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~エピソード9~ ⑤ 陽葵ちゃんと初めてのテーマパークへ ~2~

 -時は19年前に戻って、ここはテーマパークの入口付近である。-


 開園まで1時間以上待っていると、スタッフの誘導で、立っている列が詰められて、長い行列が随分と圧縮されたのが分かった。


『これは、文化祭のイベントの誘導の参考になるよなぁ。イザとなれば陽葵がよく知っているだろうから、アドバイスをもらえば、かなり有効な誘導ができそうだ。』


 そんなことを思いながらスタッフの動きをジッと見ていると、陽葵が俺の腕を少し引き寄せる。


「恭介さん、今日は混んでいるから30分前に開園しそうだから、そろそろ列が大きく動くわ。」


 陽葵は俺にチケットを渡すと、誘導のスタッフが早めの開園を知らせた。


 しばらくしてパーク内に入ると、陽葵は2つの人気アトラクションに向かって優先的に乗れるチケットを入手する。


 そして、陽葵は俺の腕を抱き寄せながら、アトラクションには乗らず、まずはテーマパーク内を、ガイドのように俺に案内しながら、ぐるりとめぐった。


 そのうちに、恋人が近寄ってはいけないと言われる、泉の近くを通りかかると、俺の腕を強く引く。


「恭介さん、ここが、あの泉があるところよ。ガイドブックとか、そういう雑誌を見るとね、あの泉を背景にして、カップルの写真がよくあるけど、真似をしちゃダメなのよ…。あそこに近寄ると、カップルが別れるジンクスがあるの。」


 陽葵がそう言っている間に、2組のカップルがあの泉で写真を撮っているのが遠目で見えたが、俺と陽葵は苦虫をかみつぶしたような表情でそれを見ている。


 一通りの案内が終わると、陽葵は人気のアトラクションに並ぶよりも、そこそこ空いている有名どころのアトラクションから、俺を案内をした。


「今日は、混んでいるしあまり乗れないけど、やっぱりクリスマス気分を味わうのがメインだからね。わたしも恭介さんと同じで、ジェットコースター系のアトラクションは苦手なほうなのよ。」


「陽葵は大丈夫かと思ったら、意外だよね?」


「恭介さんと同じで酔ってしまうからダメなのよ。絶叫系は颯太が好きなの。わたしは颯太の付き合いで乗ることもあるけど、一緒に行くのが憂鬱になることがあるのよ。」


『そうか、颯太くんにテーマパークへ行く事を内緒にしておいた理由の一つに、ソレもあるのか。』


 この時分は分からなかったが、陽葵の絶叫系に関する耐性は、至って普通の人と同程度だから、絶叫系の苦手具合に関しては、俺のほうが陽葵よりもダメダメであったのだ。


 この陽葵の話は、陽葵の弟の颯太くんが相当に絶叫系が好きだから、おのずと自分の弟と見比べてしまった結果である。


 しばらくは、SLみたいなアトラクションに乗ったり、少し大きな船を見ながらゆっくりと時を過ごしたが、お昼になって、陽葵はSFチックなエリアに俺を連れて行くと、ここで、ハンバーグやポテトを頼んでお昼ご飯にすることにした。


 どうやら、クリスマス限定のデザートがあるのだが、そのクリスマス限定のカップや器が持ち帰れるのから、余計に魅力を感じているようだ。


 陽葵は、どっちを頼もうか迷っている感じがしたので、一つの提案をしてみる。


「陽葵さぁ、デザートで迷っている感じが明らかに漂っているから、俺がどっちかを手伝おうか?。お母さんから貰ってきたお金もあるし、このために使うのは明らかだからさ。」


 陽葵は俺の言葉に目がパッと明るくなった。


「そうよ!!。恭介さんがいるのを忘れていたわよ。味も楽しみたいから、2人で半分ずつ食べましょ。クリスマス限定のハンバーガーも2種類あるから、違うものを頼んで食べ比べるのよ。」


『陽葵よ、もう、俺たちは行き着くところまで愛しているから大丈夫だけどさ、これは完全に間接ディープキスだぞ…』


 俺はそれを口にするのを我慢して、陽葵の言葉を肯定するに留める。

「そうだよね。俺がいれば、陽葵がお腹いっぱいになっても、無駄ながないわけだからさ。」


 別々の味が、俺がいることによって無理なく、そういう食事が楽しめることに、陽葵は一種の幸福感を抱いているような感じが明らかに分かった。


「恭介さん、家族と一緒に来ると、どうしても、そういうコトなんてできないから、悩んでしまうのよ。これからはクリスマスも、そのぶん、楽しめるわ。」


 俺は陽葵と一緒に並んで、クリスマス限定のハンバーガーやデザートをそれぞれ注文すると、陽葵の母親から渡されたお金を出して会計を済ませる。


『やっぱり、ここは物価が高いなぁ…』


 そんな本音を口に出さずに我慢しながら払うと、しばらくしてメニューがきて、トレイを持って座れる場所を探す。


 この時期だから混んでいて、空いている席がなかなか見つからなかったが、2人なので、しばらくすると、ちょうど食べ終わったカップルと交代するように、イートイン席の隅のほうが空いて、やっと座れたのでホッとした自分がいる。


「これだけ歩いたのも久しぶりだよ。無意識のうちに、長い距離を歩いてしまうよね。」


 ホットウーロン茶を口にしながら陽葵に話しかけると、しきりにうなずいていた。


「恭介さん、そうなのよ。でもね、やっぱり、りんごちゃんの散歩のほうが大変よ。あれを思えば、夜までパーク内を歩いても、なんとも思わないもの。」


『そうか、颯太くんが、りんごの散歩についていけたのも、このテーマパークによく行っているお陰かもな…』


 俺と陽葵はそんな会話をしながら、陽葵にフライドポテトをソッと差し出すと、嬉しそうにパクッと食べる。


「もぉ~~♡、恭介さんったら、こんなところで大胆なんだからぁ~♡」


 そのあとは、陽葵と一緒にハンバーガーを分けたり、デザートを分けたりして食べながら時間を過ごした。


 陽葵は用意周到だったから、クリスマス限定の絵やキャラクターが描かれたカップや器を持ち帰るのに、ビニール袋や器を拭くためのウェットティッシュなども持ち込んで、綺麗に拭いてから、それらをビニール袋に入れると、俺が背負っていたリュックの中にしまった。


 食事が終わると、こんどは別のアトラクションに乗り込むために別のエリアに向かう。


 ちょうど、人気アトラクションを優先的に乗れるチケットの時間になったから、それを立て続けに2つ乗ると、すでに陽が少しずつ暮れている。


「恭介さん、あまり怖くない、お化け系のアトラクションに乗るわよ。」


 このアトラクションは、入院中に看護師の井森さんが言っていたことを思い出していた。


 長い間、あるアトラクションだけど、根強い人気があるアトラクションだ。


 しばらく待っていると、そのアトラクションに乗る手前で、ボソッと本音が口に出てしまった…。


「陽葵さぁ、お昼のハンバーガーは値段相応だけあって、美味しかったけど、俺はチョットだけ緊張したよ。」


「ん?どうして?」


 陽葵は少し首をかしげて不思議がっている。


 陽が落ちてきて、段々と暗くなってきたし、冬になって寒くなってきているから、陽葵は俺に体を軽く寄せて話してきているし、男としてはたまらない。


「だってさぁ…。ポテトの食べさせ合いはともかく、ハンバーガーやデザートは完全に間接キスの連続だったよ。交互に食べていたけど、もう、そんなことを気にするような仲じゃないもんね。」


 それを俺が言った途端に、陽葵は顔を紅くして、俺の腕をしっかりと抱き寄せて恥ずかしがっている。

 その姿がとても可愛くて仕方がないけど、ここは公然の場だから、このあたりが限界だろう。


「もぉ~~♡、恭介さんったら、そんなことを今になって言わないで♡。意識しちゃって恥ずかしいわ。でもね、恭介さんが、それを普通だと思ってくれるから、嬉しいの。わたしも、そんな恭介さんのことが大好きよ♡」


「俺も陽葵が大好きで仕方ないよ。陽葵、でも、なんだかごめんね。もう少し早く言えば良かったよね?」


「そういう問題じゃないわ。たぶん、恭介さんが早く言っても、遅く言っても結果は変わらないわ♡。」


 俺と陽葵がアトラクションに乗ると、乗り物に乗りながら、西洋風のゴーストを暗がりで少しコミカルに見せるような感じだったのだが…。


 お互いに、先ほどの話で、アトラクションに集中するどころではない。


 暗がりのなかで互いが目を合わせると、微笑みあって、何度もキスを交わしてしまった。


 もう、大好きすぎる陽葵ちゃんとキスで夢中だったから、アトラクションの内容なんて完全に覚えていない。


 アトラクションから出ると、陽葵が頬を赤らめながら俺の腕をシッカリと抱き寄せて耳元でささやく。


「恭介さんのエッチ♡。もう、アトラクションどころではないわ。このまま激しく抱いてほしいけど、ここはウチの親の手前もあるし、家に帰るまで我慢よ♡」


 普段なら、このままテーマパークから抜けて大好きな陽葵ちゃんとの愛を大爆発させるところだが、ここは、陽葵の両親に夜までテーマパークにいると公言している手前、簡単に抜け出させられない。


「陽葵、一旦、クールダウンさせるのに、お土産を早めに買ってしまって、車に荷物を積んでおこうか?。それで、早めに夕食をとって、夜のパレードまで待とう。」


「ふふっ、それは良い案だわ。再入園は手の甲にスタンプを押してもらえば自由に出入りできるのよ。車で来ているからソレは楽よね。駐車場まで少し歩くし、クールダウンにはちょうど良いわ。」


 お土産を物色している間に、陽葵がトイレに行きたくなったようだけど、俺にとって初めてのテーマパークだから、迷ってしまうこともあって、陽葵とトイレまで一緒について行くことに。


 女性側のトイレは随分と長い行列ができている。


『ここは、メインの城の近くのトイレだよな…それなら、たしか…この辺りにあの店が…。』


「陽葵、ちょっと、混んでて時間がかかるから、そこらへんの店をブラついて見ているよ。」


 陽葵がうなずくと、俺は陽葵の視線を逸らす形で、なんてことのない普通の小さなおお土産ショップの中に入って、サッと出ると、城のそばにある少し値の張るショップに入った。


『陽葵は、小さい時に家族に買って貰ったオルゴールを大切にしていたけど、最近になって壊れてしまって嘆いていたんだよね…』


 この件に関しては、俺が病院で定期的な診察を受けていたときに、偶然にも看護師の井森さんと出くわして、このオルゴールが売っている場所をコッソリと教えてもらったのだ。


 流石に同じものは売っていないが、似たような物が売っていたので、躊躇わずにすぐに購入をする。


 それを、ダウンジャケットの目立たないポケットにそっと入れると、陽葵のクリスマスのサプライズプレゼントにすることにした。


 女子トイレはかなり混んでいて、俺がトイレに戻って用を足しても、陽葵はトイレから出てこない状況だった。


 そして、しばらくして、陽葵が疲れた表情を浮かべたようにトイレから出てくる。


「もぉ、男性はすぐに済むけど、女性は混んでいると大変なのよ。混んでない場所のトイレを選ぶべきだったわ…」


 このあたりは女性ならではの悩みなのだろう。


 俺と陽葵はこのあと、お土産をゆっくりと見て陽葵が腕を組んで選んでいると、俺が何も買わないことを不思議がっていた。


 陽葵は颯太くんのクリスマスプレゼントを見ているようだ。


「恭介さんは、寮の人たちに何か買っていかないの?」


「いやさ、棚倉先輩とかなら大丈夫と思うけど、周りがみんな彼女持ちじゃないから、あげたら、ねたみやヒガミが凄そうでさ…」


 そう言うと、陽葵は少し苦笑いをしながら否定した。


「大丈夫よ。みんなが食べられるような、せんべいとかチョコクランチをあげれば、そうでもないわよ…」


 そう言いながら、手ごろそうなものをサッと選んでいくのは、いかにも陽葵らしい。


 どうやら颯太くんのほうは、陽葵は普段からテーマパークやその手の関連ショップに行くと、颯太くんや家族にお土産を買っているから、2人で行ったことを告げなければ大丈夫らしい。


 俺はそれも、陽葵のお母さんから貰ったお金から出すと、陽葵はホッとした表情を浮かべて俺に話しかけた。


「ふふっ、お母さんから貰ったお金を有効活用してもらって、わたしもホッとしているのよ、絶対に無理をしないでね。ここは物価が高いのは私も分かっているから。貰ったお金から考えて残金は夕食分になるわよね。」


 陽葵の言葉に内心はホッとしていたのだ。

 サプライズプレゼント用のお金は、もう一つの財布に入れていたから、陽葵に財布の残金を気にされることなく済んだからホッとしている。


 ある程度の買い物が済むと、俺と陽葵は、かなりの荷物を持って、いちどテーマパークを出た。


 その際に、手の甲にスタンプを押されるが、見た目は透明だ。


 駐車場まで歩いている時に陽葵がぼやいた。


「ここまで大量のお土産を買うと、荷物を持って電車に乗るのが大変なのよ。邪魔になるから閉園間際にしか買えないし、ショップに人が殺到するから、面倒だけど、今日はゆっくりお土産が選べたし、車だから安心して帰れるわ。」


 そうして、車に大量のお土産を降ろして、俺たちはすぐにテーマパークの入口に戻ったのである。

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