目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
~エピソード6~ ⑫ 三上くんと霧島さんを守るために。~3~

 俺は守さんのお母さんとの電話を終えて、少し気持ちを整えた後で陽葵に電話をしようとしたら、話し中になっていた。


 そこでボーッとしてしばらく時間を費やしてたら携帯が鳴った。


 村上からだった。


「金曜日にある三上の退院祝いに実行委員チームが押しかけるのは諦めたと電話があったよ。守さんのお母さんに抗議の電話を入れたんだよな?。流石は三上だよ。」


「抗議の電話というか、そのアレだ、スタンガンを持った奴に実行委員のメンバーが襲われたら大変なことになる。俺に電話を入れずに村上に電話入れたことを考えると、退院祝いに関して寮内の詳しい話を聞きたくて村上は電話攻めにあっていたのか?。」


「お前は何でもお見通しだよな。泰田さんと守さんにウザいほど聞かれたけど、棚倉さんが仕切っているから分からないと言い続けた。今になってそれで良かったと思ったよ。」


「それは正解だった。あと、たぶんね、退院日の時間を誤魔化して相手を混乱させれば、理化学波動研究同好会の奴らは年末ぐらいまで偵察をしてこなくなるよ。そこが束の間の休息だよ。」


「なぜ、それが言い切れるんだ?」


「奴らにとって、寮幹部から流れていた情報が大拡散されて確実だと思われていたものが、自分たちを警戒して退院日を変えたと相手に思わせた時点で、大学側が密かに理化学波動研究同好会の存在を把握している可能性を強く疑うと思うからね。」


「いやぁ、さすがはお前だよな。確かにそうだよな。棚倉さんや三鷹寮長が五月蠅いぐらいにお前のコトをみんなに言っていたからさ…。」


 寮の身内の退院祝いに関しては、病院の場所や退院日なども含めて2人が広めてしまったのだ。

 牧埜は大宮や竹田から情報を得たのだが、実行委員チームが押しかけたのは棚倉が原因だった。


 泰田は準備委員会のメンバーでお見舞いに行く事を考えていたので、実行委員チームには後日、話そうと思っていたが、お見舞いの予定を調整中に守から電話があって事態が混沌としていたのだ。


「そうなんだよ。ただ、俺の予測も外れる場合があるから油断は禁物だよ。大学側はサークルの名前が分かっただけでメンバーの把握できていないから時間が経てば動いてくる。恐らく1~2ヶ月程度は動かないよ。下手したら連中は自分たちが泳がされている可能性も考えるだろうから。」


「そうか、そのうちに冬休みになるから、奴らが動き始めるのは正月明けからか…。」


「実際は分からないよ。俺らの動きを確認するために、思いも寄らないところで仕掛けることもあるから油断しない方が身のためだよ…。」


 そのあと、村上と寮内の様子について雑談をして電話を切ると、俺は陽葵に電話をかけようとした。


 しかし、可愛い陽葵の声を聞きたかった俺の想いは届かなかった。


 すぐに携帯が鳴って、守さんから電話があった。

『参ったなぁ…、面倒くさいなぁ。』


 守さんは強引なところがあるから、この時の俺は、彼女に対して少し毛嫌いをしていた。

 しぶしぶ電話をとると、守さんは申し訳なさそうに話を切り出した。


「三上さん、何も事情を知らずに強引に行こうとしてごめんなさい。わたし、勘違いしていました…」


 守さんの言葉に俺は複雑な感情を持ちながらも冷静に構えた。

 そして語気をかなり強めて守さんに俺は言った。


「申し訳ないけど、人の意見も聞かずに強引に行こうとするのは本当に止してください。夏休みに私の実家に押しかけようとした件もそうですが、私が駄目だと言うのには必ず理由があります。」


「ほんとにごめんなさい…。霧島さんがそれだけ緊迫した状況にあるとも分からず、強引に行ったらチームの人たちを危険にさらしてしまったわ…。」


 俺がそう言うと、守さんは少し涙声になった。


 こうなる事は予測していたが、今後のことを考えると、ここは言っておかないと駄目だと思ったので、はっきりと言うことにしたのだ。


 俺は守さんに対して強く言ったので、少しなだめるように言葉をかける事を心がけた。


 ここで畳みかけてしまうと、チーム内の関係が良くないのは明らかだし、すでに母親から怒られているのが明らかだったから、この辺で止めておいた。


「大丈夫ですよ、少し落ち着いてから、実行委員チームだけで退院祝いをやりましょう。今は騒ぎが大きいから寮内の関係者や親近者のみでやらせて下さい。学生課は安全保護の観点から霧島さんを特別職の寮幹部にさせて、あえて学生課の管理下に置く特別措置までしています。」


 それを聞いた守は驚いた。


 彼女達の情報源である棚倉は、実行委員チームの面々が寮の関係者でないから、詳しく教える義務もなく、今回は寮幹部のみで開催するとしか言わずに断り続けられていたのだ。


 実行委員チームの村上にも執拗に聞いてみたが、陣頭指揮を取っているのが棚倉だったのは明白だったので知らないと言われるのは当然だった。


「三上さん、ホントにごめんなさい。霧島さんがそんな事態になっているなんて思いもしなかったわ…。騒ぎが落ち着いてから退院祝いの企画するから、そのときは霧島さんと一緒にやりましょう!。」


「ありがとうございます。そうして頂くと助かります。」


 俺は守さんとの電話を切ると、談話ルームの自販機でもう一つ紙パックのお茶を買った。

 それを半分ぐらい飲み干して深い溜息をついた。


 その溜息が終わると、休む間もなく、次に荒巻さんから電話があった。

 流石に立て続けの電話で天を仰いだが、相手が荒巻さんなので電話に出ないといけない。


「荒巻です。三上くん、さきほど霧島さんと電話をしていて、午後からの図書館の件ですが、高木さんが4時過ぎに図書館に向かいます。高木さんが図書館に着いたら、三上くんの友人達と2台のタクシーを分乗して寮に来て下さい。」


「随分と厳重警戒態勢になりましたね?」


「そうだよ。三鷹さんと棚倉くんが退院祝いのことを詳細に周りに話していたことが分かって対策を練っていたんだ。ちなみに、当日は朝から警備会社に頼んで念の為に男女の寮の周辺を警備させる手配をしたからね。それが相手の牽制にもなるしね。」


「実は、それの関連で面倒なことが分かって、やっと解決したところです。」


「それでか…。三上くんの携帯が話し中で随分と繋がらなかったから、どうしたかと思ったよ。そういえば霧島さんが話していたけど、バレーボールチームのことかな?。」


「はい、その通りです。先輩達が私のことを喋りまくったお陰で、バレーボールのチームの面々が退院祝いをやることを聞きつけて、無理矢理に寮へ押しかけてくるのを阻止しました。もう困りましたよ。チームの監督に、お願いだから危ないので来ないでくれと懇願して、ようやく事態を収拾したところです。」


「三上くん、それは助かったよ。棚倉くんや三鷹さんに拡散しないように釘を刺さなかった情報管理の不行き届きもあるので、私から謝罪をしたい。明日の寮長会議では、2人にそのことを厳しく言うつもりだからね。」


「荒巻さん、あの2人の先輩を私は少し恨みますよ。早く平穏な大学生活が送りたいです。」


 荒巻は三上がこのような愚痴を吐いたことを少しだけ嘆いた。

 彼がこのような愚痴を言うことは滅多にないので、相当に精神的な疲労が蓄積していることを察した。


 結核で欠員が出た新島の代わりに諸岡や白井を寮長会議に出席させるようにして、霧島を書類上は男子寮側の役員に添えた自分の案が最良であることを確信した。


「三上くん、霧島さんは実質は男子寮側の役員になるよ。男子寮であっても受付室や寮監室に女性は入れるし、霧島さんなら受付を担当しても大丈夫だろうと考えているんだ。」


「それって…しばらく寮の玄関に人だかりができますよ?。だって寮長会議が男子寮であったときに、私も手が空かなくて受付ができなかった時に、三鷹先輩が代わりに寮の受付をやった時がありましたが、人だかりが凄かったですよ?。」


「大丈夫だよ。三上くんの退院祝いをした後に、夕食が始まる前に食堂に全寮生が集まって、私からこのことを詳しく説明するよ。そして霧島さんを特別職の寮役員ということで紹介するので、人だかりは少なくなると思うから安心して。」


「ありがとうございます。それを聞いてホッとしました。荒巻さん、金曜日はよろしくおねがいします。」


 俺がそう言うと、荒巻さんは言葉を続けた。


「明日は高木さんと霧島さんが病院へ行くよ。ここだけの話、私が霧島さんに付き添うよりも、高木さんのほうがズッと安心だからね…」


「荒巻さん、それを聞いて安心しました。」


 俺は荒巻さんとの電話を終えると、いよいよ力尽きた。

 みんなや陽葵を守る為とはいえ、これだけ立て続けに電話があると俺だって嫌になる。


『陽葵に電話をして声を聞きたかった…。』


 **************************

 そして時は現代に戻る。


 陽葵が脇でDMを読んでいて少しだけ難しい顔をした。

「あの退院間際の電話って、恭介さんのほうは凄かったのね…。これは疲れるわ。」


 俺は陽葵の頭をなでながら、それに答えた。

「大勢が絡むから訳が分からない。特に実行委員チームは俺達の邪魔をする前科が幾つかあったから、主犯の守さんや泰田さんを阻止することで精一杯だった。」


「そうそう、守さんの強引過ぎる悪い癖が直りはじめたのは、仲村さんとお付き合いを始めてからだったわ。仲村さんが守さんの行きすぎた所を抑える役目を担っていて、彼女が徐々に分かってきた感じだったわよね…」


「それについては仲村さんが適任だったんだ。それがゆえに最初は喧嘩も多かったけどね…。」


 俺は苦笑いしながら陽葵の顔を見たら、少し疲れた表情をしている。


「わたしも間に入って、とても苦労した事もあったわ。あのような場合は女性が間に入るのが一番よ。」

 恐らく2人が付き合い始めた頃に激しい喧嘩をして間に入った時のことを思い出したのだろう。


「やれやれ、今は仲良くなったし、守さんの暴走なんて皆無になったけどさ…」


 そんな話をしていたら、新島先輩からDMが届いたので、俺と陽葵はそのDMを一緒に読んだ。


 -----

 三上、お前の気持ちが良く分かったよ。

 棚倉先輩や美緒は、このことを喋りまくって、お前達を危ない目に遭わせたんだよな。


 それに、今となっては笑い話だろうが、守や泰田たちは、少しだけお前に気があったから、余計に強引だったのが分かる。


 お前は、お堅い女子連中に対して、面倒臭そうにしていて眼中になかったのは良く分かっていたから。


 卒業間際に学部の友人に、あの女子連中を譲ったと白状した時は三上らしいと思ったよ。

 お前は陽葵ちゃんと結ばれる運命だったからなぁ。


 あのとき俺が結核にならずに、その場にいたら、守や泰田はもちろん、棚倉先輩や美緒のお喋りまで止めたと思う。


 マジにお前が可哀想だし、入院中にこれだけ電話をされまくったら、疲れたままだっただろうに…。

 まして、お前が陽葵ちゃんを守ることで精一杯だったのは、俺が復学した直後から分かったからさ。


 呆れたなぁ。


 もう、時効だけど、お前はあの状況で自分なりに冷静に考えて、よく頑張ったと思うよ。

 諸岡を上手く使いながら、陽葵ちゃんも受付を手伝ってくれたし、俺が復学するまでの間、よく寮の仕事を滞りなく回していたなぁって…。


 それに、棚倉先輩は思ったよりも動けたよな…。

 あの先輩は頭が良いから、ちょこっとやっただけで、論文の類はツッコミがほとんど入らなかったと聞いているし。


 これは次に先輩と会うときに突っ込むネタになるよ。

 先輩が、三上の怪我と合わせて俺に語りたがらないもう一つの理由がこれだよ。


 とにかく特大級のネタをありがとう。

 この前の高木さんの件には劣るけど、突っこみどころ満載だわ。

 -----


 このメールをみた陽葵が一言だけ感想を言った。

「新島さんは、あなたの先輩の中で、とても頼りになる味方だったわ。」


「やれやれ。改心した新島先輩は、俺にとって頼りになる先輩だったよ。復学してから、どれだけ助けられたか…」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?