リチャード殿下はいいだけ私を撫でたあと、ソファーに座りながら寝落ちした。すーすーと頭上で寝息が聞こえる――のだけど。
このまま寝ちゃったら風邪を引くんじゃない?
ここは、私の必殺技をつかしかない。
ジャジャーン"猫のまま扉開け!"ピョンと、寝室の取ってに飛び乗り、部屋から繋がる寝室の扉を開けた。そして中から、リチャード殿下の毛布だけ、引っ張ってくる事に成功した。
「ふうっ、やったわ」
あとは私の猫体温で温めれば、リチャード殿下は風邪を引かないと、殿下の側で丸まった。――お、またお腹のアザがムズムズ、くすぐったい。
このアザはタオルで擦っても、薬を塗っても消えない。
リチャード殿下もなのか、時折、私と同じ所をさすりながら寝ながらかいている。
(もしかして、リチャード殿下もむず痒いの?)
♱♱♱
リチャード殿下の隣でスースー寝ていた。
コンコンコン、コンコンコンと扉を叩く音で目覚めると、すぐ近くには私がかけた毛布に包まり、ぐっすり眠るリチャード殿下がいる。
「リチャード殿下、リチャード殿下? 執務の時間です」
呼びにきたのは側近リルだ。時計を見れば時刻は4時を回っていた。
(4時過ぎ! 私が王城に来たのは午後1時過ぎだったわ)
リチャード殿下と少し会話をして、その後、寝落ちしてから、ゆうに3時間は寝ていた。
ルリが扉を叩く音に、リチャード殿下の耳は動いているから、音は聞こえている。だけど、殿下は起きたくないのか、眉をひそめるだけで目を覚まさない。
疲れているみたいだから、リチャード殿下を寝かしてあげたいけど、執務は大事だ。
「リチャード殿下おきてください。側近リル様が迎えに来ていますよ」
「……ん、リルか? リル、あと1時間くらい待てないのか?」
このリチャード殿下の声は、扉の向こうにいる側近リルにも聞こえたのだろう「私だって、リチャード殿下を起こしたくないですよ」の声が聞こえた。
彼もまた、忙しいリチャード殿下を寝かせてあげたい。しかし――たまっている執務があり、扉の向こうで困っているようだ。
「殿下、リチャード殿下、起きてください」
「ミタリア嬢? ……ああ、そうだったな。まだ過ごし足りない、ミタリア嬢も執務室に行こう」
「ふぇ! それは無理です」
「じゃー俺は起きない」
と、私を抱っこして、わがまま殿下に起きくれない。
なら仕方がないと、リチャード殿下に。
「ええ、起きていただけるのなら、考えます」
「お、その言葉、嘘じゃないよな」
(えっ?)
その、私の言葉を待っていたかのように、リチャード殿下は直ぐに目を覚ました。
「た、狸寝入り!(狼だけど)」
「いいや、起きたのはリルが来てからだ」
「結構前に起きていたじゃありませんか!」
「まだ一緒にいたい」
殿下はニンマリ笑って、脱いだジャケットに猫の私をさっと包み、脇に抱えて部屋をでようとする。
「え、このままですか?」
「ああ約束したもんな、ミタリア嬢も執務室に来るんだろ?」
無理! だと、暴れて逃げ出そうにも、ガッチリ抱えられてしまい、身動きが取れなかった。
♱♱♱
執務に向かうとちゅう側近リルは、リチャード殿下が持つ、ジャケットをチラチラ見ている。
(だよね、部屋を出ていないし。ジャケットの中に私がいるってわかるよね?)
リチャード殿下の執務室の前まで来て、
「リル、あとは1人でやるから上がっていいぞ」
と殿下は言った。
「リチャード殿下?」
「俺がいないあいだ、ご苦労さま。また明日頼むな」
側近リルの言葉を遮るリチャード殿下に。リルは「はい」しか言えず、頭をさげて下がっていった。