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~エピソード8~ ⑰ やっぱりドタバタはまだ続くのだろうか…。~1~

 俺は仮眠をして目を覚ますと、まだ寝ている陽葵を起こさないようにソッと起きた。


 会社の事務所に行って、パソコンを立ち上げると、持ってきてあったメモリーカードから、陽葵の家で作っておいた年賀状のデータをコピーして、試作品を印刷しておいた。


 コピーする前に、念の為にウイルス対策ソフトをかけて、コンピューターウィルスの感染がないかをチェックする。


 そうしているうちに、親父が仏壇にあげる花を買ってきたらしく、俺が事務所にいるのを見つけて、花をカウンターの上に置くと事務所に入ってきた。


「恭介、ああ…、年賀状か。もう、そんな季節だよな…。」


 俺は幾つかのサンプルを印刷すると、親父にそれを見せて候補を選んでもらう。


「冬休みになって陽葵と一緒に帰ってきたら、一気に印刷するからね。陽葵の家の分も、こうやって頼まれてしまったから、ついでに作っておいたからさ…。」


「それで良いんだよ。お前は陽葵ちゃんの家でお世話になっているから、少しでも恩返しをしないとバチが当たるぞ。あの家は車がないから、買い物の付き合いも率先してやってやれ。あの事件が解決した後は、あんな場所では、ガソリン代も馬鹿にならないし、駐車場代が高すぎるから車が使えないのは当然だからな。車がある間は陽葵ちゃんの家に礼を尽くすのだよ。」


 親父は家へと戻っていったので、俺も早々に年賀状をサンプルを片付けて事務所から出る。

 俺が事務所から家に行こうとしたら、陽葵が起きていて、お袋と一緒に俺の車に荷物を詰め込んでいた。


「恭介さん、知らないうちに居なくなっているし、恭介さんのお父さんから年賀状をやっていたなんて聞いたから、油断ができないわ。」


「昨日の夜、やろうと思ったけど、延岡さんたちが来たりして、今日の朝もドタバタだったから、できなかったんだよ。何も予定がなければ、夕方に出発しても良かったけど、今日は寮の受付があるから夕方まで戻らないと、棚倉先輩や村上、それに諸岡の恨み節が聞こえそうで恐い。」


「それは仕方ないわ。1週間も寮にいなかったから、諸岡さんや棚倉さん、村上さんに負担がかかっているわよね…」


 そんな会話をしていると、お袋や親父が、陽葵の家に持たせるお土産で、野菜や冷凍の刺し身のさく、それに米を30kg持たせて、次々と車のトランクに入れていく。


 近くの養鶏場で買ってきた卵も入っているし、おつまみの乾物や、昨日、陽葵の両親が飲んでいた地酒も入っている。


「恭介の腕の具合があるから、いつもの30kgの米袋じゃなくて3袋に分けたからね。」


 うちの本家が農家なので、米は直接、本家から買い付けるから格安で手に入る上に、スーパーで買うお米よりもズッと美味しい。


 お袋が松尾さんや寮母さん、荒巻さん、高木さんに向けて温泉饅頭を買っていたが、そのついでに、棚倉先輩と村上、諸岡や、学部の友人たちに、うちの温泉街のお土産店で売っているクッキーを買ってくれたので助かった。


 お袋は想定以上に余分に買ってあったので、三鷹先輩や白井さん、大宮や竹田に渡しても大丈夫だろう。


 ここら辺は、俺が入院したときに寮の幹部が出入りしていたことが功を奏している。


 これもお袋が普段からの付き合いがある店で買ったのだろうが、商工会や習いごとがあって、顔が広いので、色々とあるのだろう。


 車で帰るので、お土産に容赦がないのは、行く時に分かっていたから覚悟ができていた。


 俺のために箱買いされたカップラーメンやペットボトルのお茶が入っているから、しばらくの間は、仕送りが尽きても困らないのは明らかだし、寮に戻ったら寮の仕事を任せている村上へや諸岡へのお礼ができると思った。


 棚倉先輩に関しては、カップラーメンをあまり食べないので、クッキーを余分にあげれば良いだろう。


 先輩曰く、カップラーメンを食べるぐらいなら、深夜まで空いているラーメン屋にお前を連れて行くと言うぐらい、ラーメンには少しこだわりがあるようだ。


 トランクの中が満載になった荷物を見た陽葵のお母さんが、びっくりしていた。


「本当に申し訳ないぐらい、たくさん頂いているから、ありがとうございます。それに、恭介さんが週末に車でウチに来れば、まとめ買いができて助かるから感謝しきりです。」


 そんな陽葵のお母さんの言葉に、お袋が陽葵の両親に首を振りながら答える。


「そんな事はないのよ。恭介なんて可哀想だと思うぐらい使ってやって。うちも陽葵ちゃんの家族には感謝しきれないぐらい、お世話になっているし、これからもズッと親戚付き合いをしないと駄目ですから。」


 もう、親同士は、完全に俺と陽葵が結婚しているのと、同様な調子になっている。


 親父は陽葵の家族に気を遣って、俺や陽葵だけ早々に帰して、もう少し家でゆっくりしてもらう事も考えたようだが、それだと親父が陽葵の家族を送っていくしかない。


 今は仕事が殺到して入っているらしく、俺たちが来るので土曜日を休みにさせた従業員も、来週からは土曜日まで出勤させてフル回転させると言っていた。


 仕送りが尽きることは当分の間はないだろうし、この大量のお土産は、仕事が忙しくて今のところ売り上げが上がっている事が反映されているのだろう。


 そうしているうちに、かなり遅くまで寝ていた陽葵のお父さんが起きてきて、俺の車のトランクに荷物を積もうとしたら、大量のお土産を見て驚くと、隣にいた親父に、頭を下げてお礼を言っていた。


「いやぁ~~。お父さん、こんなに貰って良いのですか?。食べ盛りの子が3人もいるから助かりますけど、なんだか気を遣わた上に、私たちにお酒やおつまみまで…。」


 もう、陽葵の家族にとって、俺も家族の一員に含まれている体裁だ。

 その陽葵のお父さんの感謝に、親父が答える。


「恭介の野郎がバカ食いするから、もう、大変だと思って…。陽葵ちゃんには、お弁当まで作ってもらっているし、これでは足りないぐらいですよ…」


 そんな会話を聞きながら、颯太くんを見ていると、りんごに慣れたようで、時にはりんごがお腹を見せているぐらい信頼関係が構築されたようだ。


「もう、りんごちゃんとお別れだよね。また、冬休みに家族と一緒に来るからね…。それまで待っているんだよ…。」


 心なしか、りんごは颯太くんや俺たちとお別れするのが分かって、寂しそうだった。


『もう11時半を回っているか…』


 少し遅れて出発する感じになったが、道中のICを降りて、あそこの魚市場で食べるのには、お昼時を避けられるから、混雑して並ぶ心配はないだろう。


 お袋から、あまり使っていないクーラーボックスに、陽葵の家族たちに送った刺し身のさくも入っているから、陽葵の家族たちが、あそこの魚市場に寄って何かを買ったとしても、容易に入るだろうし、保冷剤も入っているから、刺し身や生魚を買っても悪くならない。


『これだから余分に時間を見ておいて良かった。寮には4時過ぎに戻れば大丈夫だし…。それに魚市場に行ったら、昨日の余波で色々と買ってしまうに決まっている…。』


 荷物をトランクに詰め終わると、俺や陽葵、陽葵のお母さんは家に戻って忘れ物がないかを確認した後に家から出ると、颯太くんが名残惜しそうに、りんごの頭をなでている。


「颯太!。冬休みになれば恭介さんの家に来られるから、りんごちゃんと、しばらくのお別れよ。大丈夫だわ、また会えるから悲しくないわよ。」


 陽葵が颯太くんに呼びかけると、颯太くんは名残惜しそうにしていたが、未練を振り切るかのように俺の車に乗る。


 「忘れ物はないよね?。何度も確認したけど、これだけ荷物が多いから、何かを忘れる確率が高いからね…」


 そう言うと陽葵は、俺の確認にニコッと笑っている。

「大丈夫よ、もう、私もお母さんも何度も確認したから、大丈夫よ。」


 俺は車のエンジンをかけて、陽葵の家に向けて出発すると、親父やお袋、それに、柴犬のりんごまでもんが、少しだけ寂しそうにしている感じが漂っていた…。


「恭介お兄ちゃんのお家に泊まって、楽しかったよ。また、りんごちゃんと会いたいな!」

 颯太くんはしばらく、悲しそうな顔をしていたが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。


 帰りは行きとは違う道を通って、一般道を20分ぐらい走ると、高速道路に乗った。

 高速道路のインターチェンジがの付近は特に道が整備されているから、山道よりはズッと走りやすい。


「しかし、行きは山奥の道ばかりで吃驚したけど、普通に高速道路に乗れば、険しい道は避けられるのだね…」


 陽葵のお父さんが、サラッと高速道路に乗れたことに安堵をしている。

「ええ、そうなんですよ。行きはどうしても、レンタカーを返さないと駄目だったので、あんな峠道を走る羽目になってしまったから、早朝から出発するスケジュールだった訳です。」


「恭介さん、このあとは昨日とは別の魚市場で少し豪華な回転寿司に行くのよね?」

 陽葵お母さんが、後部座席からこの後の予定を俺に聞いてくる。


「そうですよ、このあと40~50分ぐらい走って、インターチェンジを降りて魚市場に向かいます。昨日、行った所よりも道も随分と開けていますし、もっと綺麗なので買いやすいと思いますよ。」


 回転寿司と聞いて、陽葵や颯太くんが、喜びを露わにしているのが、運転していても横目で分かった。


「昨日のお刺身の味が忘れられなくて、恭介さんのご両親からも冷凍のお刺身を貰っているけど、今日の夕飯は、お刺身や惣菜で済ませてしまおうと思っているのよ。お米や野菜もこんなに頂いたし、しばらくはお買い物も少なくて済むわ…」


 俺は、寮の受付があるし、明日は陽葵の夕食のお相伴にはあずかれない。

『今日は、久しぶりにコンビニ弁当でも買って、受付の時間を過ごすかな…』


 そんなことを考えながら俺は運転をしていると、陽葵のお母さんから、強く念を押された。


「もちろん、恭介さんもご一緒よ。寮の用事を済ませたら、車でウチに来て頂戴ね。」


「えっ…、ありがとうございます。でも、寮の用事が終わるのが夜遅くになるから、今日は…」


 陽葵のお母さんの強い押しに困っていると、陽葵の携帯が鳴って、慌てて陽葵が電話に出ると松尾さんからだった。


「霧島さん、おそらく三上くんは運転中だろうから、霧島さんの携帯電話をかけたのだよ。」

「松尾さん、すみません。皆さんにご心配をおかけしたと思うので、出発前にご一報をするべきでした…」

「いやいや、それは必要ないよ。逆に家族水入らずのお出かけだろうし、高速道路も日曜日の夕方になると混んでいて時間通りに寮に戻れないだろうから、三上君の受付は明日でも構わないよ。代わりに私がやっているから…」


 陽葵は、さっき陽葵のお母さんと、俺のとのやりとりを踏まえて、松尾さんの話に少しだけお願いをする。


「恭介さんは夕方に寮に戻りますが、夕食で夜の5時から7時ぐらいの間だけ、受付を抜けさせて下さい。それで今のところは大丈夫ですが、道路の状況によっては、また、松尾さんの携帯にお電話しますから…。」


 俺は、陽葵の電話のやりとりにうなずいてホッとした自分がいる…。

 陽葵が松尾さんと細かいやりとりをして、電話を切ると、さっきの電話の内容をザッと俺に伝えた。


「恭介さん、今日の受付は松尾さんがやってくれるらしいけど、やっぱり私も気が引けるから、夕方に帰ったら、夕飯に私の家に戻って食べにきてね。その後ね、明日の対策を踏まえて、緊急の寮長会議を7時頃からやるそうよ…。泰田さんや守さん、仲村さんたちも寮に来るらしいわ…。」


「陽葵、分かった。会議の送り迎えは俺の車だから安心して。前にもあったけど、寮母さんが作ったパンを配りながら寮長会議をやる感じだろうね。いまごろ、寮母さんもパンを焼くのに忙しいだろう…。」


「たぶん、明日から恭介さん車で通学することになるから、その対策の打ち合わせよね?」


「それがメインだろうね…。少し気になるのは、延岡理事の一声もあった気がするよ。昨日、陽葵の両親や、うちの両親に、車であっても安全確保は気を抜かないと言っていたから、そのシフトについて話し合われるかなと。」


「そうよね、延岡理事もそうとうに私たちのことを心配していたわよね…」


「俺が懸念しているのは、さらに、延岡理事も、あの旅館の帰り際に、寮に寄りそうな気がするんだよ…」


 陽葵は俺の嫌な予感を聞いて、目を見開いていた。


「きょっ、恭介さん、それはあり得るわ…」


 さらに陽葵のお父さんも、それに同意するような言葉を続ける。


「恭介くん、あの理事さんなら、それはあり得るよ。あの人は行動力が凄い人だし、今回の事件で、理事さんは、とても責任を感じているからね。それで、恭介くんや陽葵を守りたい気持ちが、昨日の話からヒシヒシと伝わっていたしね…。」


「それは絶対にあり得ると思います。陽葵が電車の中で後を追われて、警察に逃げ込んだ時も、延岡理事と延岡さんは、警察署まで来て私たちを心配していましたからね…」


 たぶんその予感は的中するだろうと思いながら、俺は少しだけ憂鬱な気持ちで車を運転していた。

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