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第29話

 終始、ご機嫌なリチャード殿下との夕食を終えて、客間で寝る準備をしていた。ワンピースの時も思ったけど、ネグリジェも女の子らしい薄ピンク色。


(……こんなに可愛い、ネグリジェ持ってないよ)


「ミタリア様、ネグリジェと髪型はどうでしょうか?」

「これでいいわ、ありがとう」


 殿下が呼んでくれたメイドにお風呂と着替えを手伝ってもらい。さっそくお布団に潜り込んで、ふかふかと包み込まれる気持ちよさを楽しんでいた。マシュマロのような、ふかふか高級お布団は触り心地、寝心地、最高。


 なのだけど。


「……あれ?」


 いつもはお布団に潜れば瞬殺で眠れるのに、今日にかぎっては目が冴えている。


(お腹の熱とムズムズも治らない。リチャード殿下に甘やかして欲しい、撫で撫でして欲しい要求は治らないけど、深夜に部屋に行くのは失礼だ……我慢、我慢)


 と、自分に言い聞かせ、目をつむるが眠れないでいた。


「ミタリア様、これで失礼致します。おやすみなさいませ」


「ありがとう、おやすみなさい」


 片付けを終えたメイドが客間から下がり、1人になる部屋。だけど私は眠れず、フカフカお布団の中でゴロゴロしていた。


 ――眠れない。



 どれくらいただのだろう、


「…………だ!」

「…………ま」


 寝室の扉の外から、ボソボソ声が聞こえる。

 その声は段々とハッキリ聞こえた。


「リチャード様、ミタリア様はメイドの話では既にお休みになられています。あ、お待ちください」


 慌てる、リチャード殿下の側近リルの声の後。

 乱暴に開いた客間の扉と、オオカミのシルエット。


「リ、リチャード様?」


「ミタリア嬢、夜分にすまない……中には入らせてもらう。リル、いまから婚約者との時間だ、お前は下がれ」


「……かしこまりました、リチャード様」


 リルはこれ以上、リチャード殿下に言い返せず下がった。だけど彼は殿下を警備する騎士を、客間の扉前に呼んでいるだろう。


 会いたいと撫でられたいと思っていた、リチャード殿下こんな時間に、それもオオカミの姿で会いにくるなんてと、殿下を見れば彼は何かを口に咥えている。


 彼はベッドに近付くと、咥えてきたものをベッドの脇に置いて。


「こんな時間に来て悪いが……ミタリア嬢たのむ、その櫛で俺をブラッシングしてくれないか!」


 と、声を上げた。




 ♱♱♱




(えっええ――!!)


 客間にオオカミ姿のリチャード殿下と、驚く私。


「ブラッシングですか?」


「そうだ、ブラッシングしてくれ。何故だかわからないがミタリア嬢にブラッシングして欲しくて、たまらない」


 リチャード殿下の急な要求。


(え、リチャード殿下もなの? 私だけが撫でられたいと思っているんじゃないのね……よかった、リチャード殿下もなんだ)


「フフッ」

「ミタリア嬢、何を笑っているんだ?」


「すみません……リチャード様も私と同じだと思ったんです」


「え? 俺と同じ?」


 リチャード殿下の青い瞳が私を見つめた。

 こうなったら、私も正直に告白しよう。


「私もなんです。リチャード殿下に撫でられたくて、甘やかされたくて仕方なかったんです」


 えへへっと、照れて変な笑い方をしてしまう。


「…………」

「…………」


 あなたに撫でらたい、と告白した後から喋らなくなったリチャード殿下を見ると。口をポカーンと開けたまま、固まるオオカミ姿の彼がいた。




 ♱♱♱




「リチャード様?」

「んあ? ああ」


「ブラッシングしますよ、こっちに来てください」

「おお、頼む」


 ベッドの上に寝そべるオオカミのリチャード殿下に、私はブラッシングをはじめた。


「うわっ! リチャード様の毛って、さらさらで気持ちいい。……あのブラッシングはどうですか? 気持ちいですか?」


「気持ちいい、初めてのブラッシングは凄くいい。ムズムズが落ち着いて――スースー」


「あ、寝ちゃだめです、リチャード様。私の撫で撫でが終わるまで、いくらブラッシングが気持ちがよくても、寝ないでください」


「そうであった……しかし、なんとも言えぬ心地よさだ」


 その後、完全に寝落ちしてしまったリチャード殿下……お疲れだから仕方がないと、オオカミ姿の殿下にお布団をかけて隣で潜ると。彼の優しい香りと暖かな体温……さっきまで眠れなかったのが嘘の様に、私は心地よく眠りについた。


「――ん、ンンッ……ん? あれ?」


 翌日、気持ち良く目覚めると、私はオオカミ姿のリチャード殿下のモフモフな胸の中……猫の姿で丸まって寝ていた。

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