか迷っていたなんて。


 ――かわいい。


「フフッ、ふふ」

「ミ、ミタリア嬢も笑うな!」


「だって、リチャード様が可愛い」

「お、俺がかわっ、いい⁉︎ はぁ、俺がぁ?」


 ソファにいる、私の位置からは見えなかったのだけど。

 リルからは見えたらしく、ニシシっと彼は笑い。


「リチャード様がブンブン尻尾を振って喜んでいらっしゃる。これは面白い、後でみんなに収穫祭の事と一緒に教えてやろうっと!」


「リル、やめろ。みんなにからかわれる!」


 いつもは静かな執務室から珍しく、リチャード殿下の大きな声が上がった。

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