貴族達が帰路に着き、会場の後片付けも始まる。
私達は近くで話し合いをする陛下の指示を待ち、壇上に残っていた。カーエン殿下が黒猫の私を気に入ったらしく、目を細めて見つめている。
陛下達の話は魔法を使用しているのか、聞こえてこなかった。その話し合い中、リチャード殿下もカーエン殿下の視線に気付き、私を隠すようにしっかり胸に抱きしめた。
「リチャード」
「……父上」
話し合いが終わったのか、宰相と大臣が頭を下げ下がり、陛下が私と殿下に近付いた。
「ミタリア嬢――妻から優しいご令嬢だと、妻のお気に入りの令嬢だと聞いている。今度、お茶会を開きたいと思っていたところだ」
大きな手が優しく、私の頭を笑いながらなでた。
その笑顔はリチャード殿下に似ていて、その手が気持ちよく。もっと撫でてと頭を擦り付けると、殿下が陛下からスッと距離をとった。
「父上、僕のミタリアに触り過ぎです。チココの結果が出るまで、僕たちは部屋に下がっています」
「そうか……リチャード、分かっているな」
「父上、覚悟は既に出来ております」
リチャード殿下は陛下とカーエン殿下に頭を下げ、会場を後にした。チココを口にする事を止めたことに安直していたけど。もしチココに何もなかったら、私たちは相当な罰を受けるだろう。
「リチャード様、巻き込んでごめんなさい」
「いいよ、ミタリア嬢となら平民に落ちてもやっていける。一生涯ミタリア嬢を大事にする」
――リチャード殿下からの、プ、プロポーズ?
「ば、は、恥ずかしいことをおっしゃらないでください」
「ああ? 俺の本気を茶化すな。さてはミタリア嬢、俺の愛の言葉に照れたのだな」
「あたりまえですわ、愛だなんて……他の方もいるのに恥ずかしい」
「ははっ、そう照れるなよ」
リチャード殿下の部屋に戻り、お風呂場で手に付いてドロドロになったチココを、リチャード殿下に抱っこされる感じで洗ってもらっていた。
――これは。
いくら1人で洗えないからって、殿下まで濡れることないのに……この格好も恥ずかしいし、それに動くと動くなって、怒るし。
私は恥ずかしさに耐えていた。そのときコンコンと部屋の扉が鳴らされる。王子は風呂場から声を上げて、部屋に訪れた者に返事を返した。
――それは国王陛下からの通達者だった。
「リチャード王子殿下、チココの分析結果が出ました。チココは我々、獣人が摂取しますと中毒を起こす『カーフェン成分』が入っておりました。国王陛下は今回のリチャード王子とミタリア嬢の罪を無しとして。明日の午後――庭園にてお茶会を開くそうです」
「中毒を起こすカーフェン成分か……それで? カーエン殿下はどうなった?」
「カーエン殿下はチココに我々獣人が摂取してはならない、カーフェン成分が入っていたことは、知らないと申しました。チココは人族の間で有名なお菓子の様で、食べて貰おうと土産にしたそうです。殿下は大粒の涙を流し、非常に心を痛め、陛下にお詫びして帰路に着きました」
「そうか、分かった。伝えてくれてありがとう」
国王陛下からの伝達者は帰り、リチャード殿下は黙ったまま私の手を洗い続けた。通達者からの話に、私は体が震えて涙が溢れてきた。
カーエン殿下の心は傷つけてしまったけど……守れた。
もし、私が止めれず……陛下がチココ食べてしまい中毒でお倒れ。中毒の為に意識不明だと報告を受けた、王妃様はショックの余りに倒れ――お子を失う。
――私達にとって、番は切っても切れぬ存在。
同じ時、陛下と王妃様が床に伏せてしまい。ミタリアのあの言葉でリチャード殿下は更に傷付く。
その歴史が変わった。陛下、王妃様、お子様を失わずに済んだ。
止める事に集中して、緊張していたからわからなかった、カタカタと体が震えた。
「よがっだ……チココが食べてはならないものだった、国王陛下が食べなくてよかっだ…………うっ、うう」
「ミタリア嬢……?」
私はリチャード殿下に手を洗われながら、言葉はメチャクチャ、ボロボロ泣いてしまった。――涙が止めれない。
子供の様に泣き喚く私。
「ミタリア嬢……ありがとう。君の勇気ある行動が父上と会場の仲間を救った。あの大勢の中で獣化をするなんて……勇気ありすぎだよ」
リチャード殿下に、クルッと向きが変えられた。
「えっ?」
「俺だけのミタリア嬢」
向かい合う殿下と黒猫の私。優しく細められたリチャード殿下の青い瞳が近付き、私の小さな唇に触れた。