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~エピソード8~ ⑮ ドタバタの後に訪れたホッとした時間。

 俺と陽葵はコンビニに寄ると、ざるそばとサンドイッチを手に取った。


 そんな俺を見た陽葵の顔が、少しだけ曇る。


「恭介さん、延岡理事たちが来たときに、お刺身とか食べ物があったのに、ほとんど手を付けなかったし、あそこの囲炉裏焼きの店での追加注文も断っていたわよね?。恭介さんが普段から食べているご飯を考えると、少なすぎだったから、心配だったの。」


 その陽葵の心配に、俺は素直に愚痴を言うことにした。


「うん、囲炉裏焼きは時間がかかるから、お風呂に入って早々に家に帰りたかったけど、結局、邪魔されちゃった。それと、うちの居間に、市場で買ったお刺身を並べたのは、明らかに俺や陽葵への罪滅ぼしだったけど、それも延岡理事や延岡さんに奪われたのが、明らかに分かったからね。」


「恭介さん、それは分かるわ。うちのお母さんがいたとしても、あの時間で、用意周到な準備ができるわけがないもの…。」


 陽葵も、そう言いながら、サラダパスタを手に取っていたから、少しだけ物足りていないようだ。

 それでも、あの時に大トロの刺身だけはペロリと食べていたから、俺よりはマシだろう。


 俺は、どうせお袋が金を出すからと陽葵を納得させて、陽葵のぶんも一緒に会計を済ませると、家に戻った。


 家に入ると、居間の座卓に置かれていた食器や余り物を、親父やお袋、陽葵の両親が片付けていたから、俺たちも、さっそく手伝う。


 親父やお袋は、かなり酒が強いが、陽葵の両親は弱いほうだから、二人とも酔っ払いながら手伝っているのが明らかだし、陽葵のお父さんの様子を見ると、座卓を片付けているが、足元がふらついている。


 俺は陽葵のお父さんの助太刀をして、少し台所のテーブルに座るように声をかけた。


 一方で、家事に関しては、陽葵の手際が良すぎるから、お袋がそれを見て、感心したように褒めちぎっている。


「陽葵ちゃん、ホントに助かるよ。もう、このまま一緒に暮らしたいぐらいだわ…」


 陽葵が頬を赤らめて恥じらいながらも、余った食材を綺麗により分けて、手際よく食器を洗っていた。


 その一方で俺は、明らかに足元が明らかにふらついている、陽葵のお父さんに代わって、親父と一緒に座卓や座布団を片付けると、俺は陽葵の両親に休みように勧めたが、なかなか動かない。


「私は、大丈夫ですから、お父さんもお母さんも、今日はだいぶ疲れたと思うので、布団に入って休んで下さい。明日はゆっくり寝ていても大丈夫ですから…」


 親父とお袋に、休むようにうながされると、布団が敷いてある客間で寝ることにしたようだ。


「お父さんもお母さんも、お酒の量がかなり多かったわ。あそこまで2人が酔ったの、久しぶりに見たかも…。」


 かなり酔っていたから、陽葵の両親は、ここが限界だったのだろう。


「恭介、陽葵ちゃんも、今日は本当にごめん!!。罪滅ぼしに、冷凍しておいた刺身や、買ってきたトロの柵なんかを奮発して出したけど、ほとんど延岡さんたちに取られちゃったからね…」


 お袋は、俺と陽葵がコンビニで夜食を買ってきた夜食がテーブルに置かれているのを見ると、俺と陽葵に平謝りだ…。


 片付けが終わった親父がダイニングテーブルに座って、溜息をつくと、お袋の謝罪に付け加えた。


「冬休みに陽葵ちゃんと一緒に帰ってきた時に、この埋め合わせはしよう。大学理事の延岡さんたちが来てしまったから、あのまま話だけをして帰すわけにもいかないだろうからね。囲炉裏焼きなんて時間が掛かるから、あんな時間に行って、腹いっぱいに食べられるわけがないと思ったよ…。」


 陽葵と一緒に、コンビニで買った夜食を広げると、延岡理事や延岡さんに出した余り物をテーブルに並べて、お袋が申し訳なさそうな顔をしてる。


「つい、恭介が便利だから、何も考えずに、こきを使う癖が出ちゃったよ。それで、恭介だけならまだしも、陽葵ちゃんも巻き込んでしまっているから、今回は大失敗もいいところだ…。」


 完全に反省しきりのお袋を見て、俺は長い溜息をつくと、ボソッと本音を吐く。


「何時ものことだし、振り回されるのは慣れているから、このさい諦めているよ。もう、みんなが飲んだ時点で、俺の送り迎えは決定事項だから、どうしようもない。俺が飯が食えないと訴えたところで、だれも運転できないから結論は同じだし、延岡理事たちが来たのは、運命の悪戯だから仕方ないし…。」


 溜息をつきながら、俺は余りものをおかずにして、コンビニで買ってきた蕎麦やサンドイッチを食べてようやく物足りないお腹を満たせた。


 陽葵も俺の事を心配そうに見つめながら、同じように余りものを食べつつも、お腹を満たして、満足そうな顔をしている。


「明日の朝は、いつものように、りんごの散歩をするからね。」


「恭介さん、りんごの散歩って、何時に起きて行くの?」


 陽葵は俺と一緒にりんごの散歩に行きたいのが明らかに分かった。


「朝の6時半に起きて、1時間ぐらいは歩くよ。あそこの旅館まで歩いて、家に帰るコースだけどね…。」


 それを聞いた陽葵はびっくりしている。


「そんなに歩くの??。りんごちゃんも恭介さんも凄いわ…。」


「りんごは恭介と散歩に行くと、散歩をしてくれそうな人間をよく見ているから、とんでもない距離を歩くよ。私たちが散歩に行くと、すぐに帰ってしまうけどね…。」


「恭介さんと一緒に歩くわよ。ダイエットになるから絶対にやるわ。」


 俺は、陽葵に『スタイルが良すぎるのに、そんなに痩せることはない』と、声が出かかったが、そこはグッとこらえて黙る。


 その後、俺たちは少し雑談をしていると、玄関のケージの中にいるりんごが、台所まで歩いてくる音がカツカツと聞こえて、俺たちのところへ尻尾を振りながらやってきた。


 そして、りんごが台所まで来ると、ワンと吠えて、訴えるように俺を見ているので、諭すように言葉をかける。


「りんご、もう、夜も更けるているから、さすがにおやつは厳しいよ?」

 りんごは寂しそうにクーンと鳴いたが、俺は甘やかすのをやめた。


 しかし、隣にいた親父が、テーブルの上に置いてあった犬用のおやつを渡すと、尻尾を軽く振っておやつを咥えながら玄関にあるケージへと戻っていった。


 俺と陽葵そのあと、俺の部屋に戻って少し狭いベッドで身を寄せ合うようにして寝た。

 シングルのベッドで一緒に寝るのは、陽葵の部屋も変わらない。


 今日は色々とありすぎて、身も心もクタクタだったので、俺も陽葵もすぐに寝てしまったのだ。


 ◇


 …それは、朝の4時頃だった。…


「…さん、起きて…。恭介さん…」

 陽葵が、俺の体を揺するようにして起こす。


 俺が目を覚ますと、陽葵が少しだけ涙を浮かべていたので、そんな陽葵の様子を見て、一気に目が覚めた。


「どうした?陽葵??。こんな夜も明けてない時間に…。」


 俺は陽葵に声をかけると、ベッドの上で涙ぐんでいる陽葵を少しだけ強く抱きしめると、俺の目をじっと見て深刻な顔をしている。


「恭介さん…、夢の中にね、恭介さんの妹さんが出てきたの…」


「えっ?、俊子が?。」

 そんな陽葵の答えにびっくりして、抱き寄せている力を少しだけ緩めた。


「それでね、妹さんは、お兄ちゃんをよろしくね…。なんて、笑顔で言ってきたと思ったら、スッといなくなったの…。」


「そうか…。あいつも俺と陽葵が結婚することが分かって、挨拶に来たかもしれないな。そうだ、お袋は朝の5時半に起きるから、それまでは、少し寝ていようか。横になるだけでも違うから…。」


「恭介さん、お母さんに話して、どうするの?」


「俺は、あまりその手の話は信じないけど、妹の俊子の話だけは少しだけ信じている。まぁ、お袋は産んだ子供を交通事故で亡くしているから、そのショックは俺以上に大きかったと思うけど、亡くなった直後は、よく夢に出てきていたからね。」


 陽葵は俺の話を、もの凄く納得している。


「それは良く分かるわ。それで、恭介さんのお母さんに話してみるのね…」


「ああ、陽葵は、少し横になりながら気持ち落ち着かせよう。妹もあの世から、このことを見ていて、陽葵を歓迎していると思うよ。大丈夫だよ、俺が横についているし、妹は性格の悪い子じゃない。」


「わたしに怖さはないのよ。私を家族全員が受け入れてくれることに、嬉しく思ったのよ…。だって、恭介さんの妹さんだもん、絶対に悪い子じゃないわ…。」


 俺は、お袋が起きて朝食の準備を始める朝の5時半になるまで、陽葵と少し仮眠を取りながら、時間が過ぎるのを待ったのである。


 ***************

 時は現代に戻る。


 ここまでのことを新島先輩や諸岡夫婦に送ると、しばらくして、諸岡のアカウントを使って、連名で返事を綴った白井さんから返事が返ってきた。


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 面倒だから旦那のアカウントを借りて書いているわよ。


 これはちょっと凄いわ。

 何が凄いって、私たち知らなかった囲炉裏焼きとか、日帰り温泉入浴ができる温泉宿があったなんてコトよ。


 三上寮長の実家には若いころに旦那と一緒に遊びに行ったし、亡くなったご両親には、よくお世話になったわ。


 10年以上前にあった地震の影響もあって、工場の隣にあった実家は更地になってしまったのよね…。

 でも、仏壇や三上寮長の実家に置いてあった大きなテーブルや座卓、それに座布団は、三上寮長の家に持ってきたのよね…。


 寮長のお父さんやお母さんも、相次いで亡くなられたから大変なのは分かっていたわ。

 面識のあった私たちも、ご両親が亡くなったときは寂しい気分だったもの…。


 それと、陽葵ちゃんは自覚がなさそうだけど、若いときから霊感体質なのは変わらないわ…。

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 それを一緒に見た陽葵はクスッと笑った。


「わたしの霊感体質はおいといて、諸岡さんや白井さんは、今でもよく遊びに来ているから、あえて、余所行きの場所に案内するのを省いているのよね…。」


「諸岡夫婦は、俺の家に来てゆっくりして帰る事がメインだから、お構いなしで面倒がかからないのが一番の良い点だから…。まぁ、今回の件で、余所行きのレジャーも満喫できるから、それはアリだろう…。」


 そんな話をしていたら、次に新島先輩から返信DMが届いた。


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 お前が住んでいる場所はうらやましいなぁ…。


 もう、お前の実家は、あの地震の影響で、住めなくなって、今は駄目になったと言っていたよな。

 バーベキューをやっていて、犬が寄ってきて、俺にもなついたんだよな…。

 その犬も亡くなって、今は世代交代か…。


 それよりも、亡くなった、お前の親父やお袋の顔が未だに忘れられないよ。

 それだけ、あそこは居心地が良かったからな…。


 お前が学生委員会を辞めた後も、卒業まで延岡と交流が続いていたのは、これが原因か?

 延岡は院生になって、結局は教授にまでなったんだよな…。


 延岡は、院生になっても、学生委員会にかなりの力があったから、学生委員会の役員達は、延岡の一言だけで動く傀儡だったと言われていたからな…。


 そうそう、陽葵ちゃんが少し霊感が強いのは何となく理解できる。


 お前は、その手の話をあまり信じないが、これは身内の話だから、お前も真に受けたし、陽葵ちゃんが言ったことを素直に受け入れたのだよな…。

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 俺はあの時のことを思い出すと、少しだけ感傷的になったが、気持ちを取り直して、さらに文章を続けた。

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