「ミタリア嬢、悪かったって……そう怒るな」
「酷いです。いくら美味しそうだからって、私のシャーベット……全部、食べちゃうなて」
時刻も夕方前、テラスから寝室に移動して王妃様に『また、来ます』と挨拶をして、馬車に乗り込み帰路に着いている。当然、桃のシャーベットを全て食べてしまった、リチャード殿下は向かいの席で反省中。
私はぷくっと頬を膨らまして、ふかふかお布団の上にいる。
「ごめん……」と謝った、リチャード殿下の目尻と耳がしょんぼり垂れて、見た目はオオカミなのに子犬のように見えてくる。
「……フフ、もう怒っていませんわ」
「本当か? もう怒っていない?」
怒っていないと頷いた……シャーベットを食べたリチャード殿下の、美味しい顔が余りにも可愛かったが。
まだ、一口しか食べていないシャーベットを、全て食べたことへの反省はしてもらったのだ。
「余り、リチャード様を怒ったらバチが当たります。私の屋敷にいらしたとき、たくさんお土産をいただきましたわ。私もですが、家族、ナターシャたちメイドも喜んでいたので、お礼をしないと思っていたの」
「そんなに喜んでくれたのか、また買って行くよ」
「嬉しいのですが。10月に行われる舞踏会が終われば、時期に冬がきますわ。雪が降りはじめると馬車が出せなくなり、王妃教育も休み、リチャード様に春まで会えなくなりますわね」
降りしきる雪の中を馬車で走行するのは危険だ。
「それなら心配いらない。冬に使用する
――雪馬? 火の魔法?
「まぁすごい。雪の上を走る馬と、火の魔法で雪と氷を溶かすのですね」
「ああ、王族が使用する雪馬はガタイが良く、足腰が、がっしりしている。俺に時間ができれば雪馬に跨り、ミタリア嬢に会いに行くよ」
「でも、無理はやめてください……リチャード様は執務、習い事で忙しいと聞きます。私も屋敷で刺繍、教養の習い事があります」
冬季のあいだ王城で王妃教育ができない代わり、屋敷内で出来る教育をはじまる。
「なら、ミタリア嬢の両親を説得して、冬季のあいだは王城にミタリア嬢を住ませるか。そうすれば王妃教育も、俺と一緒に過ごせる」
「え?」
リチャード殿下が恐ろしいことを言いだした。
その話――リチャード殿下から申し出があったのなら両親は喜び、いってらっしゃいと送りだされるに違いない。
いい案だとリチャード殿下は言っていたが、何か思い出したのか「あっ」と眉をひそめた。
「いや、その話はマズイな。10月に入ったらしばらく、嫌な客が来ると父上が言っていた」
「嫌な客ですか?」
「俺もあまり詳しくは知らないんだけど。どうも、先代ローランド国王と友好関係にある人族の国の王子みたいなんだ。その王子は来年、俺たちと同じ学園に入学するらしいく、10月の舞踏会にも参加する」
――人族と言えば、乙女ゲームの隠しキャラで、攻略対象ハーロス国の第2王子カーエン・ハーロスだ。
彼はヒロインを出会い一目惚れする。そして、ヒロインと仲が良いリチャード殿下をライバルと見て、必要以上、殿下に突っ掛かる人族の王子だ。
そのカーエン殿下はヒロインをいじめる、ミタリアのことを嫌っていた。