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~エピソード9~ ⑨ クリスマス前に起こったドタバタ劇 ~棚倉先輩の家に行こう1~

 さて、時は現代に戻る。

 ここまでの文章を当然のごとく新島先輩に送ると、烈火の如く速い返信がやってきた。


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 あのさぁ、こういうコトは、その当時に、その場で包み隠さずに俺に言ってくれ。

 マジにね、徹夜続きの棚倉先輩はダメダメなんだよ。


 あの先輩は、加奈子さんがいなかったら生きていけないよ。

 てっきり、お前と陽葵ちゃんが名古屋入りをしたのは、お前が3年から4年になる春休みが初めてかと勘違いしたからな。


 お前と陽葵ちゃんは、俺の家には、その時に初めて行ったわけだからな…。


 秘宝館の話なんかを含めて、ツッコミどころが満載だよ。


 陽葵ちゃんと加奈子さんの猛攻を防いで、納得させたのはとても偉かったよ。

 無論、何も知らなかった棚倉先輩は論外。

 こういうことは、事前にリサーチしておかないと駄目なんだ。


 まだ、色々とあるのは確実だと思うから、この後の情報も待っているよ。

 この件は、俺としてはマジに面白く読んでるし、あの闇サークルの本題とは遠いけど、俺としてみればかなり重要な話だよ。


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 今までの話をザッと読んで、さきほど届いた新島先輩のDMを読み流した陽葵は、俺にあの時のことを少し語り始める。


「あなた、やっぱり、これは凄かったわよ。棚倉さんが疲れていたのは分かるけど、財布とキャリーバッグを忘れるのは酷いわよ。あれは、みんなが慌てたものね。でもね、あの熱海と名古屋へ行ったのは私はかなりワクワクだったわ。あなたがいたから、心配なんて1つもなかったし、見る景色の全部が初めてだったから、楽しかった思い出の1つよ。」


「そうだなぁ、棚倉先輩がやらかしたときに、延岡さん達がきていたから、余計にタチが悪かったんだよ。もう、分かると思うけど、これで新島先輩がいれば、俺たちが熱海なんかに行かずに、新島先輩と一緒に棚倉先輩が帰ることで全てが解決したからな。」


「そうよね、新島さんは棚倉さんのことをよく知っているから、そのまま帰っただけで安心だったわ。そうそう、あの時の寮の中は、小笠原さんや北里さんしかいないから、大混乱だったけど、本橋さんや宗崎さんがいたのは良かったわ。あの2人がいなかったら、凄く混乱したかも…。」


「そうだねぇ…。マジにあれは運が良かったんだよ…。さてと、今日は大宮が来るだろうから、そろそろ準備をしようか。マジに旅館の女将さんには迷惑をかけさせちゃった。」


「うん、そうよね。大宮さん夫婦や三鷹さんの面倒を完全に見てる感じだもの。夕飯まで用意してくれるから、こっちの頭が上がらないわ。」


 一旦、SNSのDMを書くのを終了してパソコンの電源を切ると、俺は陽葵と一緒に夕食の準備をはじめた。


 お約束の如く、旅館の女将の車に乗せられて、今日は大宮と愛理ちゃんがやってくる。

 もう、愛理ちゃんは慣れてしまったもので、葵とさっそく遊び始める。


 それを見た俺が大宮とダイニングテーブルで軽くビールを飲みながら、大宮が少し嬉しそうに話を切り出す。


「愛理や葵ちゃんは随分と仲良しになったなぁ。」


「そうだね、葵も、今日は愛理ちゃんが来るよね?。なんて言って待ち遠しそうにしているよ。」


 俺が大宮にそう返すと、大宮が少しだけ眉間にしわを寄せる。


「三上、マジにすまない。愛理のためとは言え、毎晩、うちの奥さんと入れ替わりで夕飯時にお邪魔しちゃってさ。今日は旅館にいようね…なんて言っても。愛理は葵ちゃんと一緒に遊ぶと行って聞かないし、泣いてしまうからさ…。」


「それは仕方ないよ。大宮と木下は、その悪い気分を、三鷹先輩にぶつけると良いよ。それなりに反省するだろうからさ。」


「ははっ、お前は相変わらずだなぁ。そういう機転の早さはピカイチだよ。それにしても、ミオ先生(三鷹先輩)は、猛烈な勢いで描き上げているよ。これなら、土曜日のお昼頃には、なんとか終わるんじゃないかな…」


「まぁ、原作者本人が見ているとは言え、今の進捗が遅れている部分のプロットを木下が作っちまったから、あとは話を乗せるだけで良いとは思うけど、その後の展開で先輩はチョイと詰まるのが心配だよ。」


 俺のツッコミに大宮は長い溜息をついた。


「その通りなんだよな。三鷹さん…いや、ミオ先生がその辺は懸念していたんだよね。先のプロットまで見渡さないと、最後に焼きが回ってくるのは先生だからね。」


「それも、三鷹先輩の自業自得だからね。プロットが定まっていないぐらい深刻な惨状になったのは、先生のせいだから、描き上げても土曜日お昼を食べた後に2時間ぐらい缶詰を続けて、今後のプロットの軌道修正を木下と一緒に話すと良いよ。必ずプロットの流れは取って置いてね。」


「それは、うちの奥さんも言っていたよなあ。今回は2~3話分ぐらい先に原稿を貰っておいて、少し休憩させることも考えていたから余計だよ。」


「そうか…。とくに先輩を休ませないと、子供ができないからなぁ…」


「三上、そういうことだよ…」


 そんな話をしながら、俺や陽葵、大宮や子どもたちは夕食を共に過ごしたのだった…。


 ***************

 さて、時はまた19年前に戻る。


 俺たちはロープウェイを降りたあと、足湯に浸かろうと思ったが、営業時間が微妙で無理なので、すぐそばにある熱海城に行って、早々に名古屋に行くことに切り替えた。


 もう、遊覧船は営業時間が過ぎて終わってしまったし、時間的に、ここで観光ができる場所なんて限られてきている。


 熱海城も閉館間際に入れたような感じだったが、少ない時間でも、それなりに楽しむ事ができている。


「恭介さん、ここは、お城というよりは、お城のテーマパークに近い感じよ。それに、エレベーターもついていたよね?。なんだか下には、ゲームセンターや子供が遊ぶような施設があるみたいだし、ちょっと謎だわ。」


 俺たちは、偶然に城の中で見つけた足湯に浸かりながら会話をする。

 この城に足湯があったから、ある意味では一石二鳥だったが…。


「ここは、高度成長期に観光目的で勝手に作ったお城だから、こんな感じなのさ。ちょっと子供には見せられない春画の展示があったのは少し焦ったけど、多くは真面目な展示だから安心だね。俺は歴史趣味の分野が違うけど、たぶん、この手の歴史マニアから言わせると、寄せ集めっぽくて、一般向けかなぁと。」


 同じく足湯に浸かりながら、棚倉先輩が俺の話に同意する。


「三上よ、確かにそうかも知れない。どちらかというと、子供向けに日本史に関して触れられるようなコーナーもあったから、名古屋城とは全く趣が違うぞ。


「先輩、私の記憶違いじゃなければ、名古屋城は戦中に焼失しているはずですが、コンクリで復元したとしても地元の想いがありますし、そこには、絶対的に歴史的な由来がありますからね。こことは、成り立ちが違うわけですよ。」


 俺の言葉に加奈子さんも深くうなずいている。


「三上さん、その通りよ。でも、この場所は子供連れには良さそうね。こういう息抜きって大切だもの。」


「そういうことですよ。私も、この限られた時間では、熱海を満喫できた訳じゃありませんが、小旅行の気分にはなりましたよ。さてと。そろそろ、お土産でも買いましょうか…。」


 棚倉先輩や加奈子さんは、俺の言葉で立ち上がると、お土産コーナーに足を伸ばした。

 先輩たちは家族へのお土産なのか、プリンを幾つも買っているが、俺と陽葵は少しだけ考えている。


「陽葵、日持ちがするヤツだと、そこにあるチーズケーキかなぁ。」

「私もそう思ったわ。名古屋のお土産もあるから、少しだけ買って帰りましょ。あっ、恭介さんは、寮のみんなへのお土産があるから、少し大きめの箱と、松尾さんや寮母さん、それに、延岡さんたちや荒巻さんなどに向けて小さいパッケージで買った方がよさそうだよね?」


「うん、そうするよ…。大きな目的は熱海で先輩と会うことだから、ここで名古屋のお土産だけでは理屈が合わない。」


 まぁ、これで熱海に行った証拠にもなるから、それで良いのだが…。

 ここは、俺と陽葵のぶんを、延岡理事や松尾さんから貰ったお金で賄った。


 まだ、手に持てる範囲なので、持ち運びに苦労はしないが、陽葵はリュックから気を利かせて、某テーマパークでお土産を入れるための、大きなトートバッグを広げた。


「恭介さん、これなら大丈夫だわ☆」


 それを見た、加奈子さんがニコリと笑った。


「陽葵ちゃんは、あそこのテーマパークが好きなのね。もう、そのバッグで分かるわ。お土産が沢山になってしまうから、ここで有効活用するのね。」


「加奈子さん、そういうことです。恭介さんは、寮の仲間にお土産を買うし、恭介さんの実家に行った時に渡すお土産もあるから荷物が多いのよ。」


 俺たちはそんな話をしながら熱海駅に行くバスに乗り込んで、新幹線で名古屋を目指すことにする。


 そのバスの中で、さきほどロープウェイのお土産コーナーで買ったお土産の話になって、さっそく加奈子さんが俺と陽葵に話しかけてくる。


「家族や周りにすぐ食べてもらえるように、プリンになったのよ。なんだか濃厚そうで美味しそうだし。」


 陽葵がそれをみてニコリと笑って加奈子さんの話に答える。


「私たちは、日持ちをするものと、寮の人たちのコトも考えて、一口で食べられるようなチーズケーキを買ったわ。これなら、家族や私の小さい弟でも食べられるわよ。」


「そうよね、寮はほとんどの人が休みで抜けたと言え、残っている寮生も多いと結城さんから聞いているし、なかなかに選ぶものが難しいわ。」


 その会話に棚倉先輩も加わってくる。


「そうだよな。今年は居残りをする寮生が少ないとは言え、29日頃までは部活やサークルの練習がある寮生や、ゼミやサークルなどの飲み会があって50人程度は残っているわけだから、松尾さんや学生課の面々も気が気でないだろう。」


「まぁ、先輩、そうですよ。それに、棚倉先輩は知らないかも知れませんが、今年の正月は、諸岡は親類が哀れに思って、その親類の家に早々に呼ばれたようで、余計に指揮系統が小笠原先輩と北里しかいないという、少し面倒な状況になっていましてね…」


「三上よ、それは初めて聞いた。参ったな、そんな状況でお前たちは俺を追いかけて熱海まで来たのか…。ところで、寮内を維持するためにバイトの頭数が足りないと思うけど、そこはどうしたんだ?」


「俺の同期の、本橋と宗崎が偶然にも遊びにきて、そのままバイトになりましたよ。あの2人は流石に年末年始は無理でしょうが、28~29日頃までは受付のバイトでもしていると言ってましたよ。」


「それは本当に助かった。今日は荒巻さんもいたことだし、バイト代は弾むだろうし、あの2人も喜んでやるだろうから、ホッとしてる。村上は帰ってしまったのが痛いけどな。」


「村上は仕方ありません。アイツは次男坊ですが、実家が神主なので、地元の比較的小さい神社なのですが、そこに参拝客が来ますから、正月中は忙殺されます。」


「それは、また大変だな。神社のことはよく分からないけど、どんなに田舎にある神社とは言え、正月中は帰省で人が集まるから余計だよな…」


「そういう感じらしいです。アイツは正月中は寝る暇もなくて地獄を見ると言ってましたからね…」


 そんな話をしているうちにバスが駅について、俺たちが窓口に行くと、名古屋行きの乗車券と、新幹線の指定席をとって、名古屋を目指したのであった。

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