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第5話

 ――オオカミ姿のリチャード殿下と、お昼寝⁉︎


「どうしたミタリア、君が言っていたお昼寝をしないのか?」 


「え、私が言ったのは庭園でのお昼寝ですわ」


「ここでも昼寝はできる」

「……ええ、できますわね」


 どうやら獣化を抑制する、ペンダントの金具が外れて、獣化したあげく書庫で眠ってしまった。――そして目を覚ますと。リチャード殿下の、それも寝室のベッドの上で、同じく獣化したリチャード殿下がいた。


(いっしょにお昼寝の話は嬉しい話だけど、なぜリチャード殿下まで獣化しているの?)


「ミタリア警備の騎士に話はしたから、時間になったら起こしてくれる。遠慮なく寝ていいぞ」


「こんな状況で寝られるわけないでしょう! あ、失礼いたしました」


 あわてて口を押さえたが遅い、焦ってリチャード殿下の前で素が出てしまったが。怒るのかと思ったリチャード殿下は"クククッ"と笑い、なにやら楽しそうだ。


「へぇ、それがミタリア嬢の素の姿かな?」

「はい、すみません……」


「いまはデートの時間だ、気にしなくていい」


 またリチャード殿下はクククッと笑った。――変だ、今日のリ殿下はいつもとは違い、笑っている。それはヒロインにしか見せない笑顔なのに、悪役令嬢の私に見せた。


(うれしい……それが今日だけでも、私にとっては特別な時間だ)


「わかりましたわ。デートの時間が終わるまで、お昼寝いたしましょう」


「じゃ、一緒に寝よう」


 とは言ったものの。私の推しが、側で寝ている……と思うだけで、目が冴えて眠れない。この寝不足はそもそも、私が乙女ゲームのこれからの出来事をまとめたり、リチャード殿下とのデートに興奮したのが原因だ。


 ソッと瞳を開けて、隣で眠るリチャード殿下をながめる。


「はぁ、オオカミ姿のリチャード殿下もステキ。忘れないように覚えておかないと」


 ――2度と、獣化した殿下は見られないだろう。


「ミタリア嬢、明日も来て見れば良いだろう?」

「あ、明日? リチャード殿下、起きてらしたの?」

「君がそばで動くから、物音で目が覚めた」


(まずい、お疲れのリチャード殿下のお昼寝を邪魔してしまった)


 私はすぐ目をつむり、眠ったフリをする。


「フフッ、このような令嬢は初めてだ。面白い……な」


 ――私が面白い? そうかもしれない……推しの側で獣化してしまうわ、お昼寝するわ、そんな令嬢は今まで彼のそばにいないだろう。


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