学生委員会終了後、俺や陽葵、高木さんと浜井教授、それに延岡さんや古河さん、内藤さんや、金谷さんたちで、皆が帰った後も講義室で少しだけ雑談をしていた。
雑談と言っても主に浜井教授と俺の関係性について、延岡さんを中心にして色々と聞かれてる状況だし、浜井教授も俺の質問に答えるために居残っているので、その付き添いで高木さんもいる。
最初に浜井教授から俺へのツッコミが入った。
「三上君、高木さんや理事から聞いたのだが、体育祭が終わっても、泰田さんや牧埜君たちとの縁が切れずに練習をしていると言うじゃないか。それに、霧島さんが狙われた時にも、泰田さんの面々が助けたのは鼻が高かったぞ。」
「教授、その節は泰田さんたちに助けて頂いて、本当に助かりました。来年の体育祭も私の外部委員入りが確実だと思うのですが、来年に向けてバレーボールの練習が始まっていますし、実は霧島さんも、その練習に参加していまして…。」
浜井教授が陽葵が実行委員チームの練習に加わっている事を知ると、とても驚いたような顔している。
「おおっ、霧島さんまでバレーボールのチームに加わっているとは思いも寄らなかったよ。霧島さんも、三上君と一緒に来年の外部委員を頼む。君たち2人が体育祭実行委員会にいることで、学生達もやる気を出すだろうし、私たちも色々と、やりやすいのだよ。」
『たぶん、大学理事や教育学部の教授達に、俺がウケている側面あるんだろうなぁ…。これはマズい事になっている。ホントはこんな面倒なことは避けたいんだよ…。』
陽葵が俺と浜井教授との会話を聞いていて、慌てて教授に返事を返す。
「はっ、浜井教授、ぜひとも、きょうす…いや、三上さんと一緒に委員会をやらせて下さい。泰田さんたちのお話を聞いて、他の学部の体育祭の様子を見られるなんて、またとない機会ですから、今から楽しみです。」
その会話に横から高木さんが入ってきた。
「ふふっ。三上くんも霧島さんも完全に、教育学部の体育祭の顔ね…。ところで、この後の学生委員会のコンパだけど、三上君と霧島さんは安全上の理由から欠席になるわ。このままゼミが終わった泰田さんたちと、一緒にバスに乗ってね。」
特に車での通学の件は極秘裏になっているから、高木さんがバスに乗ってとの言葉は、車で家に大人しく帰ってくれの意であるのは言うまでもない。
俺たちがコンパに出られない話を聞いて、ガッカリしたのは、その場にいる俺と陽葵を除く全員だった。
誰よりも先に、浜井教授が渋い顔をして、眉間に皺を寄せながら高木さんに問いかける。
「高木さん、理事や有坂君から話を聞いて、三上君や霧島さんの現状を把握していますが、1次コンパは無理でも、2次会はどうでしょうか?。このままでは彼らの交流の場が失われて可哀想ですし、大学から随分と離れた場所でやれば、安全確保ができるはずなのでは?。今日は金曜日ですし、講義やゼミなど学業への影響もないでしょう。」
『この手の教授って、ゼミでも飲み会とか何かの企画好きだろうから、下手すれば合宿とかもありそうだな?。ああ…、たぶん、また、あの居酒屋か…。今日は大好きな陽葵ちゃん成分が補充できると思ったのに…。まぁ、いいか。夜になればスリスリもチューもできるから、俺は幸せだから我慢しなきゃ…。』
この頃から、三上恭介はSNSで嫁成分が足りないなどと、社会に出て結婚してから大っぴらに書き込むような要素が見え隠れしているのだが、この頃は陽葵に対しての態度を公私で分けているから、少なくても表向きの対応は極めて普通だ。
まぁ…、そんな俺の心の叫びは置いといて…。
浜井教授が2次会を提案した時点で、陽葵を含む皆は喜んでいるようだし、陽葵は延岡さんや南部さんとなら、気軽に話しても気が合うと思ったに違いない。
延岡さんが高木さんからOKが出る前に、先回りをするように浜井教授に進言した。
「浜井教授。そうすると、教授も含めて例の居酒屋ですか?。そうすれば、霧島さんたちはバスやタクシーで帰られますし、仮に遅くなったとしても、三上さんは寮に帰らずに霧島さんの家に泊まれますからね。三上さんと霧島さんは親公認なので、とても羨ましいのですが…。」
延岡さんが浜井教授にそう言った時点で、高木さんが苦笑いしているから、あそこの居酒屋で2次会をするのは決定事項なのだろう。
「前回の学生委員会の2次会の居酒屋は、私のマンションからも近いのでね、家に帰るのも好都合だし、この前、私の女房を連れてきたように、食事も兼ねてしまえば一気に済むのだよ。そうそう、ついでに有坂君も呼ぶとしよう…。そうすれば、三上君や霧島さんに何かあっても大丈夫だろうし。」
『あ゛ぁ????』
俺は、浜井教授が有坂教授を呼ぶと聞いて戦々恐々としていた。
有坂教授は浜井教授の学生時代の後輩だから、意地でも飲み会に来るだろうし、俺と親ほど離れているような世代にとって、お世話になった先輩の誘いなんて、絶対命令に近いだろう。
ただ、コレについては高木さんから少しだけ助け船が入った。
「浜井教授、有坂教授は来週から、メインの学会ではなく、別の学会があるので、研究室に籠もりっきりで忙殺されているのではないかと。」
『そうだった、来週は有坂教授の講義が金曜日までなかったはずだ』
「おおっ、忘れていた。高木さん、思い出してくれて助かった…。」
浜井教授は少しだけ残念そうな顔をしていたが、俺は内心はホッとしていた。
その後、二次会のコンパは夜の8時頃から例の居酒屋で集まることになった。
俺と陽葵は、陽葵のお母さんの買いだめに付き合った後に、軽く夕食を済ませて二次会に散会する形になるだろう。
もう、陽葵は母親の携帯に、俺と一緒に2次会に参加する連絡を入れている。
そのうちに、講義室に泰田さんと仲村さん、それに守さんが入ってきて、3人は浜井教授が学生委員会の担当教授であることに驚いていた。
「学生委員会のことは高木さんから聞いていたので、三上さんと霧島さんを迎えにきたのですが…。まっ、まさか、浜井教授がここにいるなんて、吃驚しました。」
泰田さんが浜井教授に驚いたことを話すと、浜井教授はニコリと笑って3人に向かって話しかけた。
「いやはや。私も君たちが、体育祭での縁を忘れずに三上君たちと交流をしていて、三上君や霧島さんを見守ってくれているとは思わなかった。そうそう、学生委員会の2次コンパに君たちも参加しないか?。私も一緒に参加するし、三上君や霧島さんは、安全上の理由から1次コンパは不参加なので、彼らを勇気づけたくてね…」
泰田さんは即答だった。
「はい。是非参加させて下さい。守さんや仲村さんも同じだと思いますから、3人で一緒に行きましょう。」
それを聞いて喜んだのは延岡さんや金谷さんだ。
「泰田さん、2次会はこの前の学生寮のコンパでやった居酒屋よ。あそこはお馴染みだから気が楽で良いわ…」
「そうよね、うちの実行委員チームもそうだけど、結局はあそこになってしまうのよね。」
泰田さんは少しだけ微笑みを浮かべながら、延岡さんの言葉を返した。
俺は、早々に退散したかったので、とりあえず延岡さんに2次会の会費を払って早々に陽葵の家に車で向かうことにした。
延岡さんに俺が会費を払ったので、陽葵や泰田さん達が慌てて財布を取り出して、延岡さんに会費を払っている。
そして、皆がお金を払ったのを見届けたところで、俺は早々に、ここから退散することにした。
「皆さん、また後で…。まずは霧島さんを家まで送り届けないと駄目なので…。」
俺や陽葵、それに泰田さんたちが講義室から出ると、高木さんも後ろからついてきて、エレベーターに乗り込んだ時に高木さんが俺たちに向かってボソッと用件を伝えてきた。
「三上くんは飲まないから、居酒屋まで車で来て構わないけど、駐車場は離れた場所に駐めてね。夜だからナンバーは暗くて分からないと思うけどね…。あと、自動車通学の件は極秘だから、頃合いを見て、バレないように、二人を安全上の理由から途中退席させるから安心してね。」
それを聞いた泰田さんや守さん、仲村さんまで静かにうなずいているから、上手い連携が取れそうな雰囲気で俺は内心、ホッとして力が抜けてしまった。
「高木さん、了解しました。それよりも、陽葵のお母さんの付き添いで、3件のスーパーと、1件のディスカウントストアに車で行かなきゃならないので、今はそっちで頭がいっぱいですが、上手くやりますよ。」
その俺の言葉に、皆は一斉に笑い出す。
「三上くんは、霧島さんのご両親からも完全に信頼されているのね。たしかに車があれば、買いだめができるから、スーパーをハシゴしたくなるのは、私も分かるわ。広告と睨めっこして、安いスーパーをめぐるのよね…」
「高木さん、もう、完全に慣れましたよ。最初は道がうろ覚えでしたが、今は何となく、陽葵の家の周辺の地理関係が分かってきた感じです…」
俺たちはエレベーターを降りると、本館のキャンパスを出て、工学部のキャンパスが乗り入れるバス停へと向かう。
工学部のキャンパスに向かうバス停は、多くの学生が使うバスとは全く違う方向だから、理化学波動研究同好会のメンバーは予想外すぎて、見張りの目をかいくぐったのは大きかった。
この日はまだ時間も早かったから、泰田さんたちは、まだゼミや講義もあったことから、バス停までの見送りとなったが、あたりを見渡しても、不審者が見ているようなコトはなかったのでホッとしながら、陽葵と一緒にバスに乗り込んだ。
「では、今夜、2次会でよろしくお願いしますね。」
泰田さんは、万遍の笑みで俺と陽葵にそう言うと、手を振って少し名残惜しそうに、俺たちを見送ったのである。
あまり人が乗っていないバスに揺られながら、陽葵はこの後の予定について、俺に尋ねてきた。
「恭介さん、買い物は、颯太が帰ってきてからだから、まだ時間が余っているのよね…。お母さんからそれまでは、大学で課題をしながら暇を潰していれば…なんて言われたけど、このまま工学部の食堂に行っても、本橋さんや村上さん、宗崎さんもいなわよね…。」
「そうなんだよね…。課題はもう午前中のうちに終わっているし、陽葵の家に泊まるために、それなりの準備をして大学へ行っているから、寮に戻る余地もないしなぁ…」
俺は陽葵が大好きなあまり、ある種の提案をしようとしたが、ここはバスの中なので、それを声に出すのはためらった。
「そうよね…。とりあえず、どうしようか…」
陽葵は俺の右手を握ろうとしたが、 乗客が少ないとは言え、周りの目があるから、思いとどまったのがすぐに分かった。
俺も陽葵の頭をなでたいのを我慢すると、遠回しに小声で陽葵を誘ってみた…。
「陽葵…。このあと、初めて行ったあそこに行って、すこし社会勉強をしようか…」
俺の誘いに、陽葵は、ほんのりと顔を赤らめている。
「もぉ…。いいわよ♡。…恭介さんはエッチなんだから♡。」
俺と陽葵は工学部のキャンパスの裏門にあるバス停で降りると、そそくさと車に乗り込んで、車の中で二人きりの空間になると、思いっきり言いたかったことをぶつけた。
「恭介さん♡。もうね、先週の週末は寮の用事で、わたしの家に泊まれなかったから、2週間ぐらいご無沙汰なのよ♡。今すぐにでも激しく抱かれたいの♡」
「陽葵…、俺も我慢できない…。ずっと陽葵を抱きしめたかった…。」
そして、車で例のホテルに向かうと、俺と陽葵は、時間まで激しく愛しあったのである…。