俺は目の前で挨拶をした時の状況を思い浮かべながら山埼さんにあの時の状況を語った。
「山埼さん、あれは突然に棚倉先輩のアドリブで振られました。挨拶しろとか全く聞かされてなかったから、挨拶はその場で考えたものです。それで、私は先輩にその仕返しができないかと、色々と考えた訳ですね。」
俺は、山埼さんの質問に答えると、泰田さんが、こちらに参戦したことに気付いて少しだけ注意をうながすことにする。
「…泰田さん。棚倉先輩に聞かれないように気をつけて下さいね。」
声を落として泰田さんに話しかけると、彼女は笑顔でコクリとうなずくと、彼女はあの時のことを思いだして、また押し殺したように笑いをこらえながら、あの時の感想をぶちまけた。
「みっ、三上さん。それが分かって、笑いをこらえるのに必死だったわ。あの準備委員会の結成の時と同じ流れだったから、思わず笑ってしまったのよ…。」
「くくっ。山埼さん。三上くんは、そういうのを考えるのが上手いの人ですよ。普通は、あんな所で挨拶をすれば緊張するのが当然だし、棚倉さんに悪戯しようなんて思いませんよ。あれは笑いをこらえるのに必死でしたよ。」
牧埜は悪戯っぽい笑いを押し殺しながら、山埼さんに余計な補足を入れたので、内心は、思いっきり言い訳をして否定したいのをグッと堪えた自分がいたが、そこはグッとこらえた。
山埼さんは牧埜や泰田さんの話を聞いて、びっくりした様子で俺の顔を見ている。
「え~~~。三上さん。あの挨拶を突然にふられて動揺せずに思いつくのですか??。でもね、2人が笑いをこらえている意味が分からないわ…。」
そんな疑問を持っていた山埼さんに、泰田さんが耳打ちをした。
「すっ、凄い!!三上さん…。あの棚倉さんをタジタジにするなんて…。」
山埼さんが吃驚したような顔をして、少し大きな声を出した。
その声で棚倉先輩が気付かないか不安になって振り返ってみると、そんな山埼さんの声なんてお構いなしに俺の自慢話が続いている。
「あいつは新島と一緒に、寮生と一緒に怪しいサークルに乗り込んでな…」
俺は反射的に棚倉先輩の話にボソッとツッコミを入れた。
「はぁ…。あれは私の手柄じゃなくて、新島先輩の手柄なんだけどなぁ。たしかに問題サークルに対して学生課の職員を今から連れてくると脅しましたが、ベタ褒めしすぎですよ。相手は、かなりチャラい奴でしたが、新島先輩が睨みを利かせてくれたから、私は堂々と脅せたからね…。」
その話を3人が笑いながら聞いていたが、泰田さんが、ここまで俺や牧埜、それに山埼さんと話をしていたことに関して素直な感想を俺にぶつけた。
「三上さん、わたしが棚倉さんの話に夢中になっている間に、こんなことをズッと喋っていたの?。それは山埼さんだって、牧埜さんだって最後は爆笑するわよ。三上さんのほうが、一枚上手だとおもうもの。」
「泰田さん。一枚上手は言い過ぎですよ。棚倉先輩のように頭の切れる人に、わたしは到底、追いつけませんよ。だから邪道な手しか使えないですから。それなので、下手なことを言ったら失礼になりますから、彼の尊厳を傷つけることなく、ささやかな抵抗をするのは、かなり難しいですからね。」
そんな俺の言い訳に、みんな悪戯じみた笑顔になっている。
ここで、泰田さんも話に加わったので、一つ面白いことを思いついたから、試しにやってみることにした。
「さて、ここで泰田さんも加わったので、皆さんにクイズを出しましょう。正解した人には、ここにある、一つも箸をつけてない、このコロッケを差し上げましょう。」
山埼さんがニコッと笑って手をあげる。
「三上さんっ、そのクイズに乗ったわよ!」
彼女のノリに、音の出ない拍手をして、少しだけ場を盛り上げた。
「では、問題です。さっき棚倉先輩が話した悪質サークルの撃退ネタを喋ったのは、これで何回目でしょう?」
俺は悪戯っぽい笑顔を浮かべて問題を出した途端に、泰田さんが少しだけ残念がった顔をしている。
「もう…、最初から、こっちの会話に加われば良かったわよ。少し悔しいわ。わたしは4回ぐらいだと思うわ。」
泰田さんは笑いを押し殺しながら、俺の下らない問題に答えると、続いて牧埜も続いて答えた。
「泰田さん、そうなんですよ。棚倉さんの話を聞きながら、三上くんが解説していくので何故か笑ってしまうのです。ちなみに私の答えですが…、さっきの28回を考えると…12回かな。」
さっきの実家の件を聞いていた山埼さんは随分と悩んでいるようだ…。
「う~~ん、悩むわね、20回ぐらいかな。」
「ねぇ、牧埜さんが言っていた28回ってなに?」
途中から会話に加わった泰田さんが分からないのは当然だろう。
俺は泰田さんに簡潔にさきほどの件を説明すると、すでに彼女は笑いをこらえている。
「泰田さん。それは先輩が、私の実家のことを勝手に語り始めた数です。それで…」
「みっ、三上さん~~、それ以上、言うのはやめて!!。笑いが抑えられないわっ…。だめっ、ダメだからねっ!!!。それをクイズにするほど酷いのねっ…。」
棚倉先輩にバレる危険性を恐れて、泰田さんを黙らせるのに、先に正解を言ってしまうことにした。
「…正解は12回。牧埜にはこのコロッケをあげましょう。」
隣の席にいる牧埜にコロッケを渡すと、牧埜は妙に喜んでいる。
「おおっ、当たった~~。しかし、凄いですね…。三上くんが疲れるのも分かりますし、クイズにしたい理由も分かりますよ…。」
俺は近くにいた店員を呼ぶと、メニューを見て、クイズに正解した人へのご褒美メニューを注文をした。
「すみません、杏仁豆腐を2つください。」
杏仁豆腐を注文した俺に対して、山埼さんが少しだけ微笑んだ。
「わ~い、三上さん、女子の気持ちが分かってるわ。今の時間なら、ゆっくりとデザートを食べつつ、お開きまで時間を過ごしたい感じだわ…。」
そして、俺や牧埜、山埼さんと泰田さんは、棚倉先輩の言葉に耳を傾けて、俺がどんな問題を出すのか期待をしているようだ。
「三上は浮いた話なんて皆無でな…。うちの女子寮にスタイルと顔の良い寮長がいるのだが、随分とお喋りな奴で寮長会議の時に、そいつの喋りを、あいつはすぐに黙らせたことがあってね…」
どうやら、先ほどと違う話題になっているようだ。
ただ、棚倉先輩が今、話している事に関して、いろいろと思う所が沢山あるので、ツッコミむところが沢山あった。
「あれは死にますって。だって、1分以内に要点だけを話せば分かる案件を、彼女は30分以上も話して、ようやく要点が分かる感じですよ?。だいたい、そんなに喋られたら、聞いているだけで精神が持ちませんからね。」
山埼さんが俺の言葉に同意したように、激しくうなずく。
「お喋りな人の会話って止まらないわよね。分かるわ…。わたしだって最後まで聞いてるだけで疲れちゃうから、どうやって回避しようかって悩むもの。」
ここで問題が浮かんだので俺はニコッとした。
「さて、問題です…。その女子寮長が30分以上かけて喋りまくっていた会話を、私は何分でストップさせたでしょうか。今回は3択です。」
そうすると、タイミング良く杏仁豆腐がきた。
「1.3分 2.12分 3.20分。ちなみに、全員が正解した場合、俺が手をつけてないイカ焼きを誰かが食べることになります。」
山埼さんが頬杖をついて考えている。
「これは難しいわ…。三上さんなら何か隠し球を持っていそうだわ…。」
泰田さんが、笑みを浮かべて答える。
「わたしは、三上さんの実力を信じて3分にするわ。」
山埼さんや牧埜も微笑みを浮かべながら、俺の問題に答えた。
「そうね、わたしも3分だわ。三上さんなら絶対にやりそう。」
「私も三上くんの実力を信じて3分にします。ついでに言えばイカ焼きは私のものです。」
「ああ…、3択にしたのが失敗だったなぁ…。みんな正解ですよ。」
この問題を3択にしたことを後悔した。ある程度、お腹も満たされているので、このまま、お開きまで食べなくても腹は満たされているから大丈夫だろう。
「ちなみに、この件の解説をすると、山埼さんは知らないと思いますが…。私は女子寮長に、後ろに高木さんがいて時計を見ながら、微笑ましい視線を向けてますけど、大丈夫ですか?なんて、ボソッと言っただけですからね。」
俺がそう言った瞬間、牧埜と泰田さんはお腹を抱えて笑い出したが、何も知らない山埼さんだけ取り残された。
「ははっ!!!。三上さぁ~~さん駄目っ。それは駄目!!絶対に反則だわ!!!。その手は危険すぎるわっ!!!。」
「それは邪道過ぎますよっ!!。もう、その時から高木さんを上手く使っていたなんてっ!!。流石ですよ…。」
泰田さんと牧埜さんの笑い声を聞いた棚倉先輩が、話を中断して俺に怪訝そうな顔を向けると、俺を問い詰めてきた。
「三上よ、何を喋っているのだ。今度は泰田も加わって、笑いが止まらないじゃないか?。」
俺はしれっとした顔をして、とぼけた。
「先輩、みんなに、ある真実を懇切丁寧に説明しただけなので、気にしないで下さい。何もやましいことなんてしてませんし、悪いこともしてません。それに、ここにいる人は誰も傷ついてませんからね…。」
それを聞いた牧埜と泰田さんは再び爆笑をしたが、棚倉先輩は困ったような顔をしていた。
「あ~~おかしい、たしかに三上さんの言うとおりだわっ…。わたし達は三上さんに説明されただけなのに。なんでこんなに笑ってしまうのか、分からないわっ…。」
棚倉先輩は泰田さんに一瞥をくれて、話を再開したので、俺は安堵の表情を浮かべた。
一方で山埼さんは、なんで笑っているのか不思議そうにしていたので、それを見た泰田さんが再び彼女に耳打ちをする。
「なっ、なるほど…。そんなに怖い人を上手く利用して浜井教授も納得させてしまったのね…。それでお喋りな寮長さんの口も封じた…と。」
そうすると、その会話にようやく気づいた松裡さんが、少し頬を膨らませて悔しそうに俺に向かって言った。
「もぉ~~、泰田さんも、早く誘ってくださいよぉ…。三上さんの実話なんて、そうそう聞けないし、棚倉さんの話も面白いけど、三上さんが面白いからこそ成り立っているのに…。」
このテーブルは棚倉先輩だけ孤立した状態になった。
先輩は守さん達の隣のテーブルに向かって話をしているから、自分が完全に孤立したなんて気付いていない。
俺のクイズは棚倉先輩がネタを供給しないと始まらないので、みんなは先輩の話を注視しないといけないので、嫌顔でも棚倉先輩の話を聞く事になる。
「松裡さん。棚倉先輩に絶対にバレないように、今は笑い声を押し殺してください。さっきみたいに爆笑されると、激しい追及が待ってます…。そうなったら追求を回避するのに一苦労します。」
松裡さんがうなずいたのを横目で見ると、俺はアイスクリームを2つ頼んだ。
そして、山埼さんは、アイスクリームを注文した俺を手放しで褒めた。
「注文したアイスがナイスだわっ。あと30分ぐらいでお開きだから、ちょうど良いわよね。」
松裡さんは、凄く不思議そうな顔をしながら率直な感想をぶつけた。
「三上さんが何を考えているのか分からないわ…。」
俺は悪戯っぽく笑いながら松裡さんに、いまやっていることを軽く説明をした。
「えーとね、松裡さん。棚倉先輩の話をよく聞いていてくださいね、私はそれに関するクイズを出すので、正解した人がアイスクリームを食べられるなんて、下らないゲームをしていたのですよ。」
「そんな楽しいゲーム、早く参加したかった…。う゛~~~悲しいっ。」
松裡さんは、その説明を聞いて相当に悔しがっていたが、俺としては、このまま棚倉先輩が俺の話をズッと続けていると、精神力が持たない。
だから、このあたりで棚倉先輩の話を切り上げるために、ネタばらしをすることにした。
「もう、最後なので、ここで種明かしをさせてください。棚倉先輩は、お酒がメチャメチャ強いのですが、唯一の弱点として酔いが少しでも回ると、話すことに夢中になって、周りが聞こえなくなってしまいます。普通の人は、この声で気づくのですが…。ほらね…。」
俺は少し声をあげて、このゲームが成立する理由を説明した。
そこで、4人は棚倉先輩の声に耳を傾ける。
「…それでな、三上が寮の井戸のブレーカーを下ろして井戸のポンプのほうに行くとな…」
それを棚倉先輩の話を聞いた4人がクスクスと笑い始める。
牧埜は笑いを押し殺しながら俺に同意した。
「三上くん。なるほど…そうですよね、こんな隣にいるのに気づかないなんて、とても変ですよね。」
牧埜の言葉に頷きながら、みんなに説明を続けた。
「みんなも、これから先輩と一緒に飲む機会があるから心得て欲しいですが、先輩は話の途中で大きな声をあげると、会話の邪魔をされていると思って、少し不機嫌になります。だから、私は笑い声を極力抑えるように注意を促していたのです。」
『はぁ…。よし、いま、話しているネタを利用して、お灸をすえるか。これは、やり過ぎだよ…先輩。』
俺はそんな先輩を見て、長い溜息をついた後に、言葉を続けた。
「ただね、今回は酷すぎます。時間いっぱいまで私の話を勝手にされる身にもなってください。先輩にお灸を据える意味で、今しがた、妙案を思いつきましたので、今度は思う存分に存分に笑ってください。」
4人は、先輩にお灸をすえる姿を見たい期待感をあらわにしているから、目の輝きが一段と増している気がした。
俺は微笑んで最後の問題を出した。
「それを踏まえたところで問題です。今、先輩が語っているネズミの件ですが、この時、先輩は私と一緒に焼け焦げたネズミを井戸のポンプの中で発見しました。さて、そのネズミを見た先輩は、どんな反応をしたでしょうか?。今回は正解に近い人にアイスをあげましょう。」
問題を言ったところで、ベストなタイミングでバニラアイスが2つ置かれた。
「三上さんっ…。本当にもっと早く参加したかったわっ!!。こんな面白い問題が出されていたなんて、思いもしなかった…。う゛~~~~。」
松裡さんは相当に悔しそうだった。
「松裡さん。時間的に最後の問題になりますが、楽しんでいきましょう。これに参加しただけでも、儲けものです。守さんを考えれば、棚倉先輩の話ばかりを聞かされているから、とても可哀想ですよ。だから、あのリップサービスになりました…。」
彼女は俺の言葉を聞いて機嫌を直したようだ。
「ありがとう…。その配慮は三上さんらしいわ…。」
さっそく牧埜から手があがった。
「三上くんと一緒に顔をしかめながらもネズミを処分した…とか?」
「うーん、残念、違います。」
次に山埼さんが手をあげた。
「三上さんをどけて、焼けたネズミを処分した?」
「山埼さん、違います…」
泰田さんが、笑いをこらえながら手をあげた。
「恐くて飛び上がって逃げちゃった。」
俺が正解かどうかを言う前に、松裡さんが手を挙げて言葉を出した。
「棚倉さんが、三上さんの後ろに隠れておびえたっ!。」
「松裡さん正解!!。そして泰田さんも、おまけの正解!!!」
そこにいた、みんなは、お腹を抱えて笑い転げた…。
「みっ、三上さん…まさかですかっ!!!」
山埼さんが、なんとか笑いをこらえながら言葉を絞り出した。
棚倉先輩がとても怪訝そうな顔をして、俺達が笑っていることに反応したが、先輩は話に夢中だから、俺が出したクイズの内容なんて分からない。
「三上よ…お前は何を話している?」
まず、俺は無言で正面にいる泰田さんと松裡さんにアイスを差し出したが、彼女たちは笑い転げているから、アイスどころの騒ぎではない。
アイスを泰田さんと松裡さんに渡した俺は、ジト目になって先輩に呆れたように、今までの不満をぶちまけることにした。
「先輩さぁ、新島先輩に、酔うと周りが聞こえなくなるから気をつけろと怒られてましたよね…。」
図星だった棚倉先輩が、ギクッとしたのを見逃さなかった。
「う゛っ…」
泰田さんは、笑い転げながら、俺と棚倉先輩の会話に注目している。
「俺は先輩に注意をしたいが為に、意識的に話の腰を折るように、ここにいる皆さんを笑わせていた訳ですよ。」
先輩の顔が青くなっている。
「…しまった、やってしまった…。」
ここはやりすぎると、棚倉先輩に心理的ショックが残ってしまうのが明らかなので、俺は少しだけ穏やかな顔をした。
泰田さんはまだ笑っているから、牧埜や山埼さん、それに松裡さんを見ると、笑いを必死にこらえているのが分かった。
「まぁ、俺のことを喋りまくるのは、半分ぐらいは受け流してもですね…。隣にいた俺の言葉も分からないほど夢中になっているから、みなさんは仕方なく、先輩の話の補足をしていた訳ですよ…。」
『まぁ、補足というよりは愚痴だけどな…。』
牧埜、山埼さん、松裡さんの3人がクスクスと笑い始めると、泰田さんは、右手で拳を作って机をドンドンと叩いて笑いはじめた。
隣のテーブルにいる守さんたちは、事情が飲み込めなくてポカンと口をあけたままだ。
棚倉先輩は額から大量の汗が出ているから、もう酔いは覚めただろう。
「三上っ…それは助かった…。俺は酔うと、周りを考えずに喋ってしまうから…。」
俺は長い溜息をつくた後に、棚倉先輩に微笑んだ。
「はぁ…。大丈夫ですよ先輩。皆さんには最大限のフォローをしておいたし、随分と笑い話もさせて貰いました。ここはお酒の席なので無礼講ですし、水に流しましょう。」
「すまぬ。お前に、なんと礼を言っていいのか分からない…。」
棚倉先輩の顔を見るとかなり青くなっているから、俺が言った事への自覚があるのだろう。
「大丈夫ですよ、先輩。ちなみに4人が笑っているのは、その余波です。知らない仲でもないし、笑って流せるような話しかしてません。高木さんに怒られるよりはズッとマシですからね。」
それを聞いて、ここのテーブルにいる4人は堰を切ったように笑い転げた。
最初に、笑うのをこらえながら山埼さんが口を開いた。
「三上さぁ~~~ん、上手すぎて、笑いが止まりませんっ!!!。だめよ~~~これは、絶対に駄目よ~~~。明日はお腹が筋肉痛だわぁ~~~。」
次に笑い転げていた牧埜と松裡さんが、やっと話せる状態になって感想を言ってきた。
「これは明日の講義中に思い出て笑ってしまいそうです。駄目です、これは心臓に悪いぐらい笑えますっ…」
「わっ…わたしの腹筋をかえしてぇ~~~。早く参加してればもっと笑えたのに~~~。本当に上手すぎよっ。」
泰田さんはノックアウトしていた。
「もう…。何も喋れないっ!!笑いすぎて…ダメっ…」
俺は守さんのいる席に向かってお詫びをした。
「守さん。先輩のせいで、一方的に私の話を聞かされて申し訳なかった。そちらの席の皆さんも本当に申し訳ない。まぁ、この事情は明日になって、そこで笑ってる4人に聞いて下さい。」
それを聞いて守さんがポカンとしている。
「みっ、三上さん。事情は飲み込めないけど、棚倉さんのお話も面白かったし大丈夫だわ…。あとで泰田さんに詳細を聞いてみるわ。そっちは、とても楽しそうだったのが分かったわ…。」
ようやく4人が笑いが落ち着いて、泰田さんと松裡さんは、少し溶けかかったアイスを食べていた。
まだ余韻が残っていて、特に泰田さんは、俺の顔を見る度にアイスを吹き出しそうになるのを我慢しているようだ。
一方で棚倉先輩は顔が青いまま少し呆然としているのを横目で見ながら、俺は、お開きの時間が時間が気になって腕時計を見た。
『お開きまであと5分か…』
「先輩、立ち直るのに少し時間が掛かるのは分かります。もう、俺が勝手に、お開きを仕切って大丈夫ですか?」
俺は棚倉先輩に声をかけつつも、お開きにする為の言葉を頭の中で考えていた。
「三上、すまない。お前に任せた。少し落ち着いてから、細かい後始末をやるから安心しろ。」
その棚倉先輩の断りを得て、俺は席を立つと、周りは徐々に静まりかえった。
「そろそろお開きの時間になります。皆様、お疲れ様でした。ここで、体育祭の成功を祈って一本締めで終わろうと思います。皆さん、お手を拝借…。」
それと共に、お約束の「パパパン、パパパン、パパパンパン」という拍手が響き渡って、最後に拍手が起こる。
「ありがとうございました。明日も委員会がありますし、今後とも、よろしくお願いします。なお、まだ会費を払ってない人がいらっしゃいましたら、松裡さんか山埼さん、泰田さんにお願いします。この後の二次会はやりませんので、ご了解をお願いします。」
『やれやれ…。やっと終わったよ…。』
俺の精神は限界点をとうに超えていた…。