ラトゥンが、カラド神父へ肉薄した時、そのそばにいた武装神官が反射的に、間に割って入った。
この反応のよさは、人間のそれではない!
暗黒剣を左手から抜剣。まず一人を短槍ごと両断。返す刃でもう一人を狙うが、こちらは受け止められてしまう。持っている槍がただの金属ではなかった。
「独立傭兵!?」
カラドは慌てて後退する。その時間を稼ぐように、周りの武装神官たちがラトゥンを取り囲む。
「傭兵ごときに、止められるものか!」
その言葉に弾かれたように、武装神官たちの服が内側から盛り上がり、破裂するように破れる。その姿は、がたいのよい悪魔のそれに変わった。
「ふんっ! それがどうした」
ラトゥンは手近な悪魔に斬り掛かる。距離を取るカラドは、そこで何かに気づく。
「いや待て、独立傭兵……独立傭兵だと!?」
それはさっき言ったぞ――ラトゥンは剛力のまま、悪魔を一人、二人と斬り伏せていく。左右から襲いかかる短槍の突きを躱し、まず右の敵の首をはね、その体を踏み台のように蹴り、左の悪魔の首を貫き、そして裂いた。
「まさか、暴食の出現場所に現れる独立傭兵かっ!? いや、貴様が暴食っ!」
「それがどうした?」
跳躍して突きを避けて、悪魔の頭のドタマをかち割る。武装神官だった悪魔ども。それらは人間を相手をするには、確かに手強かっただろう。だがラトゥンの前では、どうとでもなる雑兵でしかなかった。
「何故、貴様がここにいるのだ!?」
「それがあんたの地の喋り方か?」
先ほどまでの神父らしい口調とはだいぶ異なる。切羽詰まると、地が出るものだ。それは悪魔も変わらないようだ。
「どうりで、井戸に落ちても生きているわけだ……。貴様も落ちたのだろう? そこから出てきたということは?」
「だったらどうした――そう言っている!」
暗黒剣は、雑兵悪魔と引き裂き、屍を量産する。瞬く間に、神父の他三人となった。
ラトゥンは地を踏みしめ、カラドを狙う。すると悪魔の一人が間に入って防ごうとする。右手の剣を叩きつける。悪魔は魔法の槍でガード。金属同士がぶつかるが、そこにラトゥンの伸ばした左腕がするりと入り込み、悪魔の体に触れ、そしてポッカリと大穴をあける。
暴食の腕が喰らったのだ。これで雑魚は残り二人。一人が喰われている間に、背後に回り込んだのが一人。背後から突きが来たが、ラトゥンは脇の間に槍を通して回避。そのまま肘を後ろに下げてエルボーをぶつけるように後退、悪魔の顔面に肘を突き刺し、怯ませた。
その隙を衝いて一閃。その体を両断して、残るは一人。その悪魔は神父のガードらしく、彼とラトゥンの間で槍を構えて立っている。
――本当に邪魔な奴だ。
雑兵は数だけいて面倒だ。最後の一人となっても。正面から戦っても勝てない癖に。
左腕を向けて、ライトニングスピアーの魔法を撃ち込む。電撃弾を予想していなかったのか、護衛の悪魔は虚を衝かれて、頭に一撃を貰う。
痛がる一方で、致命傷ではなかったようだった。ラトゥンは追い打ちのライトニングスピアーを連続して叩き込み、武装神官だった悪魔にトドメを刺した。
「これで残るは、あんただけだな、神父」
「やれやれ、こんなところで暴食と会うとはついていない」
カラドは首を横に振った。
「噂に違わず、強いじゃないか、暴食よ」
「正体を見せていいんだぞ、悪魔」
ラトゥンは、ゆっくりと近づく。無防備なように見えて、動きがあれば即対応できる構えだ。
「ふむ、私はこの姿を気に入っていてね」
そう言いながら、肩を回した。
「私は悪魔より、人の姿こそ美しいと思っている。まあ、悪魔と一口に言っても、容姿に優れた者はいるから、何事も例外はあるのだがね」
次に首を回し、体をほぐす。
「姿など、飾りだ。私は、この姿でやらせてもらうよ、暴食。……貴様は、聖教会に盾突くのであろう? 同じ悪魔なのにな。復讐か?」
「そうだ」
次の瞬間、ラトゥンは飛び込んだ。間合いに入ったからだ。必殺の距離。暗黒剣は神父の体を袈裟斬りに――できなかった。
カラドは一歩体を引いて、ラトゥンの剣を空振りさせた。その刹那、神父の拳が、ラトゥンの顔面に当たる。
「!?」
――食らった!?
ラトゥンは打撃が弱かったのを幸い、暗黒剣を返すが、これもまたカラドは避ける。それどころか、合間合間に手刀や拳をいれて、ラトゥンの腕や肩、そして頭に一撃を当ててきた。
――これは、何だ……?
こちらの攻撃がことごとく当たらず、逆にカラドの手は当たる。
「何のつもりだ……?」
「攻撃しているつもりなのだがね」
カラドは、すっかり冷静さを取り戻していた。独立傭兵、暴食の出現に一時取り乱すような態度だったものは消えて、別人のように落ち着いている。
「人間だったら、今頃、動けなくなっているはずだが……やはり悪魔の体には通用しなかったか」
たとえば、腕の一撃は武器を落とし、痺れさせ、顔面への一撃は立ちくらみ、さらに顎の一撃は脳を揺らして平行感覚を麻痺させるのだが。
「しかし貴様こそ、その程度の攻撃で、私を捉えられると思っているのかね? これが暴食の本気、というわけではあるまい」
『どうかな』
ラトゥンの姿が悪魔――暴食のそれに変わる。飛び込みのスピードが上がり、繰り出された拳の伸びに、カラドは目を見開く。
とっさに腕をクロスして防御姿勢。だがカラドの体が後ろへ吹っ飛ぶ。
「なるほど、これは……油断ならないな」
カラドは折れた両腕の骨を再生させる。腕だけ悪魔の青いそれに変わる。ラトゥンは畳みかける。再生は早いが、そのわずかな反応の遅れを利用し、踏み込み、左腕で喰らう!
「!?」
暴食の腕が、カラドの腋へ抜けた。先ほどまでと段違いの攻撃を顎に食らい、暴食はのけぞった。
「貴様を煽ったことは侘びよう。やはり戦いは本気でやらねばならない」
カラドが頭を残して、筋骨隆々たる悪魔の体に変貌する。
「生け捕りはなしだ。完成していない暴食ならば、私でも貴様を倒せるだろう。暴食の力、この場で回収させてもらう!」
『それが煽りだと言うんだ』
暴食――ラトゥンは左腕を前に構えた。
次の瞬間、暴食とカラドはぶつかった。