舞踏会が開催される10月まで――あと1ヶ月。
時間を見つけてはリチャード殿下と王妃様に会いに行ったり、舞踏会に身につけるドレスを決めたりと忙しかった。
王妃様は
その度、リチャード殿下は「俺の婚約者を誘うな」「行くわけがないだろう!」「いい加減に諦めろ!」とお断りの手紙を書いてくれたみたい。
余りにもしつこいので直接文句を言いに向かったと、機嫌悪くリチャード殿下が話してくれた。しかし――どうしてもカーエン殿下は獣化した姿が見たかったのか、帰り間際になって、リチャード殿下に獣化した所を見たいと迫っとようだ。
――恐るべし、人族カーエン殿下だ。
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国の食糧難に対して策を投じたおかげが、秋と冬はどうにか回避できそうだ。そして、新たにジャガイモ、サツマイモ料理、チーズフォンデュ、ジャガイモパイ、もちもちジャガイモ、サツマイモ団子など、私が食べたいレシピもたくさん増えた。
その中で1番人気となったのが。野菜とソーセージ、ジャガイモたっぷりポトフ。――ポトフは体をあっため、お腹も膨れ、残ったポトフにパスタを加えて、別の料理に出来るのがよかったみたい。
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私は10月に開催される舞踏会に着る、ドレスのデザインを王城で選んでいた。
「リチャード様、このデザインはどうですか?」
リチャード殿下は執務の合間に見にきては、自分の好みを言うので中々決まらない。シンプルデザインが好きな私と、胸が少し開いたドレスがいいと言うリチャード殿下との意見の違い。
「これはどうですか?」
「却下だ、ミタリア嬢が選ぶのはシンプル過ぎる、俺はミタリアの胸元が見たい」
「なっ!」
「それは、リチャード殿下だけの好みです!」
王城の空いた部屋に準備された、仮止めのドレスを何着も試着して、結局は私が折れてリチャード殿下好みのドレスを選んだ。
(リチャード殿下の髪と瞳の色のドレスをまとえるなんて……幸せすぎます)
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それから、何事もなく10月になり、今夜は舞踏会の日となった。舞踏会の開催時間は夕方6時から、私は2時間前に王城に入り準備をしてる。
準備が終わり、舞踏会の開催時間が来る。
私はリチャード殿下にエスコートされて、舞踏会の会場への扉の前で足を止めた。殿下はじっくり、私のドレスを眺めて目を細めた。
「俺の色に染まったミタリア嬢、とても綺麗だ」
「ありがとうございます。リチャード様も素敵ですわ」
私色に染まった、リチャード殿下はすこぶるカッコいい。決して出来ないことだけど、カメラに彼の姿を収めたいと、思ってしまう。
「そんな可愛い顔で見るな、照れるだろう?」
「か、可愛い顔?」
「ほらまたした、その顔は俺だけの前にして欲しいな」
「なっ!」
可愛い顔のことはわからないが。ついに舞踏会の開催時間の6時となり、舞踏会会場の入り口の扉の前で騎士に名前を呼ばれて、リチャード殿下にエスコートされて会場に入った。
キラキラ輝く、舞踏会の会場内には来年学園に入学する貴族の公子、公女たち。その中に混じるカーエン殿下と側近の2人は――会場内で異様に目立っていた。
あんなに周りの貴族にいぶがしげにみられて、警戒されているのに彼は気にしていないのか、目を細めていた。
壇上で国王陛下の祝辞が終わり、生演奏に合わせてダンスが始まった。私もリチャード殿下とのファーストダンスを踊る。そのとき、リチャード殿下は周りに聞こえないように近付き、私に耳打ちした。
「ミタリア嬢この会場にカーエンがいる、俺の側を離れるな。他の誰とも踊らせないし俺も踊らない」
言い終わると、リチャード殿下はカーエン殿下に鋭い視線を送った。それに釣られて見てしまうと、彼は気付き私に向けて手を振った。
それに、ゾクッと毛が逆だった。
「わかりました、リチャード様」
「うん……ミタリア嬢は前よりも、ダンスが上手くなったね」
「そうですか?」
何度かリチャード殿下とダンスホールで、ダンスの練習をしたとき、これではダメだと家でお父様相手に何度も練習していた。
「ありがとうございます」
そのとき、私の鼻に香る甘い香り。
(この香りって……)
私はダンスの途中で周りを見渡した。
「ミタリア嬢?」
それは私にはとても懐かしく好きだった香り、残業の合間に食べていた。この世界にもあるんだ……好きだったから余計に食べたくなる。
「リチャード様、何処からか甘い香りがしますね」
「そうか? 俺にはわからないけど……」
――え、この甘い香りが分からない?
どうして? そこで私はハッとする、この世界に生まれてから一度も『それ』に会ったことがない。
なら気付くはずがない、だって、彼らは一度も食べたことがない食べ物だ。