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第2話

 馬車の扉を開けて私はビックリした。な、なんと馬車の内装が以前と変わっていたのだ。このベンチシートに敷いてあるのは、私が愛してやまないフカフカなお布団。


 王城までの長い移動が楽になるよう、両親が準備してくれたようだ。


 ふかふかなお布団の誘惑には勝てず、整えた髪、ドレスを気にせずお布団に飛び乗り。もみもみ、すりすりして、フカフカなお布団にクルンとくるまった。


(おひさまの香り〜やっぱり、お布団は最高!)


 屋敷から馬車に乗って3時間、前世も好きだったふかふかな布団にくるまり、時刻とおり王城へと馬車は着いた。



 コンコンコン。


「ミタリアお嬢様、王城に到着いたしました」

「え、もう着いたの?」


 御者の声で目を覚ましてお布団からぬけだし、外で待つ御者に「少し待ってください」と声をかけ。化粧箱を取りだしてボサボサになった髪をなおし、ドレスのシワも伸ばした。


 身なりをチェックしたあと、外で待っている御者に声をかけ外鍵を外してもらい、馬車を降りて城内への出入り口に向かった。


 去年と7月と同じく、リチャード殿下の側近の犬族で伯爵家のリル・バッカルが城の入り口近くで待機していた。


 この側近リルも攻略対象。私がリチャード殿下に婚約破棄を告げられ、ヒロインをいじめた罪状から逃げだそうとした、私を足音なく捕まえる。彼はかなり腕が立つリチャード殿下の忠実な側近……しかし、そのみためは茶色のふわふわな髪と瞳、雰囲気は優しげなのに……と思いながら私は彼に近付いた。


「ごきげんよう、リル様。リチャード殿下はどちらにいらっしゃるのかしら?」


 淑女の挨拶をすると、リルも胸に手を当て挨拶を返した。


「こんにちは、ミタリア様。殿下は庭園で、ミタリア様のご到着をお待ちになっておられます」


 彼に庭園へと案内され、テラス席で待つリチャード殿下の元へと向かった。


 ――あ、リチャード殿下だわ。


 ときおり吹く風に白銀の髪と耳、尻尾を揺らし。

 紺色のジュストコールを身につけ、テラス席で優雅に本を読んでいた。


(わぁ〜推しはいつ見ても素敵だ)


 だけど、乙女ゲームと同じで笑顔はみせない。そう、リチャード殿下を笑顔にするのは、私ではなくヒロインだけだから。


「どうなされました、ミタリア様?」


「え、あ……リル様、案内ありがとうございました」


「いいえ。ミタリア様、ごゆっくり殿下との1日デートをお楽しみください」


 リルと会話を交わして、私はテラス席にいる殿下に近付き会釈した。リチャード殿下も私が近づいたことに気付き、読んでいた本を閉じる。


「ごきげんよう、リチャード殿下」


「こんにちは、本日はミタリア嬢の日かよろしく。さて、君は僕と、どんなデートがしたい?」


 毎月、毎月、5年もの間、同じことをしているためか、リチャード殿下の対応はなれたものだ。


 私は少し考える素振りをして微笑み。


「そうですわね。……リチャード殿下とテラス席でお茶、庭園のベンチで日向ぼっこ。あ、書庫で読書をするのはどうでしょうか?」


 そう殿下に告げれば。彼は目を細めて"またか"といった表情を浮かべた。それもそうだろう、私とのデートは子供の頃から毎年、あまり変わり映えしていない。


「ミタリア嬢にこんなことは言いたくないが。この5年間もの間、君とのデートはお茶か、日向ぼっこ、読書。――君は他の候補者のように、僕と別のことをしたいと思わないのか?」 


「え、他の候補者と同じこと?」


 婚約者候補者とのデートを嫌っているリチャード殿下に、そう言われるとは思っていなかったので、ひとみを丸くする。


(それに私は他の令嬢と、どんなデートをしたのかも嫌ほど知っている)


 なぜかというと。


 毎月、婚約者候補のお屋敷で主催される、リチャード殿下とのデート自慢会という名のお茶会で。他の令嬢から乗馬、庭園で手繋ぎ、王都、遊覧船、花見のデートをしたと聞いていた。


(だけど、私は推しはただ眺めていたい。それは前世から変わっていない。まぁ〜私は悪役令嬢だから、いずれ殿下とは婚約すると思っているのもある)


「お言葉ですが、リチャード殿下。私とのデートをお茶、日向ぼっこ、読書デートにすれば。誰にも邪魔をされず、お好きな本をデートのあいだ読めますわ」


「うむ、誰にも邪魔されず好きな本を読めるか。最近、執務で忙しかったからな……良い、息抜きになるな」


 少しリチャード殿下の口角があがった。私は他の候補者が知らない、殿下の読書好きなことを乙女ゲームで知っている。ズルをする代わり、リチャード殿下には触れないと決めた。


 ――推しの、邪魔をせず。

 ――推しが、幸せになることが最大の願い。


「えぇ、リチャード殿下の息抜きになりますわ」


 そう伝えれば、リチャード殿下は"じっ"と私を見た後にため息をついた。


「ハァ……それでいいよ。本日のデートの場所は書庫で読書だ。ミタリア嬢は書庫でゆっくりしていてくれ」


「はい、喜んで!」


「その前に……ミタリア嬢の髪に葉がついている」


 ――え?


 殿下の手が近付き、私の髪に触れて髪についていた木の葉を取ったくれた。


(ああ、そのリチャード殿下がふれた葉っぱを持って帰って栞にしたい)


「リチャード殿下、ありがとうございます」


 書庫に移動して本日のデートが始まった。

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