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第28話、ギルドが駄目なら、領主が――


 討伐部隊が倒した以外にもゴブリンがまだ大量に残っていた。

 バウークの町の守備隊は、敵の襲来に備えて守りを固める。そしてまだ仕事半ばのハンターギルドに再度の出動を要請した。


 消耗から回復しきっていないハンターギルドであるが、ラトゥンには関係ない。エキナと共に、ギルドフロアから出ようとしたら、ドワーフ兵に止められた。


「待て。町のハンターは防衛戦に参加してもらう。我々ガードの許可なく、出ることは許されん」


 騎士のような出で立ちの指揮官ドワーフが、もっさり顎髭を撫でつけながら言った。この事態を招いたのがハンターにあるように、睨みつけてくるが――


「それなら、俺には関係ない。俺と相棒は独立傭兵だ。ハンターじゃない」

「独立傭兵……。それは失礼した。……町の防衛に加わってはくれないのか?」

「報酬次第、というところだが――」


 ラトゥンは、ちら、とギルド長を睨んだ。


「ここのハンターギルド、独立傭兵はハンターの半分しか報酬を出さないという決まりがあるそうだ。……そんな安い仕事で命を張れない」

「……」


 指揮官ドワーフもまた、ハンターギルドのマスターを睨む。ラトゥンは続けた。


「あと、ギルマスからは、二度と来るなと言われたんでな。頼まれたってハンターの仕事はしない。恨むなら、つまらないローカルルールで俺たちを馬鹿にするギルドを恨んでくれ」


 それにこちらは、領主の暴食探しの依頼もやらねばならない。ということで、ハンターではないラトゥンとエキナは、ギルドを出て、さらに殺気立っている町中を歩いた。


「……まあ、探しても暴食は見つかるはずがないんだけど」


 ラトゥンは呟く。

 店は固く閉ざされ、武装した兵や雑務にかり出されたとおぼしき民しか見当たらない。時々怪訝そうな視線を向けられたが、皆忙しいのか声をかけてくることはなかった。


「ラトゥンは、どう思います?」


 エキナが声をかけてきた。


「何がだ?」

「この町です。ゴブリンの攻撃に対して、耐えられるでしょうか?」

「……そうだな」


 足を止めて、グルリと周囲を見回す。そこそこ高い外壁に囲まれた町。煙突から流れる煙は、昨日より心なしか少なく見える。


「キャンプではそこそこ逃げていくゴブリンを見たし、あれが全てではないだろうから、危機感を抱くほどは、まだ敵が残っていると見ていいだろう」


 そうでなければ、町のガードたちがああも慌てて守りを固めたりしない。ハンターの討伐部隊は、きちんと巣を始末したのかと疑いたくなるレベルだが、おそらくゴブリンのこと、まだ他に巣があるほどの大規模集団だったかもしれない。


「とはいえ、ゴブリンがこの町の外壁を突破できるとは思えない。籠城すれば、少なくとも町は守られる……と思いたいが」

「思いたいが……何です?」

「ゴブリンは狡賢いからな」


 ラトゥンは眉間にしわを寄せた。


「どこか抜け穴を見つけて、入り込み、仲間を引き入れるかもしれない。油断は禁物ということだ」


 俺たちに関係ないことだが――ラトゥンは言いかけ、ちらをエキナを見れば、彼女は若干の苦悩を滲ませた顔をして、何か考えていた。


 ――本当、仮面がないとわかりやすいな。


 おそらく、故郷が滅ぼされた時のことを思い出し、この町を守れないものか考えているのだろう。赤の他人とはいえ、民が悲惨な目に遭うのは見たくないというところか。


「エキナ」

「あ、はい!」


 物思いから引き戻されるエキナ。ラトゥンは歩き出す。


「領主のところへ行くぞ。暴食はいませんでしたと報告する」

「いいんですか? 町全体を見回っていないですけど」

「いないことがわかっているからな。町を出るのに、依頼を抱えたままだと逃げたと思われるからな」

「……そうですね。町が、こんな状況ですし」


 エキナは、そっと視線を逸らして、街並みを見やる。言いたいことがあるが、言えない、我慢する、という横顔に見えた。お優しい彼女のこと、町を守るのに手を貸すべき、というところだろう。


「そう、こんな状況だ」


 ラトゥンは前を向いた。


「領主に依頼報告をしたら……新しい依頼が来るだろう。ゴブリン退治に協力してくれってな」

「!」

「領主ってのは、そういうものだろう?」

「……はい!」


 打って変わってエキナの顔が綻んだ。まだ受けるとは言っていないが。


 ――わかりやすい。



  ・  ・  ・



 領主の館に行き、暴食捜索依頼を出してきた領主に『暴食』はいないと報告した。


「……いささか、報告に来るのが早いんじゃないか?」

「暴食が出たら、俺を殺してもいい。それだけ確実な話だ」

「ふむ……。その言葉、忘れるなよ」


 相変わらず高そうな服をまとう中年領主は、従者の青年に合図を報酬を用意させた。


「もし貴様の言葉が嘘だったら、ごまんと懸賞金をかけて、地の果てまで追いかけてやる」

「信用しろとは言わないが、天地がひっくり返っても、当面は暴食は現れないさ」

「当面とは……?」

「言ったろう? 暴食は悪魔を喰って回っていると。……また聖教会が人に化けた悪魔を送り込んできたら、もしかしたら現れるかもしれないぜ?」

「……」


 領主は押し黙る。それとなく聖教会を疑え、と臭わせたが、果たしてどこまで対応できるやら。

 この国では聖教会の権威は高い。民の大半が信仰し、関わりが強い分、疑うというのは難しくはある。日常生活においても、祝日の礼拝やらお祈りで教会に通うのも珍しくない。


「ところで、独立傭兵。貴様は、これからどうするのだ?」

「どうするって? それがあんたに関係あるのか?」

「……単刀直入に言おう。ゴブリンに町が襲われようとしている。防衛に協力する気はあるか?」

「俺たちは独立傭兵だ。払うものを払ってくれるなら、やるぞ」


 ラトゥンは、領主を睨むように見えた。


「ただ、安い仕事はしない。ハンターギルドからは二度と来るなと言われているしな。連中とお手々繋いでってのは協力しかねる」

「報酬は、こちらで出す。それでどうだ?」

「いいだろう。報酬は弾んでくれよ。……安い仕事はしない主義だからな」


 念押ししつつ、思った通り、ゴブリン退治の依頼を受けることになるラトゥンだった。

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