俺は棚倉先輩と一緒に受付室に行くと、放心状態の新島先輩がいた。
彼が座っていた、受付室にあるテーブルに書きかけの報告書があって、涙で少し濡れていた。
「先輩。遅れて申し訳ないです。」
俺はあえて普通の言葉を選んで新島先輩に声をかけた。
「みっ、み か み 様ぁぁ~あ゛~。だった…助けて下さいっ。うわぁっぁ~ん!!」
新島先輩は俺の腕にしがみついて泣いている。
『これで何回目かなぁ。』
俺は新島先輩の情けない態度を見て、内心はもの凄く呆れていたので、その対応を決めかねていた。
「新島。報告書は、三上が全部、作ってくれたから安心しろ。」
棚倉先輩がそう言うと、新島先輩は顔がいきなり明るくなった。
「三上さまっ☆。貴方は私の救世主です☆(キラーン)。これで高木さんに怒られずに済みます。お礼はいくらでもしますから、次の休日は食べ放題に行きましょう!!!」
新島先輩は後輩にかける言葉と思えない口調で、俺を見て涙を流して喜んでる。
しかし、今までの新島先輩の所業を考えると、ここで、奈落の底に落とすことに決めた。
彼はその場しのぎだけで、俺に媚びを売るだけだし、反省の色なんて一つもないからだ。
俺は、棚倉先輩と目を合わせてうなずくと、先輩も同じくうなずいた。
そこで俺は、新島先輩に話すときに感情を出さず、無表情になって言葉を切り出した。
「新島先輩。この前、高木さんから言われたことを忘れていませんか?」
「三上?。あれ?、高木さんに…何か…おれ…言われたっけ?」
新島先輩は無表情になっている俺の姿を見て、少し焦りはじめた。
「はい。俺はハッキリ覚えてますよ。高木さんは先輩に、テメーは後輩に仕事をぶん投げたら、次は絶対に承知しねぇからな!!! なんて、ドスの利いた声で言われていましたよ?。俺と棚倉先輩は、怒られないでしょうが、新島先輩は、完全にお説教コースですからね。俺は知りませんよ。」
俺の死刑宣告のような言葉を聞くと、新島先輩は全ての感情が抜けて、放心状態で動けなくなった。
そこに松尾さん夫婦が帰ってきたのが寮の受付室から見えたので、棚倉先輩が松尾さんに声を掛けた。
「松尾さん、これから3人で報告書を出しに行くので、よろしくお願いします。」
松尾さんは棚倉先輩の声かけに、手をあげて応えると、寮監室へと入っていった。
棚倉先輩は、固まってしまった新島先輩を引きずりながら、本館キャンパスへと向かった。
新島先輩は重罪人が、処刑台にのせられるかのような表情になっている。
キャンパスに向かうバスの中で、棚倉先輩が俺に深刻そうな顔をした。
「三上。この後、新島が高木さんに怒られたら、明後日ぐらいまで精神が崩壊して駄目だろうから、俺から、お願いをしたいのだが…。」
「先輩?。なんですか?」
俺は嫌な予感しかしなかった。
こんな時にお願いされることは、絶対に面倒なことに決まっている。
「実はな、新島が学部の体育祭実行委員長に選出されてしまって、お前に外部委員をやって欲しいんだよ。」
「あ゛??。先輩、なんですか?、その外部委員って?」
俺は驚きを隠せない。どう考えても、指折屈指で面倒な仕事なのがネーミングから分かるからだ。
「うちの学部で体育祭をやるとき、大昔に会計上の不正があったらしく、学部外から副実行委員長格の外部委員を2名以下で招聘して、体育祭をやることになっていて、お前に白羽の矢が立ったのだ。」
俺は眉間に皺を寄せて、棚倉先輩に暗に拒否の姿勢を示した。
「新島先輩なら、サークルとかで顔も広いから、俺よりマシな人がいるでしょう?」
「三上、お前じゃなきゃ駄目だよ。こいつがマトモに仕事をやると思うか?。新島のサークルの周りはこんなヤツばっかりだよ。新島は顔が広いから、周りから押しつけられたらしい。」
「先輩、私は断固拒否しますよ。今日の課題を見て分かる通り、俺の課題やレポートの数はそこら辺の学部と違って、倍以上ありますからね。それをやったら俺が死にますし、俺を頼りにしてる仲間も死にますし、さらには寮の仕事も滞りますよ?」
棚倉先輩からの頼みでも俺は断固として拒否の意向だ。
それに新島先輩が押しつけられたのは確実だろうが、何か裏がありそうな予感がして、何も知らないで委員になった俺も、面倒なことに巻き込まれそうな予感がして、余計に嫌だった。
「寮の仕事は俺がなんとかする。それでも、お前に頼らなきゃいけない部分があるのも承知だ。」
「うーん、でも、先輩。新島先輩は頼りにならないし、結局は私に押しつけるのがお約束じゃないですか!。」
俺は、棚倉先輩の、誘いの言葉に乗らないことにした。
「三上、体育祭の実行委員会については、俺もアドバイザー的な委員になって新島をフォローすることになりそうだ。」
「なんだか、サークルとか何かの企画でよくあるような、お友達役職で頭だけデッカチのヘンテコな組織ですよね…。効率が悪すぎますよ。」
こういう組織は面倒なので嫌いだ。まして、学部のことなんて何も知らない外部委員になった時に、俺はつまはじきになる可能性があって、そうなれば仕事がやりにくい。
「三上よ、それを言われると俺も言葉に詰まる。うちの体育祭は屋台とかも出すから、小規模の文化祭と変わらないから組織としては、けっこう大きいぞ。」
「うげぇ。相当に大変じゃないですか。それなら尚更、駄目ですよ。」
俺は棚倉先輩の言葉を聞いて、拒否の姿勢を強くした。
「まぁ、三上。考えてみてくれ。」
そんな話を棚倉先輩としているうちに、バスが本館キャンパス前に着いた。
棚倉先輩は、固まった新島先輩を引きずったまま学生課に向かって歩いているが、新島先輩は滝のように涙を流していた。
それを見て、俺は先輩に同情の余地が一つもなくて、溜息をついていた。
学生課に着くと、棚倉先輩は高木さんを呼び出した。
「棚倉くん、新島くん、三上くん。報告書は持ってきたわよね?。ふふっ♪」
すでに新島先輩は、高木さんに補足されている。
新島先輩はライオンに狙われた草食動物のように、このまま死んでも仕方がないぐらいの顔をしている。
俺は報告書を高木さんに差し出して、不具合がないかチェックをお願いした。
「高木さん、私が書いた報告書です。提出期限がギリギリになってしまって、申し訳ありません。」
高木さんは報告書に漏れがないかどうかを、丹念にチェックをしていた。
「さすが、三上くんだわ。しっかりできてるし、パソコンで作ってるから見やすいわ。いいわよ、これなら受理をして、すぐに処理するわ。」
今のところ高木さんの反応は怖くもないし、いつものお淑やかさがあって普通だ。これでサッと帰っても、新島先輩の命は取られないだろう。そういう淡い期待を持った矢先だった。
「ところで、新島くん。あなたは…また、後輩に仕事を押しつけたわよね?」
『きたっ、まずいなぁ…、これはお説教1時間以上のコースだろう。』
俺は淡い希望を捨てて、どうやって新島先輩の精神崩壊をできる限り防ぎながら、高木さんのキツい長時間のお説教を、できる限り短時間で終わらせられるかを考えていた。。
新島先輩の額から脂汗が滴り落ちると、棚倉先輩も、小刻みに震えだしていた。
「あっ、あの…色々と忙しくて、三上に押しつけざるを得なくて…。」
『まずいなぁ、新島先輩の悪いところは、まず先に謝らないで、言い訳してしまうからダメなんだ。これが高木さんの癪に障る。この時点で手をついて謝ってしまえば、高木さんの怒りモードはすぐに終わる。これがマジに良ない部分なんだよな。棚倉先輩や橘先輩も人のことは言えないけどね。』
案の定、高木さんの怒りは頂点に達して、恐ろしい怒鳴り声が学生課内に響いた。
「新島ぁ~~!!、てめぇ、三上に仕事を押しつけて、どうせまたコンパだろ???。ざけんじゃねぇよ!!!!!」
俺自身は聞き覚えがありすぎる、ガチの不良が放つような怒声が、学生課の室内にこだまするように響いていた。
『あーあ。やっぱり駄目だったか…。』
新島先輩はその瞬間、魂が抜けたように顔面が蒼白になっているし、隣の棚倉先輩も生きた心地がしないようで、大きくガタガタと震えはじめた。
実はこのとき、同じく提出期限ギリギリで寮の新歓コンパの報告書を持ってきた女子寮長の三鷹美緒は、学生課の別の部屋で、荒巻さんと書類の不具合を直しながら雑談をしていた。
「うわぁ…涼くん、また高木さんに怒られてるわ…。あれ??、三上くんが1人でこの書類を??」
荒巻さんは苦笑いをしながら三鷹をジッと見ている。
「女子寮の幹部は、三上くんのことを外見だけで判断していると思うけど、彼は相当に凄い子だよ。そういう目であなた達が見ているから、棚倉くんや新島くんが、必死に庇っているだけだよ。」
「どのみち、涼ちゃんが三上くんに無理矢理に押しつけただけでしょ?彼も必死になればこれぐらい書ける…かも…え~~~?。パソコン???。不具合なし???。凄いかも…。」
彼女は、高木さんが新島を叱っている言葉を聞いて、三上恭介の今までのイメージを覆す言葉に戸惑っていた。
「私も今日は少し時間があるからね。三鷹さん。お土産として、私だって震えるほど怖い、激怒した高木さんと三上くんとのやりとりを聞いて帰らないかい?。たぶん、しばらくすると、彼が高木さんを落ち着かせるからね。私も本気で怒ってる高木さんに、あの言葉はかけられないよ。」
三鷹は荒巻さんの言葉を聞いて驚きを隠せない。
「荒巻さん。それはマジですか??。そんなにあんなボーッとしてる子が、そんな特技があるの???」
三鷹は半信半疑で、高木さんが激怒していて修羅場になっている、壁を隔てたの向かい部屋の会話に耳を澄ませた。
一方でこちらは、修羅場になっている部屋。
高木さんが不良モードで、ひたすら新島先輩を叱っていた。
ただ、高木さんの言ってることに理不尽な点は全くないし、極めて正しいことを言っている。
「てめぇ、三上がパソコンで一つも不備がねぇ完璧な書類を作っているのに、おめぇは、三上の苦労も知らないままにコンパか??。ざけんじゃねぇよ!!!!。工学部のレポートや課題がどれだけ多いか知らねぇだろ???。その中で、後輩が先輩の為に必死に作ってるのが分かんねぇのか!!!!!」
もう、新島先輩は魂が抜けまくって放心状態で、高木さんのお叱りを受けていた。
すると、高木さんは、棚倉先輩にも鋭すぎる視線を向けた。
「それに、棚倉ぁ!!!、おめぇも、新島がほっつき歩くのを、体を張って止めなきゃ駄目だろ!!!!。」
「すっ、す、すみません…。わっわっ、わたしの監督不行き届きでありますっっ!」
棚倉先輩は、突然に振られた災難に、魂が抜けそうなぐらい、顔面が蒼白になった。
『よし、今だ。このタイミングを逃したらあと30分は俺が言葉を出すタイミングがこない。新島先輩の魂は完全に抜けている。これ以上、魂が抜けたら2日間は駄目だろう。棚倉先輩も流れ弾に当たっているから、じきに死ぬ。』
俺はこのタイミングで、高木さんの目をしっかり見て、誠心誠意、彼女に魂を込めながらの説得を決意した。
多少の嘘は混じるが、ここは急場を切り抜けるためにも、嘘も方便だだろう。
「高木さん。今回は、私が押しつけられた格好ではなくて、この書類を私にお願いしてきた理由があります。今は単位が絡んでるレポートや課題があって、それを先に片付けていましたので、提出期限がギリギリになってしまって、申し訳ないです。」
「三上?、どうした?」
高木さんは、新島先輩や棚倉先輩に叱るのを止めて、俺に注目した。
そこで、俺は、全神経を高木さんに集中させて、少し息を整えた。
ここからは、彼女と心と心の真剣勝負だから気が抜けないし、少しでもミスをすれば、俺も高木さんに怒られてしまうだろう。
高木さんは、元々不良で硬派であるが、心は綺麗な人である。
それでなければ、あんな感じで新島先輩を叱らない。
高木さんには誠心誠意、心を尽くして説けば分かってくれるはずだ。
だからこそ、俺は気をシッカリともって、怖じ気づくことなく高木さんに話しを続けた。
「はい。彼らは、学部の体育祭実行委員を引き受けたようで、とくに新島先輩は、心を入れ替えたのか、実行実行委員長に指名されました。棚倉先輩も特別な役職で、新島先輩をサポートすることになったようです。そこで、2人が多忙なことから、私に報告書を書くように頼んできたのです。」
この説明には少しの嘘が混じっていたが、事実が大半を占めるので、高木さんから2人が、問いただされても、単に肯定するしかない状況だろう。
高木さんに向けた話は、嘘も混じっているから、少し引っかけ気味だが、俺は誠心誠意、心を尽くして高木さんに説いていった。
「ほぉ…。」
高木さんは、2人に対して怒るのをやめて、俺をジッと見つめると、目を見張った。
俺は大きく息を吸い込んで、呼吸を整えると、ありったけの気持ちを込めて高木さんにぶつけることにした。
これは真剣勝負だ。失敗したら俺も先輩たちと一緒に、高木さんに激しく怒られるだろう。
「私も実は外部委員を頼まれているのですが、大量のレポートと課題がある中で、果たして職責を全うできるかが疑問ですので、今のところ、お断りしてる状況です。しかし、せめて先輩達をフォローする意味でも、報告書を書く仕事に関しては、しぶしぶ動かざるを得ない状況でした。そういう理由がありますから、ここは、私に免じて、今回はどうかお許しになってください。」
俺は新島先輩が報告書を書けなかった理由を高木さんに話すと、深くお辞儀をした。
高木さんの表情から、その説得が効いたことが分かった。
「三上。それなら分かる。お前らもそれを早く言え!!!」
「はい!!!」
棚倉先輩と新島先輩は、声をそろえて高木さんに返事をした。
そして、俺の説得によって高木さんの激怒モードが解除されたのを確信して、俺は胸をなで下ろした。
でも、これは、相当に精神的疲労を伴うから、同じようなことは二度とやりたくない。
新島先輩が怒られると、いつも、こんな感じで危ない綱渡りをしながら、高木さんを説得して、怒りを静める役目を担っているのだ。
『はぁぁ…上手くいったよ。危ねぇよ。バスの中で棚倉先輩があの話をしなかったら、マジに終わってた。』
俺は修羅場を回避してことなきを得て、全身の力が抜けていた。
先輩達がしっかりしてくいれば、こんなことは一年に一度ぐらいで済むはずだ。
こんな際どい説得を、日常茶飯事でやっていたら、俺だって最後には精神ががおかしくなる。
そのタイミングで、俺は先輩たち2人を引っ張って、高木さんに挨拶をすると学生課を出た。
これ以上の長居は、とても危険だし、藪をつついて蛇を出す理由なんて何処にもないからだ。
ちなみに、余談だが、新島先輩は高木さんの事を思い出すときに、この情景がとっさに思い浮かんでしまぐらい、彼の生涯にわたり記憶に残るほどのインパクトとなっていたようだ。
それぐらい三上は、高木さんを説得させるのが上手かったのだ。
―別室では荒巻と三鷹がこのやりとりを聞いていた。―
激怒して怖すぎる高木さんに、三上が横から絶妙なタイミングで言葉を出して意見を言いつつ、彼女を納得させてしまうなんて。
三鷹は先ほどまで起こっていた事実が信じられなかった。
「荒巻さん…マジっすか??。高木さんが怒っている時に、あれを言える人なんて1人もいないよ??」
荒巻は三上とのやりとりを聞いて、疲れた表情を浮かべながら三鷹に語りかけた。
「三鷹さん。いま、ここで起こったことは事実だよ。」
三鷹は色々なことを荒巻に言いたかったが、うまく言葉が出なかったぐらいに、吃驚したと同時に困惑もしていた。
「わたしは本当に信じられないわ…。三上くんがあそこまでやれる子で、しかも、それを隠しているなんて…。」
彼女は、三上恭介という人物について、1人で調べる必要性を感じていた。
女子寮幹部の2人にはこのことを話さず、彼の本性を寮長会議の場で引き出してから、棚倉と新島を問い詰める必要があると考えた。
三鷹は三上が副寮長就任当初から、棚倉と新島が実力のない人間を副寮長に推薦するわけがないと睨んでいた。
仮に三上が高木さんを説得できる以外の能力が劣っていたとしても、それは1年後に寮長になったとしても、適任であると言えた。
高木さんを怒らせないことは寮の運営能力において、寮幹部の手腕が最も問われる案件なのだ。
激怒した高木さんを封じてしまった三上は、凄まじい存在ということになる。
その時期を境に、三鷹は三上のことを「恭ちゃん」と、呼ぶようになった。
これは彼女がフレンドリーに接することで彼の本性を引き出したかったのだ。
ただ、それは失敗に終わって、あの告白事件が起きるまで、彼の真の実力は封印状態だったのだが…。
***********************
再び時は現代に戻る。
俺は陽葵にここまで話すと、彼女はポカンと口をあけたままになっていた。
「あなた、それをその場で、見たかったわよ…。」
俺は慌てた。あんなのは人に見せられるような状態ではない。
あのようになる前に、もう少しマシな言い方があっただろうし、俺が新島先輩に対して、しっかりするように強く言っていれば、そもそも高木さんに怒られる前に、何らかの手を打てたはずだから、そもそも、高木さんから怒られなかった可能性が高い。
「いや、あれは見ない方がいいぞ。その場しのぎの嘘もついているし、高木さんと言葉の真剣勝負をしている感じだから、ミスをすると、ホントに大変なことになるしね。」
陽葵は俺の頭を右手でなでて、左手は俺の頬に置いた。
「だからね、高木さんは、お見舞に行ったときに嬉しそうにしていたのよ。あなたが高木さんに怒られようとも、先輩たちをかばって必死にやっている姿を見て許したのだと思うわよ。高木さんは、時が過ぎようとも、その心にインパクトが残るぐらい、あなたが凄かったのよ。」
陽葵は俺に話しかけながら、キスをしたいのが明らかに分かったので、俺は陽葵の腰に手を回しながら言葉を続けた。
「うん…そうだと良いのだけど…。高木さんが亡くなった時に、出張で葬式に行けなかったよね。そのあとさ、棚倉先輩が気を利かせて。俺を誘って高木さんのお墓に行ったけど、あの時は嘘をついて申し訳なかったと、お墓の目の前で手を合わせながら謝るしかなかったよ。」
「あなた。それは高木さんも薄々、分かっていたと思うわよ。でもね、それは、あなたの心意気を高木さんが買ったのよ。それだけ一生懸命にやってる心をね…。」
「その心意気に、わたしからご褒美をあげるわ。」
陽葵はそう言って俺の頬にキスをしたのだった。