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~エピソード8~ ⑭ やっぱりドタバタになるのは宿命なのか?。~2~

『こんな状態で巻き込まれたら、何時になっても家に帰られない』


 俺は陽葵と視線を合わせると、陽葵は、俺の意図を察してコクリとうなずく。

 この場から抜け出す言葉を、俺が延岡理事や延岡さんに向けて切り出そうとした矢先に、俺にとっての悪夢が降って湧いてきたように訪れを告げる。


 旅館のロビーの電話が鳴って、女将さんが急いで電話を受けた。


「…お風呂から上がったところですが、息子さんやお嫁さんが通っている大学のお知り合いのかたと、バッタリと出くわしてしまって…。いま、ロビーで、その方々とお話をしているのですよ…。」


 もう、その会話から、ここに電話をかけてきたのは、うちのお袋であることが間違いない。


「たぶん、恭介さんのお母さんよね。心配しているから、すぐに帰りましょ。」


 陽葵が小声でボソッと俺に声をかけると、うなずいて陽葵に耳打ちをする。


「うん。ここは颯太くんもいるから、すぐに退散しよう…。」


 俺と陽葵は女将さんの電話が終わってから家に帰るつもりで、タオルなどをまとめて手に持って席を立つ準備をしていた。


「延岡理事、延岡さん、たぶん、うちの母からの電話だと思うので、心配しているようだから、この電話が終わったら、すぐに帰りますね。」


 そう言うと、延岡理事や延岡さんが深くうなずいている。


「この近くなら、三上さんの家にも行ってみたいわ。」

 その延岡さんの俺の家に行きたいという言葉は、俺にとって、悪夢のような言葉だったので、とても嫌な予感が走った…。


「深雪、そうだね。大学としても、あの件があるから、三上君や霧島さんのご両親にもご挨拶をしておきたいし、大学側として、あの案件に関しては、お詫びをしたい側面もあるからね…。」


 延岡理事と延岡さんが、そんな会話をしてるのを、お袋と電話をしている女将は聞き逃さなかった。


 たぶん、お袋のことだから『いま、陽葵の両親とお酒を飲んでいるから、一緒にどうですか?』なんて、言うに決まっている。


 時はすでに遅かった…。

 もう女将さんの会話から、延岡さんと延岡理事がうちに来るような内容に切り替わっているから、嫌な予感しかない。


「陽葵…。これは、ちょっとマズいかも…。」

 俺は小声で真正面にいる延岡さんたちに聞かれないように、ボソッと陽葵につぶやいた。


「大丈夫よ。もう、こうなったら、いつものドタバタになるわ。大学の時だって、恭介さんは、こういうコトに巻き込まれがちだから、わたしも慣れてきたわ…。」


 延岡さんや延岡理事は、もう、俺の家に行くつもりになっているし、延岡さんの家族たちは、旅館で、温泉に浸かりながら、延岡さんや延岡理事を待っている話をしてる。


 俺は観念して延岡さんたちに声をかけた。

「延岡さんたちは、夕食を済ませたのですか?。」


「ええ、さきほど、あそこの囲炉裏焼きの店で済ませてきたわ…」


『俺や陽葵と入れ替わりだったんだろうな…』


 もう、覚悟を決めて延岡さんと延岡理事を俺の実家へ連れて行くことにした。


「2人は私の車に乗って下さい。帰りは私が旅館まで運転していきますので…。」


 ようやく女将さんが電話を終えると、俺たちにお袋との電話の内容を伝える。

「三上さんの息子さんは、延岡さんとお嬢さんを連れて、家に来て欲しいとのことですよ。」


 俺はある意味で、絶望感にさいなまれながら、陽葵は延岡理事と延岡さんを連れて家に戻ることになった。


 車に乗ると早速、延岡理事から、俺に対して質問が飛んでくる。


「三上君の車もそうだけど、ここの人はマニュアル車に乗る人が多いよね。何か理由があるのかい?」


「延岡理事、ここは冬になると、たまにですが、雪が積もるし、山道も多くて路面が凍結することも多いので、ハマった時に脱出することを考えて、マニュアル車にする人が多いのですよ。」


 運転しながら延岡理事の質問に答えていると、延岡さんが俺が夜の峠道を運転ついて、ボソッと感想をぶつけてきた。


「三上さんは、夜なのに、こんな山道のカーブを上手く曲がれるのが凄いわ。伯父様もお父さんも、この峠道の運転が怖くて、ノロノロが精一杯だったのよ…。」


 俺は延岡さんに答えようとしたとき、何メートルか先の路肩に、動物の目が光っているのを発見して、車を徐々に減速をさせる。


「恭介さん、どうしたの?」


「動物が、道路から飛び出しそうだから、様子を見たいんだ。」


 陽葵は、俺が急に減速させて車を停めたことを少し不思議に思っていると、目の前に数匹の狸が出てきて、道路を横切った。


 その狸を見た、陽葵や延岡さん、延岡理事が、相次いで声をあげた。


「やっぱり地元で慣れている人には、敵わないよ。夜道だから動物なんて、見えないし、どこから飛び出すかわからないからな…。」


 延岡さんや陽葵は、まだ、道路の脇にいる狸を見て、驚いて口をポカンと開けている。


「恭介さんは、普通の人間と違って、夜目が効くから、こんな状況でもタヌキがいるのが見えるの?」


 俺は辺りを見渡して狸が横断してこないかを確認すると、車を走らせて陽葵の質問に答えた。


「陽葵さぁ、俺は原始人じゃあるまいし、夜目なんて効かないよ。カーブを曲がったところで、その先に、ヘッドライトに反射した目が幾つか見えたんだ。最初は猫かと思ったけど、狸だったね。」


 陽葵への返答に対して、質問した当の本人が驚いて何も言えなかったので、延岡さんが陽葵の代わりに俺にツッコミを入れてくる。


「三上さん。私たちは、どのタイミングで狸の目が光ったかなんて、全く分からなかったのよ。うちのお父さんや伯父さんが、ここを運転していたら、狸が車に轢かれて死んでいたと思うの…。」


 俺がそれに答える前に、延岡理事が先回りして俺の言葉を代弁してくれた。


「三上くんは若いこともあるけど、状況判断能力が他の人よりも良いと思うよ。深雪の言う通り、私だったら、とうの昔に狸を轢いていたかもな…。」


「延岡理事、この道を走るときは、イノシシや狸、たまに鹿なども出るから気をつけて下さい。動物が当たって車が大きくへこんだりして、交通事故のような惨状になりますが、保険が効かなくて泣きが入る場合もあるので、要注意です。」


 そんな会話をしていたら、俺の家に着いた途端に、柴犬のりんごが、ワンワンと吠えたが、すぐに延岡さんたちに慣れてしまった。


「うわー、この柴犬さん、かわいいわ☆。」


 延岡さんは、りんごを見て、かなり上機嫌だ。


「三上君の実家は、昔ながらの造りだから、立派な家だね。暗いけど、すぐに分かるよ。今はなくなってしまったけど、私の生まれ故郷の実家に似ているよ。」


 そんなことを家の前で話していたら、親父やお袋、それに陽葵の両親も玄関から出てきた。


「ささ、夜も冷えてきたし、風邪をひいてしまうので、中に入ってください。」


 お袋が延岡さんたちに声をかけると、居間に通して、各々の両親が挨拶をしているが、居間には長い座卓と座布団が置かれていて、酒やおつまみ、市場で買ってきた刺身などが並んでいる。


『なんだか準備が良すぎるなぁ…』


 親同士の挨拶が終わったあと、延岡理事と親たちとの話が長いので、待ちくたびれた颯太くんの相手を陽葵や延岡さんがしていた。


 俺は親へのフォローがあるので、その場にいることにした。


 このままだと、延岡理事や延岡さんがビールや、地酒を飲みながら、夜遅くまで喋りまる光景しか浮かばない。


 延岡理事は、あの暴漢事件の経緯から、陽葵が未だに怪しい奴らに追いかけられている事案まで詳細に説明をした。


 そして、俺の車で陽葵を送り迎えをしながら万全の保護態勢を作って、闇サークルを大学から排除するべく、警察と連携しながら対策を練っていることも伝えられる。


 ただ、陽葵の両親も、俺の両親も、総じて『俺がいるから何があっても大丈夫』なんて、お気楽に言うから、内心は困り果てた自分がいた。


 そんな話をしている間、陽葵と延岡さんが颯太くんと遊んだあと、今日はかなり疲れたのか眠いらしく、陽葵が颯太くんと添い寝をしているらしいので、延岡さんが居間にやってきた時点で、一気に話が雑談に傾く。


 おおかたの話が終わっているから、俺と陽葵を除く人が飲み始めると、延岡さんや理事が、寮のことや文化祭の様子などを語り始めたので、とても居心地が悪かった。


 さらに、お酒を飲んでいる延岡さんが、それに輪を加えるから、俺の居場所がない。


 そのうちに颯太くんを寝かしつけた陽葵が加わって、なおさらに俺を褒めちぎるから、俺は生き地獄そのものを味わっていた。


 そうして夜がふける前に、延岡理事や延岡さんは俺の家で、酒を飲みながら話し込んでいたのである。


 当然、2人は、俺が旅館まで送り届けた。

 酔っているので、なるべく気分が悪くならないように、峠を慎重にゆっくりと運転する。


「いやぁ、今日は楽しかったよ。話が大いに盛り上がったし、ここは、山を降りれば海もあるから、出てきた刺身も新鮮で美味しかったよ。」


 そんな上機嫌な延岡理事の褒め言葉に、同じく酔って上機嫌な延岡さんが答えた。


「あんな極上の大トロなんて初めて食べたわ。地酒も美味しかったし、話が盛り上がったから良かったわ。それに、霧島さんの弟さんも、柴犬のりんごちゃんも可愛すぎる☆」


 俺の家で話が盛り上がった余波もあって、陽葵も話に乗っかったから、余計に車の中で会話が弾む。


「恭介さんの家族が、水族館がある漁港の近くまで行って、美味しいお店で舟盛りのお刺身を食べさせてくれたけど、ホントに頬が落ちるほど美味しかったの。あのお刺身も、同じような感じだったから、もう幸せだわ…。」


 もう、こうなったら3人の話は止まらなかったから、俺は黙って、ゆっくりと運転することに集中した。


 ようやく旅館につくと、俺と陽葵は旅館のロビーまで2人を見送った。


 それに気づいて女将さんがロビーに出てきて、軽く挨拶をすると、完全に酔っ払ってる2人を女将さんに任せて俺は早々に帰ることにした。 


 俺は陽葵と車に乗り込むと、脇に乗っているのが陽葵なので、普段から運転しているスピードで帰ることにした。


「陽葵さ、もう、お腹の中は消化して何も残ってないよね?」


 そんなことを俺が切り出したので、陽葵は助手席で不思議そうな顔をした。


「うん、もう大丈夫よ。どうしたの?まだ、恭介さんはお腹が空いているの?」


「それは間違いではないよ。帰りにコンビニに行って、飲み物と夜食を買いたいけど、その前に、少しだけ見せておきたいのがあってさ…」


「なに?。ちょっと興味があるわ…」


「普段は、この道を俺たちがどんな感じで走っているのか、体感させたくてさ。たぶん、行きはゆっくり走っているから、親父もお袋も少しだけ心配していると思うんだよ…。」


「それは少し興味があるわ…。だって恭介さんは、うちの両親にも、延岡さんたちにも、皆さんが酔わないように、ゆっくり走っていると言っていたものね…」


「そう、俺は駄目だけど、陽葵はジェットコースターとかバイキングに乗っても吐かないタチだって聞いたから、少しは大丈夫だと思ってさ…。」


 俺はそこで、普段からこの道を走っているスピードで帰るが、無論、夜道なので昼間よりは、スピードを抑えている。


 陽葵はその運転を見て、ポカンと口を開けたままだ。


「恭介さん、夜なのに、この道をこのスピードで?。速度も危なくないけど、ちょっと凄いわ…。たしかに、酔っ払った延岡さんたちは絶対に駄目だし、颯太も気持ち悪くなるかも知れないわ…。」


「陽葵も気持ち悪かったら、スピードを緩めるから、その時はすぐに言ってね…」


「大丈夫よ、ジェットコースターが左右に動く感覚よりも、ずっと遅いから、大丈夫よ…。」


 むしろ、陽葵は俺の運転を見て、ニコニコしながら見ていたが、あっという間に峠を下ったのを見て、陽葵はボソッとこぼした。


「これを何度も往復していては、恭介さんも嫌になるわよね。もう嫌ってほどに、ここを通っているのよね…。」


「陽葵、分かってくれたか。もう、嫌気があってさ、こんな山道は抜け道や回り道もないから、ここしか通れないんだ…」


 車がコンビニの駐車場に着くと、陽葵は俺の頭をなでていた…。

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