俺と陽葵が、お土産を車に積み終えて、テーマパークの入口まで戻る最中に、陽葵が少しだけ顔を赤らめながら俺に話しかけてくる。
ここは、お互いの顔が見えるぐらいに街灯が明々とついているから、陽葵が恥じらっている様子が分かって、それを見ていると、とても可愛いから抱きしめてしまいたいのを我慢している自分がいた。
「そろそろ、再入場用のゲートがあるけど、手の甲を係の人に差し出すと、特殊なライトでスタンプが浮かびあがるから、それで再入園を確認するのよ。…それと…ね♡」
陽葵は、かなり恥じらいながら俺の耳元でコッソリとささやいた。
「恭介さんが、さりげなく腰を回して、わたしを後ろから軽く抱いたり、さっきみたいにアトラクションの中でキスなんてしたら、このままパークを出て、ホテルに直行しなくちゃ駄目だから我慢しようね♡。わたしも、我慢するから同じよ♡」
「うん、そうだね…。ホントは今すぐにでも、ここで押し倒して抱きしめたいのを我慢している。」
「もぉ~~♡。恭介さんは、とてもエッチよ♡。でも、それは嫌いじゃないし、わたしも恭介さんが大好きなの♡。わたしも恭介さんのように、家族がいなければ、このままホテルに向かって朝まで泊まってしまっているわ♡」
実際に、そんなコトができるようになったのは、結婚間際だったのだが、今は学生の性分であるし、俺も陽葵の家族にお世話になっている以上、陽葵の両親や家族が心配するような行動は、今後を考えると自制したい。
今の陽葵と俺の感情を察するに、激しく愛してしまうと、時間を忘れてしまうぐらい大変なことになるから、気づいたら夜が明けている可能性が大いにある。
そうなってしまうと、陽葵の親がかなり心配するだろうから、ここは、陽葵の家に早めに戻るのが得策だろう。
「陽葵さぁ、食事を今からすぐに食べて、パレードを見たら、花火は見ないで引き上げようか?。高速道路を使えば、夜ならさほど混雑していないから、思ったよりも早く時間に家に戻れるかも…。」
陽葵はその案に激しくうなずいている。
「そうするわ♡。もうね、恭介さんと一緒にお風呂に入りたいし、そのあとは激しく抱かれたいの♡。先にお土産を買ったのは正解だわ。」
「まぁ、陽葵の両親には慣れていない高速道路だから、混んでいたら帰りが遅くなるから、花火を見ずに引き上げたと言えば納得するだろうし。」
「うん、間違いなく納得するわ。ウチの家族と来たときも、大抵は疲れてしまって、花火は電車の中で見ることも多いのよ。」
そんなことを、周りに聞こえないように話しているうちに、入場口のゲートに来たので、手の甲を見せると、専用のライトでスタンプを確認されて再入場が認められる。
陽葵は時計を見ながら少し考えている様子だ。
「恭介さん、少し価格は高めだけど、今までのご褒美だと思って、ビュッフェに行きましょ。少し食事をすれば、この気持ちの高ぶりを抑えられるかも知れないわ。」
もう、俺と陽葵は、激しく愛し合いたいのを必死にこらえるために、色々と工夫をするのに精一杯である。
あたりはすっかり暗くなって、パーク内は綺麗に電飾されているし、クリスマスシーズンだから、随分と景色も綺麗だ。
その情景が、お互いに激しく愛し合いたい気持ちを増殖させる結果になってしまっているから、心情的にはとても厄介になっている。
もう、俺と陽葵は手を繋いで歩いているが、その手は互いに絡みあっているし、そして、何かを話すたびに、見つめ合って恥ずかしそうに微笑みあう時間が多くなっているから、テーマパークに集中できるような状況ではない。
そんな陽葵がとても綺麗で、艶っぽく見えているし、陽葵の顔が電飾に照らされて、なおさらに綺麗に見えるから、もう、その場で抱きしめてしまいたいぐらい、陽葵を愛おしく思っている。
陽葵もそれは同じ事を想っていたから、互いに目線が合うたびに、「恭介さん♡大好き♡」などと言われて、もう、互いが、いてもたってもいられない状況だ。
しばらく歩いていると、目的の店に着いたらしく、その店は入口が少しわかりにくい場所にあるが、中はとても広かった。
メニューを自分で決めてそれをバイキング方式で取っていく形式の店だったが、俺も陽葵も、その中で比較的安価なメニューを選んで、無難にお腹を満たす形になった。
そして、陽葵は食事をしながら、少し気持ちを落ち着かせるように、言葉を切り出す。
「恭介さん、このあとのパレードだけど…。コレは絶対に見たいから、頑張ろうね♡」
「外は寒いけど、陽葵と一緒にいれば、たぶん寒くないよね。」
俺の何気ない本音に、陽葵はまた顔を赤らめてしまう。
「それ以上は言わないでね。パレードも見ずに帰ってしまいたくなるわ♡」
俺たちは食事を終えて、店から出ると、陽葵はパレードを見る位置を見定めながら探す。
色々と事案した上で場所を決めたら、用意してあったレジャーシートなどを広げて、互いに身を寄せ合いながらパレードが始まるまで寒さをしのいだ。
「こうやって、身を寄せていると、陽葵が可愛くて仕方ないよ…」
そんな俺の本音に、陽葵は俺の体を一瞬、ギュッと抱き寄せて耳元でささやいた。
「恭介さん、それ以上、わたしを可愛いんなんて言ったら駄目よ♡。わたし、恭介さんが愛おしすぎて、おかしくなっちゃう♡」
それ以降はパレードが始まるまで無言が続いたが、いざ、パレードが始まると、その綺麗な景色に目を奪われた。
ただ、その電飾で照らされた陽葵の顔が、とても綺麗で可愛くて仕方がなかったので大変だった。
「陽葵、綺麗だよね…」
「うん、大好きで愛している人と一緒に見られて、わたしは幸せなのよ♡。誰もいなければ、後ろから抱きしめられながら、ジッと見ていたい♡」
「そんな陽葵も綺麗だよ。なんかパレードに集中できなくて、陽葵ばっかり見ちゃってる。」
「もぉ~~、こんなところで、わたしをジックリと見なくて良いのよ♡。でも、嬉しい♡」
もう、このあたりで、色々な意味で、お互いが限界であったのは確実だ。
パレードが終わると、俺と陽葵はシートや防寒具を片付けて、早々にテーマパークを後にする。
駐車場に着いたあたりで、花火が打ち上がったのを、車の中で眺めながら家路に急いだ。
俺も車で陽葵の家に帰るときの運転が、とても辛かったし、このまま、どこかのホテルに行ってしまいたいぐらい、陽葵を激しく愛してしまう気持ちを抑えるのに苦労しっぱなしだった。
陽葵の家に帰ってきた俺たちは、言うまでもなく、陽葵の両親のお出迎えを、表向きは丁寧に扱って、陽葵が時間を見計らって疲れているからと両親にアピールすると、すぐにお風呂に入ことにした。
陽葵と一緒にお風呂に入っている時も、ある程度の激しいスキンシップがあって、お風呂から出た後は…、言うまでもなかった。
その際に、小声でお互いの名前を何度呼んだのか分からないぐらい、激しいものであった。
ホントはお互いに大きな声を出して何度も名前をよびたかったが、そんな事をすれば、この情事が陽葵の家族に聞こえてしまうから、翌朝は大変な事態になるのが目に見えて分かる。
何度も激しく愛しあって、互いがようやく満足すると、最後は下着姿で抱き合いながら、しばらくして陽葵は可愛い寝息を立てて寝てしまった。
すると、陽葵の寝言が聞こえてくる。
「恭介さん♡。もう絶対に離したくない。大好き♡。もっとわたしを愛して♡」
…陽葵はどんな夢を見ていたのだろうか…。
そのあとは、しっかりと布団をかぶって、俺もグッスリと寝てしまったのである。
そうして、俺と陽葵の初めてのテーマパークのデートを無事に終えたのだ。
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時は現代に戻る。
夕方になって陽葵が夕食の準備をしている間に、これを書き終えると、今日も旅館の女将さんが、木下(大宮の奥さん)と愛理ちゃんを連れてやってきた。
『ちょうど書き終えて良かった。こんなのを木下なんかに見られたら大騒ぎになる…』
俺は元々、理系だから多くの文学に触れていないし、大学でそういうゼミや研究をしたわけでもないから、文法やプロットなどもロクに分からないで書いている部分がある。
だから、そこを突っ込まれると、とても痛いし、こんなモノを、長年の付き合いがない他人に見せるのは、色々な意味で危険過ぎるのは明らかだ。
そして、少しだけアレを書き終えた余韻が残っていて、ボーッと陽葵と木下の会話を聞いていると、葵と愛理ちゃんは、勝手知ったる感じで、2人で適当に仲良く遊んでいるから助かっている。
陽葵や木下もそれを見て、お茶を飲みながら女性同士の会話に花が咲き始めているようだ。
2人の子供の遊んでいる姿を、邪魔をしないように、じっくりと見ていると、今日はテーマパークで買ってきたオモチャも使ってお互いに譲り合いながら、何やらキャラクターの真似をしてる感じがする。
それを俺や陽葵、木下が、ときおり微笑ましく見ている状況だ。
そのうちに夕飯になったのだが、陽葵も木下もキッチンに立って何やら作っているから、これもまた恐縮してしまった。
「木下、マジに気を遣わなくても大丈夫だよ。こっちは、女将さんから惣菜とか夕飯を、俺たちの分まで頂いている格好だからさ…」
「そんなことはないわ。これだけ三上くんと霧島さんに世話になっておいて、うちの愛理も楽しそうに遊んでいるし、恭治くんのことも気に掛かるからね。」
とうの恭治は、気難しい思春期の真っ只中だから、他人が、毎日のように夕飯どきに来るのは好まない感じはがよく分かる。
恭治は一緒に食事を適当に済ませると、早々に自分の部屋に戻ってしまっていた。
ただ、木下も、そういう難しい男の子の感情を理解している部分があるようで、陽葵と一緒に恭治の夜食まで作っている。
俺も正直、この状態はあまり、好ましいと思えないので、木下に少しだけ突っ込んで聞いてみた。
「木下さぁ、ミオ先生(三鷹先輩)の進捗って、ぶっちゃけどうなの?」
「う~~ん、かなり危ない状況だわ。状況によっては来週まで缶詰になる可能性も否定できないの。昨日ぐらいから、相当にスピードが上がったけど、金曜日まで、そのペースが維持できるかは懐疑的だわ。プロットは、私がザックリ決めてしまっているから、そのラインで先生はひたすら急ピッチで描いているわ…」
「それは、危ねぇなぁ…。まぁ、今の連載が、これ1本で、何も抱えていないのは幸いだけどさ。」
「そうなの。3ヶ月前まではもう1つ抱えていたから、あれを完結させて良かったと思っているのよ。…ただ、将来的には、あの2人が真面目に子供を作ることを公言しているから、無理をされられなくて。」
「そうか、もう、2人にはお子さんもいて良さそうだけど、苦労しているっぽいな。」
「三上くんと霧島さんは、色々とあって苦労したと聞いていたから、少しアドバイスが欲しいところよ。」
俺は意を決して、少しだけ踏み込んで木下に言うことにした。
「この缶詰状況が続いたら、子供なんて作れる状況じゃないから、三鷹先輩の進行を騙して早く原稿を終わらせて、2人でゆっくりさせる時間を多く作らないとないと、先輩のホルモンバランスが崩れたままだぞ。」
木下がそれを聞いて目をぱちくりさせているが、構わず言葉を続ける。
「それと、出産や育児における休載は、真っ当な理由として成立するから、そこは考えなくて良いと言うしかないよ。こうなったら、先輩の性格を考えると、割り切りをさせたほうが早い。」
そこに、陽葵が俺をフォローするように話を続けた。
「この前、旅館で食事をしているときに三鷹さんに相談されたけどね、わたしも卵管の片一方に狭窄があって、なかなか子供ができなかったのよ。三鷹さんも同じだって言っていたけど、まずは卵管を拡大させる内視鏡の手術をやる時間を作るべきよ。」
これを聞いた木下は意を決したように、俺たちに決意を示す。
「三上くんも、霧島さんも分かったわ。私は三鷹さんに関して、少し甘えさせていた所があったのよ。それが余計に、彼女の生活を堕落させて、結婚してもなかなか子供ができない結果に繋がっているのよね。卵管が詰まっているのが分かったのは、ちょうど半年前よ。すぐにでも拡張手術をうけさせるべきだったわ…。」
陽葵が木下の決意に、良二夫婦に希望を与えるように言った。
「卵管が狭窄していて、拡大手術が成功すれば、妊娠する確率が2割から3割程度増えるそうよ。だからね、諦めないで頑張って欲しいの。まだ三鷹さんも、本橋さんも頑張れるはずよ。」
「私はね、今の旦那とすんなりと子供ができてしまったから、三上くん夫婦の、そういう苦労が分からなくて、正直、どうして良いのか分からなかったのよ…。」
その話が、おおよそ1年半後に、良二たち夫婦に、新たな家族ができる契機になったのだが、それは後の話として置いといて…。
木下は、陽葵とその後も色々と恭治や葵の出産についての経験から出てきたアドバイスを真剣に聞きながら、旅館の女将がウチに来るまでの時間を過ごしていたのだ。