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~エピソード8~ ⑩ 陽葵ちゃん、実行委員チームに加入する。~3~

 俺が運転するレンタカーが体育館につくと、守さんや泰田さんのお母さんが、駐車場で俺たちを待っていた。


 天田さんや逢隈さん、松裡さんや山埼さんも、俺たちの車が到着するのを、体育館の中で待っていたようだ。


 ちなみに、俺たちが車で来た事情については、泰田さんのお母さんから、極秘であることも含めて詳細が伝えられていた。


 車から降りて、みんなが体育館に入ると、守さんのお母さん(監督)が、みんなを集めて陽葵が実行委員チームに入ることが告げられた。


 陽葵がみんなに挨拶をすると、各々が練習を始めた。

 もう文化祭で皆が顔を合わせているから、簡単な挨拶で十分であろう。


 先ずは準備運動をやって、トスやレシーブの練習になるが、陽葵は無論、逢隈さんや松裡さん、宗崎や村上や牧埜なども、初心者の部類として基礎から教えることに専念をしていた。


 俺や泰田さんのお母さん(コーチ)の2人で、陽葵を含めて、まだ、不慣れな人たちを丁寧に教えるのが役目になった。


 俺は怪我をしているから、当分の間は、泰田さんのお母さんと一緒に、その役目になるだろう。

 そのほかのメンバーは、守さんのお母さんが徹底的に、基礎から教える体制になった。


 守さんのお母さんは、泰田さんや天田さん、山埼さんなどに、かなり強いアタックを打って、順番にレシーブの練習をしていた。


 俺はそこから離れた場所で、トスのコツを手取り足取り教えていたら、守さんがセッターの練習をするのに、仲村さんと一緒にトスの練習をしていたのが見えた。


 しかし、守さんのお母さんと、仲村さんや守さんとの距離が近いことを大声で伝えようとした矢先に、ヒヤッとするアクシデントが起きた。


 守さんのトスが滑って、仲村さんの正面に飛ばずに、仲村さんがボールの真下に行こうとして移動しようとしたときに、足がもつれた。


 仲村さんがよろけると、仲村さんの体が守さんのお母さんの背中に少しだけ触れた。


 そして、守さんのお母さんが、かなり強めに打ったボールが、仲村さんが体に触れたことによって、コントロールを失って、陽葵にめがけて飛んで、かなりの勢いで飛んできた。


 それを見たメンバーは一斉に声をあげたが、ボールは陽葵にめがけて、かなり強くてもの凄いスピードで飛んできているボールを、どうすることもできない。


 俺は、とっさに、アンダーサーブを打つ要領で、右腕だけで陽葵の体にめがけて飛んできたボールをはじき返した。


 その瞬間に、骨が完全にくっついていない左腕にも衝撃があって、少しばかり痛みが走ったが、俺は陽葵を守れたことにホッとしていた。


 それを見ていた、メンバーもホッとした表情をしているのがよく分かった。


 守さんのお母さんが、俺と陽葵に駆け寄ってきた。


「霧島さん!!、三上さん、ホントにゴメン!!。和奏(守さん)も、よく見て練習をしないと駄目よ!!。三上さんが、右腕だけでボールを返したから、霧島さんに当たらなくてホントに良かったわ。あんなボール、初心者には絶対に無理だし、霧島さんに怪我をさせるところだったわよ。」


 守さんや仲村さんも、俺と陽葵に駆け寄ってきて、謝ったきたが俺は気にしないことにした。


「守さんも仲村さんも大丈夫だから気にしないで。それよりも、今後は周りをみて練習をすることを心がけましょう。私は怒ってないから大丈夫だからね。」


 俺の言葉に続いて、陽葵が何が起こったのか分からないまま、ポカンと口を開けた状態で、自分の身に起こったことを皆に説明した。


「泰田コーチにトスのやり方を教わっている途中だったから、無我夢中になっていて、ボールが飛んできたのが分からなかったの。隣に恭介さんがいたから助かったわ…。ボールが飛んできたのが見えた時には、恭介さんが右腕だけでレシーブをしていたのは凄かったけど…」


 陽葵の話を聞いて、皆が同じ事を思っていたようだが、俺や監督、コーチを含めた面々は、陽葵に怪我がなかったことにホッとしながらも、皆に対して、安全を確保する指示不足に反省をしていた。


「三上さんの言うとおり、自分が動く範囲に人がいないかを、確認しながら練習をしましょう。あのボールが霧島さんの胸や顔に当たったら、本当に大変だったわよ。私も、部活の時に経験があるけど、しばらく立てない場合もあるし、初心者はトラウマになるわよ…。」


 そのあと、実行委員チームの練習は、特にトラブルもなく、順調に進んでいった。

 練習が終わると、陽葵が初練習の感想を俺に素直に言ってきた。


「レシーブやトスの練習しかしてないけど、早く上手くなりたいわ。監督のアタックは怖かったけど、チームプレイのスポーツだから、色々な意味で楽しそうよ。」


 それを聞いていた、泰田さんや守さんの母親が、ニコッと笑って嬉しそうにしていた。


 ◇


 そのあと、俺の快気祝いと陽葵の新規加入を兼ねたコンパが行われた。

 例の居酒屋までは、泰田さんの車の後ろにつくように言われて、その通りに運転したので、迷わずに居酒屋に到着したことに、俺は安堵を覚えていた。


 泰田さんや守さんのお母さんは、メンバーを車に乗せて、居酒屋の目の前に降ろすと、急いで自宅へと戻って、タクシーで居酒屋に向かっていた


 俺たちは、店の座敷の部屋に入って、2人のお母さんの到着を待ちながら、雑談をしていた。


『さて、今日は明日の準備もあるから、そんなに長居はできない。そこそこの時間で陽葵の家に戻らないと明日に差し支えがあるよな…』


 このときから、陽葵の家の戻る時間を、夜の8時から8時半の程度と見定めて、泰田さんや守さんのお母さんが酔わないうちに、撤退する時間を告げることにした…。


 *************

 -時は現代に戻る。-


 今は、葵や恭治も寝ていて、俺たち夫婦は寝る前に新島先輩や諸岡夫婦に送ったDMを、パソコンの前に椅子を並べて仲良く読んでいた。


 俺と陽葵は、新島先輩の返信DMを今頃になって気づいたことに後悔しながら、それに目を通した。


 -----

 まだ、この頃は、奴らの妨害がなくて、平和だった事がよく分かるよ。

 しかし、陽葵ちゃんが、棚倉先輩に当てまくっても、文句の一つも言えなくなるのは、お約束だよな。


 棚倉先輩に、ハッキリとモノが言える人物は、奥さんの加奈子さんと、俺とお前、それに、陽葵ちゃんしかいない。


 陽葵ちゃんは、その真っ直ぐすぎる性格のお陰で、棚倉先輩は、陽葵ちゃんに何も言えなくなって、弱くなってしまうんだ。


 結婚式以来、お前達に、久しく会ってないけどさ、俺たちも徐々に老けてきたけど、こんな失礼な言い方をして申し訳ないけど…。


 (棚倉先輩は、高木さんの通夜の時に、お前たち夫婦と会っているよな。)


 あの当時、陽葵ちゃんは、息を呑むほど可愛かったけど、年を重ねて、老いた姿になっても、先輩が陽葵ちゃんに負けてしまうのは変わらないと思うよ。


 だからね、先輩が頑として聞かないことがあると、加奈子さんは先輩を嘘や綺麗事を言って騙すことをせずに、心の底から素直に訴えかけながら先輩の目をジッと見つめると、折れてくれることを陽葵ちゃんから学んだなんて、言っていた事もあったんだ。


 話は変わるけど、お前達が実行委員チームの面々と、こんなに深い関係があったなんて思わなかったよ。

 泰田や守の母親達とも、相当に仲が良かったんだな。


 どおりで、あの面々が、俺や棚倉先輩の知らないところで、くっついて結婚するわけか…。

 アイツらとも、お前の縁で会ってみたい気持ちがあるよ。


 その感じだと、お前の学友の2人とも会えそうな予感があるからさ。

 もう1人は、美緒や木下と同じで、行方知れずなんだろ?。


 まぁ、仕方ないよな。

 俺もそういう奴が仰山いるからさ。


 あっ、そうか、美緒は棚倉先輩が掘り出してきたのか。

 アイツが来たら、たぶん、台風みたいな感じで、お前達を含めて荒らしていくぞ。

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 俺と陽葵は新島先輩の返信DMを読んだあとに、陽葵は俺に体を寄せながら、ここまで書いたDMを一通り読むと、その時のことを、思い出したように話し始めた。


「そうそう、初練習は無我夢中になっていて、あまり覚えていなかったけど、守さんのお母さんが思いっきり打ったボールが、わたしに当たりそうになって、あなたが、とっさに助けてくれたのを思い出したわ。」


「あれは、ちょっと危なかった。守さんのお母さんのすぐ後ろで、トスの練習をしていた仲村さんと守さんの注意不足だったよ。あの当時は、泰田さんや守さん、それに天田さんが、守さんのお母さんの強いアタックに対して徐々に慣れ始めた頃だったから、余計に危なかったよ。」


「でも、あなた。怪我から回復したあとに、守さんのお母さんとの練習光景を見て、やっぱり凄いと、みんなが思っていたのよ。守さんのお母さんの全力のアタックなんて、わたしは怖くて逃げそうになるのに、平然としてレシーブできるのは、あなただからよ。」


 陽葵の褒め言葉に、俺は少しだけ恥ずかしくなったので、その話題を避けるように話題を変えることにした。


 それに、今はほとんど練習をしていないし、年を取って体が鈍ってしまっているから、あの頃にできたことなんて、今となっては、体が動かないから不可能だろう。


「それは置いといて、陽葵の家族を初めて車に乗せて俺の実家に行ったのは、今でも印象に残っているよ。あれは、ちょっと緊張していたから。なんだか、結婚前に両家同士が挨拶するのと変わらない雰囲気だったからさ…。」


「ふふっ…そうよね…。でもね、これは絶対に必要なことだから、避けて通れないわ。そうそう、その出発前の夜にね、颯太は嬉しすぎて眠れなくなっちゃって、出発してしばらくしたら、車の中で熟睡しちゃったのよね。」


「あの当時、小さい颯太くんの事を考えて、休憩を増やす方向でプランを考えていたし、親父やお袋とも相談して、あの駅まで迎えに行く時間まで考慮をしていたしね。でも、颯太くんが車の中で熟睡をしていたから、トイレ休憩以外は素通りしちゃったからなぁ。それで、随分と早く着いてしまうから、少し遠回りしたことを思い出したよ。」


「そうよね、お義父さんやお義母さんが迎えにくる時間があるから、時間調整をするのに、途中で高速を降りて、遊覧船が出ている湖に行ったのを思い出したわ。予定よりも1時間以上早いから、どうしようかと、あなたは少し慌てたのよね…。」


「さて、その話を含めて、次の話を書いてしまうよ。もうさ、俺と陽葵の愛を綴った文章を、新島先輩や諸岡夫婦に読まれてしまっているから、このさい、ある程度のことを書いても、大丈夫だろうからさ。」


 陽葵はそのことについて、こくりとうなずいた。


「あなた、ここまでくれば、怖いものなんてないわ。あのアーン♡の話とか、激しく抱き合った話を読まれているから怖いものなんてないわよ。あのことは身内のことだけど、なにも隠すべき事はないし、安心して語れる話だわ。わたしも、あなたの書いたメールを、安心して読むことができるもの。」


 俺は陽葵の頭をなでつつ、軽く頬にキスをすると、再び、この続きを書き始めた。

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