私が転生に気付いたのは5日前のこと。王城から婚約者候補に選ばれたと屋敷に届いた封書。その封書を触ったとき、体にビリビリと電気が走り私は意識を失った。
それから3日間ものあいだ高熱で寝込み、前世の記憶を思い出した。――私は早く事故で両親を亡くして、高校卒業後はブラック企業に勤めていた。デスクに並ぶ期限がギリギリの業務「誠にすみません、もう少しお待ちください」が口癖になる程の謝りの電話とメール……一日中そんな仕事ばかりで、まともに睡眠とったのはいつのことだろう。
(はやく遊びたい! すぐ帰って、ふかふかなお布団の上で乙女ゲームがしたい!)
毎日、毎日、退社は0時過ぎ終電ギリギリだ。――その日も私を含めた社員たちは眠い目をこすり、パソコンのキーをながめ、一心不乱に直しの書類を入力している。
もう少し。あと、もう少しでお布団が待ってる〜。
(出来た! 後はこの書類データーを向こうに送れば……終わり!)
「……終わった、ご苦労様でした」
「お疲れさま、こっちも終わったよ……」
「自分も、終わりました!」
みんなは仕事を終えて帰って行く。私も終電でアパートに帰り、明日は休みだから夜通しで乙女ゲームを遊ぶと。ゲーム機と一緒に、お布団へ飛び乗ったまでしか記憶がない。
目を覚ましたら……いま、まさに遊ぼうとしていた、獣人系乙女ゲームの悪役令嬢。艶やかな長い黒髪と琥珀色の瞳、黒猫族のミタリア・アンブレラ(10)子供の頃に転生していた。