デートが始まり、リチャード殿下と書庫で2人きりだ。まあ書庫の外には警備騎士はいるのだけど、私たちは書庫の奥の机に殿下が座り、その隣ではなく離れた位置に座った。
この位置はコッソリ、リチャード殿下の横顔がみれる絶好のポジションなのだ。
「リチャード殿下、私は時間になるまで邪魔をせず、おとなしく、この場所で大人しく本を読んでいますわ」
「……あ? あぁ、分かった」
ふうっと、殿下に何度めかのため息をつかれても、見て見ぬ振りをして、私は選んだスイーツの本を読んでいた。
――本を読む、姿もステキ。
――ずっと、眺めていたい。
リチャード殿下は今日もステキだ――ね。
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もふ、もふん? もふもふと顔が気持ちいい。これは家のどのお布団よりも、ふかふかで触り心地もいい。これは憧れの羽毛の高級お布団、隣のモフモフの毛皮もいい――?
「これって、本物の毛皮⁉︎」
パチっと目を覚ましたとたん、私の頭上から大きなため息が聞こえた。
「やっと、目が覚めたかミタリア嬢。君は先ほどから、なんて無防備なんだ。オオカミの僕に襲えと、いるのかな?」
「え、オオカミ? 襲え?」
体を起こしキョロキョロ見渡すと、天蓋付きの高級ベッドの上で猫の姿の私と隣にシルバー色の毛並み、大きなもふもふのオオカミが仲良く寝そべっていた。
あれ、おかしい、リチャード殿下と書庫デートをしていたはず。
「どうした、ミタリア嬢?」
「……あ、あなた様はどちらの、オオカミ様でしょうか?」
誰だ。と首を傾げた私にオオカミは目を細めて、大きなため息を吐いた。
「ミタリア嬢は忘れたのかな? 僕はオオカミ族の王子なんだけど」
「え、ええ⁉︎ リチャード殿下⁉︎」
忘れていた――リチャード殿下はオオカミ族、乙女ゲームの中で、ヒロインのそばではオオカミに獣化していた。
「す、すみません……動揺して、忘れていました」
「忘ていたのなら仕方がない――先程、庭園でミタリアの髪についた葉をとるとき、僕がペンダントの金具に触れて外れたか。元々金具が緩んでいたのかは知らないが……ミタリアのペンダントが書庫で外れた」
「え、私のペンダントが外れた?」
――それで、獣化したのか。
「獣化か、ミタリア嬢が僕のつがう相手……」
リチャード殿下が、ぼやく様につぶやいた。
(違う、リチャード殿下の番は私じゃない)
「違います。私はいちおう獣化しますが……リチャード殿下の番う相手ではありません」
私は違うとハッキリ伝えて、思いっきり首を横に振った。だってリチャード殿下は来年、学園でヒロインと会うから。
乙女ゲームでの2人の出会いのイベントは、何度も見ておぼえている。
『学園の庭園に白兎?』
『白兎? えっ、ええ? わ、……私、兎の姿になってる?』
天気が良くお昼寝をしていたヒロインの、魔導具が外れてしまい獣化してしまう。しかし、ヒロインの母親の形見の指輪が、魔導具だとは知らなかった。
『なんだ、君は自分が獣化すると知らなかったのか?』
『獣化? 獣化って、なんですか?』
コテンと、首を傾げるヒロイン。
『なに獣化を知らないのか? ……ここにいては、他の生徒に見られてしまう、危ないな。とりあえず私の休憩室に行こう』
このあと関係者しか入れない、休憩室に移動する。
その出来事の後から、リチャード殿下はヒロインが気になりはじめて――いつしか、それは恋に変わる。
(獣化が、2人の恋のきっかけを作るのよね……って、今の私もその状態? まずい、まずくない!)
――よし、推しのオオカミ姿も見たし、堪能したし逃げよう。
「リチャード殿下。そろそろ、デートの終わる時間ではありませんか?」
「いや、まだ終わるまで一時間はあるぞ」
「え、まだ1時間もあるのですか?」
「ああ、終わるまで仲良く昼寝をしよう」
――推しと、お昼寝⁉︎