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第23話、ハンターキャンプ救援


 バウークの町のハンターギルドは、周りの建物に負けないほど武骨だった。密閉された内装は鉄色で、昼間も関係なく明かりが灯されている。


 全体的に薄暗い、いや夜の酒場という雰囲気があって、テーブルが並べられていれば、そういう店と勘違いしそうなフロアだった。

 人間とドワーフが半々というところで、戦いを前に皆、緊張感を漲らせている。入ってすぐに、ギルドスタッフが立っていて、ラトゥンとエキナに気づいた。


「旅のハンター?」

「いや、独立傭兵だ。町を歩いていたら、戦える戦士だろうと声をかけられた」

「……そうか」


 何か言いたげな顔になるギルドスタッフ。大方、傭兵にいい印象を持っていないのだろう。

 このスタッフが、過去に直接何かあったかはわからないが、ハンターギルドの全体の雰囲気がしては、独立傭兵を目の敵にしている節が見られる。商売仇という印象があるのだ。


「帰っていいなら、帰るぞ」

「悪いが、今はエルフの手も借りたいところなんでね。悪いが付き合ってほしい」


 人間のスタッフなのに、ドワーフのようなことを言う。

 亜人にはドワーフがいて、エルフという長身美形種族がいる。そして大地の精霊を崇めるドワーフと、風の精霊を崇めるエルフは、古くから仲が悪い。


 職場の環境にドワーフが多いようだから、この人間も口癖のようなものに慣れてしまっているのだろう。相手の癖や傾向がわかれば、意思疎通しやすくなるという典型だ。

 スタッフが指した方向へ歩くラトゥンは呟く。


「エルフの手も借りたいなんて、よほど切羽詰まっているんだろうな」

「ドワーフが言っていたなら、相当ですよ」


 エキナも同意した。宿敵のような種族の手を借りたい、などと、ドワーフは普通は口にしない。それでも出るのは、かなり状況は悪いと捉えるべきである。


 フロアの一角に集められた人々――武装した人間の戦士やドワーフたちであるが、一部町の住人が自前の装備で集まった感があった。おそらくハンターではない。ラトゥンのような傭兵か、元戦士、またはボランティアだろう。


「諸君、町の危機によく集まってくれた」


 ヒゲもじゃドワーフのギルドスタッフが、野太い声を響かせてやってきた。


「知っての通り、町にゴブリンが迫っておる。奴らの巣に精鋭のハンターたちを送ったが、どうやらそれとは別動のゴブリンどもがいたようだ。残っている者で防衛戦をやるので、ついては諸君らにもその支援をお願いしたい」


 ドワーフスタッフの説明では、ゴブリンの集落を迂回したと思われるゴブリン集団が、ハンター討伐部隊のキャンプへ向かっているらしい。

 そこは最低限の防備しかなく、現状では守りきれないという。ここをやられると、討伐部隊が孤立、補給を絶たれ、包囲される恐れがある。


「じゃが、怖いのはキャンプをやられた後、この町へ真っ直ぐ攻め込んできた場合だ」


 キャンプ喪失は、次にバウークの町がやられることになる。討伐によって主な戦力がいない今、この町は外壁と、領主の警備部隊――ドワーフ兵しか残っていない。


「キャンプを守りきれれば、討伐部隊も戻ってこられて、町を守ることにも繋がる。じゃから、諸君らはハンターキャンプへ向かい、そこを守ってもらいたい。討伐部隊にもこのことは伝えてあって、キャンプに戻りつつあるが、それまでの時間稼ぎを頼む」


 依頼内容は理解した。やってくるゴブリンを叩けばいい。実にシンプルだ。


「何か質問はあるか?」

「報酬は、きちんと払われるんだろうな?」


 ラトゥンが言えば、周りは「ん?」と首をかしげた。ドワーフのギルドスタッフは眉をひそめた。ラトゥンは続ける。


「空気が読めなくてすまんな。見ての通り、俺たちは旅の途中でね。仕事はするが、タダ働きはごめんだ」

「もちろん、協力してくれた者にはギルドから報酬は払わせてもらう」


 憮然とした様子のドワーフスタッフに、しかしラトゥンは事務的に言った。


「依頼に参加するハンターと同額程度はもらえるんだろうな? 安い仕事はやらないぞ」

「もちろん、払うと言っているだろう! 心配せんでも、ヨソの奴にも同額は出す! 心配するな!」


 ラトゥンはエキナを見る。


「聞いたな?」

「しっかり、聞きました」


 言質をとったところで、他の質問。地元ドワーフだろう、怪我をした時の治療費について出るのかと聞いたので、ドワーフスタッフは少々イラつきながらも、保障するから安心しろと答えた。


 質問の時間は終わり、ラトゥンら志願兵グループは、馬車に乗って移動ということになった。

 乗り合わせた者たちは、ハンターキャンプ防衛という同じ場で戦う者たちである。道中に気になったことなどを、それぞれ口にした。……戦場に行く緊張を紛らわせたいというのもあるのだろう。


「ネエさん、随分とごつい剣を持っているね」


 ドワーフたちは、さっそくエキナに食いついた。


「これはアレだろう? 断頭剣ってやつ」

「独立傭兵です」


 にっこり、愛想よくエキナは答えた。こういうところは貴族育ちが顔を覗かせる。


「へぇ、独立傭兵……」

「最近の傭兵は、またごっついモン使っているんだなァ」

「独立傭兵は自由だからな」


 ラトゥンは口を開いた。


「時にはハッタリをかますものさ」

「おいおい、頼むぜニイさん。ここじゃあんたが一番強そうなんだから、ハッタリとか言ってくれるなよ」


 聞けば、元戦士もいるが、大抵は力自慢で、個々でゴブリンを倒したことがあるものの、一般人であった。


「実力の方は心配しなくていい。そっちはハッタリじゃない」

「それはよかった。……ところで、お二人はどういう関係?」


 これか?――と一人のドワーフが指を意味深な形にする。エキナが、隣に座るラトゥンの腕をとった。


「兄妹です! 彼はわたしのお兄様なんです」


 おに――面食らったのはラトゥンの方だった。兄妹かぁ、と安堵したような、残念そうな声が、馬車の中に広がった。


「ネエさんは、めんこいけど、よかったんかい? ゴブリンといえば、女子に集まる害獣だぞ?」


 ゴブリンが忌み嫌われ、かつ脅威的である存在である代名詞。ラトゥンは腕を組む。


「集まってきたところを、一網打尽にしてやるさ」

「おおっ……」

「さすが傭兵のニイさんだ」


 適度に緊張感をはらみつつ、和やかな空気。いかにも熟練の戦士といった風のラトゥンがいることで、素人に毛が生えた程度の志願者たちは、勝手に頼りにしているのだろう。


 その中に、一人だけ話にも加わらず長物を抱えているドワーフがいた。熟練といえばそのドワーフも同じだが、何故か周りとの距離を感じた。

 訝りつつ、着けばわかるだろうとラトゥンは追求はしなかった。


 やがて、志願兵たちを乗せた馬車の一団は、ハンターキャンプに到着した。

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