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~エピソード8~ ⑰ やっぱりドタバタはまだ続くのだろうか…。~2~

 陽葵の携帯から松尾さんの電話があった後…。


 しばらくして、俺はそんなことを考えても仕方がないので、とりあえずは、目前の魚市場に向けて気持ちを切り替える。


「そろそろ、魚市場に行くのに高速を降りますからね。陽葵、今日は寮長会議があるから、高速道路の領収書やガソリンの領収書を、高木さんについでに渡すから、しっかり持っていてね…。」


 陽葵にそんな言葉を投げかけると、すでにポーチから領収書やお金の入った袋を取り出して、お金を支払うに準備をしているのが横目で見えた。


「大丈夫だわ。今日中に高木さんに渡せるなら、恭介さんもわたしもラッキーだわ。それに、高木さんから1度ぐらいなら、高速道路を途中で降りても大丈夫だと言われてホッとしたのよ。これだけの距離だから、目的地に着ければ基本的には大丈夫だと言ってくれたから、気楽でいいわ…。」


 そうして、高速道路から降りると海沿いのインターチェンジなので、車で10分ぐらい走ったところに魚市場があるが、観光シーズンから少し外れた時期なので、比較的に道路が空いている状況だったから、胸をなで下ろしている。


 俺はすぐに、観光スポットから離れている場所にある、ネタが新鮮な回転寿司に行くと、少しだけ待たされている間に、店の中をチラッと見ていた陽葵のお父さんが、吃驚しながら感想を漏らした。


「恭介くん、これは、私が接待で行くような寿司屋よりもズッと安いし、それでいて、ネタが新鮮そうだから期待感が凄い…。私も一貫で何万もするような最高級の味は分からないから、これでも有り難みが感じられそうだよ。」


 陽葵のお父さんに続いて、お母さんまでもが興味津々だ。


「ふふっ、みんな、値段はあまり気にせずに、好きな皿を取っていいわよ。それに、テーブル席だと寿司職人さんが、サービスをしながら、注文したネタをすぐに握ってくれるのも良いわね…」


 しばらくして、俺たちはテーブル席に案内されると、陽葵や颯太くんは目を輝かせているし、目の前に居る寿司職人さんにネタを頼むとサッと握ってくれるから、みんなから笑みがこぼれている。


「寿司のネタが、恭介さんのご両親が連れて行ってくれた、お店のお刺身と変わらないわよ。あのお刺身がお寿司になった感じだから、これは贅沢すぎるわ…。」


 陽葵は新鮮なネタのお寿司にハマっている感じだ。


『まぁ、高級店だと包丁さばきや握りかたの技術料とブランド代で取られちゃうけど、俺みたいな一般庶民にとっては、このレベルでも贅沢だからな。』


「いやぁ、恭介くん。お父さんが知っているお店とは言えども、穴場をよく知っているね。空いているのに質が高い店が多いから、あのお店と合わせて、何度でも通いたいぐらいだよ…」


 陽葵のお父さんは、地魚のヒラメの握りを食べながら、美味しそうに俺につぶやく。


 皆が各々のネタを味わうと、店から出ようとしたところで、俺の食欲があまりないことに陽葵のお母さんが気づいて心配をしている。


「恭介さん、あまり食欲がないようだけど、色々とありすぎて疲れちゃったの?。昨日の夜から、忙しすぎて、あまり食べていないことを聞いて、凄く心配だわ…。だって今日の朝も、普通だったし、お昼も陽葵とあまり代わらない量だったわ…」


 昨夜の夜から飯抜き状態でバーベキューをやっていた時点で、疲労が蓄積されていて、食欲があまりなくなっていた。


 本音では、陽葵の家族達を家に帰したところで、寮でゆっくり寝たかったのだ。

 出発の前夜は実行委員チームのコンパだったし、昨日はあんな感じでドタバタだったし、今日も夜から緊急の寮長会議では休まる時間がない…。


 それに、俺としてみれば、お付き合いとは言え、これだけ刺身続きだと、正直、飽きてしまう側面もあった。


 俺は、寮に戻った後に、深夜まで空いているラーメン屋に行って、あっさりしたラーメンに炒飯と餃子が食べたい気分である。


 ただ、これを表に出してしまうと、陽葵も五月蝿いし、周りに気を遣わせてしまうから、とっさにその場を誤魔化す嘘をついた。


「昨日、あれだけ夜食を食べたので、少しだけ控えているのですが…。あっ、そうか、陽葵しか知らないか…。」


 陽葵はその言葉に納得して、少し苦笑いを浮かべている。


「恭介さん、コンビニで買ったざるそばに、サンドイッチと、延岡理事が来たときの余り物をほとんど平らげたわよね。でも、あれはお腹が減っていたから仕方がないと思ったわ。」


 陽葵の言葉に陽葵の両親や、颯太くんまでホッとした表情を浮かべていたから、俺はその場を切り抜けられて、内心は胸をなで下ろす。


 店から出ると俺たちは車に乗り込んで、陽葵の家族たちを連れて魚市場の駐車場に車を駐めると、目の前がすぐに海なので、景色が良くて、陽葵のお父さんはすぐに写真を撮っている。


 俺は魚市場に案内すると、この魚市場は綺麗だし、お惣菜なども売っていたりするので、陽葵の家族たちが、色々と悩んでいるようだ。


 陽葵や颯太くんも、お父さんとお母さんのそばで一緒に悩んでいる感じだ。


 俺はそれを見て、コッソリと抜け出して、隣の棟にある、お土産物産コーナーに向かった。

 そこで、陽葵や颯太くんや、寮長会議に出席する人のお土産を渡すために、チョコレート系のお菓子を幾つか買いつつ、少し値段の張る栄養ドリンクを2つ買う。


『1日に2本飲むのはやばいけど、寮長会議が乗り切れない…』


 俺はお土産物産コーナーから出ると、自販機の裏のほうでコッソリと栄養ドリンクを飲んで、自販機の脇にある空き瓶入れに入れて、もう1つは上着の内ポケットに忍ばせた。


 そして、陽葵たちがいる魚市場に再び向かった時点で、陽葵が俺を探しに来て、俺がお菓子を買ったのを見ると少しだけ顔を膨らませた。


「恭介さんは油断がならないのよ。昨日の水族館のチケットもそうだったけど、それは、わたしや颯太のお菓子…それに、寮長会議の時にみんなに出すものもあるわよね?」


 陽葵の指摘はもの凄く鋭かったが、栄養ドリンクを買ったことがバレなかったので、ホッとしている自分がいた。


「ごっ、ごめんね。真剣に悩んでいるようだったから、邪魔をしてはいけないと思ってね…」


 そのうちに、陽葵の両親や颯太くんが幾つかの買い物袋を手にしていて、中には、お刺身のさくや、はまぐり、それに惣菜なども袋に入っているのが見える。


 それをクーラーボックスの中に入れると、俺はみんなが乗ったことを確認して、陽葵の家に向けて車をひたすら走らせた。


 時折、サービスエリアやパーキングで休憩を挟みながら、車の中で色々な雑談をしつつ、あっという間に時は流れて、午後の3時頃になって陽葵の家に着いた。


 陽葵の家に着くと、家族で車の中にある荷物を全て降ろす。

 俺の為に両親が買ってくれた、カップラーメンやペットボトルのお茶、それに、お土産などは車のトランクに入ったままだ。


 荷物を降ろし終えたところで、少し陽葵の家でお茶を飲んで陽葵と一緒に寮を目指した。


 陽葵と一緒に車に乗ったところで、助手席から俺の顔を見た陽葵は、俺が疲れ気味であることに、ようやく気づく。


「恭介さん、顔色があまり良くないけど大丈夫?。寮に戻る時間を夕飯を食べてからにしたほうが…」


「陽葵。大丈夫だよ。ここから寮まで20分程度だし、今日は日曜日だから道路も混んでないし、大丈夫だよ。俺が寮に運び入れる荷物もあるし、みんなが心配しているだろうから…。」


 陽葵は俺の言葉に納得しいたが、その一方でとても心配そうに見つめているのが分かった。


「まずは、宗崎が言っていた市民運動公園の近くにあるセルフでガソリンを入れてしまおう。」


 今日は日曜日なので、大通りを走っても、道が全く混んでいないから、市民運動公園の近くにあるセルフのガソリンスタンドまで、あっという間に着く。


陽葵は車を降りてガソリンを入れる様子を観察しようとしている。

「恭介さん、さっきパネルを操作した後に、静電気防止シートに触ったけど、これってどうしてなの?」


 陽葵の問いに、俺は丁寧に解説をすることにする。


「ガソリンって、液体だけどさ、揮発しやすいんだ。その揮発したガスって、とても燃えやすい気体になってしまうから、静電気の火花だけでも引火しちゃうんだよ…。そうだね、この蓋を開けるから、少しだけ耳を澄ませてみな。」


 陽葵へ解説しながら、給油口のキャップを開けると、シュッと音が聞こえた。


「恭介さん、これがもしかして、キャップを開けるときに引火しやすいガスが出たの?」


「そういうことだよ。だから、最初に静電気防止シートに触るんだよ。キャップを開けた途端に、静電気が起きたら、爆発的に燃えてしまうこともあるからね…。」


 そう言いながら、俺は給油ノズルを刺してガソリンを給油している。


「普段は電車やタクシーばかりだから、こんなのを見たことがなくて、興味があるわ。なんだか違う世界を見ているようだわ…」


 俺はガソリンを入れ終わると、レシートを持って、釣り銭機でレシートを読み取ると、お釣りとレシートを陽葵に渡した。


 そうして、寮まで車を走らせたが、いつもよりも空いているから、あっという間に寮まで着く。


 俺は、松尾さんや調理師さんなどが利用している寮の関係者用の駐車場に車を駐めて、トランクを開けて荷物を取り出そうとしたところで、それに気づいた松尾さんや松尾さんの奥さんが、寮の隣にある家から出てきた。


「三上君、お疲れさま。相当に疲れただろ?。いま、受付をやっている諸岡君を呼んでくるから、無理をしないでくれ…」


 松尾さんが受付室まで急いで行っている姿を見て、松尾さんの奥さんが俺たちに話しかけてくる。


「三上くんも、霧島さんもお疲れさま。ふふっ、なんだか、私も初めて旦那の実家に挨拶に行ったときの事を思い出してしまったわ。でも、2人のご家族は、入院をしたときに顔を合わせているのよね?」


 俺がそれに答える前に、陽葵がニコッと笑いながら、言葉を取られてしまっていた。


「ええ、そうです。土曜日もそうでしたが、お互いの家族が和気藹々としている感じでしたし、緊張感もなくて…。なんだか、旅行をしている気分でした。」


 それを聞いた松尾さんの奥さんは、とても笑顔になっている。


「霧島さんも、三上くんも、それは良い関係だわ。なかなかお互いの家族が、和気藹々とするなんて、できないもの…」


 そんな話をしている間に、松尾さんや諸岡が俺の車にやってきて、トランクから荷物を降ろして、まずは寮監室へと荷物を運ぶことにした。


「三上寮長、お疲れさまです。三上寮長の車はマニュアル車ですか。スポーツカーみたいなタイプだし、格好いいですね。」


「スプリンタートレノのAE111だ。あの漫画の後継種だし、改造も全くしてないノーマルだけどね。」


 諸岡に乗っている車のことをボソッと話したが、反応が薄いところを見ると、車のことはあまり分かっていないようだし、陽葵なんかは余計に首をかしげている。


 俺は、陽葵を受付室に残して、棚倉先輩や寮の仲間に見つからないように、諸岡と一緒に、全ての荷物を俺の部屋に運び入れた。


「三上寮長、今日は寮長会議があるから大変ですよね…。夕食は、寮母さんがパンを作ってくれるらしいですけど…。」


「そうなんだよなぁ、たぶん、大学理事さんも来るかもしれないぞ…。」


 諸岡がそれを聞いてポカンと口を開けていたが、俺は部屋に入って、カップラーメンの箱を部屋の片隅に降ろすと、今から面倒な会議があることに嫌気が差して溜息をついた。


『やれやれ…、ここから面倒だよなぁ。』


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