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~エピソード5~ ⑦ 三上くんの休日。~1~

-翌日の土曜日の昼。-


 俺は良二や村上、宗崎と一緒に新島先輩や棚倉先輩から教えられた、お好み焼き屋の店の前にいた。そこに見覚えのあるグループが店の前で立っているのを見つける。


「… … …なんで… … …。そうなるの… … …。」

 目の前に立っている人たちを見つけて俺は呆然となる。


「三上よ。こうなるのは必然的だ。帰った後に準備委員会のメンバーから相次いで俺の携帯に電話があってね。お前に直接に電話をかけても絶対に拒否をするだろうから、なんとか説得してくれと言われたのだよ…。」


 馴染みがありすぎる棚倉先輩の言葉が終わると、バツが悪そうにしている松裡さんが言葉を開いた。


「三上さん。無理に来てしまってごめんね。棚倉さんだけじゃなくて皆んなも一緒についてきてる時点で察してくれると…。」


 俺は昨日の精神的な疲れが残っていたので、逃げたい気持ちを抑えつつ割り切って笑顔を浮かべた。


「松裡さん。私は構いませんが、まずは友人達に聞いてみます。」


 そう言うと、良二や村上、宗崎のほうを振り向いてみんなに詫びた。

「野暮用で同席する人が幾人かいるが大丈夫か?。これは俺というか、実際は寮の先輩のおごりだから、お前らは気にしないで食ってくれ。本当に悪い。」


 俺の問いに真っ先に良二が答える。

「恭介、気にするな。昨日の有坂教授の話を聞いていたら、そんな流れでも仕方ないさ。お前はそれだけの大きな仕事ができる性能を持っている。それにな…。」


 良二は準備委員会のメンツには聞こえないようにボソッと俺に耳打ちをする。


「うちらの学部は男所帯だから、女子と一緒に食事なんて生涯に一度の奇遇だよ。むしろ俺らが感謝したいぐらいだし、恭介が羨ましいわ。連れてきてるのは真面目そうな女の子だろう。あいにく俺の好みではないが、2人にとっては刺激的だろうね。」


 やれやれ…。


 そんなことを気にしてたら、実行委員の仕事なんて到底できないし、誰とは言わないが、外見は男心をくすぐるような姿をしていても、マシンガンのように喋り続ける女子学生もいるから、世の中は怖くて仕方がない。


 性格の善し悪しなんて男女の性差や容姿に関係ない。


「村上、宗崎。悪い。お前らも大丈夫か?」


 2人にも確認の意味で、実行委員の面々と会っても大丈夫かを聞いたのだが、これは本当に悪いことをしたと思って、とても複雑な心境だった。


「三上も大変だなぁ。俺はまったく構わないよ。しかし、仕事ができる男は辛いねぇ。」

 宗崎も俺に同情的だし、理解をしているようでホッとした。


「大丈夫だよ。実は夜、コンビニに行くときに受付室からお前や新島さん達の声が聞こえたから、事情は知ってた。こんな機会は滅多にないからな。三上は色々な意味で凄いと感心しているからな。」


 村上が体育祭実行委員の事を知ってるとは思わなかった俺は少し驚いていた。


 コンパが終わって寮に戻ると、受付室で死んだ顔をしながら仕事をしていた新島先輩に、準備委員会であったことを棚倉先輩と一緒に話していたのだが、それを村上が偶然に聞いていたのだろう。


 高木さんの恐喝…いや、お説教の影響もあって、飯代は新島先輩が出すことは必然的になっていた。


「みんな悪いな…。」

 俺は3人からは分からないように、溜息をつきながら謝ると、準備委員会のメンバーのほうを向いた。


「ウチの連中は大丈夫なので、このままでOKですよ。」


 牧埜さんが俺の答えに、やっぱりバツが悪そうに返答する。

「三上さん、本当に悪かった。3人とも途中までは同じ電車だったから、あのままでは消化不良なので、タイミングを見て話す場をもう一度、設けたい話になって。プライベートな場に便乗してしまって申し訳ないです。」


「大丈夫ですよ。そんなに気にしていたら仕方ないですし、どのみち体育祭開催までは何度も顔を合わせなければいけない仲間です。」


 俺は牧埜さんの言葉に返答をしつつも、少し時間効率の良さそうな案が浮かんで棚倉先輩に提案する。


「棚倉先輩。いっそのこと食べ終わったら、うちの寮の食堂を借りて、準備委員会を開いたほうが時間効率が良いですよ。新島先輩もいるから、不在時の議事録承認案件も一石二鳥だし。うちの連中は、この後は俺の部屋で遊ぶかと話していたぐらいですから。」


「それは名案かもしれない。寮監も新島の件を把握してるから、事情を話せば直ぐに分かるはずだ。俺の携帯から寮監に電話を入れてみる。」


 棚倉先輩が松尾さんに早速、電話をかけているが、その会話を聞くと、すぐに了承が貰えそうな感じがしてきた。


「三上さん、ホントにごめんね。そういうコトを思いつくのは、やっぱり冴えてると思うわ…。」

 泰田さんがバツが悪そうに俺に謝っているので、それを俺は笑って許していると、棚倉先輩が電話を終えた。


「松尾さんは二つ返事でOKだ。むしろ、三上の負担が大きいから寮でやるのに大賛成らしい。昨夜、お前が風呂に入るときに松尾さんとすれ違ったときに、相当に疲れたような顔をしていたらしいから、明日ぐらいは休ませてやれと言われたよ。」


 泰田さんが本当に申し訳なさそうにしている。

「三上さん…お疲れのところ、本当にごめんね…。本来ならお好み焼きやで準備委員会ができればベストだろうけど…。」


 俺は、この状況で少し笑いを入れる必要があると考えた。このままでは俺に謝り続けて話が終わってしまう。


「泰田さん、お好み焼きの食べ放題は時間制限があるから、食べるのに夢中になって時間切れになるし、議事録がお好み焼きで燻されて匂いがつきますから浜井教授にバレますよ。お前らは、なにかコンパで食べながら、ふざけて会議をしたいたのか…。なんて、言われたら目も当てられません。」


 みんなが一斉に笑い出す。


 笑いが終わると俺は学部の面々に、飯を食べた後のスケジュールの確認をする。

「すまん。うちらはそんな感じで良いか?。」


「それで構わないぞ。どのみち寮の用事で三上がいないと自動的に俺の部屋だから気にするな。」

 村上が俺の問いに真っ先に答えると、残りの2人もうなずいた。


 店の中に入ると、すぐ席に案内された。

 テーブルをくっつけると8人ぐらいは楽に座れそうな感じだ。


 各々が席に着くと、うちの学部の友人達と、準備委員会の面々が軽い自己紹介をした。


 次第に俺の事をネタにしながら、みんなが打ち解けてくると、良二がロクでもない本音を吐いた。


「しかし…まぁ、うちの三上殿は、こういう場になっても気取ることもなく、いつもの調子だからなぁ。しれっと頼まれた仕事をこなすし、さっきみたいな冗談もよく飛ばすから、皆から慕われるから。」


 松裡さんじゃ良二の話に興味津々なようだ。


「本橋さん、学部での三上さんって、そんな感じなのですか?。昨日、初対面で吃驚したのですが、シュールな冗談を飛ばしながら、とんでもないコトをサラッとやってしまうというか…。」


 宗崎は、良二が松裡さんに返そうとしていた言葉を横取りするかのように、松裡さんの問いに答えた。


「三上はねぇ、同期の連中で喧嘩になりそうになったときに、間に入って仲介したり、補講続きで危ないヤツも丁寧に教えて救ったりしてるから、周りから一目置かれていますよ。村上も少し単位が危なかったのを、隣の部屋だから救ってやったりして1年の時から助けられた奴が多いのです。本来なら、三上が学部のクラス委員長であるのが妥当なのですがね…。」


 あまり褒められるのは好きじゃないから、俺は縮こまって、会話が過ぎ去るのを待つことにした。


 でも、みんなは非情だ。

 良二はさらに、俺のことを、あれこれと語りはじめた。


「うちの同期は三上様々ですよ。担当委員の教授が無茶苦茶に課題を出してきた時があって、そのときは他の講義でも課題とかレポートが重なって即死が確実だった状況で、講義が終わった後にコイツは教授とかけあって、提出期限を伸ばしたことがあったけど、そういう交渉をするのも上手いですよ。」


「ほんとうそうですよ。俺なんか三上に何度、救われたか分かりませんからね。来年度の専攻科も、みんなコイツを信じてついて行く覚悟ですし。」


 村上も乗ってきたが、ここは否定するべき所だと思って重い口を開く。


「おいおい。そこは、自分の目的のあった所にしてくれ。俺は事情があって、そこに行くしかないことが決まっていて、有坂教授に卒業までお世話になるつもりだから。」


 なんだか泰田さんも、その会話に加わってきたので、事態は余計に混沌としてきた。


「昨日もそうだったけど、三上さんって自分を語らないわよね。誰かから褒められても喜ぶことなく、逆に居心地が悪そうにしてるの分かるもの。そこが謙虚さになってて、みんなが慕っている原因なのよ。」


 もう、こうなると面倒なので、俺は素を出して、少しだけ逃げることにした。


「もう、俺の事はいいから、お好み焼きを焼こう。時間がもったない。」


 俺は皆にそういうと、店員を呼び出して、紅生姜焼きを注文した。

 しばらくして、ネタが運ばれてくると、俺は1人でお好み焼きを焼き始めた。


「ほらな、こういう所なんだよ。こいつの飾らないところが、みんなから惹かれる所だろうな。」


 棚倉先輩が俺の事を褒めちぎっているが、完全に無視を決めこんだ。


「三上さん。真っ赤な紅生姜焼きなんて凄いですね。見るからに生姜が辛そうですけど…。」


 俺が頼んだメニューを見て牧埜さんが不思議そうにしている。


「いやね、私は生姜好きだから、これが好きなんです。牛丼も紅生姜を山盛りにかけて食べるほうだから。それよりも、みんな早く頼んだほうが良いですよ。話をしていて20分ぐらい過ぎてるし。2時間の食べ放題コースだけど、私の話で時間が潰れるなんて勿体ないですから。」


 それを聞いて、ようやく全員がメニューを見て各々が注文をし始めた。


 それ以降は各々が雑談をしながら、お好み焼きを焼いているから、俺は、ようやく自分の話から解放されて、心地よくお好み焼きを食べることができた。


 しかし、そんな束の間の休息も、泰田さんの言葉で俺の憩いの時間が終わった。

「三上さん、やっぱり食べっぷりが良いわよ。ホントに惚れそうだわ。」


「泰田さん、昨日も話したけど、しがないオタクの食べっぷりに惚れないでください。そんなに見られても困りますし、食が細りますから。」


 俺が困ったように泰田さんに言葉を返していたら、松裡さんも同じような目で見ている。

 2人とも年下の弟の食べっぷりを見るような目でニコニコしているから、食べられなくて困った。


 これが、俺と将来を共にすることになる、可憐で可愛い俺に一途な女の子が、アーン♡をしてくれるならともかく、あまりタイプではない女性からジッとみられると、妙な緊張感があって、その場で席を立って帰りたく思った。


「いやぁ、恥ずかしいやら止めてください。こっちが食べにくいですよ。」


 俺は苦笑いしながらも、2人には軽く拒否反応を伝えたが、こんどは牧埜さんに補足された。


「私からみても、小柄な三上さんがそれだけ食べると、凄いと思いますよ。むしろ気持ちがいいぐらいです。」


 すると、牧埜さんが感心しているkら、良二がそこにツッコミを入れてきた。

 もう、このパターンから抜け出せないことに、俺は心底、疲れてきたので、すぐにでも帰りたかった。


「おお、牧埜さんもそう思いますか?。最初に恭介と会ってキャンパスの学食で飯を食ったときに、その食べっぷりがスゲーと思ったんですよ。だから、仕送りが尽きた時に飢えてるのが可哀想でね。」


 それに棚倉先輩が追い打ちをかけるように、話に加わった。


「それは寮の先輩でもそう思うぞ。コイツは寮に入ってきた時から、体に似合わず大食いでな、俺なんかと変わらないような食べ方をするから吃驚してるのだよ。」


 泰田さんが女子としての率直な感想をぶつけてきたので、俺はもう、内心は降参状態だった。


「いや~、女子として思うのは、それだけ食べていても、三上さんの体は痩せたままだから羨ましいわ。もしかして…なにか運動をしてますか?。」


「基本的には苦学生なので、仕送りが尽きたりすると、工学部のキャンパスから本館まで歩いたりしていますよ。そこで体型を維持をしてる事もあると思います。食べても太りにくい体質ではありますけど…。」


 それを聞いて松裡さんが驚く。


「うわっ、それだけ歩けるのは体力がある証拠だわ。三上さんは高校とか中学で部活とかやってました?」


「中学ではバレー部でしたね。背が伸びると思ったけど駄目でした。高校ではテニスの同好会でしたので、お付き合い程度にしか打てませんよ。」


 それを聞いた棚倉先輩が、なぜか身を乗り出してきた。


「お前、それは初めて聞く話だぞ。お前は風呂に入っているときに背中から上が少し筋肉質みたいなところがあるから、不思議だなと思っていたんだ。」


 さらに泰田さんが万遍の笑みを浮かべて、俺に話しかけてきた。


「三上さん、それなら体育祭で男女混合のバレーボールで実行委員チームが毎年組まれるのですが、それに出てくださいよ~、毎年、人を集めるのが大変で…。」


「俺なんて、背が低かったから補欠の中の補欠でダメダメですよ?。おっと、あと30分ですから、食べることに集中しましょう。」


 これは逃げるしかないと思って、とっさに話題を変えようとしたが、もう、駄目だった。


「ふふっ、とにかく三上さんはチームに入ることが決まりですからね…」


「う゛ぐっ…」

 俺が泰田さんに追い込まれたのを確認した宗崎が、見逃さずに追い打ちをかけてきた。


「大丈夫だよ。ここにいるメンバー全員でお前のバレーボールを見に行くから安心しな。さっき、松裡さんから聞いたけど、教育学部の体育祭は、学部なんて関係なく自由参加と聞いたからな。予定を見たら、午後から講義がないから、万全の体制で見学できそうだから安心しているよ。」


 宗崎の追い打ちに対して、牧埜さんや松裡さんまで笑顔になっているのを見て、俺は人生が終わったことを悟った。


 そこに、棚倉先輩が、俺に対してトドメを刺す言葉を放ってきた。


「それは、誰だって見に行くぞ。サボるとか公言している新島だって見に行くぞ。それを早く行ってくれれば、お前が実行委員に入らずに、新島に体育祭を真面目にやらせる事もできたのに…。」


 俺は棚倉先輩の言葉を聞いて、少しだけ溜息をついた。


「先輩、なにを言いますか。新島先輩のことですから、強制参加は、出席だけ取って、競技なんてやらずに逃げ仰せた挙げ句、俺が出るバレーボールだけ、絶対に見に来ますから油断ならないですよ。」


 その俺の懸念に、準備委員会の面々がが一斉に笑い出したが、その笑いが収まったときに、宗崎が俺にツッコミを入れてきた。


「三上がそんな事ができるなんて一言も聞いてなかったぞ。お前は何ができるのを隠しているから、マジに油断ならない。」


 俺は、宗崎の言葉を無視して、逆に課題やレポートの件について、ここで頼み込むことにした。


「宗崎や村上良二も含めて、今からお願いしておく。体育祭開催の1週間前になると、忙しすぎることになる。講義なんかは単位を落としたくないから、無理矢理に出ると思うが、課題やレポートが全くできなくなりそうだ。だから、みんなで助けて欲しい。体育祭が終わった後の土日は、課題やレポートで徹夜になるから、絶対に助けて貰うよ。」


 その俺のお願いに、良二が笑いながら喜んで引き受けてくれたが、どうも何か引っかけがあるようで、俺はとっさに身構えた。


「恭介よ。普段から助けて貰ってるから、俺らもそれぐらいしないと駄目だ。それでないと、お前のバレーボールが見られない。」


「良二。なんで、バレーボールが前提なんだよ?。俺は承認してないけど、強制参加か。はぁ…。」


 その話に村上も乗ってきた。


「俺だって三上に助けて貰ってるから、一緒に屋台で焼きそばを買って食いながら見る権利はあるさ。みんなで手分けをして課題やレポートが見せられるように頑張るよ。」


 村上が俺に救われていることを恩義に感じている言葉は有り難いが、妙に引っかかる部分がある。


『これは、何かがおかしい…。』


 学部の友人たちが、課題やレポートを助けてくれるのは有り難かったが、お好み焼き屋の天井を見上げて、俺は何かがおかしいことに嘆いていた。

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