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第1話

 私が転生した『獣人国ローランドの恋物語』は愛してやまない、大好きな獣人系乙女ゲーム。このローランドに住む獣人たちは"運命の相手"つがいと出会うと、互いの体の何処かに紋様が浮かぶ、というのがこのゲームの設定。


 ローランドの獣人たちは運命と相手と出会うと、体のどこかに紋様があらわれる。その場所は左薬指の付け根、手首、胸元、運命の相手と同じ文様が同じ箇所に浮かぶ。――たしか、このゲームの主人公たちの紋様は、オオカミとウサギが寄り添うかわいい紋様だった。


(デザインも凝っていて、可愛いのよね)




 ところで。私の記憶を思い出すきっかけとなった、5日前に届いた封書。その中身はこの少女ゲームの推し、ローランドの第一王子リチャード・ローランドの婚約者候補に私が選ばれたと書かれた手紙と。ひと月後、婚約候補者を集めたお茶会が王城で開催されると記された、招待状だった。


 お父様とお母様は大喜びでドレスを仕立て、私を王城へと送り出した。このお茶会に集められた候補者は王子と同じ歳の鳥族、狐族、犬族、猫族。


 その、婚約者候補が集まるお茶会の席で国王陛下は「毎月、紋様がでやすい満月の日にリチャードと婚約者候補一名がお茶会、いやデートをしなさい」と告げた。


 デートの話が伝えられていなかったのか、驚くリチャード殿下と、湧き立つ候補者たちの中で私もワクワクしていた。


(推しとデートだなんて幸せすぎる!)


 そして私が割り振られたのは、生まれつきの7月だった。




 ♱♱♱




 私を含めた候補者全員は選ばれた月に、リチャード殿下とデートをしたが、誰1人として紋様は浮かばなかった。陛下は「この中に運命と相手がいない」と、おやめになると思っていたが「このまま、デートを続けなさい」と続け、はや5年も経っていた。


 しかし、まだ紋様が出た子がいない。となると、紋様は乙女ゲームと同じで、殿下の運命の相手のヒロインではないと浮かばない。まあ来年は乙女ゲームが始まるし、スズリア学園に入学すれば状況は、一気に変わるだろう。


(でもその前に、悪役令嬢の私が推しの婚約者になるのかな?)


 いや、色々嫌なことをやった、乙女ゲームのミタリアとは違い。私は両親に推しの婚約者になりたいと駄々をこねず、婚約者候補の令嬢達も脅していない――もしかすると、ほかの候補者が選ばれるかも。




 時期は初夏の7月、そして今夜は満月。


 7月は私とリチャード殿下のデートの日がくる。そして最後、12月の候補者とのデート後に婚約者が決まるだろう。


 早朝、リチャード殿下とのデートに向かうため、背伸びをして気分を変え、タンスの上に置いた魔導具のペンダントを付け獣化を解いた。この"獣化とは"猫本来の姿になること。ここローランドでは、原種の血が濃く生まれた子は獣化してしまうのだ。


 不思議なことに私も原種の血が濃いらしく、乙女ゲームとは違い獣化する。どうしたかはわからないけど、私としては可愛い黒猫になれるので悪くない。一つ欠点を上げるとしたら、猫の姿から獣化を解くと素っ裸だということだ。



 コンコンコンと、部屋の扉が鳴る。どうやら朝の支度に、メイドのナターシャが来たようだ。


「おはようございます、ミタリアお嬢様。まあ、獣化されていたのですね」


「ええ、おはようナターシャ。いま下着をつけるから待っていてください」


「はい、ミタリアお嬢様」


 タンスから取り出し下着をつけ、メイドのナターシャが運んできたぬるま湯が入った桶で顔を洗い。ドレッサーの前で髪を結い、準備していた水色のドレスに着替えた。


(推しとの最後のデートの日。乙女ゲームのとおり、推しの婚約者に選ばれなくてもいい。今日の日を楽しんでこよう)


 支度が終わった私は両親に挨拶して、馬車に乗りこんだ。

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