「三上、課題とレポートをどこでやる?。このあと、この講義室を使うみたいだから長居ができないし、今日は有坂教授の都合で本館だから、みんなで課題をやるような場所も分からないから困った。」
午後の講義が終わって、俺は宗崎に声をかけられた。
「恭介は寮の用事で本館によく来ているから詳しすぎるからな。お前の都合でタイムリミットは4時半までだから、あと2時間ぐらいで4つを片付けないといけない。恭介、どうする?」
良二は宗崎と目線を合わせると、俺の方を向いて懇願するような目をしている。
「うーん、5階の図書室にしよう。ちなみに、俺が昨日の電気・電子基礎の課題は終わらせたので実質は3つだ。みんなは、俺のプリントを見てくれ。分からなければ後からゆっくり説明する。」
それを聞いてみんなは少し胸を撫で下ろす。
講義室を出ると良二が俺に声をかけた。
「恭介、トイレに行ってくるから少しここで待っててくれ。勝手に行かれると場所が分からない。」
そういうと、良二はダッシュでトイレに向かう。相当に我慢していたのだろう。彼の姿が見えなくなるのを見て、村上が俺に話しかける。
「三上、まさか泰田さんから携帯にメールがくると思わなかったよ。」
宗崎も村上の言葉にうなずいた。
「そうそう、この運動公園は俺の家から電車で15分ぐらいだから助かった。」
泰田さんは昨夜、土曜日の練習の時間や場所を携帯のメールで知らせてきたのだ。
宗崎と村上の携帯にも同じメールが入っていルのがすぐに分かった。
明日練習は、午後の6時から9時半までで、日曜日も、体育館の都合がつけば練習とのことだった。
『1週間に1度なら4回しか練習ができないから時間が足らない。日曜日の練習も当然だろう。』
「宗崎、うちの寮からだと、この体育館は本館キャンパスに行くバスの通り道だから、俺と村上は無事だ。だが…、これから時間的に色々と拘束されるから、明日まで課題やレポートを持ち越したくない。」
俺は今日、教授達から出されたレポートと課題の内容を振り返ってみた。
「うーん、問題は微積だな。解くのに手間取って時間切れなら寮の先輩にヘルプしないと…。」
俺は苦手な微積で少し時間が取られることに、苛立ちを覚えていた。
そして、しばらくすると、廊下から良二が駆け足で戻ってきた。
「いやぁ、みんな待たせた。廊下の向こうから微かに恭介の聞こえたが、確かに微積を解く時間が鍵だろうな。時間がないから急ごう。」
『どうやら、練習の話はバレてないか。』
宗崎と村上も胸をなで下ろしたような顔をしている。
これは後日談になるが、このとき、良二は、時間的に拘束されるから明日まで課題やレポートを持ち越したくない…という、俺の言葉を耳にして相当に焦っていたようで、それに対して気を遣ったらしい。
俺たちはエレベーターに乗って5階に向かう。
「よし、こっちだ。」
俺たちは比較的に広い図書室に入ると、図書室は調べ物をしている学生や、課題などをやってる学生も目立つから、誰にも邪魔されないような雰囲気だったから、とりあえず、安堵をした自分がいた。
「三上、ここは穴場だな。マジに集中できるし、邪魔も入らなさそうだよ。」
宗崎が安心して、辺りを見回していると、空いているテーブルを見つけて宗崎が小声で俺に声をかけた。
そして、手分けをして課題やレポートをやる。
「宗崎、いつもの通りレポートを頼む。俺は寮の先輩から教わったことを必死に思いだしながら微積を先にやってみる。ダメだったらみんなで考えよう。良二と村上は機械工学をやっつけてくれ、そっちは俺が最後に見直す。電気・電子基礎の課題は後で俺のプリントを見てくれ。こっちは先輩の答え合わせができている。」
良二が俺の肩をポンと軽く叩いて小声で声をかけた。
「やっぱり三上様だよなぁ。俺は体育祭の1週間前が心配だ。恭介が前に寮の用事で1週間もいなかった時は2日ぐらい徹夜だったよな…。今回は恭介のバレーボールを見たいから、みんなでお前を助ける為に頑張ろうな。」
その良二の言葉に宗崎や村上が激しくうなずく。
「あの時は、俺らが何も分からなかったから、三上が必死に調べながら課題やレポートをこなして、俺らも課題遅れで勘弁してもらったんだ。今回は三上の足を引っぱらないで頑張ってみようと思うんだ。」
その宗崎の言葉が有り難かった。
「みんなで、そうして貰うと助かる。たぶん1ヶ月後の今頃は全く課題に手が付かなくて死んでる筈だから…。」
みんなにお礼を言うと、俺は集中して必死に課題のプリントに取り組んだ。
それから30分ぐらい経っただろうか…。
『参った。苦手だから考える時間が長くて進まない…。』
俺は頭を抱えながら微積の課題をやっていた時だった。
バシッっ。
後ろから頭を軽く叩かれた瞬間に、俺は後ろにいた人物が分かってしまった。
3人は一斉に自分の後ろに立った人物を見て一斉にガッツボーズをしている。それと同時に微積のプリントを取りだして自分の目の前に置いて待機をしている。
「三上よ。この前、これと似たような問題を教えただろ。また、同じ間違いをしてるのか…。」
後ろから聞き覚えのある声がボリューム最小限で聞こえた。
「先輩、助かりました。できの悪い後輩で申し訳ないです…。」
「いや、三上よ。こうやって、みんなで課題をやるのは良いことだ。そういうお前達の真面目な姿勢を買ってるから、教えてやるのは苦ではない。」
棚倉先輩はニヤニヤしながら俺の微積を教え始める。
それを見た村上が小声で先輩にお礼を言うと、嬉しそうな顔をしているが明らかに分かった。
「棚倉さん、いきなりの登場で助かりました。三上が苦しんでいるようで、助けて頂いてありがとうございます。」
俺は棚倉先輩の教えを受けて、微積の問題をスラスラと解けるようになっていた。
それを見て、残りの3人も先輩から分からない所を細かく教わっている。
3人が微積の課題を終えて、みんなが次の課題をやろうとした時だった。
ふと見ると、泰田さんや松裡さん、山埼さんに守さん、逢隈さんが目の前に立っていて、彼女たちはなぜか一様に楽しそうな表情をしている。
「棚倉さん…。あれ?三上さんも???。それに三上さんのご友人達も…。」
最初に小さい声を出して、俺達に声をかけたのは泰田さんだった。
「三上よ、こっちは実行委員会のブリーフィングを小声でやってるから、お前らは課題に集中しろ。もしも終わるようなら、お前もブリーフィングに参加して欲しい。そのうちに仲村や牧埜も来るだろう。」
俺たちは棚倉先輩の言葉に従って、彼女達に目もくれずに課題に集中した。
微積の課題が終わると、電気・電子工学の課題をプリントを見せながら解説していった。三人がプリントを写している間に、二人がやった機械工学の課題を見て間違いを修正しながら進める。
そのあと宗崎のレポートを見ながら抜けなどがあって再提出にならないように、みんなが指摘しながら見直しをしていく。
そうしているうちに4時頃にようやく全ての課題とレポートを終えた。
「みんな、ありがとう。本当に助かったよ。先輩にも礼を言っておくよ。」
3人に御礼を言いながら課題やレポートをまとめてバッグにしまった。
そしたら良二がニヤつきながら俺に悪戯っぽく顔を向けた。
「いやぁ、恭介。お前はマジに頭の良い先輩に恵まれて助かっているなぁ。この前もそうだったが、棚倉さんは教え方がメッチャ上手い。それに、お前の取り巻きの女子が相当に増えてるじゃないか。お前はなぁ…。」
俺は良二の言葉を遮って、少し溜息を出しながら、その気がない事をはっきり言う。
「実行委員会だから大所帯だし仕方ない。そこを意識していたら仕事にならない。」
良二が声を落として俺に近寄って耳打ちをする。
「そういう問題じゃないぞ…。あの中の女の子の3~4人がチラッとお前を見てるんだよ。どんな手を使って彼女達の気を引いているんだ?。お前は興味がなさそうだから、タイプじゃないのは分かるけどな…。」
宗崎は良二の耳打ちの内容が分かったらしく気を利かせた。
「本橋、俺らは、そろそろ帰ろうか。三上は仕事がありすぎるから邪魔をしても仕方ない…。」
宗崎がそう言った瞬間だった。気づくと俺の横に守さんが横にいた。
「みかみくんっ☆。課題が終わったなら、こっちに来てねぇ~~☆」
『うぉ??』
俺は守さんに腕をつかまれて強引に引っ張られる…。
「もっ、守さん、急がなくても…。この規模だと皆さんに任せる感じなので、本当にアドバイスしかできないですし…」
守さんも俺の腕を掴んだときに、なぜかほんのりと顔が赤い…。
「やっぱり三上くんがいないとダメなのよっ。そこにいるだけで安心感があるの。」
それを良二がニヤニヤしながら見ている…。
彼らはそれを見ると図書室から出た。
3人が図書室から出るとエレベーターの前で本橋が2人にニンマリと笑いながら声をかけた。
「あいつ、それなりに振る舞えばモテまくるのになぁ。ホントにもったいねぇ。」
「三上は性格が良いからな。その性格が分かれば、たぶん、あいつを好きになった女の子は手を離そうとしないよ。男とか女なんて関係ないよ。寮でも棚倉さんが三上を可愛がって離そうとしないからな。」
村上は三上が女子学生から腕を掴まれて引っ張られるようにして連れて行かれた事を思いだして、滅多に見せない笑顔になって答えた。
その笑顔の裏には三上が泰田さんや松裡さんを紹介していることが見え隠れしているが、本橋には分からない。
その村上の言葉に今度は宗崎が答える。
「三上はあんなに上手く教えられるような頭のよい先輩から面倒を見てもらえるのは羨ましいよ。副寮長だけあって、あの先輩から可愛がられているのが分かるし、今の実行委員の人達からも三上の信頼が厚いのも分かる。」
本橋は滅多に笑わない村上が笑っている理由が三上のお陰だと察して、親友として誇りに思った。そして、彼が笑ったのに耐えきれずに少し笑ってしまった。
「うははっ。だから三上様なんだよなぁ。恭介の野郎は無意識のうちに、真面目な女の子の心までも次々と掴んじゃうから怖い。俺には絶対にできないわ…。この前のお好焼き屋もそうだったけど、見た目はボーッとしてるようで、人の心を掴むのが上手いんだよ。」
宗崎は三上に羨ましさを持ちつつも彼に同情をしていた。
「本橋。それは言えてるよ。さっき、あいつの手を引っぱった女子の顔が少し赤くなっていたし。三上は仕事がやりにくいから、そういう感情を殺していると思うよ。」
3人がそんな雑談をしているとエレベーターがきて乗り込んだ。本橋が1階のボタンを押すと宗崎の言葉を聞いて急に悪戯っぽく笑った。
「…くくっ。だからさぁ、恭介は内面が良いから、真面目な子からモテるので辛いと思うよ。俺が見た感じ、あの子達は、あいつの好みではない。恭介は顔やスタイルなんか関係ないし、あいつの心が動くとすれば、性格面で芯が強くて世話好きじゃないとな。実は面倒くさがりだから、引っぱってくれる子じゃないとダメかも。」
村上が本橋の言葉に呆れたように答えた。
「いやぁ、三上を引っぱる女の子なんて、そうそういないよ。みんな、自分も含めて三上に頼りっぱなしだよ。」
本橋は、村上の言葉を聞いて、三流RPGのラスボスが如く奇妙な笑いを放った。
「ふふふっ。ははっ!!。だから三上様なんだよ。王と結婚するには女王たる風格が必要だ。それでないと、あいつの嫁にはなれない。俺は恭介を1年の時から見ているから、その趣味嗜好から、それをヒシヒシと感じているんだ。あいつは化けモンが爪を隠してる雰囲気があの時から漂ってた。」
実際に本橋の予想が大当たりして、気立てが良くて可憐で可愛すぎる
宗崎は難しい顔を本橋に向けた。
「…本橋…。お前の謎の笑いはともかく、三上は、この場で彼女を作るつもりがないってことか。あっ、そうか。三上の親父さんが工場をやってるから、跡継ぎだし、性格面でダメな子は彼女にできない…と。」
本橋は奇妙な笑顔をやめて、今度は真顔になって宗崎に答える。
「宗崎、それもあるだろうな。あいつは1度、愛した女性は、相手から振られない限り責任をとって、ずっと共にするぐらい責任感が強い。生半可にフラッと好きになっても追い返されるだけだよ。だから、あの子たちに関しても恭介は眼中にないと思うぞ。あいつはそんなタイプだ。」
村上は口を尖らせて三上に軽い嫉妬を覚えた。
「なんか、もったいないなぁ。あいつ、一生、独身じゃなきゃいいが…。」
この時点でエレベーターが1階に到着して扉が開く。彼らは喉が渇いていたので購買に向かっていた。廊下を歩きながら先ほどの話を続ける。
本橋は村上に向かって先ほどの言葉に対して軽く笑った。
「ははっ、村上、嫉妬するな。だから、友人として恭介のことを心配している。まぁ、あいつが4年になる頃に彼女がいない状態だったら、強制的に妥協させてケツを蹴るつもりだけどな。少なくてもあの女の子の中で恭介が付き合ってもマシだと思う子もいるだろう。」
本橋は張本人が聞いていたら、冷や汗をかいたような言葉を村上に言い放った。
そんな話をしていると、購買の目の前に着いた。彼らは、村上の部屋に行くのに部屋の中で食べる軽い食べ物やお菓子、飲み物などを選んでいる。それでも話を続ける。
「本橋。三上は、あのような仕事を卒業まで無理矢理に押しつけられそうだし、4年までの間に、あいつの彼女が現れそうだけどなぁ…。」
本橋はサンドイッチを手に取りながら宗崎の希望的観測に答える。
「宗崎、そうなんだよ。恭介にそれを期待している。この男所帯の工学部で彼女を見つけるのは至難のワザだ。しかし、三上様は類い希なる能力のお陰で、俺らよりも女子と多く接する環境を作れる上に、内面から女の子を次々と虜にするだけの能力を秘めている。うらやましいぞ…。」
そのとき、3人が話題にしている三上恭介の天敵である『ちょっとだけ綺麗だけど凄くお喋りなお姉さん』が偶然にも購買の前を通り過ぎた。
彼女は三上を探る為に、教育学部の体育祭実行委員会の様子をコッソリと偵察しようとしていた。その、ちょっとだけ綺麗だけど凄くお喋りなお姉さんは、購買を通り過ぎたあたりで、心当たりがある名前と共に信じられない言葉が耳に入った。
『工学部?。三上さま??。いや、まさかねぇ…。別人よね。あの子が女子を虜にするわけないじゃん…。』
購買で喋りながら買い物をしている男子を見ると、三上よりはマシだが、いかにも工学部っぽい風情をしている。
彼女は先ほどの男子学生の言葉と共に、昨日の委員会での三上の挨拶を思い出していた。
『まっ、まさか…。あの委員会の挨拶を聞いてみると、三上クンはチョッと格好よかったわよね。真面目な子なら少し惚れそうよ。』
彼女は少し迷ったが、その男子学生達に声をかけてみることにした。ちょっとだけ綺麗だけど凄くお喋りなお姉さんが声をかけたのは、彼女が気になった言葉を放った本橋だった。
「すみません、わたしは女子寮長で文学部3年の三鷹美緒といいますが、もしかして男子副寮長の三上クンとお知り合いで?」
三人は顔を見合わせた。先日の講義室で三上から『女子寮長は容姿は綺麗だがマシンガンのように喋る』ことを聞かされていたので相当に警戒した。
しかし、本橋は彼女の姿を見るとニッコリと笑った。容姿が好みのタイプだったからだ。
「あっ、あの女子寮長さんですか…。うちの三上から話を聞かされています。私は工学部2年の本橋良二です。三上とは親友ですし同期ですよ。ちなみに学部内であいつは三上さまと崇められてますが?。」
「えっ!!、本橋さん、三上クンとは親友だったのね。それは偶然だわ。ちょっと彼の話が聞こえたので声をかけてみたのよ。三上クンって、そんなに女子にモテるの?。」
三鷹は相当に興味深そうに本橋に聞いた。
「それはそうですよ!。彼は見かけによらず、大役をシレっとこなすし、愚痴は言うけど仕事は真摯に向き合いますし。彼の性格が分かれば、男女問わず彼を慕いますよ。俺たちも彼がいないと死にそうになるぐらいです。」
「え゛ぇぇ~~!!。その話、詳しく聞きたいわぁ~~。本橋さん、お時間はありそう?」
彼女は本橋の話を聞いて吃驚した表情を隠せなかった。
一方で本橋は三鷹の容姿が綺麗なので、タイプだった彼にとって美人をズッと眺めていられるチャンスだった。
それを聞いた本橋以外の2人は相当に警戒してる。
『まずい、時間がなくなる。』
「本橋ぃ~~。お前、この後、村上と用事があるだろ?。早々に帰るぞ!!」
宗崎は少し強めの声で本橋に声をかけた。
これは宗崎の的確な判断だった。このまま放置したら、1時間以上は彼女の話し相手になっていただろう。
「あっ、ごめんなさいね。予定があるのに呼び止めちゃって。ありがとうね…。」
三鷹は少し残念そうな顔をしながら、その場を去った。
三人は急いで会計を済ませると、キャンパスを出てバス停に向かっていた。歩きながら本橋は宗崎の顔を見て口を開いた。
「あっ、宗崎。さっきはすまん。たしかに三上の言うとおり、あれはズッと喋ってそうな顔だよ。ただ、綺麗な子だから永遠と見ていられるけどね…。」
「俺は初めて女子寮長さんを見たけど、あんな人がマシンガンのように喋るとはね…。たしかに、相当に長話をしそうな雰囲気が漂っていたよ。三上が言うから間違いないだろうし。」
村上は驚きを隠せない。
本橋はニヤニヤしながら村上のほうを向いた。三鷹が綺麗な子だったので、そのニヤつきには、色々な意味が含まれている。
「いやぁ、三上さまは、あんな綺麗な女子寮長にまで興味を持たれているのか?。すげーな…。」
村上は本橋の話を聞いて首を横にふった。
「本橋、それは違うかも。寮でさ、棚倉さんと三上の会話を聞いたことがあるんだ。三上は何かの理由があって寮長会議での発言を止められている。だから三上は会議中、ボーッとしたままだと思うよ。三上は会議中も自分の部屋でくつろいでいる時や講義の休み時間なんかで、何にも考えていない時の顔のまんまだと思う。」
宗崎は村上の話を聞いて複雑な顔をして、微妙な声を出した。
「うぐぅ…。村上、それは三鷹さんから見ればギャップがありすぎるぞ。三上は1年の終わりの頃に言っていたけど、寮で色々な仕事を任されるから、何も考えない時間が必要だからボーッとしているって。確かに三上は相当に荷が重すぎて、どこかで息抜きをしないと精神的に死んでしまうと思うし。」
二人の言葉に本橋はハッと我に返った。
「そうか、あの美人寮長は三上様の真の姿を知らなくて調べてるのか…。その線はありそうだな。どうする?。恭介か棚倉さんに声をかけたほうが良さそうだな?。村上。棚倉さんは恭介を来年、寮長にするための切り札にしたい感じか?」
本橋は二人の話を聞いて、三鷹の美貌を思い出すのをやめていた。
三上が今よりも寮の仕事をさらに押しつけられたら、大親友が過労死してしまうのが確実だと思ったからだ。
そうすると村上があることを思いだしたような顔をした。
「本橋。そこまで分からないけど、最近、寮長の新島さんが寮にいるから、一緒に寮に行ったら受付室でこの話をしよう。新島さんも三上のことを把握している筈だよ。三上は見かけによらずに仕事をこなすタイプだし、女子寮長さんと棚倉さんとの間で何らかの駆け引きがあるのかも知れない。」
宗崎は少し腕を組んで考えていた。
「うーん、俺は少し違う見方をしてるな。三上が相当に仕事ができるから、女子寮の仕事も一気に引き受けて男子寮の仕事が滞る可能性とかもありそうだよ。」
この時の2人の予想はどちらも的中していた。三上の真の姿が知られた場合、彼に相当に負担がかかる懸念と、寮長会議での切り札の両方があったからだ。
「村上、宗崎。どっちにしろ恭介が可哀想だから、寮長さんに話した方がいい。しかしなぁ…、あんな綺麗な子が女子寮長さんか。恭介が少し羨ましいぞ…。」
本橋は三上に羨望の目を向けながら、今は三鷹を思い出す気持ちを打ち消した。
彼らはタイミングよく来たバスに乗ると、急いで寮に向かった…。