――オオカミ姿のリチャード殿下と、お昼寝⁉︎
「どうしたミタリア、君が言っていたお昼寝をしないのか?」
「え、私が言ったのは庭園でのお昼寝ですわ」
「ここでも昼寝はできる」
「……ええ、できますわね」
どうやら獣化を抑制する、ペンダントの金具が外れて、獣化したあげく書庫で眠ってしまった。――そして目を覚ますと。リチャード殿下の、それも寝室のベッドの上で、同じく獣化したリチャード殿下がいた。
(いっしょにお昼寝の話は嬉しい話だけど、なぜリチャード殿下まで獣化しているの?)
「ミタリア警備の騎士に話はしたから、時間になったら起こしてくれる。遠慮なく寝ていいぞ」
「こんな状況で寝られるわけないでしょう! あ、失礼いたしました」
あわてて口を押さえたが遅い、焦ってリチャード殿下の前で素が出てしまったが。怒るのかと思ったリチャード殿下は"クククッ"と笑い、なにやら楽しそうだ。
「へぇ、それがミタリア嬢の素の姿かな?」
「はい、すみません……」
「いまはデートの時間だ、気にしなくていい」
またリチャード殿下はクククッと笑った。――変だ、今日のリ殿下はいつもとは違い、笑っている。それはヒロインにしか見せない笑顔なのに、悪役令嬢の私に見せた。
(うれしい……それが今日だけでも、私にとっては特別な時間だ)
「わかりましたわ。デートの時間が終わるまで、お昼寝いたしましょう」
「じゃ、一緒に寝よう」
とは言ったものの。私の推しが、側で寝ている……と思うだけで、目が冴えて眠れない。この寝不足はそもそも、私が乙女ゲームのこれからの出来事をまとめたり、リチャード殿下とのデートに興奮したのが原因だ。
ソッと瞳を開けて、隣で眠るリチャード殿下をながめる。
「はぁ、オオカミ姿のリチャード殿下もステキ。忘れないように覚えておかないと」
――2度と、獣化した殿下は見られないだろう。
「ミタリア嬢、明日も来て見れば良いだろう?」
「あ、明日? リチャード殿下、起きてらしたの?」
「君がそばで動くから、物音で目が覚めた」
(まずい、お疲れのリチャード殿下のお昼寝を邪魔してしまった)
私はすぐ目をつむり、眠ったフリをする。
「フフッ、このような令嬢は初めてだ。面白い……な」
――私が面白い? そうかもしれない……推しの側で獣化してしまうわ、お昼寝するわ、そんな令嬢は今まで彼のそばにいないだろう。