カチャカチャとテーブルに紅茶と、ケーキが用意されていく。先程、抱きついたリチャード殿下はまた頬にかぷっと甘噛みした……それも、王妃様の前で。
「ふふっ、良いものを見せてもらったわ。まあ、わたくしとシリウス陛下も負けてませんけど」
王妃様は愛おしそうにお腹をさすった。乙女ゲームでは殿下とヒロインが王妃様のお墓に会いに行く話で、子供の話はでていない。
妊娠期間十月十日だと聞く。いまが妊娠3ヶ月だとすると、あと7ヶ月以上経てばお子様は生まれるはず。
私の獣化もだけど、乙女ゲームと話が変わってしまっている。それとも私が重要な何か忘れているのかも。
「さぁ、リチャード、ミタリアさん、たくさん用意したから、好きなお菓子を取って食べてね」
――お菓子……⁉︎
「リチャード様、私……忘れていたわ」
「突然、大きな声を出して、どうした?」
「ごめんなさい……リチャード様とのお昼のことしか考えていなくて、王妃様への手土産を忘れていました」
初めて、王妃様にお会いするのに手ぶらだった。
「フフ、そんな事は気にしないでミタリアさん。リチャードの元気な顔が見られて、可愛い婚約者が来てくれて、手土産なんて良いのよ」
それはリチャード殿下もだったようで。
「僕もだ……母上に久しぶりにお会いできると、浮かれていて忘れていました」
しゅんと肩お落とした私たちに、王妃様は優しく微笑んだ。
「2人もと落ち込まないの。シリウス陛下なんて更にすごいから。毎月の満月の夜――オオカミの姿で王都からここまで走ってきて、手足も拭かずに私のベッドに登り、眠っているわたくしを起こして『ブラッシングしてくれ』と言うのよ」
――国王陛下が王妃様にブラッシング?
「あの父上が、母上にブラッシング?」
「ええ、雨の日もそのまま、風の日も――あの人はほんと、可愛いわね」
だから、ベッドの脇に高級な櫛が何本も置いてあったんだ。王妃様は唯一、オオカミ姿の陛下に触れられる番だ。
「ブラッシングは羨ましいな、僕たちまだお昼寝しかしていない……」
「それなら、私たち、2人いっぺんに獣化しなくても、いいんじゃないでしょうか」
どちらかが獣化せずにいたら、ブラッシングは出来る。
「嫌だ、俺はミタリア嬢と一緒に昼寝がしたい」
――お昼寝、2人で寄り添ってお布団の上でお昼寝は、いいかも。
「私もお布団の上での、お昼寝は好きです」
「あらあら、一緒にお昼寝だなんて仲が良いわね」
王妃様は目を細めて、微笑んだ。