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~エピソード5~ ⑭ 実行委員チーム始動。~2~

 俺と守さんのお母さんとのサシの練習が終わった後…。 


 今日の練習の最後に、みんなで輪になって20回連続でトスやレシーブを続けるゲーム感覚の練習をしている。


 20回のうち、必ず1回はボールに触ることが条件である。


 誰かにトスを回しそびれた場合は最初からやり直しだし、無論、20回に満たないうちにボールが床に落ちればやり直しである。


 これが成功すれば全ての練習が終わるのだが…。


 しかし、泰田さんや守さんの親子、去年からチームにいた仲村さんや俺はともかく、牧埜や松裡さん、山埼さん、天田さん、宗崎や村上は、初心者なのでミスを連発してしまう。


 そのミスを、経験者達がカバーすることも狙った練習も兼ねているから、守さんのお母さんの考えていることが侮れない。


 もう、15回もやり直しているし、腹も減ってきているから練習を終わりにしたい。


「三上さん、ごめ~~ん!」


 天田さんがレシーブをしたボールが俺の頭上のはるか上を山なりになって飛び超えていく…。

 もう、バレーボールコートの半分ぐらい、ボールが外れている。


 でも、俺は諦めなかった。

 ボールが山なりに高く飛んでるので思ったよりも遅いから、思いっきり走れば、ギリギリで間に合いそうだ。


『今の天田さんのレシーブで全員が触っているし、18連続だし、これを意地でも俺が取らないと。これにハマって練習時間が遅くなると、飯が食えなくて腹が減るから余計に動けなくなる。』


 俺は全力でボールを追いかけてギリギリのところで落下点に入ると、アンダーサーブを打つ要領で右手に力を込めて泰田さんめがけて山なりに打ち込んだ。


「泰田さぁ~~ん、頼むっ!。もう腹が減って動けねぇ~~~!。」

 俺は息を切らしながら、その場で倒れ込むと彼女に全てを託した。


「三上さんっ、最後に笑わせないでぇ~~~!!!。」

 泰田さんはゲラゲラと笑いながら俺が狙った場所から少しそれたボールを仲村さんめがけてレシーブをして、ようやく練習が終了した。


 ふらふらになって起き上がると、泰田さんのお母さんに話しかけられた。

「三上さん、アンダーサーブも上手そうですよね?」


 俺は泰田さんのお母さんに疲れた笑顔を見せながら答えた。


「あ、泰田さんのお母さん、すみません、情けない姿を見せちゃって。私はバレー部に入った直後は背が低い上に力がなかったので、女の子がやるようなアンダーサーブの練習をさせられたのです。そのときの名残で、あれが狙って打てるのです…。」


「守さんのお母さんは、三上さんを目にかけているわ。少し教えれば、すぐに分かって器用にやってくれるから教え甲斐があるって。ふふっ、明日の練習からは、ネットも張って練習するから楽しみだわっ。」


 泰田さんのお母さんと会話をしていると、守さんのお母さんがやってくる。


「三上さんは教え甲斐があるから、久しぶりにワクワクしながら練習をしたわ。三上さんを含めた経験者4人以外で誰がレギュラーになるか決まっていないけど、今年は、なかなか面白そうなチームになりそうよ。」


『そんなに期待されても困るよ…』


 俺はそんなうちに秘めた愚痴を隠しながら、2人の母親に疲れた笑顔を浮かべて、その場をの会話を乗り切ったのである。


 ◇


 練習が終わると、俺たちは夕食と、チームの結成会を兼ねてビュッフェにいた。

 俺が適当な椅子に座って、村上や宗崎と喋っていると、山埼さんが俺の腕を引っ張っている。


「三上さんは、そんな場所に座っていては駄目です。みんなの真ん中ですよ!」

 引きずられるようにして、2つのテーブルをつなぎ合わせた真ん中付近に座らせられた。


 その様子を見て宗崎は、山埼さんに聞こえないように小声でボソッと村上に本音を吐く。

「いやぁ…三上は大変だなぁ…。」


「ホントだよ…。色々とできる人は辛いよね…。」

 村上は同情するかのように、複雑な顔を俺に向けるが、その会話に牧埜が加わった。


「横から三上くんを見てましたけど、なんだか凄すぎて別人でしたよ。本当に中学の時に補欠なのかと思うぐらいレシーブが凄かったですし。爪の垢を煎じて飲みたいぐらいですね。」


 松裡さんが少し溜息をつきながら牧埜に本音を吐く。

「牧埜くん、わたしも守さんや泰田さんのように上手くなりたいわ。それよりも三上さんが異次元すぎて吃驚してるの。」


 どうやら、牧埜と松裡さんは、同じように練習をしているうちに、同期なので呼び方が少しフレンドリーに変わったようだ。


 俺はあまりに皆が褒めすぎるので、首を静かに横に振りながら否定をする。


「みんなさぁ、あれは守さんのお母さんの教え方がもの凄く上手かったからだよ。中学時代の部活なんてミスをすれば、すぐに顧問から殴られるのが当たり前だからね。あんなに手取り足取り丁寧に教えられて練習なんてさせてくれないよ。俺みたいな体格の小さい奴なんて、相手にもされずに勝手にやってろ状態で見放されているし。」


 守さんのお母さんが、ビールを飲みながら俺の目をじっと見て、その俺の本音をシンミリと聞いて口を開いた。


「三上さん、そこが今のバレーボールの部活で問題になっているのよ。体罰は当たり前、三上さんのように背が小さくても素質がある子がイジメにも似た状況で、周りから突き放されるのが理不尽なのよ。ちょっと教えれば上手にできる子が、こうやって馬鹿な理由で殺されていくの。」


 ちなみに、現実問題として、リベロ制になる前のバレーボールなんてこんな感じだったし、未だにその風潮は残っているだろう。


 ふと泰田さんの親子は隣同士に座ってビールを飲み始めているのが見えたが、泰田さんのお母さんが、守さんのお母さんに話しかけた。


「守さん、そうよねぇ…。そういえば、三上さんにアタックまで教えるのよね?」


 守さんのお母さんはにんまりと笑っているが、俺は嫌な予感しかしない。


「ふふっ。泰田さん、三上さんは体幹が良いわ。トスやレシーブをしていて反応が良いし、教えれば、絶対にできる子だと確信したのよ。あと、背筋も強そうだわ。」


 俺はそれを聞いて、とてもじゃないけど無理な事を悟って、真っ先に否定をした。


「あのぉ…、俺はアタックなんてまともに打ってませんよ…。それこそ、そっちは素人すぎて、サーブも無回転のフローターが精一杯です…。」


 守さんのお母さんは、俺が否定した言葉を聞いても、穏やかに笑っていから怖い。


「三上さん、大丈夫だわ。私は今のバレーボールのあり方にとても疑問があるのよ。何日かけても良いから三上さんを手取り足取り教えて、まともにアタックができるようにさせてあげるわよ。あなたが中学時代の部活でとても嫌な想いをしたことは本当に分かるわ。だから、その恨みを晴らしたいの。」


 俺は隣にいた泰田さんのお母さんにポンと肩を叩かれると、ジッと目を見つめられた。


「三上さん。守さんはね、それが嫌で監督と喧嘩をしたから、高校で全国大会に行けるぐらいの実力があるのに、レギュラーと補欠の合間にいてハブられたのよ…。」


 俺はそれを聞いて、驚いて、しばらく間を置いてから、泰田さんのお母さんに言葉を返す。


「…そうでしたか。だから守さんのお母さんが上手いわけです。普通、あんなに正確でかつ強いアタックが打てるなんて体感したことがありませんでした。強いけど、とてもレシーブが受けやすかったですし…。」


 褒められた守さんのお母さんは、嬉しそうな顔をしている。


「ふふふっ☆。三上さん、お世辞も上手だから恥ずかしいわよ。みんなから信頼されているのも分かるし、とうの本人は謙虚しているから、じれったいわよ。」


 そんな話で実行委員会チームの結成コンパは過ぎていった…。


 ◇


 コンパが終わって村上と一緒に寮に戻ると、受付室に棚倉先輩がいて、真っ先に声をかけられる。

「三上。やっぱりコンパだったか。帰りが遅かったからそうだと思って…。」


 村上も俺と一緒に練習をしていたが、棚倉先輩は何ら疑問に思わなかった。


 俺と村上は、コンパが終わった帰り道、コンビニに一緒に寄って夜食と明日の朝食を買ったお陰で、先輩は帰る道中で偶然に村上と一緒になったと思い込んでいるのかも知れない。


 村上は無用な推測をされるのを避けるために、早々に部屋に戻ったのは正解だ。


 俺はバレーボールの練習をやったとは言えなかったので、微妙な嘘をついた。

「先輩、そうなんですよ。バレーボールチームの結成コンパがあって、泰田さんや守さんに引きずり込まれました。」


 そうすると棚倉先輩は俺にお金を差し出しているが、俺はお金を受けるのを躊躇う。


「それなら仕方ないな。これは明後日のぶんまでの飯代だ。このさい、お前は頑張ってるから、何も言わずに受け取れ。どっちみち新島の金だけどな…。」


 俺は流石に良心の呵責を覚えたので、本音をぶつけた。


「先輩、本当にいいのですか?。本気で新島先輩が可哀想になってきたような…。」

 棚倉先輩は俺の言葉に対して静かに首を横に振って否定をする。


「いや、アイツを甘やかしてはいけない。そういう温情をかけると、そこにつけ込んでサボろうとする。これは新島にとって良い機会なんだ。どっちみちコンパのハシゴで普段は今よりも金を使ってるのが確実だ。これでも新島にとって相当な節約になってるのだ。それれでなければ安易に金を渡さない。アイツはそれぐらい遊びほうけている。」


 そして、棚倉先輩と受付室でしばらく雑談をした後に、部屋に戻って1日を終えたのだった。


 ◇


 翌日の土曜日の夜、俺は村上と一緒にバスに乗って体育館に向かった。

 俺たちが体育館に行くと、守さんや泰田さんが支柱を立ててネットを張り終えている。


「泰田さん、手伝えなくてすみません。あれ?。思ったよりもネットが低いですね。」


 俺が泰田さんに声をかけると、なぜか、泰田さんから背中をポンと叩かれた。


「三上さんは手伝わなくて良いのよ。もぉ~~。実行委員長代理さんに細かいことまで手伝わせたら、こっちが恥ずかしいわ。それとね、ネットは男女混合だから224cmなの。ママさんバレーより少し高いけどね…。」


 そして、みんなが体育館に集まってきて、準備運動をした後に、守さんのお母さんとのワンツーマンで特訓が始った。


 ちなみに他のメンバーは、基礎的な練習を泰田さん親子や守さんが中心となってやっている。


 最初は昨日と同じ流れで、トスやレシーブの練習をした後に、俺と監督のワンツーマンでアタックの練習をすることになった。


「すみません。アタックを打つタイミングが全く分からないので、初心者に教えるようにお願いします。」


 俺が不安げになってそう言うと、守さんのお母さんはニッコリと笑って、センターのネット前に立って、籠からボールを取りだした。


「まずは三上さん。その状態で打ってみよう。そのほうが説明が早いから、とりあえず開いて。」


 俺がアタックを打つために助走をつけられる位置に立つと、両手で軽くポンとボールを投げた。

 何回かやったが、ボールがアウトになったり、ネットに引っかかったりしてしまう。


 それを見ていたお母さんの顔が、次第に枢のが分かる。


「中学の顧問や先輩達から背が低いという固定概念から、三上さんが徹底的に見放されていたコトがよく分かったわ。今の中高生の部活が勝利至上主義になりすぎている欠点よ。素質があるのに悔しい。背が低い子が簡単に捨てられる部活なんてダメなのよ…。」


 そうすると、守さんのお母さんは俺の横に立って並んだ。

『ん???』


 俺が不思議そうにしていると、お母さんが俺の顔をジッと見て、手取り足取り教え始める。


「三上さん。アタックを打つ場合、空中でタイミングを取るのは難しいわ。踏み込んだタイミングで合わせながらリズムを作るのが大切なのよ。そうね…、1・2・3で飛ぶイメージよ。私が出す足を見て一緒に飛ぶイメージを作りましょ。」


 守さんのお母さんがアタックを打つポーズを横で何度も真似て、それを繰り返しているうちにアタックを打つような感覚が何となく分かってきたような気がする。


「では、やってみましょ。最初は空振りしてもいいわ。問題は、自分の中でリズムが作れるかが重要なのよ。欲を言えば、打った瞬間に少し叩き付けるようにして打ってみて。」


 そうすると守さんのお母さんはセンターのネット前に立って、両手で打ちやすいボールをポンと投げた。


 『1・2・3っ!』


 俺は守さんのお母さんから横で教えて貰ったようなリズムを作りながら、全身の力を使って飛び上がると、ボールを上から叩き付けるような格好になった。


 バシンッ!


 体育館に強烈なアタックを打った音が響き渡る。ボールは相手コートのセンターに垂直に近いような角度で落ちた。


「おお~~~!!」

 他のメンバーがそれを見ていて、一斉に驚きの声があがった。


 守さんのお母さんは、笑顔になって喜んだ。

「三上さん!!。それ!!、その調子よ!!。そのイメージよ!!。それに、ジャンプ力が凄いわ!」


 俺は頭をかきながら守さんのお母さんに白状した。誤魔化しても仕方ないだろう…。

「いちおう垂直跳びが78cmぐらいです。」


「うわぁ~~~。それは凄いわ!」

 守さんのお母さんはそれ以後、笑顔を絶やさないでいる。


 そうして、アタックの練習を繰り返していく。その俺が打ったボールを、仲村さんや泰田さん、守さんがコートに入り込んで、横一列に並んでレシーブを受け始めた。


 守さんが俺のアタックを受けて悲鳴をあげた。

「はっ、速い…!!。去年の試合で経験者が思いっきりアタックを打った球筋だわっ。」


 それを見て守さんのお母さんの笑顔が止まらない。

「三上さん、これはお互いに良い練習になるわ。3人の間とか、コートの端を狙いながら、コントロールを意識しながら打ってみて。」


 しかし、まだアタックのコントロールなんて慣れないないので、俺はセンターにいる仲村さんのド正面に強いアタックを叩き付けてしまう。


 その強烈なアタックをレシーブした仲村さんが真後ろに倒れ込んだから、俺は即座に仲村さんに声をかける。


「仲村さん、ごめん!。大丈夫??」


「うぎゃぁ~~、キッツイ!!。初めてあんなボールをレシーブできたけど…。三上さんは守さんのお母さんの本気をマトモに受けてレシーブできるのが凄い。これは恐すぎる!。」


 仲村さんは顔を青くして首を横に振りながら立ち上がって、今の恐怖を伝えてきた。


「フフッ☆。仲村さん、ナイスレシーブよ。そうやって脇をしめてシッカリと腰を落とすのよ!。三上さんの真似をすれば、強いボールも怖がらずにレシーブできるわ。」


 守さんのお母さんはそう言うと、手に取ったボールを籠の中にしまって守さんの方を向いた。


「和奏。三上さんにトスをあげて。どっちにしろバックアタックを打つためにタイミングを合わせる必要があるわ。私は三上さんのボールを受けたいから、そっちに入るわよ。」


 監督はそう言うと、仲村さんと場所を交代した。今はネットに向かって左に泰田さん、中央に守さんのお母さん(監督)、そして右に仲村さんが立っている。


「三上さん。私には容赦しなくていいわ。2人には手加減してあげてねっ☆。」

 守さんのお母さんが万遍の笑みで俺に言ってくるが…。


 俺の脇に立ってセッター役を担う守さんに尋ねた。

「マジに大丈夫ですか?。」


「ええ、大丈夫だわ。もう、お母さんはレシーブを受けたくてウズウズしているのよ…。もう、全力で打って構わないわよ。三上さんのアタックは、お母さんの同級生と練習している球と同じぐらい強いわ。」


 守さんがそう言うと、今度は天田さんと山埼さんがこっちにやってきた。

 残りのメンバーと練習をしてる泰田さんのお母さんが、少し声を張り上げて守さんに声をかけた。


「和奏ちゃん、天田さんと山埼さんがトスをするボールを三上さんにあげるのよ。そうすれば実践練習になるわ。2人は筋がいいから、基礎的なことをすぐに覚えたのよ。」


 天田さんと仲村さんは身長が高いから180cm以上あるし、山埼さんも俺よりも少し背が高いから、女性としては身長が高いほうになる。


 恐らくブロックやアタックが容易にできることを買われた結果であることは容易に分かった。


 そうして、少しだけ実践的な練習が始まった。


 2人がトスしたボールを守さんが受けて俺にボールをあげるが、最初はタイミングが合わない。

 でも、慣れてくると、徐々に当たりだしてきた。無論、まだ、アタックのコントロールなんて、できない状態だ。


 そうしているうちに、守さんから打ちやすいボールが飛んできたので、俺は思いっきり全身の力を使ってボールを叩き付けたボールが、守さんのお母さんの真っ正面に飛んだ。


 先ほど、仲村さんに当てたより、さらに強いボールだった。

 お母さんは歯を食いしばりながら、腰を落として真っ正面に綺麗なボールを返したから、俺はその凄さを手放しで褒める。


『やっぱり守さんのお母さんは凄く上手い!!』


「三上さんのアタックは、とても重いわ。これなら経験者のいるチームに試合で食いついていけそうね。みんな、これでよい練習にもなってるし、今回はレベルアップできそうだわ。やったぁ~~~☆。」


 守さんのお母さんは、喜びを露わにしていた。

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