一方で俺は、恭治がクレーンゲームで遊んでいるのをボーッと見ながら、時間を潰していると、スマホにメッセージが届いた事に気付いた。
陽葵から受け取ったメッセージを見ると、大宮がここに来る事が書かれていたから、簡単に返事を返して恭治に声をかける。
「恭治、どうやら、ここに友人が来るらしいから、少し離れるから待っていてくれ。」
「うん、分かった。」
俺はそう言うと、まずはフードコートの椅子に座って、大宮に、ショッピングセンターの入口で待っていることを書くと、すぐに入口まで向かった。
しばらくして大宮と合流すると、ショッピングセンターを見渡して、俺に話しかける。
「三上、ちょっと編集部の連中にお土産を買うのに、ここで見て構わないか?。かなり充実しているから、ここは良いかも。」
「ああ、良いよ。荷物はマイクロバスが来るまっで持っているハメになるけど、今は俺も息子もいるから、大量に買っても、荷物持ちがいるから困らないと思うぞ。」
「じゃぁ、お言葉に甘えよう。1週間も仕事を空けてしまったから、職場から何を言われるか分からないし、女房の編集部のお土産もまとめて買いたいからさ。」
大宮はショッピングセンターにあるお土産店を回ると、色々とお土産を物色している。
そのうちに、ふとスマホを見ると、恭治がメッセージアプリに、俺が戻ってくるのが遅かったので心配をするメッセージがあったのを見つけて慌てて返信をする。
お土産店にいることを伝えると、恭治はお土産を物色してる大宮と鉢合わせをした。
その後は、俺とすぐに合流を果たす。
「お父さん、この人、かなりお土産を買うから荷物が大変そうだよ?」
「そうだね、編集者の人だから、会社の人にお土産を配るのに色々と大変なんだよ…」
それを聞いた恭治は納得した表情をしながら、大宮が買ったお土産を手に持っている。
お土産が買い終わった頃には、水族館の閉園時間30分前になっていた。
そこで陽葵から俺のスマホに電話が入った。
「あなた、そっちは大宮さんと合流できているわよね?」
「それは大丈夫だよ。葵と愛理ちゃんは、あそこの遊具コーナでズッと遊んでいたのか?」
「その通りよ。もう、葵と愛理ちゃんを見ながら木下さんとズッと話し込んじゃった。」
「それで、良二夫婦は、上手くいったのか?」
「大丈夫よ。あなたがいなくて、何処に行ったのかって、本橋さんに聞かれたけど、わたしの愛の力で押し切ったの♡」
「…そうか…。こっちは大宮が木下のぶんまで、お土産を買いまくっていたのが終わったから、マイクロバスに荷物を置いたら駐車場で待っているよ。」
「分かったわ。大丈夫、待っていてね♡」
俺は陽葵との電話を終えると、軽く溜息をついた。
それを恭治が見逃さずに心配をしているから、どういう風に言い訳をしようか、即座に考えることにする。
「お父さん、今の電話はお母さんだったよね?。何かあったの?」
「いやさ、葵と愛理ちゃんが、ずっと、あそこの小学生以下のアスレチックの遊具で遊んでいて、時間が終わっちゃったって。」
「ああ、いつものことじゃん。それで、お父さんやボクが葵の付き合いを、させられるから辛いんだよね…」
「まぁね。ただ、お母さんは、葵がズッとベッタリとくっついて寝るときも離れないから、あれで気分転換しているんだよ。今日はお母さんの友達がいたから、ズッとあそこで話していたと思うよ。」
「そうか…。葵はマジにお母さんから離れないもんな…。」
俺は、内心は、良二夫婦をラブラブにする作戦を実行するために、こんな計画になったことを恭治に言わずに済んだことに安堵を浮かべていた。
大宮が横でそれを黙って聞いていて、ニコリと笑っている。
俺は大宮のお土産を手分けしながら運ぶと、水族館の駐車場に駐まっていた旅館のマイクロバスを見つけて、乗り込んだ。
しばらくすると、良二夫婦がマイクロバスを見つけて、こちらに歩いて来ているが、なんだか2人とも、どこかオドオドとしていてぎこちがないのが明らかに分かる。
良二は、俺がバスに乗り込んでいる俺を見つけると、困った顔をしながら、俺を呼びつけた。
「恭介や、そこで座ってないで、ちょっと外に来てくれ…」
俺が外に出ると、三鷹先輩は、俺の顔を見て顔を赤らめながら、何も言わずに、良二の横に立っている。
そして、良二が俺の目をマジマジと見て、俺に話しかけた。
「お前の奥さんは、完全に愛の女神だが、大胆すぎて大変なことになったよ。」
「良二、どうした?。陽葵のことだから、かなりの勢いでやらかしたのか?」
「まぁ、お前の奥さんだから、そこは仕方がない。そうそう、お前の奥さんに、水族館にいるときに、恭介と倅さんがいないから、どこに行ったのか嫁と一緒に尋ねたんだ。」
「そこまでは普通だよな?」
「うん、その通りだ。奥さんは、息子くんと水族館に見飽きたから、気晴らしに周辺をブラついているだけだと。でもな、その次が問題だ…」
俺は少しだけ、覚悟を決めて息を呑んだ。
こういう場合、後始末をしなきゃいけないのは、大抵、俺であることが多いからだ。
すると、後ろから、大好きでたまらない、可愛い陽葵ちゃんの声が聞こえたから、俺は事態が悪化することを覚悟する。
「そうよ♡。それでね、そんなことを気にしないで、お喋りをしても美人で愛らしい奥さんと、久しぶりのラブラブデートを楽しんだら如何ですか?って言ったのよ♡。」
そこで、恥ずかしそうにしている三鷹先輩の口が開く。
「きょっ、恭ちゃん、それでね…、私は、旦那と久しぶりに会うから、陽葵ちゃんの意見に大賛成なんて、無意識のうちに白昼堂々と言ってしまったの。それで、あなた達のように、周りを当てまくってしまったから、その後が大変だったわ…。」
「ふふっ、それでね。わたしは、本橋さんと、あなたが家で一緒に話していたコトを、三鷹さんに全て話したのよ。」
俺はそれを聞いて苦笑いをした。
「そうか。良二も三鷹先輩も、そのぐらいで恥ずかしがらないでくれ。俺と陽葵なんか、皆さんが知っている通り、学生時代からこの数十倍の勢いで当てまくっているからな。いまさら、このぐらいの次元で、2人から色々と言われても困るぞ。俺と陽葵なんか、どれだけ人を当てまくったのか分からないからな。」
その俺の返答に、すぐさま良二が降参の声をあげる。
「恭介や!!。お前と奥さんは、ここまでくると、イチャラブが悟りになっているよな!!。お前らはそれでいいが、俺たちは、この後はメチャメチャに大変だぞ!!」
「…良二も先輩も、今夜は頑張ってくれ…」
俺は平静を装いながらそう言うと、三鷹先輩も良二も顔を少し赤らめながら、一緒にバスに乗り込んだ。
その後から、木下が葵と愛理ちゃんを引き連れてバスに乗り込んできたから、色々な意味でギリギリセーフだったのだろう。
◇
その後の宴会は、三鷹先輩があまり話をせずに、良二と一緒に仲睦まじくビールをお互いにつぎながら飲んでいた。
2人は食事も美味しそうに楽しんでいたし、お互いのラブラブが自然体で出ているような雰囲気になっていた。
ただ、良二は酔いながら俺にボソッと本音を吐いた。
「お前の奥さんは絶対に愛の女神だよ。俺と嫁はお互いが惹かれ合って結婚したけどさ、やっぱり、互いがどこか遠慮しがちだったのさ。でもな、今日の事件をきっかけにして、お互いの心に一歩を踏み出せた気がする。その点では感謝するが、恥ずかしかったことだけは、少し恨むぞ…。」
それに関して、酔っていた三鷹先輩が、酔っ払っているのか、恥ずかしがっているのか分からない感じで、俺と陽葵に話しかける。
「恭ちゃんも陽葵ちゃんもさ、やっぱり、あなた達はどう考えても最強だわ。どんなに辛いことがあっても、2人が愛の力で乗り越えていける理由がこれでわかったわ。わたしは、このまま穴があったら、良二くんと一緒に入りたい気分だもの。」
その後は、皆が学生時代のことを思い出して、昔話をしながら、皆と談笑した後に食事を終えた。
ただ、ここで、問題になったのは、葵と愛理ちゃんが、ここで別れるということである。
ここ1週間、愛理ちゃんと葵は、夜になると、仲良く遊んでいたから余計に別れが悲しくなってしまうだろう。
良二夫婦も大宮も、明日の午前中に旅館を後にするから、このまま大宮の家族を連れて帰ってしまうことは、当初から決めていた。
ただ、葵と愛理ちゃんが幸いだったのは、2人とも遊び疲れて、食事が終わる間際に、グッスリと寝てしまったことだ。
陽葵が葵を抱きかかえ、木下が愛理ちゃんを抱きかかえながら、マイクロバスに乗り込むと、しばらくバスの中で、皆と談笑を重ねた。
そして、バスが俺の家に着くと、良二夫婦と大宮夫婦に、別れを告げたのだ。
明日はまだ日曜日だが、明日も、この2家族が俺の家に来てしまうと、名残惜しくなって俺の家で飲み明かした挙げ句、ひと晩を過ごしてしまいそうな勢いがあったからだ。
大宮夫婦は、俺の家に交代しながら来ていたからともかく、良二や三鷹先輩は、かなり名残惜しいかも知れない。
そのこともあって、俺も良二も、大宮夫婦も、ここでしばしの別れをすることにしたのだった…。
俺は寝ている葵をベッドに寝かせて、恭治を風呂に入れた後、陽葵と交代で風呂に入った。
これは、葵が起きると面倒なので交代で見るための苦肉の策だ。
ほんとは、このまま大好きな陽葵ちゃんと一緒にお風呂に入りたい気分なのだが、そこはグッとこらえる。
そして、風呂から上がった後に、ダイニングでお茶を飲みながら、陽葵と今日のことについて、1つだけ陽葵に問いただした。
「陽葵さぁ」
「なに?」
「良二夫婦を陽葵が、思いっきり焚きつけたのは分かるけど、良二と三鷹先輩が、バスの目の前で、俺に白状した他にも、何か、とんでもなく決定的なことを言っただろ?。」
陽葵は俺の問いに、微笑みを浮かべている。
「あなた、その通りよ。本橋さん夫婦にね…。私たちは2人の間に子供ができることを応援していると強く言ったのよ♡。そして、影では大宮さん夫婦も応援しているから、2人は恥ずかしがらずに頑張ってねって♡。」
俺は陽葵の言葉を聞いて苦笑いが止まらない。
「そうか…。それは互いが絶対に意識をするよな?。でも、そうしなかったら、2人とも、どこか遠慮するところがあるから、一押しが必要だったことも分かる。」
「そうなのよ♡。やっぱり子供を作るのには、愛の力が必要なのよ♡」
陽葵はそのまま愛の女神気分が消えなかったようだが、俺は、とりあえず、そのまま放置することにしておいたのだ。
その後、良二夫婦の間に新たな命が誕生するのには、当然の如く、しばらくの時間が必要であったが、そこは、愛の女神と呼ばれた陽葵の力があったのは、言うまでもなかったのである。