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第110話、ぶつかる拳


 ラトゥンが、カラド神父へ肉薄した時、そのそばにいた武装神官が反射的に、間に割って入った。

 この反応のよさは、人間のそれではない!


 暗黒剣を左手から抜剣。まず一人を短槍ごと両断。返す刃でもう一人を狙うが、こちらは受け止められてしまう。持っている槍がただの金属ではなかった。


「独立傭兵!?」


 カラドは慌てて後退する。その時間を稼ぐように、周りの武装神官たちがラトゥンを取り囲む。


「傭兵ごときに、止められるものか!」


 その言葉に弾かれたように、武装神官たちの服が内側から盛り上がり、破裂するように破れる。その姿は、がたいのよい悪魔のそれに変わった。


「ふんっ! それがどうした」


 ラトゥンは手近な悪魔に斬り掛かる。距離を取るカラドは、そこで何かに気づく。


「いや待て、独立傭兵……独立傭兵だと!?」


 それはさっき言ったぞ――ラトゥンは剛力のまま、悪魔を一人、二人と斬り伏せていく。左右から襲いかかる短槍の突きを躱し、まず右の敵の首をはね、その体を踏み台のように蹴り、左の悪魔の首を貫き、そして裂いた。


「まさか、暴食の出現場所に現れる独立傭兵かっ!? いや、貴様が暴食っ!」

「それがどうした?」


 跳躍して突きを避けて、悪魔の頭のドタマをかち割る。武装神官だった悪魔ども。それらは人間を相手をするには、確かに手強かっただろう。だがラトゥンの前では、どうとでもなる雑兵でしかなかった。


「何故、貴様がここにいるのだ!?」

「それがあんたの地の喋り方か?」


 先ほどまでの神父らしい口調とはだいぶ異なる。切羽詰まると、地が出るものだ。それは悪魔も変わらないようだ。


「どうりで、井戸に落ちても生きているわけだ……。貴様も落ちたのだろう? そこから出てきたということは?」

「だったらどうした――そう言っている!」


 暗黒剣は、雑兵悪魔と引き裂き、屍を量産する。瞬く間に、神父の他三人となった。

 ラトゥンは地を踏みしめ、カラドを狙う。すると悪魔の一人が間に入って防ごうとする。右手の剣を叩きつける。悪魔は魔法の槍でガード。金属同士がぶつかるが、そこにラトゥンの伸ばした左腕がするりと入り込み、悪魔の体に触れ、そしてポッカリと大穴をあける。


 暴食の腕が喰らったのだ。これで雑魚は残り二人。一人が喰われている間に、背後に回り込んだのが一人。背後から突きが来たが、ラトゥンは脇の間に槍を通して回避。そのまま肘を後ろに下げてエルボーをぶつけるように後退、悪魔の顔面に肘を突き刺し、怯ませた。


 その隙を衝いて一閃。その体を両断して、残るは一人。その悪魔は神父のガードらしく、彼とラトゥンの間で槍を構えて立っている。


 ――本当に邪魔な奴だ。


 雑兵は数だけいて面倒だ。最後の一人となっても。正面から戦っても勝てない癖に。

 左腕を向けて、ライトニングスピアーの魔法を撃ち込む。電撃弾を予想していなかったのか、護衛の悪魔は虚を衝かれて、頭に一撃を貰う。


 痛がる一方で、致命傷ではなかったようだった。ラトゥンは追い打ちのライトニングスピアーを連続して叩き込み、武装神官だった悪魔にトドメを刺した。


「これで残るは、あんただけだな、神父」

「やれやれ、こんなところで暴食と会うとはついていない」


 カラドは首を横に振った。


「噂に違わず、強いじゃないか、暴食よ」

「正体を見せていいんだぞ、悪魔」


 ラトゥンは、ゆっくりと近づく。無防備なように見えて、動きがあれば即対応できる構えだ。


「ふむ、私はこの姿を気に入っていてね」


 そう言いながら、肩を回した。


「私は悪魔より、人の姿こそ美しいと思っている。まあ、悪魔と一口に言っても、容姿に優れた者はいるから、何事も例外はあるのだがね」


 次に首を回し、体をほぐす。


「姿など、飾りだ。私は、この姿でやらせてもらうよ、暴食。……貴様は、聖教会に盾突くのであろう? 同じ悪魔なのにな。復讐か?」

「そうだ」


 次の瞬間、ラトゥンは飛び込んだ。間合いに入ったからだ。必殺の距離。暗黒剣は神父の体を袈裟斬りに――できなかった。

 カラドは一歩体を引いて、ラトゥンの剣を空振りさせた。その刹那、神父の拳が、ラトゥンの顔面に当たる。


「!?」


 ――食らった!?


 ラトゥンは打撃が弱かったのを幸い、暗黒剣を返すが、これもまたカラドは避ける。それどころか、合間合間に手刀や拳をいれて、ラトゥンの腕や肩、そして頭に一撃を当ててきた。


 ――これは、何だ……?


 こちらの攻撃がことごとく当たらず、逆にカラドの手は当たる。


「何のつもりだ……?」

「攻撃しているつもりなのだがね」


 カラドは、すっかり冷静さを取り戻していた。独立傭兵、暴食の出現に一時取り乱すような態度だったものは消えて、別人のように落ち着いている。


「人間だったら、今頃、動けなくなっているはずだが……やはり悪魔の体には通用しなかったか」


 たとえば、腕の一撃は武器を落とし、痺れさせ、顔面への一撃は立ちくらみ、さらに顎の一撃は脳を揺らして平行感覚を麻痺させるのだが。


「しかし貴様こそ、その程度の攻撃で、私を捉えられると思っているのかね? これが暴食の本気、というわけではあるまい」

『どうかな』


 ラトゥンの姿が悪魔――暴食のそれに変わる。飛び込みのスピードが上がり、繰り出された拳の伸びに、カラドは目を見開く。

 とっさに腕をクロスして防御姿勢。だがカラドの体が後ろへ吹っ飛ぶ。


「なるほど、これは……油断ならないな」


 カラドは折れた両腕の骨を再生させる。腕だけ悪魔の青いそれに変わる。ラトゥンは畳みかける。再生は早いが、そのわずかな反応の遅れを利用し、踏み込み、左腕で喰らう!


「!?」


 暴食の腕が、カラドの腋へ抜けた。先ほどまでと段違いの攻撃を顎に食らい、暴食はのけぞった。


「貴様を煽ったことは侘びよう。やはり戦いは本気でやらねばならない」


 カラドが頭を残して、筋骨隆々たる悪魔の体に変貌する。


「生け捕りはなしだ。完成していない暴食ならば、私でも貴様を倒せるだろう。暴食の力、この場で回収させてもらう!」

『それが煽りだと言うんだ』


 暴食――ラトゥンは左腕を前に構えた。

 次の瞬間、暴食とカラドはぶつかった。

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