「父上が警戒している相手だ……ミタリア嬢、10月の舞踏会では俺の側を離れないでほしいが――無理な場合、人族がもし不用意に近付いたら距離をとった方がいい」
「はい、分かりました」
出来れば私も、カーエン王子とお会いしたくない。
でも、乙女ゲームでのカーエン王子は笑うと糸目になる、キャラ的には好きな外見だったけど……執着愛は苦手だ。
このカーエン王子も、学園でヒロインと知り合い笑顔を取り戻すんだ。ストリーはリチャード殿下の次に好きだった。
のんびり進む帰路を進む馬車と、ふわふわお布団の上で、出そうになるあくびを噛み締めた。それを見たリチャード殿下は笑い、本を取り寝そべった。
「俺はいまから本を読むから、公爵家に着くまで寝てていいぞ」
リチャード殿下は、いまにも眠りそうな私に気遣ってくれた。
「リチャード様、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
ヒールを脱ぎ、お布団の上にコロンと寝転び目を瞑った。やはり高級お布団はふかふかで触り心地も良い……
「おやすー、すー」
「ミタリア嬢、もう寝たのか? 母上に会うから、緊張して疲れたんだな」
♱♱♱
――ん? 蒸し暑いし動けない? ふかふかなお布団の上で寝返りを打ちたいけど、何かに邪魔をされていて動けない。最終的に「暑い!」で目が覚めた。
え? 目が覚めて自分の状態に驚くしかない。
なんと、リチャード様が猫に獣化した私を膝の上に乗せて、読書していたのだ。
――何をどうしたら、こうなったの?
「あ、あの、リチャード様」
「もう目が覚めたのかミタリア嬢、まだ屋敷まで着かないから寝てていいぞ」
「リチャード様、寝れません。この状況の説明をして欲しいです」
「布団の上で、ミタリア嬢が寝苦しそうだったから、ペンダントを外したんだ、そしたら読書する俺の膝に乗ってきた」
――ひぇえ!
「私が、自分から乗ったのですか?」
「そう、俺の膝の上で丸まった」
「リチャード様の膝の上で……そ、そんな行動をする前に止めて、起こしてください」
「無理だな、可愛いくて起こせない」
ククッと笑い、リチャード殿下は読んでいた本を閉じると。「俺も、獣化するかな? 一緒にお昼寝して帰ろうな」と言いだす。
――こ、この状態で?
「私が待って!」とリチャード殿下を止める前に、カチッとブレスレットを外してオオカミ姿になり、私を連れてお布団の上に寝そべった。
「リチャード様! この状態を見られたらどうするのですか?」
「気にしない、俺は別に気にしないよ。ミタリア嬢は俺の婚約者だし、俺は王子だ。それに、あいつらは俺が小さな頃から支えてくれた者ばかり、言わば俺の大切な友達だ」
「リチャード様の大切な友達」
「ああ、そうだ。……それと、今日はありがとう」
改めてお礼を言ったリチャード殿下は、私の顔に近付けてスリスリした。
「フフ、どういたしまして、リチャード様」
仲良く、お布団に寝そべって帰ったのだった。