-体育祭終了後-
委員達は体育祭が終わった後の片付けと撤収作業に追われていた。
そこに、良二や宗崎、村上が加わって、俺と一緒に撤収作業を手伝っている。
それには理由があった。
撤収作業が終了後に、俺が棚倉先輩や新島先輩などから、コンパに強引に引きずりこまれることを阻止するため、3人が俺を庇かばいながら動いているのだ。
今日は棚倉先輩の強引な誘いを避けるために、宗崎の家に泊まることになっていた。
既に松尾さんに話しをてしていて、村上のぶんまで外泊許可を得ていた、
翌日の早朝になったら、あのスーパー銭湯に行って、そこで朝食と取った後に、4人で寮に戻って俺たちの部屋に泊まって俺の課題をやっつける計画をしていた。
トラックの運転は、宗崎が免許証を持っていたから、俺と交代しながら大学に運ぶ事ができたから効率が全く違った。
助手席に俺の3人の誰かが常に座るから、他の委員が乗る隙を与えないところもポイントだった。
俺は、この時点で三上恭介は日曜日に実行委員会の終了コンパが行われる可能性があることなんて、全く知らなかったのだ。
ただ、バレーボールの優勝打ち上げが日曜日にある可能性を泰田さん達が匂わしていたので、4人は三上が課題の山を片付けたら、家に戻った後にそれに顔を出そうか…なんて考えていたのだ。
ちなみに、優勝の打ち上げコンパには、なぜか良二も誘われていた。
あたりは夕方で薄暗くなりつつあった。
俺はトラックに荷物を載せて1人で宗崎が戻ってくるのを待っていると、逢隈さんから声をかけられた。
「三上さんのお陰で、去年よりも撤収作業が早く進んでいるわ。」
俺は逢隈さんに対して、コンパの誘いにきたのかと警戒していた。
「逢隈さん、お疲れさまです。ごめんね、最後のコンパに出られなくて…」
逢隈は、だれも周りにいないことを確認すると、棚倉から三上に秘密にしろと言われていた事実を彼に話すことにした。
三上の性格を考えて、そのほうが、来年、また彼が実行委員に戻ってくる可能性が高いと感じていたからだ。
「三上さん。棚倉さんから三上さんに話すなと口止めされているコトがあるのよ…」
その逢隈さんの言葉を聞いて、棚倉先輩達が俺を強引にコンパへ引きずり込む作戦だと真っ先に感じた。
「それは、教えて下さい。先輩達は俺をコンパに出すのに、ありとあらゆる手段で無理矢理に引きずり込もうとするからです。もちろん、逢隈さんには危害がないように策は練りますから。」
「ふふっ、三上さんらしいわ。棚倉さんたちは日曜日の夕方から、三上さんがいる学生寮近くの大きな宴会場でバレーボールの優勝打ち上げコンパを兼ねた打ち上げコンパを行う予定でいるわ。今回は60人近くの人が参加するから、もう、そういう場所じゃないと、コンパができないのよ…」
俺はそれを聞いて逢隈さんの情報提供に凄く感謝をしていた。
「逢隈さん、マジにありがとうね。それで明日以降の日程が組めたから助かったよ…。イキナリ言われるのが、いちばん面倒だし、疲れた体にこたえるのですよ…」
「それで、三上さんは、そのコンパに出られそうですか?」
彼女にとって、その質問こそが重要だった。
三上がいなければコンパをやる意味はないし、来年も実行委員に入って欲しい気持ちがあったからだ。
「逢隈さん、その時間なら、ウチの学部の3人も含めて参加できるはずですよ。何かあったら出席可能なことを伝えておいて下さい。」
その言葉を聞いて彼女の顔がパッと明るくなった。
「三上さん、ありがとう。私がコッソリと話して良かったわ。棚倉さんが三上さんを強引に引っぱるのは良くないと思うのよ。委員会の時に三上さんがそれで苦労しているのを見ていたし、わたしは泰田さんとも知り合いだから、三上さんが実行委員に入った経緯を聞いていたのよ…。」
「逢隈さん、それなら話は早いです。もう最初は強引すぎて嫌でね…」
俺が逢隈さんに言葉を続けようとして矢先だった。
「あっ!、こんなところに三上さんがいた!!」
泰田さんと松裡さんが俺のほうに駆け寄ってきた。
「あれ?紗良ちゃんもここに?」
泰田さんは逢隈さんに言葉をかけたが、咄嗟に彼女を庇って俺から泰田さんに声をかけた。
俺から見て逢隈さんも嘘が苦手っぽいし、さっきの話がバレて肩身の狭い思いをさせたくなかったからだ。
「泰田さん、逢隈さんとトラックを待っているのですよ。ウチの仲間は、三人とも免許を持っているから私も楽ができてますよ。今日は宗崎しか免許証を持ってきてないけど…。」
その言葉に泰田さんは少し驚いた。
「まっ、マジで??。やっぱり工学部だから感覚が違うのね…」
逢隈は三上の機転の利いた話の振り方に、ものすごく安堵感を覚えた。
泰田が自分の知り合いであろうと、彼女も嘘が苦手だし、バレてしまえば総務委員の立場から棚倉に話がいくのも時間の問題だと思ったからだ。
俺は彼女達と雑談をしてる間に宗崎が運転するトラックがやってきた。
宗崎はトラックを体育館前の駐車場につけると、運転席から降りて俺に鍵を渡した。
「村上と本橋は疲れて助手席で寝てしまっているから、お前が大学に着いたら起こしてやって。」
委員達はそれを聞いて少し笑っていた。
しかし、2人は寝たふりをしているだけだ。
これは三上が考えた作戦だった。
誰か他の委員をトラックに乗せてしまうと、コンパに強引に誘われる時間を作らせてしまう。
打ち上げコンパは日曜日だと言うが、恐らく実行委員の幹部だけで打ち上げをやる可能性を先輩達が考えているだろうから、それを避けたかったのだ。
俺は宗崎と一緒に最後の荷物をトラックに積むと念を押した。
「みなさん、忘れ物はないですか?。これで最後ですよ?」
委員達は念の為に体育館や使用した施設に散らばって、忘れ物がないことを確認すると、俺はトラックを走らせた。
トラックを降りて1人残された宗崎は、委員達に「用事があるから」と、別れの挨拶をすると、このまま本館キャンパスに行くためにバス停まで走った。
バス停につくと、バスがタイミングよくきたので宗崎は胸をなで下ろしてホッとしていた。
もしも勘が良すぎる棚倉や新島あたりに自分が見つかったら、そのまま彼らに人質にされて三上を強引にコンパに行くように脅されてしまう危険性があったからだ。
本館キャンパス側にいるメンバーは、仲村さんや牧埜、天田さん達だった。
牧埜や仲村さんには今回のコンパに行かないことを素直に話して、3人からは承諾を得ていたのだ。
彼に関してはバレーボールの練習で何時でも会えるので、名残惜しさなんて皆無だったのである。
新島先輩や棚倉先輩は、市民運動公園で細かい後片付けや、コンパの手配になどに追われていたから、今すぐに本館に来るようなことが不可能だった。
トラックが運動公園から離れると、寝たふりをしていた良二と村上が起きた。
俺はルームミラーからバス停でバスを待ってる宗崎が見えた。
そうするとバスがやってきて宗崎がバスに乗る姿を見て一安心した。
「宗崎はこのトラックの後ろにいるバスに乗れたようだよ…」
それを聞いた良二はホッとした表情を浮かべた。
「棚倉さんは強引過ぎるんだよな、お前が少し嫌になるのも分かるわ。キチンと話をして普通に誘えば、お前だって性格は悪くないから二つ返事で了解するのにさ…」
俺は少しだけ語気を強めた。
「良二、そこなんだよ。だからさ、俺は常に棚倉先輩の強引で理不尽な囲い込みを防ぐのに、こういう計略を練らなきゃいけないから、少しだけ腹が立ってる。」
「三上さぁ、日曜日はバレーボールの優勝コンパなのかな?」
村上は俺に単純な質問をぶつけた。
「いやさ、さっき、他の委員から内緒話で聞いたのだけど、うちの寮の近くの宴会場で、日曜日の夕方から打ち上げコンパとチームの優勝コンパを兼ねてやることを計画中らしいんだ。」
良二は鋭かった。
「それって、また、棚倉さんが恭介を強引に連れて行く為に、逃げないように情報を隠していたわけだろ?」
俺は少し苛立ちながら本音を出した。
「その通りだよ。あの先輩なやり方がおかしいんだよ。こういう場合は2次会は無理だろうけど、嫌顔でもコンパには顔を出すよ。あの先輩は人を囲い込もうとしているから、こんな変なことになるんだよ。」
俺の言葉に村上がうなずいた。
「三上、そうだよな。お前が寮で苦労してるのは、その部分も大きいからな。この前、お前が風邪を引いたときもそうだけどさ、具合が悪いのに寝かせてくれないのは、ハッキリ言って酷いと思うし、あの怖い学生課の人が棚倉さんに一本背負いをしながらメチャメチャに怒ったのも分かるよ。」
村上がそう言うと俺を心配そうに見ている。
「村上の心配は分かるさ。今は牧埜や仲村さん、天田さんが味方だから助かったよ。たぶん、あの体育館に居座ったら実行委員幹部のコンパをやろうと言い出して、何時間も帰れずに深夜まで帰させてくれない流れだよ。」
そんな会話をしていると大学についた。
トラックを教育学部の用具倉庫までつけると、牧埜や仲村さん、天田さんが待っていた。
そして遅れて宗崎もやってきた。
皆でトラックに載っている荷物を降ろして用具倉庫にしまっていると、仲村が俺を見て気まずそうに声をかけた。
「三上さん、本当にすまない。棚倉さんから口止めをされていたけど、日曜日の4時頃から実行委員と、うちのチームの打ち上げコンパを三上さんの寮の近くにある宴会場でやるらしい。三上さんにだけ知らせないのは可哀想だと思って。」
その言葉に牧埜や天田さん、村上に宗崎、良二まで集まってきた。
「実はね、ここだけの話ですが…。さきほど別の委員からそれを聞いたのですよ。」
俺はそれが逢隈さんということは流石に隠した。
その言葉に仲村さんが溜息をついた。
「あ~あ。あぁ…、やっぱりなぁ…。誰かが絶対に話してしまうと思ったよ。三上さんは都合がつけば、逃げないと思うし、棚倉さんはなんでも囲みたいから、それに振り回される三上さんがとても可哀想に思えてきたんだ。事情も分からず無理矢理に引っ張られるよりも都合を聞いた方が早いだろうし…。」
俺はそれを聞くと、天を仰いで溜息をついた。
「はぁ…。仲村さんマジに助かりましたよ。あと、今日の打ち上げコンパですが、このまま私がいなくてもコンパをやりたいと言ってる委員は何人いるのですか?」
その質問に牧埜が答えた。
「うーん15~20人ぐらいですかね、今日はここにいる私達も、実行委員チームの女性メンバーも、実行委員幹部も全て欠席ですよ。三上くんがいないと始まらないので…」
『どのみち、宗崎の家に行く前に、俺たちは何処かで飯を食べないと、ご両親が仕事で帰ってくるのが遅かったよな。』
俺は少し覚悟を決めた。
「宗崎、確か、今日はご両親が仕事で帰るのが遅いから、どこかでご飯を食べてきてくれと言っていたよね?」
宗崎はうなずいた。そして三上のやろうとしてる事が分かって笑った。
「三上そうだよ、って、そういうことか!」
村上や良二も嬉しそうだ。
俺は仲村さんと牧埜に向かって悪戯っぽく話しかけた。
「棚倉先輩や新島先輩が、コンパでいないのなら、うちらだけで
それを聞いて、ここにいる全員が喜んだ。
そして、手分けをして松裡さんや泰田さん、逢隈さんや守さん、山埼さんなどの女性陣に連絡を入れると皆は二つ返事でOKだった。彼女達は少し片付けがあったから市民運動公園に残っていたようだ。
トラックを所定の場所に戻して学生課に行ってトラックの鍵を返すと、居残っていた荒巻さんに声をかけられた。
「三上君、あのバレーボールの決勝戦は学生課のビデオカメラを持ってきて撮影をさせて貰ったよ。いまごろ松尾さん達が見てると思うよ。」
「荒巻さん、あれはちょっと恥ずかしいですよ…」
俺は荒巻さんの言葉に苦笑いをしながら、会釈をして学生課を駆け足で抜けてキャンパスの正門前に急いで戻った。