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第8話

 リチャード殿下はいいだけ私を撫でたあと、ソファーに座りながら寝落ちした。すーすーと頭上で寝息が聞こえる――のだけど。


 このまま寝ちゃったら風邪を引くんじゃない?

 ここは、私の必殺技をつかしかない。


 ジャジャーン"猫のまま扉開け!"ピョンと、寝室の取ってに飛び乗り、部屋から繋がる寝室の扉を開けた。そして中から、リチャード殿下の毛布だけ、引っ張ってくる事に成功した。


「ふうっ、やったわ」


 あとは私の猫体温で温めれば、リチャード殿下は風邪を引かないと、殿下の側で丸まった。――お、またお腹のアザがムズムズ、くすぐったい。


 このアザはタオルで擦っても、薬を塗っても消えない。

 リチャード殿下もなのか、時折、私と同じ所をさすりながら寝ながらかいている。


(もしかして、リチャード殿下もむず痒いの?)




 ♱♱♱




 リチャード殿下の隣でスースー寝ていた。


 コンコンコン、コンコンコンと扉を叩く音で目覚めると、すぐ近くには私がかけた毛布に包まり、ぐっすり眠るリチャード殿下がいる。


「リチャード殿下、リチャード殿下? 執務の時間です」


 呼びにきたのは側近リルだ。時計を見れば時刻は4時を回っていた。


(4時過ぎ! 私が王城に来たのは午後1時過ぎだったわ)


 リチャード殿下と少し会話をして、その後、寝落ちしてから、ゆうに3時間は寝ていた。


 ルリが扉を叩く音に、リチャード殿下の耳は動いているから、音は聞こえている。だけど、殿下は起きたくないのか、眉をひそめるだけで目を覚まさない。


 疲れているみたいだから、リチャード殿下を寝かしてあげたいけど、執務は大事だ。


「リチャード殿下おきてください。側近リル様が迎えに来ていますよ」


「……ん、リルか? リル、あと1時間くらい待てないのか?」


 このリチャード殿下の声は、扉の向こうにいる側近リルにも聞こえたのだろう「私だって、リチャード殿下を起こしたくないですよ」の声が聞こえた。


 彼もまた、忙しいリチャード殿下を寝かせてあげたい。しかし――たまっている執務があり、扉の向こうで困っているようだ。


「殿下、リチャード殿下、起きてください」


「ミタリア嬢? ……ああ、そうだったな。まだ過ごし足りない、ミタリア嬢も執務室に行こう」


「ふぇ! それは無理です」

「じゃー俺は起きない」


 と、私を抱っこして、わがまま殿下に起きくれない。

 なら仕方がないと、リチャード殿下に。


「ええ、起きていただけるのなら、考えます」

「お、その言葉、嘘じゃないよな」


(えっ?)


 その、私の言葉を待っていたかのように、リチャード殿下は直ぐに目を覚ました。


「た、狸寝入り!(狼だけど)」

「いいや、起きたのはリルが来てからだ」

「結構前に起きていたじゃありませんか!」

「まだ一緒にいたい」


 殿下はニンマリ笑って、脱いだジャケットに猫の私をさっと包み、脇に抱えて部屋をでようとする。


「え、このままですか?」

「ああ約束したもんな、ミタリア嬢も執務室に来るんだろ?」


 無理! だと、暴れて逃げ出そうにも、ガッチリ抱えられてしまい、身動きが取れなかった。




♱♱♱




 執務に向かうとちゅう側近リルは、リチャード殿下が持つ、ジャケットをチラチラ見ている。


(だよね、部屋を出ていないし。ジャケットの中に私がいるってわかるよね?)



 リチャード殿下の執務室の前まで来て、


「リル、あとは1人でやるから上がっていいぞ」


 と殿下は言った。


「リチャード殿下?」

「俺がいないあいだ、ご苦労さま。また明日頼むな」


 側近リルの言葉を遮るリチャード殿下に。リルは「はい」しか言えず、頭をさげて下がっていった。

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