目が覚めるとリチャード殿下の執務室ではなく、彼の部屋――いや寝室だった。隣では気持ちよさそうに眠る、オオカミ姿のリチャード殿下がいた。
(寝顔が可愛い……じゃない! ところで、いまは何時?)
慌てて時計を見ると6時前。マズイ――はやく王城をでないと、屋敷へ夜遅くつくことになる。異世界の夜の道は魔法街灯が灯る王都とは違い、オイルランタンの灯りだけでは心細い。
「リチャード殿下、起きてください! 起きてブレスレットをつけてください!」
小さなモフモフの前足で、殿下をゆすった。
ピクッと耳が動き、リチャード殿下は瞳を開け、私を見つめた。
「ん、ミタリア嬢? ……あ、しまった。気持ちよく寝ているミタリア嬢を見て、少しだけど横になったらグッスリ眠ってしまった」
慌てているのだろう、外したブレスレットをつけていきなり獣化を解くリチャード殿下に、私は「きゃっ」と目をつぶった。
「すまない――ミタリア嬢」
「いいえ、謝らなくていいので早く服を着てください」
「わかった」
殿下は脱いだシャツとスラックス身につけ、ご自身の部屋に戻り。私の獣化を解く、魔導具のブレスレットだけを持って帰ってくる。
そして、私の手首につけようとした。
「待ってください! 私の説明が下手でした……リチャード殿下は寝室の扉を開けてください。ここで獣化を解いてしまうと、私は裸のまま、隣の部屋に移動することになります」
「あ、そうであった……ごめん」
謝った、リチャード殿下の耳がシュンと垂れている。いつも凛々しい殿下の初めての姿に私は驚き、可愛くって笑ってしまった。
「フフフ、慌てるリチャード殿下を初めて見ました」
「そりゃ慌てるさ、夜道の馬車での移動はなにかと危ない……俺が眠ってしまったせいで、ミタリア嬢にもしものことがあっては……」
「殿下、いまから出れば大丈夫ですわ。はやく、ブレスレットをつけてください」
とここで、何かに気付いたリチャード殿下の頬に赤みがさす。そうだろう――いまブレスレットをつければ目の前に、獣化の解けた裸の私が現れる。
(私の事が心配で作ってくれたのだろうけど、この事までは考えていなかったのね)
「リチャード殿下は目をつぶって、ブレスレットをつけてください。着替えましたら言いますので」
「わかった」
目を瞑っても嗅覚と、感覚が優れているのだろう。
私の手首にカチッとブレスレットが付けられ獣化が解ける。私は急いで下着をつけてドレスを着る。――このドレスは1人でも簡単に着れるように作られている。私たち獣化する者は、身につけている魔導具が外れてしまうと獣化してしまう。
外れた後のことを考え、1人でも着れるようコルセットもつけていない。
「着替えましたわ。リチャード殿下、失礼します」
「待て、送って行く」
「ありがとうございます」
部屋を出てから、少し落ち込むような素振りを見せるリチャード殿下。私は馬車乗り場につき、殿下に手を借りて馬車に乗る前。
「私、このブレスレット好きですわ。だって、リチャード殿下からの贈り物ですもの」
微笑んで乗り込んだ。