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~エピソード9~ ② 三上さん、学生委員会で持ち味を遺憾なく発揮する。~2~

 委員会の開始時間間際になって、担当教授や高木さんも講義室に入ってきたが、3人いる担当教授の中に見覚えのある顔を見つけて、俺はすぐさま席から立ち上がって頭を下げた。


 その見覚えのある教授が俺に近づいてきたので、周りはとても驚いた顔をしながら、俺に注目をしている。


「浜井教授。実行委員会の打ち上げ会以来で、お久しぶりです。まさか、学生委員会も担当しているとは思わず、吃驚しています。」


「お久しぶりだね。三上君にはすまない事をした。私から有坂君に伝えるのを忘れてしまってな。この担当になったのが後期からでね。三上君が学生委員会入りをすると聞いて、驚いていたのだよ。この背景にある理事の件も知っているから、私は立場上、何も言えないが、ウチの体育祭が始まったら、抜けても構わんよ。私は君の事情と背景も把握しているから、率直にそう思っているからね。」


「浜井教授、ご配慮のほど有り難く思います。学生寮の案件もあるので、なかなかに難しい仕事になりますから…。」


 俺は高木さんのほうをチラッと見ながら、そう返すと、浜井教授は目を閉じてシッカリとうなずいた。

 そして、教授は陽葵にも声をかける。


「霧島さんのことは、有坂君や高木さんから聞いているよ。君はまだ1年だから、知らない事も多いだろうけど、三上君の補佐に徹してもらえば、大丈夫だからね。」


 陽葵がそれを聞いて慌てて、浜井教授に挨拶をした。


「きょっ、きょ、教授、初めまして。経済学部1年の霧島陽葵と申します。三上さんが、学生委員会の担当の教授を知っているとは思わず、かなり吃驚しています…。」


 浜井教授は陽葵の慌てた姿を見て、優しくニッコリと笑っている。


 延岡さんや内藤さん、金谷さんや南部さんや、他の委員たちもポカンと口をあけたままだし、隣にいる陽葵は、訳が分からずに、首をかしげっぱなしだ。


 ふと、高木さんを見ると、それを見てニヤリとしていたのがチョイと怖かった。


『高木さんは、浜井教授が学生委員会の担当であることを俺にあえて言わないことで、この関係性を委員達に見せつけて、俺の立ち位置を良くしようと思ったのだろうね…。』


 俺を敵視していた、書記の佐藤さんや、その仲間は、怪訝そうな顔をしながらも驚いた様子で俺を見ているのが明らかに分かる。


 この空気を察した浜井教授が、委員や担当の教授たちに、俺と陽葵を紹介した。


「皆さん、委員会開始前に私事を挟んですまない。この二人の学生は、三上君と、霧島さんだ。三上君は、私の後輩の教授の教え子でね。うちの学部の体育祭実行委員会で、実行委員長代理として、私も吃驚するぐらい有能な働きをしているから、実力は私がお墨付きを与えるよ。」


 もう、こうなったら、延岡さんが出るような幕はないし、浜井教授によって、食事中のブリーフィングが無駄になったが、その効果は絶大すぎた。


 その後はすぐに委員会に入った。


 最初は、文化祭実行委員会からの事業報告という形で、金谷さんが、学生委員会の面々が協力してくれたお礼を述べて、文化祭が大成功に終わったことを強調して満場一致の拍手で終わった。


 無論、俺のことも褒めちぎっていたが、恥ずかしすぎるから、すぐここから逃げたいだけだ。


 浜井教授は、金谷さんが混乱しているなかで、俺が的確に指揮をとって、俺のトークイベントが大成功に終わったことを、とても嬉しそうに聞いていた。


 俺が、教育学部の体育祭実行委員のメンバーと未だに密接な繋がりがあって、相当な協力体制ができていたことを、驚きを持って聞いていたのが印象的だった。


 その後に、俺が作った例の資料に延岡さんたちが学生課のコメントを加えたものが、委員や担当教授たちに配られて、それを目した委員達から、驚きとざわめきが起こっている。


 学生委員会の幹部には事前に配られていたので、書記の佐藤さんを含めたメンバーは、俺を怪訝そうな顔で睨みつけていた。


 それを察した浜井教授が席を立って、この資料を持って口を開く。

「佐藤君、この資料を見て信じがたいような目で、三上君を見てしまうのは、皆さんの生活環境では、仕方がないのだろうな…。」


 浜井教授から声をかけられた書記の佐藤さんは、少しビクッとした表情をして、浜井教授の問いに答えた。


「三上さんが書いた報告書は、にわかに信じられません。こんなにも大学に悪質なサークルがはびこっていて、ネズミ講や、安保の残滓なども書かれているとなると…。これは、オーバーすぎませんか?」


 浜井教授は、佐藤さんを見て、静かに首を横にふっている。


「佐藤君、それは違うのだよ。私はね、学生時代、陸上部の寮で、三上君のように後輩と一緒に、寮の仕事をやったことがあってね…。」


 ふと、高木さんを見ると、静かに微笑んでいるから、俺は背筋が寒くなるような思いがしてきたが、ここは平静を装って、浜井教授の話に耳を傾けた。


「私が寮にいた当時から、安保の匂いが残る団体やサークルがあるのはお約束だし、今もなお、この問題を抱えているのを知っているぞ。そういう輩に絡まれたら厄介だろう。それに、サークルを装った奇妙な売り込みや、寮に押し売りなどを行う悪質業者も、その当時からいたのだよ…。」


 ここで、書記の佐藤さんは、教授に納得しない様子で少しだけ噛みつくように言葉を返す。


「教授、では、大学側は、そんな深刻な案件を今まで放置していたと?。なぜ、学生委員会に報告がないのですか?。私たちは、この資料に虚偽がないか、とても懐疑的に思っているのです。」


 そこで、高木さんは、浜井教授と視線を合わせると立ち上がった。


「学生課で一般学生寮や運動部の寮の管理などを担当している、高木恵子です。ちなみに、私が大学職員になった当初から、浜井教授の寮の担当もしていました。」


 もう、この段階で俺は、一種の笑いをこらえるのに必死になって、平静を装うので精一杯の状況になっている。


 その様子を陽葵が不思議そうに見ているが、俺はそれに構っている余裕がない。


「その当時から、ここに列挙された問題サークルに関しては、三上寮長のような寮幹部が学生課にすぐに報告して対処するようなホットラインが構築されています。私たちも大学の理事に随時、報告をしていたのですが、理事がなかなか取り上げない状況が続いていますから、学生委員会にフィードバックをされない状態でしたからね。」


 この高木さんの発言で、徐々に追い込まれたのは俺を怪訝そうに見ている反対派のグループだ。

 書記の佐藤さんが、高木さんに噛みついたように意見を吐く。


「私はとても納得できません。特に、三上さんが書いた、外国人の麻薬密売人のケースなどは、私たちに報告があってしかるべきでしょ?。大学側は何をやっているのですか?。これは完全に警察沙汰じゃないですか?。こんなの虚偽報告に決まっているでしょ!!」


 その書記の佐藤さんの反論を受け止めた高木さんは、とても穏やかな表情で微笑んでいるから、俺としては、とても怖い状況だと察した。


『こりゃぁ、高木さんは危ねぇなぁ…。佐藤さんは今後の発言を間違ったら、お怒りを買って、トンデモねぇ事になるぞ…。』


 たぶん、浜井教授も、延岡さんや金谷さんたちも、陽葵すらも同じ事を思ったらしく、苦笑いが止まらない状況になっている。


 高木さんは穏やかな笑みを浮かべながら、佐藤さんの噛みつきに対して、冷静に言葉を返す。

 学生課で色々な相談を受けている身とあって、年の功もあるから、こんな若造の噛みつきなどには、動じることなんてないだろう。


「佐藤さん。この麻薬密売人に絡まれた張本人が、貴方の目の前にいたとしたら、その発言を訂正できますか?」


「それはそうですよ!!。被害者や証人がいるなら、私はその人達から事情を聞いて認めましょう。」


『ああ…。もう、佐藤さんは詰んだな…』


「そうね…。その被害者は、そこにいる三上くんよ。まだ、寮生活が始まって不慣れな1年生の時に、休日の夜になって夕食を買いに行った際に、麻薬密売人に追いかけられて、警察署に駆け込んだのよ。そして、寮から連絡を受けて、警察の事情聴取に付き添ったのは私よ。」


 それを聞いた、俺に懐疑的だったメンバーは、呆然として口を開けたままになっている。


「そっ、そんな馬鹿な!!。」


 俺はそこで、佐藤さんに穏やかに語りかけた。


「佐藤さん、学生寮生って、私のような田舎者が、このような都市部に出てくるから、とにかく、この手の犯罪者や詐欺師の類に狙われやすい側面があるのです。あの時は1年生で、しかも、入学して2ヶ月程度で不慣れな時期でしたからね。その外国人の密売人は、その後に、寮周辺をうろついているのをパトロールをしていた警察に現行犯逮捕されましたが、寮生を狙おうと画策した自供があったようですからね。」


「三上くん、その通りよ。大学側は、このあと警察との連携で、寮生を狙っていることが判明したから、全寮生を食堂に集めて、私や上司が注意喚起を行った後に、運動部の寮生にも同じように注意をしたのよ。」


 ここから、佐藤さんの出る幕がなくなって、俺と高木さんの言葉を、顔を青くしながら単に聞くだけの役割になってしまった。


「そればかりではありません。問題サークルの強引な勧誘に関しても、今回の、霧島さんが主に被害を受けた暴漢事件もそうですが、これらは、元を正せば、闇サークルや問題サークルが引き起こした案件ですからね。」


 ここで延岡さんが立ち上がって、反対派を完全に黙らせるため、最後にダメ押しをしする。


「それを学生課を通じて知ったからこそ、私は現実から目を背けずに対処しようと思ったのよ。闇サークルはなどは、大学側が何らかの対処をすれば、すぐに雲隠れをしてしまうの。中には婦女暴行を目的とするような危険なサークルもあるし、霧島さんを襲ったのはカルト宗教系の闇営業的なサークルよ。私たちはこれらの注意喚起と、問題があるサークルを強制排除する必要があるわ。」


 もう、反対派からは、それに反論するような気力なんて、完全に失せてしまった感じである。

 それよりも、目前に起こっている対処について、どうするべきか右往左往している様子だ。


 この後、高木さんから、今後、寮生や学生で同様のケースがあれば、学生委員会にも積極的に報告をして延岡さんのほうから、皆に対処や注意喚起の方法に関して、提案をしていく形がとられることになった。


 かくして、俺と陽葵が初めて参加した学生委員会は、平穏無事に終わったのである…。

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