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第14話

 朝方、王子が迎えにくる前にナターシャと、厨房で昼食用のサンドイッチを使っていた。


 ナターシャがオーブンで焼いたパンにバターを塗り、ハムとチーズ、ゆで卵を挟んだサンドイッチと、鳥ささみと野菜をふんだんに使った具沢山サンドイッチを作りバスケットに仕舞った。


 飲み物はレモンの果汁を搾り、蜂蜜と水で作るレモネードを用意して、デザートにほんのり甘い蒸しパンを作った。


「これでよし」


 私の格好は一見お淑やかに見えるふんわり生地で、一見ドレスにも見える水色ワンピース。長時間の馬車移動に普段のドレスだと窮屈。リチャード殿下だって窮屈な軍服、正装では来ないだろうと踏んだのだ。


「ミタリアお嬢様、リチャード殿下がお着きになりました」


「いま行くわ」


 ナターシャに呼ばれてバスケットを片手に向かうと、屋敷前に殿下が乗るには飾りがなく、黒く大きな王家専用、馬車が止まっていた。


(昨日、リチャード殿下が乗ってらした馬車とは大きさが違うわ? 言うならばゴツい要塞の様な馬車?)


「おはようございます、ミタリア様」

「こ、ごきげんよう。今日はよろしくお願いします」


 馬車の入り口で待っていた殿下の側近リルに挨拶をして、手を借り馬車に乗り込む。乗り込んだ王家の馬車は座席が広くとられていて。中でリチャード殿下はブーツを脱ぎ、クッションを背に本を読み寝そべっていた。


 反対側の座席には似つかわしくない、ふかふかなお布団がひいてあった――背の高いリチャード殿下が余裕で足を伸ばしているわ。馬車の中を見て、呆気に取られる私に殿下は笑い。


「このような格好で悪いな。おはよう、ミタリア嬢」


「お気になさらず。おはようございます、リチャード様。あの、このお布団はどうされたのですか?」


「やはり気付いたか、俺がミタリアの為に用意した。さぁ好きなように寛いでくれ」


 靴下にベストとスラックス姿のラフな格好のリチャード殿下。その反対側に座る……こ、これはリチャード殿下のベッドに敷かれていた――お布団と同じ手触り。


(座り心地、触り心地、最高!)


「ふかふか……」


「ハハッ、ミタリアはその布団が気に入ったようだな。リル、いいぞ、出発してくれ!」


「かしこまりました」


 殿下の掛け声だ走り出した馬車。この馬車を操る御者席に御者、側近のリル、馬車の後ろに近衛騎士の2人だけ。

 リチャード殿下は第1王子なのに、この人数は少ないのでは?


 もしかして離れた位置に、他の騎士が着いてきている。

 私のそわそわ感が殿下に伝わったらしく。


「ミタリア、俺を守る騎士が少ないと思ってるのか? 安心しろ、何かあれば俺が獣化して戦うから」


 獣化――狼の姿で戦うと言ったリチャード殿下。


「い、いくら獣化して傷の治癒力が上がるからって、リチャード様が戦うなんて……」


(獣化の特殊能力の1つ。他の獣人よりも傷の治りが早い)


「俺は普段から、危険を予測したトレーニングは常にしているし。いざとなったら、ミタリアを担ぎ駆けることもできる」


「……いいえ、そうではなくて」


(私だってわかってる。獣化した私たちは捕らわれると酷い目に遭う。だからといってリチャード殿下が戦い怪我をしてほしくない)


「そんなに悲しい顔をするな。……まさか俺を心配してくれているのか、ありがとう。まあ、俺が獣化するのは最終手段だからな。一緒に着いてきている近衛騎士2人、リル、御者は俺よりも腕が立つぞ」


(側近リルの腕前は知っている。乙女ゲームでリルは足音なく近付き、暴れるミタリアをたやすく取り押さえていた)


「どう、安心した? 馬車も余分な宝飾を全て外した。遠慮なく布団に寝転んでくれ」


「では、お言葉に甘えて」


 バスケットを隣に置き、コテンともふもふお布団に横になった。天日干しされていて肌触りも気持ちいい。夢中でお布団を楽しんでいると、クスッと小さく笑う声が聞こえた。


 お布団から見ると、読んでいる本を胸の上に置き、瞳を細て私を見つめるリチャード殿下がいた。


(その笑顔……)


 内心ドキドキで、見ないふりをした。


「ミタリア嬢、昼食の時間になったら起こすから寝ていてもいいぞ」


「いいのですか? ではお言葉に甘えて」


 ヒールを脱ぎ、ゴロンと横になった。

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