王妃様の優しげな微笑みで、照れてしまう。お昼寝も好きだけど、オオカミ姿のリチャード殿下にブラッシングしたい。――あれ、お腹がムズムズする。
それは殿下も同じなのか、私と同じ所を撫でているようにみえた。その行動に気付いた王妃様は、殿下と私を交互に見て頷き。
「ミタリアさん悪いのだけど、少しリチャードに話があるから2人キリにしてもらえるかしら? 応接間で休むか書庫、庭園のテラスで待っていて欲しいわ」
「はい、分かりました。では、私は庭園のテラスで待っております」
礼をして伝えると、王妃様はベッドの脇に置かれた鈴を鳴らして、ご自分の専属メイドを部屋に呼んだ。直ぐ、コンコンコンと扉を鳴らして、王妃様のメイドがやって来る。
「お呼びですか、王妃様」
「リチャードに少し話があるから、ミタリアさんを庭園のテラス席に案内してあげて」
「かしこまりました。ミタリア様、庭園のテラスにご案内いたします」
「はい、王妃様、リチャード様失礼いたします」
王妃様とリチャード殿下を部屋に残して、私は王妃様の専属メイドに、庭園のテラスへと案内された。
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王妃の寝室に残ったリチャードは。
「母上、僕に話とはなんですか?」
と聞くと、母上は。
「リチャード、お腹のこの辺に紋様が浮かんでいない? そうね、お腹の右下あたりかしら?」
リチャードが丁度、アザがあるお腹を指でさした。
何故、母上がアザのことを知っているのか、聞かれたリチャードは不思議に思ったが、そうだと頷いた。
「はい、母上がさした、腹の右下あたりにアザが浮かびました」
リチャードは服をめくり、お腹のアザを見せた。
そのアザは薄いピンク色をしている。
母上は、そのアザをじっくり見て。
「それだと、まだ出来たばかりの様ね。その色だと2人はまだ軽い甘噛みくらいで、キスはしていないのね」
――ミタリア嬢とキス? このアザで、そこまで分かってしまうのか。
「母上の仰る通り……ミタリア嬢とのキスはまだです。このアザとキスは関係あるのですか?」
「ええ、あるわ。婚約者のミタリアさんにもリチャードと、同じ位置に同じ形の紋様が浮かんているはず。私も経験あるからわかるわ、時々ムズムズするのよね」
リチャードはそうだと、母上に頷いた。
「母上の言う通り、時々ミタリア嬢といるときにムズムズしたり、熱くなったり、ズキッと痛むときもあります」
「まだ痛みもあるのね……リチャードにはっきり伝えるわ。この紋様はどちらかに好きな人が出来れば、すぐに消えてしまう紋様ね――例えるなら儚い恋」
――儚い恋?
「そんな、僕かミタリア嬢に好きな人ができると、このアザは消えてしまう……」
――嫌だ、俺はミタリア嬢と繋がる、このアザは消したくない。
「その様子だと、リチャードはミタリアさんが好きなのね。でも、相手のミタリアさんはリチャードの事を好きなのかしらと、恋の一歩手前で止まって、悩んでいるのかもしれないわ」
(俺との恋の一歩手前? そうか……ミタリア嬢は俺を好きかどうか悩んでいるのか)
「母上、ミタリア嬢に僕だけを好きになってもらいたい」
母上は「リチャード」とリチャードの名前を呼び、そして母上は座ったまま手を広げた。リチャードはテーブルを立ち、母上に近付き体を寄せると、優しく抱きしめてくれる。
こうされるのは15年ぶり、とうに忘れてしまった――母上の柔らかな香りと体温を感じた。この温かさはミタリア嬢が言わなければ、けして感じられなかった母上の温かさだ。
「だったら、リチャードも陛下の様に強く優しく、時にはしっかり言葉を伝えられる、立派なオオカミになりなさい」
立派なオオカミか……だが今の俺はまだ半人前だ。
強く、優しくなり、ミタリア嬢を守れるオオカミになりたい。
「……分かりました。父上の様な立派なオオカミになれるよう、努力いたします」
――絶対に俺を好きにさせる。