俺は三鷹先輩をどうやって引きずり出すのかを考えていた。

『どうやって、騒ぎを起こさずに三鷹先輩をおびき寄せようか？。いや、待てよ？。なにか秘策はないか？』

　三鷹先輩は俺のお袋に少し似たところがあるが、実態は全く違う。

　お袋はTPOを弁えながら、隙があれば弾丸のように喋るが、三鷹先輩は、TPOを弁えないから、そういう容赦がない。

『まず、先輩を油断させて、先輩のペースに乗ったと見せかけて、ごく自然におびき寄せよう。あの習性は、お袋と一緒だろうから、たぶん引っかかるはずだ。』

　三鷹先輩は講義室の出入口で、しゃがみながら中の様子を窺っている。

　俺は音を立てないように、そっと三鷹先輩に近づくと、隣に並んでしゃがんだが、先輩は中の様子を窺うことに夢中になっていて、俺が隣にいることに気づいていない。

『こうやって黙っていれば、男心をくすぐられる容姿を持ってるのだけどね。俺は、喋りまくるお袋を想像しちゃってダメだわ。』

　横にいても気づかない三鷹先輩に対して、どのように扱うかを考え始めた。何にしても、こんな所でコッソリと盗み聞きしてるのだから、その理由を聞き出した上で、お仕置きが必要だろうと考えた。

　三鷹先輩に正当な理由があれば、堂々と講義室の中に入るはずだ。

『フレンドリーに話しかけて、先輩を上手く引っかけるか。こんな事なんて苦手だけど、ここは勝負だ。』

　俺は意を決して三鷹先輩に体を向けて、持ってる精神力の全てを使って自然に話しかけた。

　全気力を使わなければ、あの長話に耐えられるモチベーションが保てない。

「三鷹先輩～。この前さぁ、量が多くてスッゴく美味しいって、先輩が言っていた中華料理屋に、棚倉先輩と一緒に行ってきたんですよ。いやぁ～、特にエビチリが美味かったですね～。」

　三鷹先輩は俺の声を聞いてハッと振り向くと満遍の笑みを浮かべているから、この作戦が成功する事を心の中で確信した。

「あれぇ～、三上く～ん。あの店にいったのぉ？。美味しかったでしょ。そう、そうなのよ、お皿も大きかったでしょ？。そうかぁ～、棚倉さんと一緒に行ったのね？。」

『しめしめ。やっぱり引っかかったか。話し好きのサガだよね。』

　俺は浜井教授を説得したときと同じようなレベルで、心の中でガッツポーズをしている。

「先輩、そうなんですよ、皿も大きかったし、炒飯はひと味違ってましたよ。先輩がお勧めする店って、ホントに外れがないですよねぇ。すごいですよぉ～。」

　俺は無理矢理に笑みを作って三鷹先輩を徹底的に褒めておだてて、話を長くさせるように油断をさせる。

『ここからが勝負だぞ、弾丸トークに耐えろ！！』

　俺は息をのんで覚悟を決めると、案の定、凄く長い言葉が返ってきた…。

「もうぉ～～。それなら、三上クン寮長会議で恥ずかしがらないで早く言ってもらえば、いい店をもっと教えたのよっ。ほかにも美味しいパン屋さんとか、穴場のカレー屋さんもあるしさぁ、美味しいラーメンやさんだってあるのよ。そうそう、この前なんて、橘さんと理恵ちゃんと後輩のみほりんと一緒に…あー、三上クンはわからないかぁ～～、経済学部の白石美保さん、その子ねぇ、ものすっごく可愛い子の友達がいてさぁ、最近ちょくちょく寮に遊びに来てて癒やされまくっているの…。あれぇ？どこまで喋ったっけ…。思い出したわっ！。その４人と一緒にね、ディナーでも学生向けに1,500円以下で食べられる寮から本館にあるバス通りにあるビュッフェに行ったのよ。中央通り交差点のバス停だわ。そしたら、メニューは野菜が豊富だし、女性向けだけど、ピザとかローストビーフもあるから男子学生も意外と多かったわよぉ～。時間制限があって90分だったしから。穴場だから少し大人数で行っても予約は取らなくて良いはずだわ。みほりんは、とっても可愛い友達の子と一緒に食べに行きたいとか言っていたの…。あとはねぇ～～、男子向けなら、ほら、あそこ。工学部がいるキャンパスの近くだったわっ、小さい焼き肉屋さんだけど、1,600円で食べ放題の店があるのよっ。三上クンなら学部の仲間を連れて入っても良いかもっ☆。たしか、お肉好きの理恵ちゃんがねぇ～～、彼氏を連れてそこに入ってね、満足して寮に帰ってきたと言ってたわ。私はまだ入った事がないけど、工学部とかの子も店の中にいなさそうなんて話だったから知られてない穴場だしねぇ…。それと、さっき話した中央通りの交差点バス停を少し駅前方向に3分ぐらい歩いた場所にピザの食べ放題もあるわ…。あそこはランチだと1,500円だけどディナーだと3,000円にあがるから、ランチで行くのがおすすめよ、でもね…それはゼミの仲間と入ったけど、量だけで質の方は少し度外視かもねぇ。でも焼きたてが食べられるから、どちらかといえば男子向きだわぁ…」

　ちなみに、三上恭介は、三鷹美緒の会話の中で『白石美保の友人のとっても可愛い子』と、最大限にノロケながら生涯を共にすることになるが、今は、そんなことなんて知る由もない。

　次の寮長会議の議事録を棚倉先輩からパソコンで作るように押しつけられるだろうから、その際に、美味しい物のリストを作るときに店を覚えておけば、三鷹先輩の余談的な店のリスト作成に困らない程度に話を受け流している。

　それと、あの弾丸トークの中に、木下さんが肉好きだった話とか、ハズレの店があるような重要な情報があるので、単に聞き流せないことに、内心は苛立ちも覚える。

　ビュッフェはともかく、食べ放題の焼き肉屋は、俺の学部の友人と一緒に行きたいぐらい、とても良い情報だ。

『これだけ喋って、よく息が続くよな…。色々な意味で感心するよ。』

　俺は三鷹先輩の話を精神力を削りながら聞いていたが、その言葉の間を狙って、先輩を罠にハメることにした。

「先輩。こんなところで、しゃがみながら話をしても疲れちゃいますから、講義室の隅っこのほうに座って話しましょうよ。このままでは俺も辛いですし。」

　お袋は、こんな感じで話に夢中になると集中力が散漫になって、物などを落としてしまったり、飲んでるお茶をこぼしてしまうことがある。

　三鷹先輩も、それと同じように、夢中で何も考えられなくなる予感がしていて、それを利用して陥れようとしたのだ。

「三上くん～。そうよねっ！。こんなところじゃ、ゆっくり話せないし、中に入ろうか。」

　案の定、三鷹先輩は、夢中になりすぎて、実行委員会の様子を隠れて見ていたことなんて忘れてしまっている。

『しめしめ。これは上手くいった！』

　俺は三鷹先輩と講義室に入ると、教壇にいた棚倉先輩とジッと目を合わせようとしたが、棚倉先輩は携帯で、誰かと電話をしているようだ。

　そして、電話を終えた棚倉先輩と目線があった瞬間、先輩は片手で親指を立ててニンマリと笑っていたから、この作戦は成功した事を確信する。

　実は、このとき、棚倉先輩は、新島先輩から、三鷹先輩が俺のことをつけ回っている件で、電話を受けていた。

　その一方で、三鷹先輩は、講義室の隅っこで俺と座りながら話を止めない状況だ。

『棚倉先輩は三鷹先輩が隠れて盗み聞きしていた理由を知っているな。面倒だから後始末は先輩に任せるか。これ以上、三鷹先輩の話を聞き続けたら、俺の精神が崩壊するぞ…。』

　三鷹先輩は未だに永遠と話を続けているが、それをマトモに聞いていたら、俺の精神が吸い取られそうな勢いで、美味しいお店の話題を語っている。

「…そうそう、それでさぁ、今度は美味しいカレー屋さんのお話ねっ。昨日さぁ、昼にゼミが早く終わってね、ゼミの人の中に、やたらグルメの人がいて、その人からよく教えて貰ってるんだけどさぁ～、」

　俺は、棚倉先輩がこちらに近づいてくるのを横目で確認すると、三鷹先輩が話を切るタイミングを見計らいながら言葉をかけた。

「先輩、そういう凄い人がいるのですね？。羨ましいですよ～。」

　俺は真顔になって、ここで三鷹先輩に本題を切り出す。

「ところで三鷹先輩。どうして、あんなところで盗み聞きをしていたのですか？」

　俺の問いに三鷹先輩はハッとして我に返ったのが明らかに分かる。

「うげっ！！！。三上クンと話しをしていたから、盗み聞きしていたのをスッカリ忘れていたわ…。」

　棚倉先輩は、そのやり取りを聞いていて、ニヤニヤしながら三鷹先輩の横にいるが、三鷹先輩は気付いていない。

　俺は、三鷹先輩に向かってニッコリと笑いながら、棚倉先輩に体を向けた。

「棚倉先輩。そういうことなので、あとは頼みました。」

　三鷹先輩は、横を向いて棚倉先輩を見上げて吃驚した挙げ句、人生が終わったかのように顔が青くなった。

「え゛～～～～、たっ、棚倉さん…。もしかして…わたし…、三上クンにハメられたの？。」

「…はぁ…。三鷹先輩。俺がハメたなんて以前の問題ですよ。何気ない雑談を俺が持ちかけて、その話に勝手に乗った挙げ句、自分がやってることを忘れるなんて。あんな所で盗み聞きするぐらいなら、まだ堂々と見られた方がやりやすいですよ。」

　彼女はこの時、今まで寮長会議でほぼ黙っていた三上が、自分の性格や行動を読んで、騙し討ちにした時点で、棚倉に可愛がられている理由を身に染みて感じていた。

　三上は人の心を読んだり、人の性格を読んだ上で上手く対処するのが、人並み優れていることが、見え隠れしているからだ。

「三鷹よ。お前は三上のことを探るのに、こんなところで盗み聞きするのではない。お前は偶然に出くわした三上の同期からも、三上の話を聞き出そうとしたじゃないか。」

『そういう事か。俺が寮長会議で何もしてないから性格を含めて色々と調べようとしていたんだろう…。下手したら２ヶ月後にある寮の男女合同のコンパの企画や準備を面倒だから俺に押しつけようとしてるのかな。今はそれどころじゃないし、今の段階で寮の仕事なんてやったら、俺が過労で死んでしまうわ。』

「棚倉先輩。何となく理由が分かりましたが、三鷹先輩をここにおびき寄せたのは私です。別に三鷹先輩が同期の友人に俺の事を尋ねようが、色々と聞きだそうが構いません。それが三鷹先輩に分かったところで先輩達から命じられている限り、寮長会議ではボーッとしたままですからね。」

　俺は三鷹先輩のいる前で、あえて踏み込んで言ってみた。

　寮長会議で、ボーッとしている俺に、このような探りを入れられてしまうのは当然のことだし、今の状況が女子寮幹部達に分かれば、俺の能力を買われて仕事を押しつけられるのは当然だろう。

　でも、そこは棚倉先輩や新島先輩が調整をすれば良いだけのことだ。

　変に自分が飛び道具にされるのは勘弁なので、この後の取引で、わざと取引の内容をかき混ぜそうな言葉を入れて、棚倉先輩にも、ささやかな抵抗をした部分はある。

　俺の言葉を聞いて、今度は三鷹先輩が口を開いた。

「三上クン…、今から恭ちゃんと呼ばせて！！。もぉ～～、あなたに上手くハメられた時点で、恭ちゃんのことが少し分かったわ。恭ちゃんは、とってもシャイな子なんだからぁ～～。」

　棚倉先輩は三鷹先輩の次の言葉を遮るように、俺に向かって謝罪の言葉を口にする。

「三上よ、お前には本当に悪いことした。このことは後でゆっくり話すから、今は少し黙っていてくれ。」

「さてと…、三鷹。廊下に出て話そうか。この後、どこかで食事をしながら、橘も連れて飲んでも構わん。どっちみち今日は木下が受付だろ？。無論、俺のおごりだから安心しろ。」

『これって、棚倉先輩は、新島先輩から、先輩達と飲んだ分の金を強奪するつもりだろ？。それに三鷹先輩は酔っ払うと喋らなくなるから、説得する時に扱いやすい…。』

　俺は棚倉先輩の言葉を聞いて、その気前の良さにカラクリがあることに、内心は苦笑いをしている。

「やったぁ～～～、ラッキー☆。久しぶりにお酒も飲めるわっ☆」

　そんな裏事情を知らない三鷹先輩は、素直に喜んでいるからタチが悪い。

「三上は６時頃になったら委員会を切り上げるように指示をしてくれ。お前は色々と忙しいから、食事やコンパの誘いがあれば、キッパリと断って構わない。俺は今からコイツとガチで話さなきゃならないし、話が長いだろうから、今日は手が放せないしな。」

「先輩、分かりました。そうさせてもらいます。」

　俺が先輩の指示に了解をすると、こんどは、三鷹先輩が俺をジッと見て、何か言いたげな顔をしているのがよく分かった。

「棚倉さん。一言だけ、恭ちゃんに尋ねていい？。」

「分かった。一言だけな。」

「恭ちゃんさぁ、なんで教育学部の体育祭実行委員をやってるの？」

　俺は三鷹先輩の質問に対して、とても無難な答えを選ぶことにする。

「三鷹先輩。それは、高木さんや荒巻さんに、実行委員をやるように説得されたからです。新島先輩はあんな感じですから、俺の方がマシだって判断をしたのでしょう。」

　棚倉先輩は俺の言葉を聞いて相当にホッとした顔をしていた。

「うげぇ～～、高木さんからの頼みじゃ、絶対に断れないわよね…。」

　その言葉が終わると、棚倉先輩は、密かに抵抗を試みようとした三鷹先輩の文字通りしょっ引いて講義室の外に出た…。

　俺はそれを見届けた後に、逢隈さんのことが気になって、まずは講義室の窓際に行くと、あの問題に建設的な議論で、良い方向に議論が進んだのが、ホワイトボードの議事録から容易に分かったからホッとしていた。

　どうやら、ゴール地点に、幾人かの大きなゴミ袋を持った企画委員や手の空いた総務委員などが待ち受けて、参加した人のゴミを回収する事になったらしい。

「逢隈さん、すみませんでした。色々と野暮用があって遅れてしまって…。」

　俺が逢隈さんに声をかけると、なぜか、泰田さんや松裡さん、守さんや山埼さんまで集まってくるではないか。

　ついには、牧埜や仲村さん、天田さんまで、こちらに寄ってきた。

「三上さん、ホントに助かりました。ところで、三上さんと、とても綺麗な女子学生や棚倉さんと、講義室の出入口の付近で、何やら話をしていたようですが…、どうされました？」

　その逢隈さんの質問に対して、なぜか集まった５人の女性が、息をのんで俺の言葉を待っているようにも感じるが、何か委員会で心配事でもあったのだろうか？。

「ああ、あの女子学生は女子寮長ですよ。私は副寮長なので、寮の打ち合わせを棚倉先輩と交えてしていたのです。ちなみに、あの寮長は話が長すぎるので、棚倉さんが私の盾になってくれたのが真相です。恐らく、このまま先輩達は戻らないと思います。」

『あれも一応は寮長会議の延長みたいなモンだろ。』

　俺は微妙な言い回しで、逢隈さんの質問に答えると、松裡さんがそれを聞いて苦笑いをしている。

「え～～？、あの人が昨日のコンパで棚倉さんが言っていた女子寮長さんですか？？？。てっきり三上さんの彼女さんかと…。」

　みんなの認識が、ぶっ壊れすぎているから疲れてきた。

　こんなオタクでボーッとしている人間に、あんなお喋りな彼女ができたら、俺は精神的におかしくなってしまう。

「いやぁ…、松裡さん。あの人が彼女なんてマジで勘弁してくださいよ。昨日もコンパで言った通り、しがないオタクに彼女なんていませんよ。あの女子寮長はもの凄い勢いで喋るので、要点が分かるまで時間が掛かってしまうのです。先ほどは、棚倉先輩が気づいて事なきを得たのです。」

　その俺の説明に仲村さんが、苦笑いをしながら、率直な感想をこぼす。

「三上さん。新島は寮のことなんて語ってくれないから、私もてっきり、あの人が三上さんの彼女かと思って、牧埜や天田と一緒に興味津々でしたよ。あんなに綺麗な彼女がいて羨ましいと…。」

　仲村さんの言葉に、俺は思わず膝に手をついて、本音をこぼす。

「仲村さんや牧埜も、天田さんも勘弁してくださいよ。私は、あの寮長が３０分以上かかる会話を、非情な手段を使って、３分で終わりにするぐらいメッチャ喋る人ですよ？。そんな人を彼女にしたら、私の精神が死にますよ？。」

　俺の本音に、泰田さんが完全に笑いかけている。

「みっ、三上さぁ～～ん、昨日のクイズが頭から離れずに笑ってしまうから、これ以上は止めてねっ。あんな綺麗な人が女子寮長さんだったなんて。ふふっ…。あれを思い出すと、また、笑ってしまうわっ。」

　ここで泰田さんが思い出したかのように笑い続けても困るので、俺は準備委員会の役員全員に、暗に持ち場に戻るような言葉をかけることにした。

「ところで、みなさん。とりあえず六時で委員会を終了したいのですが、何か問題があれば、お手伝いをするので仰って下さいね。」

　俺がそう言うと、ここにいた役員が持ち場に戻ったから、内心はとてもホッとしてる。

　そして、俺は、棚倉先輩がいた教壇のそばにある椅子に１人でポツンと座ると、左手を額に当てて長い溜息をついた。

『三鷹先輩のせいで委員会が引っかき回されたよ。勘弁してくれ！！』

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　時は現代に戻る。

　俺はリビングで、陽葵にここまで話すと、声を出して陽葵が笑っている。

「フフッ。お義母さんも話し込んじゃうと周りが見えなかったわよね。話が好きだから、そっちに意識がいくのは三鷹さんも同じだわ。三鷹さんが委員会の様子を隠れて見ていたことを、忘れてしまったのは笑ったわ。」

　俺は陽葵の髪の毛をいじりながら答えた。

「三鷹先輩はお袋と似た傾向があって助かったよ。あれが普通の人だったら、あんな戦法を使っても無意味に等しいから。」

　陽葵は三鷹先輩のことを思い出したのか、少し複雑な表情を浮かべて顔を曇らせながら、俺にあの当時の本音をぶつける。

「私たちの結婚式以来、何年も三鷹さんに会ってないけど、三鷹さんは、とても綺麗な人だったわ。あの場で、泰田さんたちから、あなたの彼女と誤解されるのは当然だわ。あなたは、三鷹さんに対して、お世辞で絶世の美女なんて冗談で言っても、三鷹さんが本気で怒らなかったのは、あなただからこそよ。」

　その陽葵の本音に、俺はさらに本音を重ねた。

「こんな身長が低くて顔も駄目な俺が、陽葵のような可愛くて気立てが良すぎる女性と結婚できたのが奇跡だよ？。それを考えると、なんで、あんなに彼女達からモテたのか本当に分からない。俺なんかよりもズッと良い人が沢山いるからさ。」

　俺は、当時のことを思い出して、少し溜息をつくと、陽葵は笑顔で右手の人差し指で俺の頬をツンと軽く突く。

「ふふっ、それが分からないから、あなたはモテたのよ。外見ではないのよ。それに、あなたが気づかないだけで、あなたは少しカッコイイわ。みんなは、あなたの性格や心に惚れたのよ。私もその１人なのよ。…だからね、わたしも、あなたのような人と結婚できたことが奇跡なの♡。」

　陽葵はそう言うと、俺を軽く抱き寄せた…。フワッとした、いつもの甘い香りがする。

『やった、また陽葵成分を補充できた！！』

　俺は謎成分を補充できたことに喜びをかみしめていたのだ。