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~エピソード9~ ④ お楽しみの前日。~2~

 俺はいつものビュッフェで食事になることも含めて、宗崎と村上と車の中で今後の打ち合わせをする。


「宗崎と村上は練習が終わった後に、あのビュッフェで飯を食べるだろうから、その後は車で宗崎の家まで送っていくよ。実行委員チームのほうは、みんなが俺が車で通学していることを把握しているから、気が楽で良いからさ。」


 村上はそれに感謝しきりだ。


「三上マジに助かるよ。お前の車通学で、本橋まで恩恵を受けているからさ。しかし、最近は尾行してきた奴らも大人しくなっているけど、もう諦めたのかな?」


 俺は、荒巻さんや高木さんから極秘裏に聞かされた情報を、2人に教えた。


「これは、陽葵も知っている話だけどね…。荒巻さんと高木さんが、10日ぐらい前に、経済学部のキャンパスの入口付近で、陽葵と白井さんをじっと見ている怪しい奴がいて、同じ経済学部の学生が不審に思って、どうしたなんて声をかけたら、すぐに逃げてしまった案件があったらしい。」


 その俺の話の続きを陽葵が繋ぐ。


「それでね、荒巻さんと高木さんから、そのことを聞いたので、最近は教授や職員が出入りする裏口から出入りさせてもらっているのよ。まったく、ホントに困っちゃうわよ。職員用の出入口はバス停から微妙に遠いから、不便でしかたないわ。」


 そして、その陽葵が不便だとぼやいた話にすかさず、俺がフォローを入れる。


「とにかく、この案件は誰にも話さないでくれ。下手に広めてしまうと、大騒ぎになった挙げ句、棚倉先輩や三鷹先輩などが騒ぐばかりだからな。もう学生課と松尾さん、それに寮母さんとの間だけで片付けてしまったんだよ。」


 それに関して、村上が心配そうな声で俺たちのことを心配した。


「三上さぁ、やっぱり、車通学で正解なんだと実感したよ。奴らは奥さんの姿が何時もの時間に見えないから、相当に焦っているのだろう?。工学部のキャンパスなんて、大学の近くにある駅と逆方向だから、それに気づいていないだけなんだ。」


 そして、宗崎も心配そうに村上の言葉に続く。


「村上の心配に俺も乗っかるけど、三上の言うとおり、冬休み後ぐらいから執拗に追いかけられそうだよね?。とくに寮長会議や学生員会がある時は、車を使えないだろうから、電車になった途端に追いかけられるのが目に見えているから心配すぎるよ。」


「村上、宗崎、そうなんだよ。それが明らかに分かるから、実はどこかで、一週間ぐらい電車通学をして、おとり捜査をやってみようなんて話も出てくるぐらいなんだ。警察のほうは、少しずつ内偵をしていて、カルト団体のおおもとが判明したらしいなんて話も聞こえているよ。」


 その俺の言葉に村上が再び心配そうな声をあげる。


「10日前っていうと、お前と奥さんが学生委員会に呼ばれて、面倒くさそうにしていた時だろ?。お前は学生課まで行っていたらしいじゃないか。その時に奴らに見つかった線はありそうだよな…。」


 俺が村上の問いに答えようと口を開こうとしたが、一足先に陽葵が答えた。


「恭介さんが運転しているから、詳しい事情は、わたしが話すわ。確かにね、村上さんの言うとおり、それはあるわよ。私たちは延岡さんに引き抜かれて役員になったから、学生委員にも、不満を持っている人たちがいて、会議中に恭介さんが、槍玉にあげられたりしたのよ。」


 陽葵の話を聞いた宗崎は、ルームミラーから見ても怪訝な顔をしているのが分かる。


「奥さん、それは分かる。三上なら、その状況でも委員会で上手く対処しただろうけど、普通なら俺たちのような一般学生風情が入れるような場所じゃないから、三上は相当に辛かったと思う。」


「宗崎さん、その通りなのよ。恭介さんが偶然にも、学生委員会を担当している教授と知り合いだったから、救われたのよ。教育学部の気難しそうな教授だったけど、体育祭の実行委員会を担当した教授だったから、恭介さんの事をよく知っていて、かなり助けて頂いたの。」


 それを聞いて宗崎は、あの時の体育祭での出来事を思い出して、陽葵に問いただす。


「その教授って、浜井教授でしょ?。有坂教授の先輩だし、体育祭の時に三上のバレーボールの試合を有坂教授と一緒に見ていたから、俺や村上も知っているんだよ。」


「宗崎さん、その通りよ。それでね、話を戻すと、その不満を持っていた学生委員たちが、恭介さんに謝罪したいと連絡があって、荒巻さんや高木さんが間に入って、学生課にわたしと恭介さんが呼び出されたのよ。たぶん、その時に勘づかれたのよね。」


 村上は陽葵の説明を聞いて、少し溜息をつくと、俺に向かって同情の言葉を口にする。


「三上もマジに大変だよな。学生委員会から抜けたいのはよく分かるよ。アイツらプライドが高いし、お前がマジに苦労しているのがよく分かるよ。」


「村上も宗崎も心配をかけてマジに悪く思っているよ。文化祭で下手にトークイベントなんてやっちまったから、理化学波動研究同好会に余計に目を付けられているのは確かだろうね。」


 宗崎はかなり心配そうに俺と陽葵に声をかけた。


「三上も奥さんも、闇サークルから見れば、サークルの居場所が見つかって、カルト宗教との関係性が分かれば、お取り潰しになるから、お前をとっちめるか、奥さんを洗脳しようと必死なんだろうな。奥さんも含めて、そんな洗脳なんて効かないのは明らかなのに。」


「まぁ、そういう事だよ。前の寮長会議でも話した通り、陽葵の居場所を突き止めて、まずは陽葵を洗脳させようとして尾行をしているけど、今の保護体制が完璧だから、手の付けようがないのが現状だよ。それに、マークした場所で陽葵を待っていても、その場所にいないから、余計に不思議がっていると思う。」


 そんなことを話している間に宗崎の家に着くと、俺は2人をとりあえず降ろして、実行委員チームが何時も練習をしている体育館で待ち合わせることを話して、宗崎と村上は別れた。


 俺が宗崎の家から陽葵の家へと向かう最中に、陽葵が先ほどの話の続きを問いかけてくる。


「恭介さん、あのとき、わたしと白井さんが闇サークルに見つかったのは、学生委員会の佐藤さんが高木さんを通じてわたし達を呼び出した時に、会う場所を学生課に指定したのが良くなかったのよね?。本館の学生課に行くのには、嫌顔でも経済学部のキャンパスだと正門から出なくちゃいけないもの。」


「陽葵、そういうことだよ。理化学波動研究同好会の奴らは、学生委員の誰かの動きをマークしていると思うよ。たぶん延岡さんの取り巻きではないよ。佐藤さんのグループにいる誰かの委員と、闇サークルのメンバーの中に、同じ学部の同期がいるような気がしてならない。」


「そうよね。だって、延岡さんや古河さん、それに金谷さんたちが、工学部のキャンパスに来たときには、怪しい人たちがいたなんて報告がなかったものね。」


「そうなんだよ。あの時の学生委員会は緊急招集の形をとっていたけど、学生委員会の幹部は前もって知っていたからね。でもね、役職なしの学生委員はそれを知らない状態で、いきなり呼び出された訳だ。」


「あっ、そうすると、書記の佐藤さんの学部には犯人はいないわよね?。」


「陽葵、よく気づいたよ。だから、あの謝罪の時に尾行されたってことは、佐藤さんのグループの中に誰か同じ学部の同期がいるはずだけど、学部がバラバラすぎて絞れないから困ったよ。」


「そうよね。文学部から社会学部、経済学部に法学部、国際学部までいるから、わけが分からないわ…。」


「そうだね、少なくても理工学部ではないのは確かだし、経済学部に、あの闇サークルがいる可能性はゼロに近いよ。それなら、陽葵は常に学部内の人間から尾行されている筈だからさ。」


「恭介さんからそれを聞いて安心したわ。特定は難しいけど、うちの学部以外の学生に、闇サークルに関わっている人がいるのよね。嫌になっちゃうわ…。」


 俺は運転中なので、陽葵の頭をなでたいのを我慢して言葉を続ける。


「この詮索はキリながないから、今のところは対処療法しかないよ。こんな時に新島先輩がいれば、すぐにサークルのメンバーと活動している場所が判明したと思うのに。」


「その、前寮長の新島さんって、恭介さんがとても信頼するぐらいだから、かなり凄腕の人だったのね?」


「まぁね。最初は駄目な人だったけど、休学する前は少し改心して、俺を棚倉先輩の理不尽な要求から助けてくれる存在だったんだよ。あの気難しい棚倉先輩を制御できるのは、新島先輩か、棚倉先輩の彼女さんぐらいだからさ…。」


「ふふっ、その棚倉さんを制御できる人の中に、恭介さんが抜けているわよ。それにしても、なんで、その新島さんが、そこまでサークルに詳しいの?」


「新島先輩は、教育学部のガラの悪い先輩に気に入られてしまって、寮長に就任してしばらくしてから、サークルとコンパ漬けの毎日で、寮にほとんどいない日が多かったんだよ。そこまでしてサークルを渡り歩いて集めた情報は、闇サークルまで網羅されていたらしい。」


「え~~。それで、棚倉さんも、同じ学部の泰田さんも、新島さんのことは、あまり良く思っていないのね。」


「まぁ、そんなところだよ。だけど、何度も言うけど、前期の終わり頃から彼は改心したところがあってね、その後はまともな寮長さんだったから、俺も随分と救われたけどね…。」


「もしかして、恭介さん。棚倉さんが話していた事があったけど、寮生がしつこいサークルに絡まれたときに、そのサークルに乗り込んで寮生を救ったのって、新島さんのお陰なの?」


「陽葵、その通りなんだよ。だからこそ、新島先輩はこの事件の手がかりを知る唯一の存在なんだよ。」


 そんな事を話していると、陽葵の家に着いて、すぐさま、陽葵の母親の買い出しに付き合う、週末恒例のイベントが始まった。


「恭介さん、いつも、ごめんなさいね。今日はバレーボールの練習があるから、夕飯は陽葵と一緒にいらないけど、買いだめはしたいから、お願いね。」


「いえいえ、いつもお世話になっているから、これぐらいは手伝わないと、私もバチが当たります。」


「恭介さんはそんなこと言わないでね。もう、うちの家族と同じなんだから。」


 陽葵のお母さんから、そんなことを言われると、両親公認という立場はある意味で最強のような気がしてきた。


 俺や陽葵の姉弟、それに母親と一緒に車に乗り込むと、スーパーとディスカウントストアを巡る、いつものスーパーのハシゴをする。


 それが終わって、俺と陽葵は、冷凍食品のスパゲティーなどを口にしながら、颯太くんの宿題を見てあげている最中に、声をかけられた。


「恭介お兄ちゃん、ボクが寝る前にお姉ちゃんと帰ってくるなら、一緒にゲームをしようよ。明日はお姉ちゃんと用事があって、夜遅くまで出かけるから、今日しか時間がないから、チョットだけ寂しくて。」


 実は颯太くんにはテーマパークに行くことは内緒にしてある。

 俺と陽葵の二人っきりで行くと言った途端に、一緒に行きたいと颯太くんがダダをこねる可能性があって、陽葵の両親が気を遣って、内緒にしてたのが実情だ。


「そうだね、家に戻ってきたら、一緒にゲームをしようね。」


 颯太くんはかなり嬉しそうにしているが、テーマパークのことを隠していることを思うと、少しだけ笑顔が苦笑いに変わってしまっている自分がいた。


 このあと、急いで陽葵の部屋で練習のためにジャージに着替えたのだが、俺も陽葵も、微妙に疲れているせいか、陽葵と同時に部屋に入ってしまって、お互いが着替えようとしたところで、今の状況にハッと気づく。


「恭介さんのエッチ♡。恭介さんに、わたしの下着をしっかりと見られても、もう、大丈夫よ。そんなに遠慮する仲じゃないわよね。裸なんて何回もみているわ♡。このまま一緒に着替えましょ♡」


 俺も陽葵も、ある種の羞恥と本能をこらえながら、互いにクスリと笑いながら着替えていたが、互いに下着になった時点で、自然と近寄って、最後には、どちらともなく、自然にギュッと抱きしめ合ってしまった。


「もぉ、恭介さんったら、このまま抱かれたら、練習どころではなくなるわ。分かっているけど、こうなってしまうから、着替えは危ないのよね…。」


「陽葵、そうだよね。もうね、大好きすぎて、本能が勝っちゃうから、ここは我慢して練習に集中しようね…。」


 俺と陽葵は下着で抱き合いながらも、激しいキスをすると、それ以上の行為を我慢しながらジャージに着替えて、なんとか理性を保つ。


 そして、練習をする体育館に行くために車に乗り込んだ。


「体育館に行く前に、ガソリンを入れるから、寄り道をするよ…。」


 俺は車のエンジンをかけて、例の体育館に向けて出発したのだった。

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