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第26話、クエスト終了。撤収!


 ゴブリンの巣に乗り込んだハンターの討伐部隊が、キャンプに戻ってきた。


 どうやらかなりの激戦だったらしく、包帯などで応急手当をした跡が生々しいハンターが半分程度はいた。治癒魔法が使える術士もいたが、それらも立って歩くのがやっとというほど消耗していた。

 装備も、返り血や泥で汚れが目立ち、あるいは欠けていたりと、無事な者でも再度戦闘があれば全力を出せるか怪しかった。


 キャンプの責任者と増援組のハンターであるハルスが、討伐部隊のリーダーと話し込む。ラトゥンとエキナは、それを遠巻きに見守った。


 聞き耳を立てていると、一応の討伐は終了、巣のゴブリンは殲滅したとのことだった。後は残敵掃討くらい、という討伐部隊のリーダーに、キャンプ・リーダーとハルスは安堵したような顔になる。


 ――その残存のゴブリンも馬鹿にできないが。


 ラトゥンは考える。キャンプを襲撃し、逃走したゴブリンの数はそれなりの規模だった。これを放置すると、またすぐに増えるから、徹底的に潰すべきだ。

 だが、この時ラトゥンは、独立傭兵としての金勘定を始める。ゴブリン掃討に付き合った場合、追加料金が発生するのか? こういうところで言質をとっておかないと、骨折り損になることもままある。


 追加の報酬が出ないなら、どのように恨まれないように断るかの算段をするラトゥンだったが、事態は動いた。


「クエスト終了だ! 町に帰る!」


 キャンプ・リーダー、そして討伐部隊リーダーの宣言に、キャンプの人員と町の志願兵たちは、笑みを浮かべながら終わったことを喜んだ。


「おいおいおい」


 ラトゥンは思わず声に出ていた。この状況で追撃せず放置とか本気だろうか?


「ハルス。撤収とはどういうつもりだ?」

「どういうって、そのままの意味だが?」


 ベテランハンターのハルスは、表情に疲れを滲ませる。


「キャンプを襲ったゴブリンの集団が残っているぞ? あれを放置するのは――」

「それはそうなのだが、討伐部隊の損耗が激しい。この状況で残敵掃討は危ない」


 命に執着し、逃げるゴブリンは怖いと、ハルスは言った。


「奴らの待ち伏せや罠で、無用な犠牲を出したくないというのが、皆の意見だ」

「……そうか」


 ハンターたちで話し合い、無理と判断したのならそうなのだろう。彼らは一様に用心深く、その場の勢いでどうにかできると考えるほど愚かではない。ベテランハンターほど、無茶は控えるものだ。……少なくとも、ラトゥンのハンター時代はそうだった。


 どの道、追加報酬の件も確定していないから、残敵掃討に付き合うかは微妙だったラトゥンである。周りがそれでいいのなら、ラトゥンもこれ以上は言わなかった。契約した仕事以外はするものではない。地元には地元のルールがあるのだ。



  ・  ・  ・



 バウークの町に戻り、討伐部隊、増援組はハンターギルドに移動した。

 報告を受けたギルド――例のドワーフスタッフが、フロアに集まる一同を見回した。


「皆、ご苦労だった! 討伐部隊によってゴブリンの巣は叩かれた! まだわずかな生き残りがいるようだが、明日にでも残敵討伐依頼を出すので、元気のある者は協力してくれ! それでは、今回の戦いの勝利を祝して、ギルドが酒を奢ろう! そしてお楽しみの報酬を出させてもらう!」


 おおっ、とハンターや志願兵たちから歓声が上がった。台から下りたドワーフスタッフは、他のスタッフに、報酬袋をトレイに載せさせると、ハンターたちの一人ずつ配って回った。


「お疲れ。お疲れ――お疲れ」


 声をかけながら手渡しするドワーフスタッフ。何人かはさっそく中身を確認し、喜んだり、「仕事の割にケチってない?」と不満を口にする者など様々だった。


「……」

「フン、お主もおったか」


 ドワーフスタッフが吐き捨てるように言ったのは、ギプスだった。無言で手を出すギプスに、ドワーフスタッフは乱暴に報酬袋を手渡した。

 ギプスは何も言わず移動すると、中身の確認を始めた。ラトゥンは声をかけた。


「貰えたかい?」

「……あぁ、ケチなコーレも、きちんと出すものは出したらしい」

「そうか」


 仲が悪そうに見えたが、それとは関係なく、報酬は満額出されたようだ。


「よかったな」


 ラトゥンはエキナを見て、肩をすくめる。自分たちの順番を待つが、ドワーフスタッフは中々こちらには来なかった。ギルドのハンターや町の住人が先なのだろう、と思い黙って待っていたら、本当に最後だった。しかも――


「おや、誰か渡し忘れたか?」

「おい」


 ラトゥンは声をかける。


「まだ俺たちが貰っていない」

「……フン、そうだったか。――ほれ」


 トレイの袋を掴んだドワーフスタッフは、それを投げて寄越した。中々正確なコントロールで、ラトゥンも難なくキャッチできたが……そうではなく。


「おい」

「何じゃ? 報酬は渡しただろうが」

「足りない」


 ラトゥンは自身とエキナを指さした。


「二人なのに、まだ一人分しかもらってないが」


 エキナに渡し、中身を確認させる。


「金貨5枚です」

「ギプス、あんた、いくら貰った?」

「金貨5枚だな……」


 先に中を確認していたギプスが答えた。剣呑な雰囲気に、場に残っていたハンターや町の志願兵たちが注目し始める。


「足りないな」

「フン、お前たちは傭兵なんじゃろ? 独立傭兵は通常のハンターの半分と決まっておるんだ」


 ドワーフスタッフは、ふてぶてしく言った。


「半額だから、二人で一人分だ。だからそれで合っている」


 クスクスと、周囲から忍び笑いが聞こえた。ニンマリするドワーフスタッフ。ハンターギルドは、商売敵にも近い独立傭兵によい感情を抱いていない傾向にある。どうやらこのドワーフスタッフもそのようだ。

 ラトゥンは真顔になる。


「それは関係ない。俺は事前にあんたに確認した。依頼に参加するハンターと同額程度はもらえるんだろうな、と。それであんたは答えたか? 独立傭兵は半額だと?」

「……」

「言ってないよな? 言っていれば俺たちは仕事を受けなかった。それにこうも言った。ヨソ者でも同額は出す、心配するな、と二度も念押ししていた」

「言いました!」


 エキナも声をあげる。ドワーフスタッフは舌打ちして、顔を逸らした。


「言ったか、わしは。覚えがないな」

「白を切るには遅いぞ。安い仕事はやらないって言ったのを、あの場にいた連中も聞いているんだ。きちんと説明があったなら、俺たちは仕事を受けていないんだからな」


 ラトゥンはドワーフスタッフに歩み寄った。


「独立傭兵を舐めるなよ」

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