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~エピソード9~ ⑬ 名古屋から帰ってもドタバタは続く。 ~2~

 焼肉屋に着く前に、俺は陽葵にボソッと1つの提案をしてみた。

 どのみち、陽葵の家族も年末に俺の実家に来るが、延岡理事や延岡さんへの対策は必須だったからだ。


「陽葵、このさいね、延岡さんや延岡理事には、できる限り俺の家に来ないように、旅館である年末や正月のイベントにできる限り参加してもらう方向に持っていこう。それは同級生の印西さんを使って上手くやってみるよ。」


「恭介さん、たしかに、毎日のように延岡さん達が押しかけてきたら、私たちも、ゆっくりと過ごせないわよね?」


 それに、ついては後ろにいる陽葵の親子もルームミラーを見たら激しくうなずいているのが見えた。


「私たちも一緒に来たのは、恭介くんを庇うためでもあるのだよ。あの理事はちょっと強引すぎるけど、私たちは陽葵と恭介くんが大学でお世話になっている立場だから、強い事が言えないのが確かだからね。」


「本当にありがとうございます。この件は、今からウンザリとしているので、できる限りうちに来ないように上手くやってみます。せめて大晦日の年越し蕎麦や初詣ぐらいは、この家族とうちの家族だけでゆっくりさせて欲しいです。」


 俺がそんな本音を吐くと、陽葵の母親も激しく同意をしている。


「このままだと、恭介さんが忙しすぎて倒れてしまうわ。年末までの納期のお仕事もあって、仕事の手伝いで大変なのに、延岡さんが来て振り回されたら、このままではホントに体が参ってしまうわよ。」


「既に、延岡さんから、あの峠道の路面凍結が怖いので、ウチの工場の駐車場に車を置かせてくれと言ってますが、これすらも、旅館の女将さんにお願いをして上手くやってもらおうと思っています。うちの両親は基本的にお人好しすぎて、この辺がルーズなのです。そのしわ寄せは、全部、俺に来てしまうので、今回は阻止したいのです。」


 そんな話をしていたら、焼肉屋に着いてしまった。


 店に入って店員から案内されたお座敷の部屋に向かうと、延岡さんや延岡理事、荒巻さんや松尾さん夫婦と高木さん、それに良二や宗崎、小笠原先輩や北里もいる。


 まだ、グラスも並んでいないし、肉は焼いていないから、俺たちを待っていたのだろうか?。


「すみません、色々とあって、遅れてしまって…。」


 俺がそう言うと、松尾さんはニコリと笑った。


「大丈夫だよ。私たちも来たばかりだから。それにしても、三上君と霧島さんは、お疲れさまだよ。こんなところで立っていても仕方ないから、早く座りなさい。」


 各々が座ると、陽葵は高木さんに、新幹線の交通費やホテルの領収書と、余った予備費のお金を渡す。


「霧島さんならシッカリと領収書まで貰ってくると思ったわ。もう安心して受け取れるし、今回はメモ書きで新幹線や乗った電車まで書いてくれているから、すごく助かるわ。」


「高木さんや荒巻さんも年末で大変そうなので、できる限り分かりやすく書いて置いたほうが良いと思って…。」


 まずは細かい話は抜きにして、各々が飲み物を注文して乾杯をした後に、俺は、それぞれにお土産を渡した。


 そして、棚倉先輩たちの家族ぐるみの失態を隠しつつも、千鶴さんによって充実した観光ができたことを伝えると、皆はなんだか嬉しそうにしている。


 良二が黙ってそれを聞いていて、荒巻さんや松尾さんが話す前に口を開いた。


「恭介や、お前は棚倉さんに振り回されたもけど、そのホテルの人に助けられたのがよく分かるよ。まぁ、あれだけ寝不足でヘロヘロだった棚倉さんが疲れているから、お前たちが棚倉さんの世話になるのを遠慮したのはよく分かるし。」


「良二、そんなところだよ。先輩たちはもう疲れ果てて動けなかったから、そのまま新幹線に乗って、早めに帰ろうとしたら呼び止められてね…。それで、こんな時間になっちゃったわけだ。」


「俺は寮生じゃないから、棚倉さんのことはよく分からないけど、対応を間違えると難しい人だってことは分かるよ。だから三上も気が抜けないよね。」


「宗崎、そういうことだよ。ホテルの人が先輩と小学校の頃からの知り合いだったから助かったけどさ、他のホテルに泊まったらマズかったかも。」


 俺は陽葵と一緒に肉を焼きながら、そんな話を良二や宗崎と話していたのだが、その会話を、みんながジッと聞いているから、俺も気が抜けない。


 そのうち、延岡さんや延岡理事との会話は、陽葵の両親が受け持つ形で、颯太くんは、俺と陽葵の隣に座って、良二や宗崎も、颯太くんの面倒を見ながら楽しく食べていた。


「恭介お兄ちゃんのお友達って、とても楽しい人が多いよね。きっと、お姉ちゃんみたいな綺麗な人と結婚できるよ!!」


 颯太くんが突然に、そんなことを言うから、良二と宗崎が、飲んでいたウーロン茶を吹き出しそうになる。


 -ぶっ-


「そっ、颯太くん。俺たちは、恭介お兄ちゃんのように、上手くいかないよ。颯太くんのお姉ちゃんは、誰が見ても綺麗な人だけど、俺たちはそういう人と、なかなか会えなくて困っているんだよ…。」


 良二は冷や汗をかきながら、颯太くんの純粋すぎる言葉を必死に答えたのがすぐに分かった。

 それを見て陽葵がクスクスと笑っているから、良二も宗崎も余計に居心地が悪いらしい。


「大丈夫よ!。ここに、結婚ができるように仲間を導く女神様がいるのよ!。絶対に、あなた達は結婚できるわよ!!」


 そこからは、会話を平常に戻すのが一苦労だった。


 陽葵のなんだか分からぬ神様具合に、良二と宗崎は拝んでいるし、颯太くんはそれを見て不思議そうに首をかしげているから、事態は悪化の一途を辿っている。


 もう、俺はこのまま、陽葵や良二と宗崎を放置をして、颯太くんと一緒にお肉を食べることに専念することにした。


 その後は比較的に穏やかな宴会になって、延岡さんたちが俺や陽葵にツッコむこともなく、穏やかに俺は颯太くんと2人で食べていた。


「恭介お兄ちゃん。なんでお兄ちゃんのお友達は、お姉ちゃんを神様のように拝んでいるの?」


「颯太くん、気にしちゃダメだよ。あとね、お姉ちゃんの格好は絶対に恥ずかしいから真似をしちゃダメ。あと、そこで、お姉ちゃんを神様みたいに拝んでいる俺の友人たちも、構わないで放置でいいからね。」


「うーん、お兄ちゃん。なんで、そうなったのか理由が知りたい。」


 宗崎が肉を食べつつも、絶えず陽葵に祈りを捧げているのをみて、意を決して颯太くんのツッコミに答える事にした。

 さらに、陽葵も愛の女神的によく分からないポーズをしているから、3人に聞こえるように声を大きくする。


「簡単なことだよ。お姉ちゃんと、お兄ちゃんは結婚の練習をしているから。2人はそれにあやかろうとしているんだ。お姉ちゃんを羨ましがって、2人は結婚できる女性が見つかるように、お姉ちゃんを神様みたいに扱っているんだ。」


 俺が、颯太くんにストレートな説明をしていたのを聞いた3人は、凄く慌てている。


「颯太!!!。恭介さんの、そういう冗談みたいなことを真に受けてはダメよ!!」


「だって、恭介お兄ちゃんの友達は、真剣にお姉ちゃんに祈っていたよ。お姉ちゃんは愛の女神なんだよ!!」


 颯太くんの純粋な返答に、良二の口から食べようとした肉が自動的に吐き出された。


「ごほっ!!。奥さんの弟さんは純粋なだけに強烈だよ。恭介はそれを逆利用しているからマジに怖い…。」


 宗崎も良二の言葉に続く。

「三上、その仕打ちは、かなり酷いからやめてくれ。お前は容赦がないからキツい!!」


 その座席の隣にいた、小笠原先輩と北里がお腹を抱えて笑っている。


「いやぁ、流石は三上だなぁ。こういう部分があるから、棚倉を上手く操縦できるんだよ。それにしても、陽葵ちゃんの家族と水入らずなのは凄いよ。完全に家族ぐるみだからさ。」


 そんな小笠原先輩の感想に、高木さんがニッコリしながら話に乗ってきた。


「三上くんは、霧島さんの弟さんまでもが懐いているから凄いわよ。見ていて分かるもの。霧島さんの弟さんは、お兄ちゃんが欲しかったんだよね。これだけ頼れるお兄ちゃんがいれば、それは嬉しくて懐くのは分かるわ。」


「うん!。美人なお母さんの言う通りだよ。だって、恭介お兄ちゃんは凄い人だもん!」


 もう、こうなったら颯太くんの無双が止まらない。

 颯太くんから美人なお母さんと言われた、高木さんは相当に上機嫌になっている。


「霧島さんの弟くんは、褒めるのが上手だわ。三上くんの教育の賜物ね☆」


 隣にいた荒巻さんと松尾さん夫婦、そしてその場でそれを聞いていた全員が何とも言えぬ笑いをこらえるので精一杯になっている。


 俺はこの空気感がとてもマズいことを察すると、名古屋の話題に切り替えることにした。


 まず、棚倉先輩の彼女の件には一切、触れずに、熱海の観光が、熱海城だけに終わったことや、名古屋に着いたときに、このお礼に棚倉先輩の母親や加奈子さんの家族も加わって、味噌煮込みうどんを食べた話になると、全員がそれに聴き入る事態になっている。


「もともと、棚倉先輩や新島先輩、それに彼女さんも含めて、小学生の頃からの幼馴染みなので、家族間で深く交流があるようです。そこで、私たちと食事をしていたのですが、先輩の母親が看護師で、急患が病院に運ばれてきて、先生から呼ばれてしまったので、家に泊まれずにホテルでの宿泊になったのが経緯です。」


 その説明を聞いて、松尾さんや荒巻さん、高木さん、それに延岡理事もうなずいた。

 そして、荒巻さんが単純な質問を俺にぶつけてくる。


「三上くんと、霧島さんがそれでホッとしたのが分かったよ。しかし、この時期に、あの時間に、よくホテルが空いていたよね?」


 それについては、俺が口を開く前に陽葵が答えた。

 たぶん、陽葵は俺ばかりに喋らせるのは酷だと思ったのだろうし、加奈子さんの友人の件は話しても構わないと判断したのだろう。


「荒巻さん、それについては、棚倉さんの彼女の加奈子さんの友人が、ホテルに勤めていて、そのコネクションを使って泊まることができました。」


 陽葵がそう答えると、荒巻さんはしきりにうなずいている。


「なるほどね、三上くんや霧島さんも運が良かったんだよ。」


『ここからの話は陽葵に任せておいても大丈夫だろう。棚倉先輩が疲れたから寝坊をしてしまったと言えば、その時点で大丈夫な筈だから…。小笠原先輩も棚倉先輩がお寝坊というコトは知っているから、話に乗るだろう』


 俺は土産話を、陽葵に任せて耳を傾けることにした。

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