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~エピソード5~ ㉖ 体育祭当日~実行委員チームの決勝戦。

 決勝戦の相手は、やっぱり初戦で戦ったあのチームだった。

 ウチのチームに負けて敗者復活戦を勝ち抜いて、ここまで這い上がってきたのだ。


 守さんのお母さんは、初戦で戦ったチームに対して思いきった作戦を打ち出した。


 2セッター体制で守さんと俺のポジションを入れ替えたのだ。

 男女混合のルールの兼ね合いもあって、センターは泰田さんと仲村さんが入れ替わった。


 ひときわ背の高いエースが前衛で打つスパイクを俺が徹底的にブロックをしようという作戦だった。

 無論、その選手のバックアタックのブロックを守さん、仲村さん、天田さんの3人に託す形だ。


 1セット目はそれが功を奏して24-20で勝利した。


 2セット目は相手がエースのポジションを入れ替えて、うちのマークが混乱してしまったので、20-24で仕返しをされたような点差で負けてしまった…。


 試合は3セットまで、もつれこむ激戦となった。

 ポジションは相手チームとの読みあいになり、1セット目と同じ形になったが、そう甘くはなかった。


 守さんは、先ほどのセットで負けてしまったプレッシャーから、前衛に入った時のトスが乱れたり、攻撃が単調になって、仲村さんや泰田さんがブロックをされて、相手のリズムに乗せてしまった展開になった。


 いまは4-11。7点も開いている。

 そこでちょうど俺にサーブが回ってきたので、ここはジャンプサーブをする決意して主審に向かって手をあげて宣言をした。


「ジャンプサーブをやります。」

 俺のその声に周りがどよめいた。


 ひときわ身長が高い選手は、俺の宣言を聞いて主審になにやら言葉をかけている。

 それが終わると主審が俺の顔を見て少し微笑んだ。


「後衛の1人が女性ですが、全て経験者なので心置きなく狙って下さいと進言がありました。仮に狙っても実行委員長さんにカードが出ることはありません。」


『俺は実行委員長じゃねぇよ。』


 そのツッコミは置いといて、主審に向かってうなずくと俺はジャンプサーブに集中することにした。


 俺のサーブに周りが注目しているのが分かった。

 決勝戦なので嫌顔でも注目が集まるし、体育館の2階までギャラリーがいるから、少し緊張をしながら周りを見ていた。


 俺は意を決して体育館の壁際まで下がると、少し目を閉じて気持ちを整えた。

 そして、静かにトスをあげて、全身の力を使って背の高い選手に向かって思いっきりドライブをかけて狙った。


 バコンッ!!!


 今までとは全く違う、強くボールを叩く異質の音が体育館に響いた。


 そのボールが、あの背の高い選手めがけて真正面に飛んだ。

 彼はそのボールをレシーブすると、その場で倒れ込んだが、ボールは自陣のネットに突き刺さるように飛んでポトリと落ちた。


 おおおおお~~~~~~~

 ギャラリーから耳をつんざくような歓声があがった。


 俺のジャンプサーブを受けた彼が大きな声でメンバーに呼びかけた。

「ドライブが凄い、それにボールが重いから気をつけろ!!。」


 その声で後衛が少し前に出た。


『よし、今度は無回転のジャンピングフローターだ。これは絶対に意表をつく。』


 同じく体育館の壁際まで寄ると、回転をさせないようにトスをあげて、女性の選手を狙った。

 このサーブなら女性を狙っても、まわりから批判をされる事はないだろう。


「きゃっ!!」


 フラフラッと揺れたボールが背の高い選手と女性の選手の間に飛んで、慌てて女性の選手がレシーブをしたが、そのボールは真横に飛んで、試合をしていないコートに落ちた。


「ジャンプフローターの無回転だわ!!」


 俺は思いっきり打つドライブ回転の強烈なサーブと、先ほどの無回転のサーブを交互に打って相手チームを混乱に陥れた。


 相次いでサーブを決めると、主審が笑顔になって俺に話しかけた。

「実行委員長さん。これで3点差なので、このジャンプサーブを打ったら、次のサーブは普通に戻して下さいね。」


 もう、これから打つジャンプサーブが決まることが前提で話が進んでいる。


 俺は強烈なジャンプサーブを決めたが、次のサーブをどうするか悩んでいた。


『相手は俺のサーブに慣れ始めているよな。補欠に無回転を打たせて練習をしていたからな…。』


 さきほどのジャンピングフローターはともかく、俺が打つサーブのサーブカット対策ができている雰囲気が試合前の練習から伝わっていた。


 今は9-11だが、せめて12-11まで取って相手を焦らせたいところだ。


 『アウトになるのが恐いけど勝負をかけるか…。』


 相手チームは、俺がジャンプサーブをやると言った時点で、2点差までは許容範囲として、タイムアウトをとらずに俺のサーブを受け続けていた。


 ちなみに中学時代はピンチサーバーだったので、サーブができる限り入るように練習を重ねていた。

 背の小さい俺がサーブを外せば、ピンチサーバーでも使えずに球拾いで卒業まで終わっただろう。


 だから、新たに拾得したジャンプサーブは必ずコートに入るように、そして、ネットにかからないように、トスのあげ方やタイミングを何度も練習していた。


 体育館の壁際のほうに寄ると、俺は息を整えた。

 今までより強めに無回転のサーブを打って相手コートのラインのギリギリを狙うことにした。


 それを見て相手チームが『なにをするのだ?』と、言わんばかりに困惑な表情を浮かべている。


 俺は相手コートの後ろのラインギリギリを狙って無回転のフローターを強めに打った。

 もう1人の男性の選手がアウトと言いかけて、慌てて横を向いてレシーブをしようとしたが遅かった。

 サーブはラインの内側ギリギリに入って、旗を持った線審がインの合図を送った。


 10-11。ここで相手チームのタイムがかかった。


 守さんのお母さんの元にチームが駆け寄ると、もの凄い笑顔でハイタッチをしてきた。

「三上さん、6連続でナイスサーブよ。ジャンプサーブよりも、さっきのフローターが効いているわ。」


 俺は次のサーブをどうするか迷っていたので、守さんのお母さんに聞いてみた。

「あのまま、ラインギリギリを狙った方がいいですかね。それか、安全を見て間に落とすかを悩んでいます。」


 守さんのお母さんは、少し笑みを浮かべて俺に小声で言った。

「フフッ、さっきの位置に立って軽く前に落として、次はラインのギリギリを狙うのよ。」


 タイム明け後に、アドバイスを受けたようにサーブを打つと後衛と前衛の間にポトンと落ちて、相手チームはお見合いをしてしまった。


 これで11-11。

 でも…、次のサーブは狙いすぎてアウトになってしまった。


 俺がサーブを外すと、すかさず泰田さんのお母さんから声がかかった。

「いいよ!!。同点まで追いついたから、ここからよ!!」


 サーブを外したときにメンバーが寄り集まると、俺は山埼さんに小さく声をかけた。

「山埼さん、内緒にしていたあの形を試そう。みんなはサーブが来たら山埼さんにあげてくれ。」


 それを聞いた守さんと泰田さんが目を見開いたが、2人とも笑みに変わった。


 相手の選手は流れが良くないせいか、サーブの精度が鈍っていた。

 サーブが泰田さんのほうに飛ぶと、彼女は綺麗に山埼さんに返した。


 仲村さんが、おとりになって飛ぶと、その時点で相手のブロックがズレるのが分かった。


 俺は山埼さんから上がったトスで、ブロックがノーマークになった瞬間にバックアタックを思いっきり打った。 

 バックアタックは、誰もレシーブできないラインの奥深くに刺さるように入った。


 12-12。ここから怒濤の反撃が始まった。

 俺は前衛にいる守さんに小さく声をかけた。

「バックアタック」


 それを聞いた仲村さんは天田さんがサーブを打つとポジションをセンターに入れ替えた。

 予想通り、相手セッターが配球したのは、あの身長の高い選手のバックアタックだった。


 3人が待ち構えたようにブロックを飛ぶと身長が高い仲村さんの手に当たって相手コートに落ちた。


 13-12。流れは完全にウチのチームだった。


 相手チームはたまらずにタイムアウトを要求した。


 タイムアウト後に、天田さんに代わって牧埜がピンチサーバーで出てきた。

 牧埜は狙い所が分かっていそうな雰囲気だったので、俺からあえて狙い所の指示を出さなかった。


 彼なら、この試合を見ていて俺の真似をすることが確実だったからだ。

 牧埜は体育館の壁際まで離れると、俺直伝の無回転サーブを身長の高い選手の目の前に落とした。


 14-12。

 相手チームにとって牧埜のサービスエースは致命的になった。

「一本を取ろう!!」という声が、相手チームからあがっているが、それは悲痛な声に聞こえた。


 牧埜はさきほどサーブを打った少し深い位置につくと、無回転サーブを少し強く打った。

 こんどは相手コートの深い位置を狙っていた。


 サーブを打った相手が俺ではないので、相手チームは完全に油断をしてしまった。

 後衛のセンターとライトの間に牧埜のサーブが揺れながら落ちるとゲームは決まった。



 -そして…。

 実行委員チームの優勝が決まった。


 その後、俺は疲れた表情を浮かべながら、メンバー達にもみくちゃにされていた。


 そのなかで、泰田さんと守さんは自分達の母親が俺を抱きしめないかを監視して、俺に危害が及ばないように体を張って止めている様子を遠くから眺めていると、次に待っていたのは俺への怒濤のツッコミだった。


「おい!、あんな凄いジャンプサーブなんて聞いてないぞ。恭介や、ここの椅子のそばにいた小柄で少し可愛い子が頬を紅くして見ていたぞ!!」(本橋)


「三上君は上手かった。7連続もサーブを決めたのは凄かったよ。」(有坂教授)


「有坂君、とてもよい教え子を借りられて良かったよ。今回の体育祭は見応えがあったし、委員達の動きも良かった。彼が多大な貢献したのは間違いない。よい試合を見せて貰ったよ。」(浜井教授)


「あのねぇ…恭ちゃん。マジに凄っ。それしか言いようがないのよ…。」(三鷹)


「三上よ、お前はどうして今までこんなに凄かったのを隠していたんだ。牧埜や松裡まで極秘練習をしていたとは思わなかったし、お前の友人も巻き込んでいたのか。お前って奴は…」(棚倉)


「凄い試合だったね、優勝おめでとう。あのジャンプサーブは凄かったよ。相手が完全に翻弄されていたからね。これから三上君の見る目もかわるよ、これは。」(荒巻)


「ふふっ、やっぱり三上くんは背筋が強いわ。体が小さくても均整がとれているから、あれだけジャンプ力があって強いサーブを打てるのね。」(高木)


 教授達と高木さんや荒巻さん以外のツッコミに関して適当にあしらっていたら、最後に新島先輩に両肩をがっちり掴まれた。


「おい、三上!!。お前は試合が終わっても喜びもせずにシレッとしているから分からねぇ。来年は、お前が嫌な顔をして委員を断っても、絶対に泰田や守がお前の部屋まで行って、引きずってでもここに連れてくるぞ。」


「先輩、もう俺は疲れましたよ。とりあえず試合が終わったから撤収作業を開始しましょう。逢隈さんがここにいないから他の企画も終了していて彼女は、片付けの指揮があって、てんてこ舞いなはずです。」


 新島先輩は俺の言葉を聞いて呆れたような顔をしている。

「三上。お前って奴は…。いつもそんな感じだから分かんねぇよ…。」


『あ~、終わった…。あとはどうやって今日のコンパの誘いから逃げるか…だ。』


 俺は、今夜のコンパの誘いから、どうやって逃げられるかの算段を考えていた。

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