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第16話

 リチャード殿下はサンドイッチを美味い言ってくれて、結構なボリュームのサンドイッチを、馬車の中で2人でたいらげた。


「美味しかった、ごちそうさま」

「喜んでいただいて、嬉しいです」


 昼食後、街を出発して馬車に揺られていた。この馬車の揺れは電車と似ている、お腹も程よく膨れるとやってくるのは睡魔だ。リチャード殿下は本を読みながら、反対側で目を瞑って寝ているようだ。


 私もふかふかお布団には抗えず瞼を閉じた。幸せなお布団……前世は仕事で忙しくて味わえなかった分、今世ではいっぱい噛み締めたい。


 街を出てから、どれくらい経ったのか。誰かが『起きてください』と、馬車の外から呼んでいる。もう少しふかふかお布団と、この温かな体温を感じていたい。


(……え、この体温はお布団じゃない?) 


 目を覚ますと、間近くにリチャード殿下の寝顔があった。なんと、殿下は私を抱き枕にして寝ていたのだ。


「リチャード様⁉︎」


「ん……起きたのかミタリア嬢? すまん、余りにも気持ちよさそうに寝てるから……つい寝顔と布団に引き寄せられて、隣に寝転んだら寝ちまった……」


 リチャード殿下はふわぁっと欠伸をしながら起き上がった。殿下も熟睡していたらしく寝癖と、服にシワができている。


「リチャード様、後ろの髪のここが跳ねてますよ」

「んっ、ミタリア嬢が直してくれる?」


 まだ起き抜けのリチャード殿下から、髪に触れてもいい許可をもらった。殿下は慣れていない人に、触られるのが嫌いだと思っていた。


 どうしてかというと、婚約者候補の令嬢たちがリチャード殿下に触れようとしたとき、一瞬だけよる眉間のシワと嫌だと尻尾が揺れていた。


 だから極力、近付かないように離れていたけど。

 離れても、リチャード殿下から近寄り触れてくる『直しますよ』っと言って、彼の柔らかな髪に触れた。


「ミタリア嬢の手は優しいな」

「そ、そんなことないですわ」


 トクントクン鼓動がうるさいくらいに鳴り響く……どんなに否定しても無理だ。私は推しのリチャード殿下に恋している。


 最後に泣く事になっても、終わりまで……あなたの側に、


「……いてもいいのかな?」


「ミタリア嬢?」


 や、やばっ、今、声に出て、リチャード殿下に聞こえた。……だって、探るような青い瞳が私を見つめてくる。


(……ここは誤魔化さないと)


「ふかふかお布団に寝てもいいかなぁって、思ったんですわ」


「それは無理だな。馬車はとっくに母上の屋敷に到着しているし。リルが首を長くして、俺たちが馬車から出てくるのを外で待っている」


「嘘っ、リチャード様、だったら早く行かないといけませんわ」


「いや、ミタリア嬢の寝癖も直さないと……ほら、自分の髪飾りを持って」


 サワッとリチャード殿下の長い指が私の髪に触れた。ゾクゾク……うひゃぁ――あ? これはダメなやつだ……すごく気持ちいい、もっと撫でてほしい。


 グルルと……私の喉が鳴った。


「……あの、リチャード殿下――それは寝癖直しではありませんわ(耳をサワサワするやめてぇ……)」


「なんだ、気持ちいいのかミタリア」


「なので、やめてください……きゃっ、リチャード様? そ、そこは尻尾の付け根です……もう、エッチ!」


「クク、可愛い。気持ちよくて鳴る喉、真っ赤な頬……可愛い」


 ――可愛い⁉︎


「リチャード様、やめてください」

「やめて欲しかったら、俺から離れようなどと考えるなよ」


「ふぇ? な、なんで?」


 リチャード殿下が近付き、頬にスリスリ自分の頬を擦り寄せるのではなく、ガブッと私の頬を甘噛みした。殿下こら逃げようとしても、私の体をがっちり捕まえてガブガブ、ガブガブ甘噛みする。


「⁉︎」


 ――その途端、お腹のアザが熱をもつ。


(な、何?)


 私の尻尾がブワッと、パンパンに膨らんだ。

 殿下は甘噛みをやめて頬から離れると『そう怖がるなよ』と、髪を撫でて髪飾りをつけてくれるとき。


「俺はお気に入りを逃がさない、覚悟しろ」


 耳元で囁かれ、リチャード殿下の鋭い瞳が私を見た。


「…………」


(その言葉は嬉しい。でも違う、離れるのは私がではなく、リチャード殿下が離れていくんだよ)


 ジワジワ熱くなるお腹のアザと、リチャード殿下の鋭い瞳から逃げたくなる。怖気付いて逃げようとした、私に彼の手が伸びたとき――コンコンと馬車の扉が叩かれた。


「いい加減に起きてください。リチャード様、ミタリア様!」


 殿下はフッと鋭い瞳から、いつもの優しい瞳に変わり。


「とうとう、外でリルが騒ぎ出したな……さてミタリア嬢、母上が待ってる行こうか」


「……は、はい」


 馬車の出入り口を開き、先に降りてリチャード殿下は手を差し伸べて、私をエスコートしてくれた。

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