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~エピソード9~ ⑩ クリスマス前に起こったドタバタ劇 ~名古屋での夜2~

 俺は少しだけ陽葵と惚気るのをやめて、少し気づいたことを陽葵にぼやいた。


「そうだ、あの人が言っていたように、棚倉先輩も寝起きが駄目だし、加奈子さんも同じらしいから、明日は待っていても駄目かも知れないよ。」


「そうよね。棚倉さんは、朝起きるのが遅いのは、わたしも知っているし、今日は相当に疲れているだろうから、起きるのが遅そうよね。それを待っていたら、折角、名古屋にきたのに、時間が勿体ないわ…」


「陽葵の言うとおり、凄く時間が勿体ない。あっ、そうだ、寮に電話をかけよう。先輩のお母さんが看護師だから仕事の都合で帰られなくなったから、ホテルに泊まることになったと伝えよう。」


 陽葵が俺の案を聞いてしきりにうなずいている。


「恭介さん、それは名案だわ。帰った後に、ホテルの領収書を荒巻さんや高木さんに、いきなり突きつけるのはマズいものね。」


「そうだよね…。俺たちは、あの闇サークルに追われているから、安全管理面もあるから神経質になっている。陽葵は家に電話をかけて、理由を合わせよう。」


 陽葵はうなずくと、さっそく、家に電話をかけ始めた。


 俺は寮に電話を入れると、すぐに松尾さんが電話に出る。 


「三上くん、どうした?何かあったのか?」


「実は棚倉先輩の母親が、看護師をしていまして、今日は、急な仕事があって家に帰れないらしく、私たちは、先輩の友人のツテを使ってホテルが取れたので、そこに泊まることにしました。」


 俺はその後、ホテルの名前と電話番号を伝えると、松尾さんがメモをしているようだ。


「おおっ、そういうことか、三上くん、ちょっとホッとしただろ?。いきなり他人の家に泊まるってのも、少し緊張するからな。大丈夫だよ。宿泊費を持たせて正解だったよ。帰りは夕方から夜だろうから、ゆっくりと観光でもしてきなさい。」


「ありがとうございます。皆さんへのお土産も忘れませんからね…。」


 俺は松尾さんとの電話を終えると、陽葵も同じく、家との電話を終えたようだ…。

 そして、陽葵が少し笑顔になっていた。


「恭介さん、うまくいったわ。やっぱり、よその家にお世話になるよりは、ホテルに泊まってくれてホッとしたと言っていたのよ。」


「まぁ、そうだろうねぇ。気を遣う部分が全く違うからね。」


 そんなことを話していたら、部屋をノックする音が聞こえて、先ほどのホテルウーマンが入ってきた。


「お待たせしました。パンフレットとメモを持ってきましたよ。」


 見ると、モーニングがある喫茶店で、お勧めが2件、そして、名古屋城に行った後に、動物園か水族館に行く感じのプランだった。


 しかも、お勧めのお土産なども書かれている。

 お約束の、ういろうは勿論、台湾ラーメンや、おしるこサンド、味噌煮込みうどんのセット、名古屋ふらんす、なんて小洒落た洋菓子お菓子までパンフレット付きで渡された…。


 俺はその陽葵とパンフレットを見ながら、明日の行き先を、ここで決めてしまうことにした。

 行き先については俺が何かを言う前に、陽葵が真っ先に行きたい場所を答えてしまう。


「恭介さん、小倉トーストがあるこの喫茶店で食べた後に、名古屋城に行って、動物園を回って、駅内でお土産を買って帰りましょ。もぉ、凄く楽しすぎるわ☆」


 陽葵は今からワクワクしているし、その様子をホテルウーマンもニッコリとしながら聞いているから、ちょっと俺も困っていた。


「ふふっ。もしも加奈子ちゃんが、寝坊するようなら、彼女に伝えておきますからね。」


「すみません。加奈子さんとは何度か会ったことがありますが、私は彼氏さんのほうの後輩なので。2人とも、お寝坊さんだと思いませんでした。たぶん、そんなオチだと予想していますから、その時は、そんな予定で回ってますので、よろしくお願いします。」


 俺がそんなことを言うと、笑いながら、ホテルウーマンは言葉を返す。


「ごめんなさい、言葉を砕きますね。三上さんは、よく分かっているわ。私と加奈子ちゃんは小学校からの付き合いだし、棚倉さんも新島くんも知っているのよ。今は新島くんが病気でいないから、絶対に2人は失敗するわ。だって、棚倉さんは今日、帰ってきたばかりだから、かなり疲れているのよ。」


 その言葉に陽葵がクスッと笑った。


「ふふっ。たぶん、ご両親とも一悶着があるのがよく分かるから、みんなが私たちに気づくのなんて、お昼頃だと思うわ。早ければ私たちは新幹線の中か、味噌カツのお店でご飯を食べている最中よ?。」


「陽葵、そうだと思う。まぁ、もう謝罪があったとしても笑って許してあげよう。もともと、先輩や加奈子さんの家に泊まる事なんて更々考えていなかったから、名古屋に着いた時点で、空いているホテルを探して、巡るところだった。このシーズンだと、空いているホテルが皆無なら、強制的に帰る事も考えていたから。」


 俺の言葉に加奈子さんの同級生のホテルウーマンは激しくうなずいた。


「三上さんも霧島さんも、その通りだと思うわ。ホテルに関しては、この部屋のキャンセルが無ければ、うちは、ほぼ満室だったの。運が良かったわ。あとは…ちょっと、あまり使わない部屋だったり、色々とあって周りの音が五月蝿かったりして、問題がある部屋ばかりだから。」


「ホントに運が良かったです。あとは、陽葵が指摘した通り、親同士で一悶着があるでしょうから、私たちの存在に気づくのなんて、随分と経った後でしょう。ご両親たちは相当にお酒を相当に飲んでいたので、あの勢いで明け方まで話したら、酔いが覚める迄に相当に時間が掛かります。棚倉先輩も、ご両親たちと同じで似た通ったかですけどね…。」


 その俺の予想を聞いて、2人はクスッと笑っている。


「三上さん、その通りよ。地元の友人同士が集まってファミレスで食事をしたときに、棚倉さんや新島くんから、学生寮の土産話を聞いていたけど、三上さんはチョッと凄いのよ。あっ…、私は仕事があるから、ここで失礼するね。明日は朝からロビーにいるから声をかけてね。」


 そうすると、ホテルウーマンは和やかに部屋を出て行ってしまった。


 しばらくして、俺と陽葵は顔を見合わせてクスッと笑ったが、陽葵が俺の右腕を抱き寄せて、体を少し寄せた。


 陽葵の少し大きい胸がムニュっと俺の体に当たって、少しだけドキッとする。


「恭介さん、まずは大浴場でお風呂に入りましょ。今日は一緒にお風呂に入れないけど、明後日からは一緒にお風呂に入られるから、気にしないわ♡」


 俺は、大好きな陽葵ちゃんの心を完全にノックアウトさせるために、耳元でささやくことにした。


「でも、今日は2人っきりで一緒に寝られるね♡」


 みるみるうちに陽葵の顔は真っ赤になった。


「もぉ~~♡、恭介さんったらぁ~~~♡。語尾にハートマークなんて付けたら、もう、絶対に意識しちゃうわ♡。」


 そして、陽葵は、恥じらいながら少し間をおいてから、俺の耳元でささやいた。


「…恭介さんのエッチ♡」


 俺と陽葵はその後、大浴場に入って今日の疲れを癒やした後に、大浴場の入口付近で陽葵を待つことにした。


 こういう場合、やっぱり女性のほうが、色々と時間がかかるのは、やむを得ない。


 待っている間に、飲み物を買おうとしたが、値段が高い上に、陽葵が飲めそうな飲み物も無いから、どうするか考える。


 しばらくすると陽葵が女湯から出てきて、俺を見て不思議そうな顔をした。


「恭介さん、なんで渋い顔をしているの?」


「いや、お風呂に入る前に、ホテルのそばのコンビニで飲み物を買っておくべきだったと思ってね…。」


 俺は近くにあった自販機を指さすと、ホテルに泊まったことなんて皆無に近い陽葵が、少しだけ驚いた顔をしていた。


「あっ…。ホテルの自販機って、飲み物が倍ぐらいするのね。しかも、この種類だと選べないわよ。」


「どうしよう?。湯冷えしないように、部屋に戻ってダウンジャケットを着込んでから、コンビニへ行くか?」


「そのほうが良さそうよ。だって、これでは…。ちょっと買うのに気が引けてしまうわ。」


 そのあと、俺と陽葵は急いで着替えて、湯冷えしないように着込むと、ホテルのロビーを出てコンビニへ行く途中の道路を見て、陽葵の目が輝いた。


「ここの通りは街路樹に、クリスマスのイルミネーションがあるのね。綺麗だわ…。」


 そんな光景を見てウットリとしいる陽葵に俺は釘付けだ。

 陽葵は俺の右腕をシッカリと抱き寄せて、体を少し寄せて歩いているから俺も寒くないが、俺の心中は陽葵をその場で抱きしめたくて仕方がなかった。


 そんな景色を少し楽しみつつも、コンビニに着いて、飲み物や少しばかり軽食も買って、早々にホテルに戻る。


 そして、俺と陽葵は部屋の中で飲み物を飲みながら一息つくと、少しばかり陽葵に注意を促した。


「冷蔵庫が時間になると鍵が閉まるようなホテルも多いから、朝になって出し忘れに注意しようね。」


「恭介さんは、そういうコトにも詳しいのね?」


「親父と仕事で出張に行ったときに、ホテルに泊まることもあったからな。」


「ふふっ、今日は恭介さんに色々と教えてもらったことが多かったわ。新幹線の切符のとりかたに始まって、アイスが滅茶苦茶に固かったコトとか、携帯の充電を始めたことまで…。でも、楽しかったわ。」


「陽葵、ゴメンね。なんだか俺と居るとさ、面倒なことに巻き込まれちゃって、最後には振り回されて、こうなってしまう。こんな運の持ち主で本当にごめん。」


 陽葵は俺が謝ったことに、ゆっくりと首を振った。


「恭介さん、謝らないで。わたしね、最近、思ったことがあるの。」


 俺は陽葵が何を言うのかビクビクしながら、次の言葉を待つ。


「ん?なんだか怖いなぁ…」


「怖くなんてないわ。恭介さんが、仮に寮長さんじゃなくて駄目でもね、わたしは絶対に、今のような状況じゃない普通のボーッとしているような恭介さんであっても、絶対に付き合っていたと思うのよ。」


「陽葵、それは何でだ?。まぁ、俺の素の姿は絶対にコレだからな。それを見ても陽葵はガッカリしないから、俺は凄く助かっているんだ。」


「ふふっ。恭介さんはそれで良いのよ。だってね、恭介さんは、とても優しい人なのよ。みんなから大きな仕事を任される事が多いけど、恭介さんは、ホントは、ごく普通の学生でいたいのよね?。最近、恭介さんと付き合ってきて、ようやくそれが分かってきたの。恭介さんは常にプレッシャーがかかりすぎなのよ。だからね、わたしに頼ってゆっくり過ごして欲しいの。」


「陽葵も分かってきたか。人に頼られるって、本当は凄く面倒くさくて、普通の学生の方が絶対に気が楽なんだよ。寮長にしても、体育祭の実行委員長代理にしても、文化祭の実行委員や学生委員にしても、面倒くさいったら、ありゃしない。できれば、そんな仕事を捨ててゆっくりしたいよ…」


 陽葵はそれを聞いてクスッと笑った。


「それに、恭介さんは、自分の家を背負っているのよ。もう将来は決まっていて、必死にそれをやろうとしてるから、余計なの。だからね、恭介さんは凄く家族想いで優しい人なのよ。それが分かったらね、わたしは、絶対に恭介さんを支えなきゃならないのよ。こんな優しい人なんて、世の中には滅多にいないわ。だから、恭介さんのそこが大好きなのよ…」


 俺は陽葵の言葉を聞いてストンと何かが落ちた気がして、それで陽葵が俺を好いてくれる理由が分かって納得をしていた。


 ここまできたら、俺は陽葵が好きな理由を話さなければいけない。

 俺はベッドの上に座っている陽葵の横に座って、頭をなでた。


「陽葵さぁ。ありがとうね。俺が陽葵が好きな理由って、それが分かってくれる事なんだよ。他の人は、俺が精神的にそこに疲れているなんて全く分からなくて、何故か期待ばかりを俺に向けるから、疲れちゃうんだ。だけど陽葵は、俺をよく見てくれて、考えてくれることを受け入れてくれるから、そういうところが好きなんだ。」


 陽葵はそれを聞いてニコニコしながら、俺の顔を見ているが、言葉を続けた。


「それに、一途でズッと好きでいてくれる、その強い意志にも惹かれた。だって、ここまで俺を好きになってくれる人なんていないよ?。男として、やっぱり陽葵の俺が好いてくれる事に応えるのが使命だと思っている。最初のうちは本当に苦労するかもしれないけど、せめて、年齢が落ち着いた頃には笑えるように歯を食いしばって頑張りたいんだよ。」


 俺の本音を聞いて陽葵は、笑みを絶やしていない。

 そしてズッと微笑んだままだ…。


「恭介さん、嬉しいのよ。だって、こんだけ甘えん坊の恭介さんなんて、わたししか知らないのよ。もう~~♡。もっと、わたしに甘えて。それにね、わたしに頼ってくれて嬉しいの。夫婦になって辛いことも、嬉しいこともあると思うけど、ズッと一緒よ。大丈夫、辛いことがあっても私がついているからね。」


「陽葵…。ありがとう。俺は陽葵と一緒にいて幸せだよ。どんなに不幸が襲ってきても、絶対に陽葵と一緒にいれば、なんとか切り抜けられそうな気がする。俺の人生はたぶん、波瀾万丈だよ。だけど、ついてこられるのか?」


 陽葵はまだ、微笑んだままだし、それが笑顔に変わっているから、決意は固いのだろう。


「そんなの勿論よ。絶対に恭介さんを支えて、わたしが守り通すわ。それは変わらないの。大丈夫よ、2人で厳しいことや辛いことなんて乗り越えましょ。」


「良かった…。陽葵…ズッと俺とついてきてくれ。もう絶対に陽葵を離したくない!!」


 俺は自然と陽葵をその場で強く抱きしめていた。

 そして、陽葵も強く俺を抱きしめ返している。


 このカップルは、この時期にして、プロポーズと同じような言葉を重ねて、完全に夫婦愛を語るような状態になっていたのだ。


 無論、この後に、2人には相当な試練が待っていたのだが、それも陽葵が妻だったからこそ、危機を乗り越えたことが何度も繰り返された。


 そうして、この2人が熱い愛を語った一夜は過ぎていったのである。

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