目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
~エピソード6~ ㉓ 退院後の穏やかでラブラブな休日。~1~

 時はまだ現代…。

 陽葵は、新島先輩にDMを誤送信をしてしまった事を引きずっていた。


「あなた、そろそろ恭治の塾の迎えだけど、葵も寝ているし、わたしが行ってくるわ。もうね、じっとしていたら思い出して恥ずかしくなってしまうの。」


「気持ちは分かるけど、気をつけて運転してよ、マジに事故ったら、大変だからね…。」


「大丈夫だわ。そこまで気が動転しているわけじゃないから。」


 そう言うと、陽葵はすぐに支度をして、恭治を迎えに行ってしまった。


「参ったなぁ、とりあえず今日は文化祭の手前まで書いて、とりあえず仕切り直しをするか」


 俺は、葵が寝ているのを確認すると、陽葵が帰ってくるまで、PCでDMを打ち続けることにした。


 ******************************

 時は19年前に戻る。


 ここは陽葵の部屋。

 俺と陽葵はムフフな夜を過ごして、お互いが下着になって抱きあって寝ていた。


「恭介さん♡、お・き・て♡」


 俺が目を覚さして、陽葵を見つめていると、ものすごく愛おしくなって、右腕で陽葵を抱き寄せて、軽くキスをした。


「もぉ~~♡、恭介さんったら♡。もうすぐ7時になるから、お預けよ♡。愛し合っちゃうと、ズッとこのまま一緒にベッドの上で過ごしてしまうわ♡」


「ああ、もう、そんな時間か。お父さんから、今日も陽葵の家に泊まっていけと、言われているから、夕方になったらここに戻るし…。ただ、このままズッと陽葵と一緒にいたいけど、日曜日は、完全に寮に戻るしかないからなぁ。」


「ふふっ、わたしも日曜日は寂しいけど、それは仕方ないわ。もぉ~♡、このままだと、時間がすぐに経ってしまうから、起きようね♡。」


 陽葵はそう言うと、俺の右腕を引っぱって、顔を赤らめながら言った。


「いっ、い、一緒に、シャワーに行くわよ♡。もぉ~♡、たくさん愛されちゃったし、愛しちゃった♡」 


 朝っぱらからドキドキのシャワータイムが終わると、俺たちは陽葵の部屋で着替えて、ダイニングで朝食を食べに向かった。


 陽葵のお母さんが作った朝食を食べていると、お母さんに話しかけられた。


「恭介さん。陽葵が寮の仕事をするのは、お父さんも含めて大賛成なのよ。陽葵にはね、世の中の色々なことを教えたいし、良い人生経験になりそうだから、恭介さんには感謝しているのよ。」


「寮の受付室には色々な人が来ます。来客の中には怪しい勧誘とか、姉妹を偽って、彼女を部屋に入れようとする寮生や、寮生の友人だと偽って部屋の中の金品を盗んでしまった輩まで…。そういう人達を受付室で見るだけでも、勉強になりますよ。」


 その俺の言葉に陽葵のお母さんは、目を閉じて、うなずくように話を聞くと、陽葵の目をジッと見た。


「お父さんも、お母さんも、恭介さんが言ったようなことを、陽葵に学ばせたいのよ。危険なことを回避する能力とか、人を見る力も合わせてよ。陽葵。恭介さんや、寮の人の言う事を聞いて、そういう経験を学んでくれると嬉しいわ。」


 陽葵はお母さんの言葉に返事をすると、少しだけ首をかしげてお母さんに尋ねた。

「あれ?、お父さんと颯太は?」


「お父さんは、仕事のお付き合いでゴルフに出掛けたわ。もう、こんなの嫌だと、わたしにダダをこねながら、渋々、行ったのよ。お父さんは、恭介さんと一緒に朝食を食べたかったのよ。颯太はね、ふふっ、昨日の夜、恭介さんと一緒にゲームをした興奮が冷めなくて、寝られなかったのよ。」


 陽葵が朝食を食べながら、少しだけ溜息をつくと、お母さんに向かって口を開いた。

「お母さん、お父さんは早く帰りたいから、夜の打ち上げは、娘の誕生日があるからと嘘をついて、夕ご飯前には帰ってきそうだよね?」


「そうよ。ただ、今回は違うわ。自分が認めた娘の婚約者のために、一緒に食べに行くから早く帰ると言っていたわ。そうなれば誰も文句は言えないわ。今日は、ステーキ屋さんだと思うわ。お父さん、恭介さんに大きい肉を食べさせると意気込んでいたのよ。」


 俺はそれを聞いて苦笑いしていたし、詳しい話を聞くのは気が引けたので、話題を変えた。


「本当にありがとうございます。しかし、お父さんも大変そうですね…。そういえば、昨日の颯太くん、随分と嬉しそうでだったから、私も嬉しかったですよ。でも、あのまま眠れないなんて、思いませんでしたが…。」


 お母さんは嬉しそうに笑いながら俺を見て口を開いた。


「恭介さんが家に来てくれたことで、颯太はお兄さんが1人増えたような感じだったのよ。ほんとうに嬉しそうだったもの。起きたらご飯を食べさせて、すぐに宿題を終わらせさせるわ。恭介さんが今日も来るから、やる気を出して宿題をやるはずよ。」


 お母さんと話をしていたら、そろそろ準備をして寮に向かわないと駄目な時間になっていた。

 良二達と駅のホームで待ち合わせをしているから、送れるわけにはいかない。


 俺達は急いで支度をして、寮に向かう準備を整えた。


 陽葵はゴミ箱に入ったゴミをまとめて、急いで階段を下ると、息を切らしたように駆け上がってきた。

 その陽葵の行動に、心当たりがありすぎるので、頭をかいて誤魔化していると、陽葵が耳元でささやいた。


「もぉ~~♡。今夜もたくさん、愛し合いましょうね♡」


 その後、俺はバッグを持って陽葵と一緒に駅に向かった。


 昨日は、色々とあって、緊張のあまりにも道も分からなかったので、周りを確認しながら、1人でも陽葵の家に行けるように、周りの風景を目に焼き付けていく。


 陽葵は俺のバッグを持ちながら、手を繋いで駅に向かっていたが、俺が少しだけキョロキョロしているので不思議そうに首をかしげた。


「恭介さん?どうしたの?。」


「いやさ、昨日は色々とありすぎて、道が覚えられなかったんだ…。あの、その…もうさ、陽葵に夢中になっていたから…。」


 その言葉に陽葵は顔を赤らめて、俺の手をギュッと握った。


「もぉ~~、あれはドキドキだったわ。もう、こんなこと…、恥ずかしすぎて、人には言えないわ。当然、2人だけの秘密よ♡。」


 陽葵はそう言いつつも、この19年後に、よく知る先輩に詳細な内容が書かれたDMを、自らの手で誤送信するなど、このときは知る由もないのだが…。


 ちなみに、このDMを書いている恭介自身も、あのメールが新島に読まれた時点で、恥も外聞もなく、さらに踏み込んで、陽葵との愛を書き綴ってしまっていた…。


 さて…、余談は置いといて…。


 俺達は、駅に向かって歩いて、改札を通ると、時間より早くホームについた。

 さすがに恥ずかしいので、駅のホームでは手を繋ぐのをやめた。


 少し待っていると、良二たちが電車に乗っているのが見えて、3人が乗っている車両まで駆けつけて、電車に乗り込んだ。


 それを見て良二が真っ先に声を出した。

「まぁ、朝から夫婦揃って、一緒にかけっことは健康に良いですなぁ…」


「良二、仕方ねぇだろ、このぐらいだったら、走れば追いつくと思うしね。」

 そう言いながらも、少し辺りを見渡して、怪しい奴がいないかの監視を怠らなかった。


 陽葵が3人に声をかけた。

「みなさん、おはようございます。なんか、寮の用事に本橋さんや、宗崎さんも、付き合わせてしまって…」


 それを聞いた宗崎は右手をあげて否定した。


「いやいや、俺達は旦那か、村上の部屋で遊ぶから大丈夫ですよ。奥さんは部屋に入れないでしょうから、暇なら受付室で一緒に奥さんとバレーボールの話か、旦那の話でもしていましょう。」


 宗崎が陽葵に言った事に対して、俺は捕捉をした。


「村上と一緒に最初は遊んでいて良いよ。白井さんや諸岡、それに陽葵に、概要や大まかな操作の説明をしたら、村上と交代するのはどうかな。俺は洗濯があって自分の部屋に戻るから、その間は俺の部屋にいれば無事だろう。」


 村上が俺の言葉を聞いて感心したように口を開いた。

「三上は、マジにそういう段取りを考えるのが上手いよな。たしかに俺も洗濯が溜まっているから、それは効率が良いかも知れないよ。」


「たぶん、何も知らない人達に教えたとしても、中高年に教える訳じゃないから、ご飯を食べても午後の2時過ぎには、終わっているよ。あとは、俺と陽葵が受付室で夕方まで受付をして、その後は、予定通り陽葵の家にまた呼ばれているから…、なんて流れだね。」


 俺の言葉を聞いた村上が少しだけ笑って俺に話しかけた。

「松尾さんが、お前のことを吃驚したように話していたぞ。奥さんのお父さんに、気にいられてしまってるから、連泊状態なんて羨ましすぎると。大人になっても、結婚しない限りは難しいぞって…」


 その村上の言葉に陽葵が反応した。

「村上さん、大丈夫だわ。もうね、両方の親が、認めてしまっているから、将来は決まっているわ…」


 陽葵の言葉に3人は顔を見合わせると、俺と陽葵を交互に見た。

 そして、良二が代表して所感を述べた。


「お前らさぁ…。やっぱりラブラブを通り越して夫婦なんだよなぁ。こんな感じで、一緒に立っていても、そのまま婚約指輪をつければ新婚夫婦と言っても通用するからなぁ…。」


 それを聞いた陽葵は少し顔を赤らめて恥じらった。

「もぉ~~、本橋さんったら、お上手なんですからぁ~~♡」


 陽葵が恥じらった姿に、3人は可愛さのあまり息を呑んで何も言えなくなった…。


 俺たちは電車から降りると、まずは歩いて女子寮に向かった。

 これは、あの事件以降、白井さんが1人で男子寮に行くのも、危険が伴うと判断して、安全上の理由から高木さんの指示を受けての対処だった。


 俺と陽葵が女子寮の玄関に行くと、白井さんは木下と一緒に受付室で話していた。

 そして、俺と陽葵の存在に気づくと、慌てたように2人が受付室から飛び出してきた。


 木下が俺を見ると、ジッと俺の目をを見つめて俺に話しかけた。


「三上くん、緊急事態とはいえ、霧島さんと一緒に寮の仕事ができるなんて、うらやましいわよ。それに、白井さんにパソコンを教えるらしいけど、わたしも参加したかったわ…。」


「すまないな、木下。たぶん、木下なら察していると思うが、棚倉先輩や三鷹先輩が話しすぎた影響で、情報漏洩の危険があって、高木さんや荒巻さんが、俺たちから先輩達を引き剥がす時間を作ろうとしてている。今は詳しい話が出来ないけど、解決したら、俺が言える範囲でコッソリと教えるよ。」


 それを聞いて木下は少しだけ安心したようだ。


「それは分かっているわ。白井さんも話せないことが沢山あるのが分かるわ。最近は三鷹さんや橘さんの追求が、かなり厳しいわ。私が彼女を守ってる感じなのよ。」


「マジにゴメン。本当は話したいところだけど、色々とまずい事が多すぎて、俺も疲れている。」


「それも分かるわ。三上くんが退院直後から引きずり回されて、実質上の寮長会議はナンセンス過ぎると、あの先輩たち以外は、誰もが思っていたわ。こうなったら、私や白井さん、それに三上くんに諸岡くんや霧島さんを含めて、実質の寮幹部を、結成してしまったほうが良いわよね。」


 俺は木下の答えにうなずいた。


「木下、実は俺はそれに向けて、次の世代の諸岡や白井さんを、あえて呼んでパソコンで寮の書類関係を作ることを標準化させようとしているんだ。今のやり方でやっていては、誰もが負担になって言い争いになるよ。それを防ぎたいんだよ。」


 その言葉を聞いた木下は笑顔になった。

「ふふっ、三上くんらしいよね。ただ、新島さんが抜けなかったら、三上くんの本領も発揮できなかったかも。たしかに、私もそうだけど、2人の先輩に圧倒されて、実質は、何も出来ないわ…。」


「さて、ここで時間を潰していたら、その先輩達が来てしまうだろうから、早々に男子寮に向かうよ。」


「あっ、そうだわ。もう、先輩達は倉庫にいるのよ。ただ、そのぶんでいくと、顔を見せずに男子寮に向かってしまうのよね?」


「木下、すまん、そのほうが得策だよ。高木さんや荒巻さんが、休日を返上して女子寮に来ている意味が分からなくなるからね。」


 俺と木下のやりとりを聞いていた、白井さんが一言だけボソッと吐いた。

「わたし達は、良い先輩たちに守ってもらえて良かったわ。わたしが特に三上寮長みたいな立場だったら、ホントに泣いていたわ…。」


「ふふっ、白井さん。あとで三鷹さんから聞いたけど、あの切れもので、癖が強い棚倉さんを上手く制御して操縦できるのは、いま、休学中の新島さんか、三上くんしかいないわ。あの棚倉さんに、忌憚なく意見を言って、間違った事があれば、反論もできるのよ。」


 木下の褒め言葉が少し恥ずかしいので、白井さんを少しだけせかした。

「白井さん、先輩達に見つかる前に行くよ。マジで留守番させて悪かった、木下。」


 俺はそう言うと、陽葵と白井さんと一緒に女子寮の玄関を出た。


「悪い、ちょっと話し込んで時間をかけてしまった」

 3人に俺は謝ると、良二が首を振った。


「大丈夫だから、寮幹部だから、話があるのは分かる。お前はよく、あの美人な副寮長相手に、堂々と話ができるよな。感心するよ。」


 それは良二の言葉に、何気なく本音を吐いてしまった。

「いや、そこに可憐で可愛すぎる俺の彼女がいる時点で察してくれ。こんなに大好きだから緊張なんてしないで普通に話ができてるじゃないか…。」


 それを聞いた陽葵は黙って下を向いて顔を真っ赤にしたと同時に、白井さんが、少し顔を赤らめながら、真っ先に反応した。


「三上寮長ぉ~~~~、だからぁぁ~~、わたしたちに思いっきりラブラブを当てないでぇぇぇ~~~。うぎゃぁ~~彼氏が欲しいぃ~~~。」


 俺たちは、男子寮に向かって歩き出した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?