終始、ご機嫌なリチャード殿下との夕食を終えて、客間で寝る準備をしていた。ワンピースの時も思ったけど、ネグリジェも女の子らしい薄ピンク色。
(……こんなに可愛い、ネグリジェ持ってないよ)
「ミタリア様、ネグリジェと髪型はどうでしょうか?」
「これでいいわ、ありがとう」
殿下が呼んでくれたメイドにお風呂と着替えを手伝ってもらい。さっそくお布団に潜り込んで、ふかふかと包み込まれる気持ちよさを楽しんでいた。マシュマロのような、ふかふか高級お布団は触り心地、寝心地、最高。
なのだけど。
「……あれ?」
いつもはお布団に潜れば瞬殺で眠れるのに、今日にかぎっては目が冴えている。
(お腹の熱とムズムズも治らない。リチャード殿下に甘やかして欲しい、撫で撫でして欲しい要求は治らないけど、深夜に部屋に行くのは失礼だ……我慢、我慢)
と、自分に言い聞かせ、目をつむるが眠れないでいた。
「ミタリア様、これで失礼致します。おやすみなさいませ」
「ありがとう、おやすみなさい」
片付けを終えたメイドが客間から下がり、1人になる部屋。だけど私は眠れず、フカフカお布団の中でゴロゴロしていた。
――眠れない。
どれくらいただのだろう、
「…………だ!」
「…………ま」
寝室の扉の外から、ボソボソ声が聞こえる。
その声は段々とハッキリ聞こえた。
「リチャード様、ミタリア様はメイドの話では既にお休みになられています。あ、お待ちください」
慌てる、リチャード殿下の側近リルの声の後。
乱暴に開いた客間の扉と、オオカミのシルエット。
「リ、リチャード様?」
「ミタリア嬢、夜分にすまない……中には入らせてもらう。リル、いまから婚約者との時間だ、お前は下がれ」
「……かしこまりました、リチャード様」
リルはこれ以上、リチャード殿下に言い返せず下がった。だけど彼は殿下を警備する騎士を、客間の扉前に呼んでいるだろう。
会いたいと撫でられたいと思っていた、リチャード殿下こんな時間に、それもオオカミの姿で会いにくるなんてと、殿下を見れば彼は何かを口に咥えている。
彼はベッドに近付くと、咥えてきたものをベッドの脇に置いて。
「こんな時間に来て悪いが……ミタリア嬢たのむ、その櫛で俺をブラッシングしてくれないか!」
と、声を上げた。
♱♱♱
(えっええ――!!)
客間にオオカミ姿のリチャード殿下と、驚く私。
「ブラッシングですか?」
「そうだ、ブラッシングしてくれ。何故だかわからないがミタリア嬢にブラッシングして欲しくて、たまらない」
リチャード殿下の急な要求。
(え、リチャード殿下もなの? 私だけが撫でられたいと思っているんじゃないのね……よかった、リチャード殿下もなんだ)
「フフッ」
「ミタリア嬢、何を笑っているんだ?」
「すみません……リチャード様も私と同じだと思ったんです」
「え? 俺と同じ?」
リチャード殿下の青い瞳が私を見つめた。
こうなったら、私も正直に告白しよう。
「私もなんです。リチャード殿下に撫でられたくて、甘やかされたくて仕方なかったんです」
えへへっと、照れて変な笑い方をしてしまう。
「…………」
「…………」
あなたに撫でらたい、と告白した後から喋らなくなったリチャード殿下を見ると。口をポカーンと開けたまま、固まるオオカミ姿の彼がいた。
♱♱♱
「リチャード様?」
「んあ? ああ」
「ブラッシングしますよ、こっちに来てください」
「おお、頼む」
ベッドの上に寝そべるオオカミのリチャード殿下に、私はブラッシングをはじめた。
「うわっ! リチャード様の毛って、さらさらで気持ちいい。……あのブラッシングはどうですか? 気持ちいですか?」
「気持ちいい、初めてのブラッシングは凄くいい。ムズムズが落ち着いて――スースー」
「あ、寝ちゃだめです、リチャード様。私の撫で撫でが終わるまで、いくらブラッシングが気持ちがよくても、寝ないでください」
「そうであった……しかし、なんとも言えぬ心地よさだ」
その後、完全に寝落ちしてしまったリチャード殿下……お疲れだから仕方がないと、オオカミ姿の殿下にお布団をかけて隣で潜ると。彼の優しい香りと暖かな体温……さっきまで眠れなかったのが嘘の様に、私は心地よく眠りについた。
「――ん、ンンッ……ん? あれ?」
翌日、気持ち良く目覚めると、私はオオカミ姿のリチャード殿下のモフモフな胸の中……猫の姿で丸まって寝ていた。