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~エピソード6~ ㉒ 陽葵への誕生日プレゼント。~2~

 俺は家の2階にある陽葵の部屋に入ると、少しだけ緊張をしていた。


 部屋は、陽葵のキチンとした性格もあって、綺麗に片付けられているし、某テーマパークのぬいぐるみとか、ポスターなんかも貼られている。


 そして…、よく見ると、ベッドには枕が2つ並べられている…。

 それを見て余計に緊張したが、ここで俺は男として決断をした。


『そうだ、プレゼントを渡す絶好のチャンスだよな。』


 俺は、部屋に置かれていた自分のバッグを開けると、ネックレスを取り出した。

 陽葵がそれを不思議そうにみていたが、俺が手に持っていたケースを見て、みるみるうちに笑顔になっていった。


 少しだけ恥ずかしさをこらえながら、陽葵にネックレスを手渡した。

「陽葵、誕生日おめでとう。荒巻さんと一緒に病院から寮に戻るときに、アクセサリーショップに行って買ってきたんだよ。」


 陽葵は顔を赤らめながらも、もの凄く嬉しそうに目を張ってそれを見ている。


「もぉ~♡、そんなに気を遣わなくても良かったのに…。でも、嬉しいわ♡」

 俺からプレゼントを貰うと、陽葵は箱を開けてネックレスを見た。


「うゎ~~♡、わたしの誕生石のブルートパーズだわ。もぉ~~♡、ホントはね、恭介さんに付けて欲しかったけど、その怪我の状態だと付けられないから、私がつけるわ♡」


 陽葵が嬉しそうにネックレスをつけると、ハート型のブルートパーズが、彼女の胸元で輝くように可愛さを引き立たせている。


「可愛いよ。色々と悩んで買ったけど、似合っていて良かったよ。」

 そう言うと、陽葵は嬉しそうにしていて笑顔だけど、顔を赤らめながら、俺の腰に手を回した。


 その時だった。

「陽葵~、恭介さんと、一緒にお風呂に入ってちょうだい~~」


 陽葵のお母さんの声が一階の階段から聞こえて、その後のスキンシップはお預けになった。


 陽葵が「分かったわ、いま行くからね」と、返事をすると、お互いが顔を見合わせて、恥ずかしそうに微笑みあって、かなり緊張をしていた。


 それを聞いた陽葵は、慌ててネックレスを外して自分の机の上に置いていた。

 俺は下着やバスタオルをバッグから取り出そうとしたら、陽葵が、さらに顔を赤らめて、それを制した。


「恭介さんは怪我をしているから、無理をしては駄目よ♡。今日は、わたしが恭介さんの背中を流すのよ♡」


 俺は陽葵の言葉を聞いて、少しだけ天を仰いで、奇妙な敬語になって陽葵に正直に自分のことを話した。

「あっ、あの、その、陽葵さま。一緒にお風呂に入って、男なので体が反応してしまいますが、それは仕方がないので、その…、慣れるまで練習だと思ってください。はい…。」


 そう言うと、陽葵は悪戯っぽく笑って、少しだけ俺を抱き寄せて耳元でささやいた。


「もぉ~♡、恭介さんったら♡。わたし、恭介さんとなら、どうなってもいいわよ♡。でも、お風呂場だと声が聞こえてしまうから、すこしだけ我慢してね♡」


 陽葵は顔を赤らめながら、俺のバッグから下着やタオル、それに寝間着を取りだした。


 そうすると、陽葵は、タンスの引出の中から下着とパジャマを取り出すと一緒に持った。


「恭介さん、バスタオルはウチのお母さんが用意したから大丈夫よ。次からは持ってこなくても大丈夫だわ。」


 それで、陽葵は部屋の扉を開けると、俺と手をつないでお風呂まで向かった…。


「うちは、小学生の颯太がいるから、規則正しい生活になっているわ。うちの両親は颯太と一緒に、もう一階にある寝室にいるはずだわ。2階は、お父さんが、休日中になると、たまに書斎に行くぐらいで、誰も使ってないから、私が独占してるのと同じだもん。」


 そういうと、脱衣所にきた。


 陽葵は俺の歯ブラシセットを洗面台において、着替えを脱衣カゴに置いた。

 俺は覚悟を決めた。


「恭介さん♡。」


 陽葵は、耳まで顔を真っ赤にしながら服を脱ぎ始めたので、俺はそれを息をのむように見ながら、脱ぎ始める。陽葵はビニール袋を持って、慣れた手つきで俺の患部をビニール袋で覆った。


 ただ、お互いが裸なので、もの凄く緊張している。

 しかし、俺も陽葵も、男女としての一線を越えることなく、一緒にお風呂に入った。


 俺は片手だったが、お互いが背中を流して、一緒に湯船に浸かる。

 一緒にお風呂に浸かっている間は、お互いが恥ずかしすぎて沈黙が続いた。


 視線を合わせると、恥ずかしさのあまりに、お互いが笑ってしまう。そして、また、見つめ合って恥ずかしくて笑ってしまうような事が、何度も繰り返された。


 一緒に風呂に入っている陽葵にささやくように本音を吐いた。

「陽葵、凄く緊張して、恥ずかしいけど、慣れないといけないよね。陽葵が可愛すぎてその…。」


 それを聞いて陽葵は俺に顔を近づけて、ささやくように言った。

「ふふっ♡、恥ずかしいけど、一緒にお風呂に入れたことも嬉しいわ。でもね、ドキドキが止まらないわ♡」


 2人は、なんとか一線を越えずにお風呂からあがると、バスタオルでお互いの体を拭きあった。

 そして、急ぐように服を着替えると、ドライヤーで髪を乾かして、歯を磨いたりした。


 その時の2人の心情としては、お互いの気持ちをハッキリと表現できない、この環境から脱して、陽葵の部屋に行きたかった。


 しかし、お風呂が最後ということもあり、陽葵は風呂のお湯を抜いて、風呂掃除をしているから、俺も一緒に手伝っていた。


 それが終わって、俺と陽葵は、部屋に戻ると、陽葵は部屋の扉を閉じて、内側から鍵を閉めた。

 そして、電気を暗くすると、俺にもたれかかってきた。


 俺は右腕で陽葵を強く抱きしめて、激しいキスを繰り返した。

 そして、2人でベッドに潜り込むと、お互いが抱き合ってジッと目を離さなかった。


「陽葵、大好きだよ。このままズッと一緒にいたい。」

「恭介さん、大好き♡。わたしも恭介さんに朝まで抱かれていたい♡。」


 その後は…、俺たちは夫婦になる『練習』をしていた。

 ただ、男女との一線を越えない程度に、お互いを知ることになったが…。


 そうして、大好きな2人が、同じ部屋の中で、初めての一夜を過ごしたのである…。


 ******************************

 さて時は現代に戻る。


 俺は会社の事務所で、仕事の合間にこれを書いていたが、送信なんて恥ずかしすぎて思いとどまった。

 ここまで下書きを書き終えると、俺は独り言をぼやくように放った。


「まぁ、これは新島先輩に送らないで、陽葵に見せて反応を見て楽しむ文章だよなぁ。翌日の朝に寮に行ったあたりから、書けば良いから、想い出として残しておくか。」


 この案件については、恥ずかしすぎるから、新島先輩にDMは送らずに、下書きにして設定すると、家に帰ったら陽葵に下書きを見せて、そのまま削除するように考えていた。


 ◇


 そして…、仕事が終わって家に帰った後…。

 葵が寝て、恭治が塾に行っている時間を利用して、新島先輩に送るための下書き用のDMを陽葵が読んでいた。


 俺は、陽葵が恥ずかしがる可能性があるから、あらかじめ言っておくことにした。


「あっ、あの、陽葵さぁ、初めて陽葵の家に行った時のことは、新島先輩に送らないからね…。これは想い出として書いただけだから、陽葵が読んだら消すからね。」


 それで、陽葵がその文章を読み進めていくと、あの頃を思い出したのか、段々と顔が赤くなって、椅子に座っていても、恥ずかしさのあまりに、時折、体をよじるように悶えだした。


「フフッ♡、いまでは、あなたと一緒にお風呂に入るなんて、当たり前になったけど、この当時はドキドキして駄目だったわよね。」


 その言葉を聞いて俺は陽葵の頭をなでつつ、耳元でささやくように話しかけた。


「一緒にお風呂に入ってもさ、今でも陽葵の可愛い姿が見られるから大好きだよ♡」

 久しぶりに語尾にハートマークをつけて話すと、陽葵はさらに顔を赤らめて、俺の腕に抱きついてきた。


「もぉ~~~♡、あなたったら♡」

 陽葵は俺の目をジッと見て、視線を外さなかった。


「でも、恭治の塾の迎えがあるから、一緒にお風呂に入れないなぁ。最近は一緒に入るタイミングがないから…」


 その言葉を聞いた陽葵は、コクリとうなずくと、椅子から立ち上がって俺を強く抱きしめて、キスを求めてきた。


 長いキスが続いて、お互いが微笑みあうと、陽葵は少し恥じらうように言葉を出した。

「ふふっ♡、これは、一緒に入れない代わりのキスよ♡」


「陽葵はいつも可愛くてしかたない。どんなに年齢を重ねても、陽葵は可愛いんだよ。だって、いつも大好きだもん。」


 俺の言葉を聞いた陽葵は、相当に恥じらっていたが、ある事に気付いてパソコンの目の前に座り直した。

「そっ、そうよ!!、このDMを新島さんに送る前に消さないと駄目だわ。これは…恥ずかしすぎるわよ。」


 陽葵はそう言うと、慌てて削除のボタンを押そうとするが、恥ずかしくて動揺していたのか、謝って送信ボタンを押してしまった。


 俺が言葉を発する前に、陽葵が悲鳴をあげた。

「きゃぁぁ~~~~~!!!。にっ、新島さんだけど…、さっ、さ、さっきのメールは恥ずかしいわ!!!」


「参ったなぁ、かなり大変なことになるぞ…。」


 散々、学生時代の時から、周りにイチャラブで当ててきたから、いまさら、こんなのを新島先輩に送ったところで、ご馳走様としか返ってこないとは思うが…。


「どっ、どうしよ…。わたし、大変なコトをしてしまったわ…。」

 陽葵が顔を赤らめながら、動揺していたので、頭をなでて落ち着かせた。


「大丈夫だよ、俺なんて、嫁成分が欲しいとか、一緒に寝たいとか、SNSで、堂々と全世界に向けて書いてきたから、いまさら、ネタが一つや二つ増えようが、変わらないよ。新島先輩だから大丈夫だろうし。」


「あっ、あなた…。そういう問題で…、あるわよね…。」

 俺の言葉に陽葵は少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。


 新島先輩から速攻でメールが返ってきた。


 ------

 お前はさぁ、ワザと俺に当てているだろ?

 もうさ、こっちは恥ずかしくて読めねぇよ。


 もう、ご馳走さま以外に言葉が出ないし、何とも言えねぇ。

 こんなの、先輩達に言えないし、絶対に狙って書いてるだろ?。


 お前は恋愛小説家になるつもりか?。

 そうなったら、マジに応援するぞ。

 ------ 


 陽葵は新島先輩のDMを読み終わると、顔を真っ赤にして、うつむいたままだ。

 それに構わず先輩にメールを送った。


 俺がキーボードを叩き出したら、陽葵が横に座ってジッと文章を見ていた。


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 先輩、無茶苦茶に当ててしまって申し訳ないです。


 実は思い出話として、陽葵に向けて書いたものが、紛れてしまって誤送信した結果、当ててしまいました。


 私はすでにSNSにて、嫁成分を余すところなく吸収したいなどと、全世界に向けて書いてしまっているので、もう居直っています。

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 俺がそこまで書くと、陽葵は俺の右腕をギュッと抱きしめた。


「あなたのせいにしなくても良いのよ。今のDMは消して。わたしが新島さんへ、間違って送った理由を書くわ。わたしが正直に理由を言えば、新島さんだから、周りにバレる可能性が少なくなるわ…。」


 そうすると、陽葵はダイニングにあるテーブルから、自分のスマホを持ってきて、俺の隣に座ると、俺と新島先輩に同時返信のDMを打ち始めた…。


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 新島さん、ごめんなさいね。


 恭介さんが、わたしにだけ読ませる為に書いたメールを、恥ずかしさのあまり、間違って私が誤送信してしまったの…。


 恭介さんは、自分のせいにしようとしていたけど、わたしが間違って送信したから、素直に謝るわ。

 メチャメチャ恥ずかしいメールを送ってしまって、ごめんなさい…。


 送った私も恥ずかしかったわ…。

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 すぐに新島先輩から返事がきた。


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 陽葵ちゃんなら、仕方ないよ。

 てっきり三上の仕業かと思って、冷や汗をかきながら読んでいたよ。


 しかしなぁ、お前ら夫婦は仲が良すぎるから困るなぁ。

 三上のせいだと思うけど、こんなメールを自分の嫁に送るなんて…。


 アイツはマジに陽葵ちゃんに惚れ込んでいるのだなぁ…。

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 俺たちは新島先輩のメールを見て、互いに顔を見合わせて、クスッと笑った。


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