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~エピソード4~ ⑦ 三上恭介の後悔。

 俺は必死に新島先輩へのDMを打ち続ける。

 朝食の準備を終えた陽葵がきて、このDMを食い入るように見た。


「この時のあなたは、ホントに…、かっこよかったわ♡。」


 今度は陽葵は俺の左頬に手を触れて右頬にキスをした。

『やった!。陽葵成分を補充できた!!』


 俺は陽葵の用意した朝食を食べ終えて少しゆっくりしていた。食べ終わって食器を洗おうとしたら陽葵から止められた。


「あなたのメールを見てると楽しいから、そのまま書いてね♡。」


 …なぜ、ハートマークが付く?。

 大丈夫。今日は陽葵成分をしっかり取り入れた。


 ふと画面を見たら新島先輩から返信のDMが届いていた。


 -----

  俺がいれば、お前と先輩と3人がかりで捕まえたのに。


  美緒や先輩が俺にコレを言えない理由が分かってきた。

  先輩の性格では後輩に怪我をさせた事が悔しくて言えない。


  美緒は安易な行動を取ってお前に怪我をさせた事が悪くて言えない。

  お前のことだから、後で美緒にチクリと釘を刺しただろう。

  それに、お前は相手から求められなければ無駄な事は言わないしなぁ。


  でも、お前からとても良いことを聞いた。

  先輩が帰郷した時に家族ぐるみで食事に行ったりサシで飲みにも行く。

  短い連休でも先輩は帰ってくることもあるから次の連休が楽しみだ。


  三上よ、まだ続きがありそうだから期待してる。

  ----------------


『その通りだと思いますよ先輩。』

 俺はディスプレイの前で独り言を放った。


 まだ、いくつか書きたいことがある。

 俺は気合いを入れてDMを書き始めた…。


 ***********************


 俺は気がついて目を開くとボォーと女の子の顔が見える。

 徐々に視界が開けてきて目の前に涙を溜めた可愛い女の子がいる。


「…き、…霧島さん??」

 俺はまだ少し頭の中がボーとしてて状況の把握ができない。

 ただ、視界には夕暮れの空が見えている。そろそろ街灯がつきそうな感じの暗さだ。


「良かった…、三上さん…。意識が戻った!!。」

 霧島さんの涙がポトポトと俺の頬に落ちる。


「霧島さん、そんなに泣かないで下さい。うっ、痛い!!!」

 俺は少し体を動かそうとしたら腕が折れていて痛い事に気付いた。それと同時に一気に目が覚めた。


 少し首を向けるとパトカーが目に留まって棚倉先輩や荒巻さんが警察の事情聴取に応じている。


 高木さんが俺を覗き込むように見た。

「三上くん、意識が戻って良かった。救急車を呼んだからね。」


「高木さん、アイツはどうなったのですか?」

 俺は高木さんに素朴な質問をぶつけた。


「あの男は三上くんが倒れた後に警察がきて取り押さえたわ。倒れた三上くんを松尾さんと研究棟にいた院生が騒ぎに気付いて駆けつけて助けてくれたの。」


 そうすると、高木さんが今まで見たこともない表情をしていた。


「三上くん…。救急車がくるまで頑張って!!」

 高木さんも少し涙声だ。


 俺は力の無い笑いで高木さんに答えた。

「いや、そこまで動けないわけでも…。腕が骨折してて、激しい痛みがきたので失神しただけですよ。」


 それを聞いて、涙でいっぱいの霧島さんが、寝ている俺に濡れてるのもお構いなしで抱きついてきた。抱きついた反動で響いた左腕の痛みを我慢する。


「無理しないで!!三上さん。これ以上…無理しないでください!!。わたし、今日は2度もあなたに助けられたのですからっ…。」


 霧島さんが大粒の涙を流してて俺の顔に涙が落ちる。抱きついている霧島さんの頭を右手で撫で続けた。


 俺は霧島さんの頭を撫でながら、辺りを見渡した。泣いている霧島さんの後ろに三鷹先輩と橘先輩がいて2人とも少し涙ぐんでいる。


「恭ちゃんが生きてて良かったわ。わたし、死んだかと思って…。」

 三鷹先輩が涙声になりながら俺のほうを見た。 


「先輩、俺を勝手に殺さないで下さい。死ぬのは60年ぐらい早いです。」


「ううっ…いつもの恭ちゃんで良かったぁ~~…」

 俺がそう言うと三鷹先輩は大泣きをしてしまった…。


 高木さんの後ろに木下もいた。彼女と俺は目線を合わせた。


「木下。争った時にお前だけいなかったから直ぐに分かった。警察や救急車をこんなに早く呼べたのは、たぶんお前のお陰だと思う。すまない、俺が霧島さんに荒巻さんを呼ぶように言ったときに、幾つかのミスをした。木下に尻拭いをさせてしまった。」


 俺は木下のほうに首を傾けて、霧島さんが抱きついているお陰で左腕に痛みがあるのを堪えながら言った。


 ここで痛いといえば彼女は退くと思うが、俺は霧島さんが大好きだし、この痛みは判断ミスによる罰だと思って、俺の胸で泣いている彼女の頭を撫で続けることにした。


「三上くん、あなたはこの状況でも冷静なのね。あなたには敵わないわ。」

 木下は涙を堪えながら珍しくニッコリとした。


 木下はあの時、三上たちが噴水のそばで争っている様子が分かって、何処にいるか探していた新巻さんや高木さんと鉢合わせして状況を話していた。


 荒巻さんや松尾さんは三上たちの救援に向かい、高木さんは携帯で警察を呼んだ。そして大学のマニュアルに従って関係者に連絡を入れた。


 霧島さん達があの場に駆けつけたのは、途中で荒巻さんを見失った事による偶然の結果だった。


 俺は木下の行動を悟って内心は相当にリーダーとして反省していた。

 そこで3つの反省点を頭の中に思い浮かべていた。


 1つ目は棚倉先輩のアイツを捕まえる誘いに俺が安易に乗ってしまったこと。

 2つ目は霧島さんに声を掛けた際に女性は待機することを伝えなかった。

 3つ目は誰かが俺たちが何処にいるかを安全な場所から見て連絡することだ。


 不良達が沢山いた高校では、この手の暴力行為があると木下のように状況を冷静に見てる奴がいて、誰が何処にいるかまで詳細に分かって誰かに連絡をする。


 俺は校時代の暗黙の了解で成り立っていた事への配慮と言葉が全く足りなかったのだ。


 悔しくて少し霧島さんを頭を撫でてる力が少し入ってしまった事に気付いて力を緩めた。霧島さんはそんな事は構わず俺に胸を借りるようにシッカリと抱きついている。


 そのうちに彼女は落ち着いて泣き止んだようだ。


 俺は霧島さんの頭を撫でつつ、それらの判断ミスを悔しがっていると、かなり大きい体格をしている見知らぬ男の人が近づいてきた。


『高木さんが言っていた院生かな?』

 意識を回復した俺に気付いて、その人が顔をのぞき込んだ。


「噴水で女性が襲われそうになってる暴漢をあなたがタックルしてる姿が研究室の窓から見えたんだ。慌てて飛んでいったよ、距離があって助太刀が遅れてすまない。ラグビー部だったから遠くからでも、あなたの骨が折れてるのが分かった。」


「助けてくれてありがとうございます。それがなかったら、私達はどうなっていたことやら…。」


 俺はその院生にお礼を言った。


「あれは素人ながらナイスなタックルだった。タックルをして骨を折るほどの勢いで噴水に落ちたから病院で脳も良く見て貰った方が良い。あと、その彼女さんを大切にな。」


 その人は笑顔になって拳を差し出した。俺は霧島さんの頭を撫でていた右手で拳を軽く合わせた。


 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

 『そろそろか…。』


 俺は流石に痛さを堪えきれずに霧島さんに名残惜しそうに告げた。

「霧島さん、俺の本音はいつまでも、こうして欲しいですし、霧島さんの頭を撫でていたいのですが…。その…骨折した骨が響いて痛くて…。」


俺はこの状況で無意識のうちに本音を出した。もう、この時、すでに彼女の虜になっている事に、自分は気付いていない。


 霧島さんがハッと気づいて、咄嗟に身体を起こした。

「三上さん、ごめんなさいっ。わたし、そんな事なんて気付かずに思わず体を寄せてました。」


 彼女の服も少し濡れてしまっていた。俺はそれを見て霧島さんに謝った。


「霧島さんの服も濡れちゃったし。自分が情けなくて、ごめん。もっと上手く判断できていれば、こんな事にならなかったのに…。」


「三上さんっ、今はそんなこと考えなくても!!!。…わたしのために、みんなのために頑張ったのに!!!。」


 霧島さんは再び泣きそうになっている。


「ごめん。そういうつもりじゃなかったけど…。」


 今まで必死だったので感じなかったが、濡れてるせいか、やけに寒気がする。

 さっきまで霧島さんが抱きついていたから体が暖かったが、それがなくなって余計に寒気を感じてるのだろうか?。


 …いや待てよ、この寒気は骨が折れてるせいか?。

 そんなことを、考えているうちに、サイレンの音が近くなって救急車が到着した。


 救急車が到着して、救急隊員が俺を担架に乗せている最中、警察に話をしていた棚倉先輩が意識を取り戻した事に気づいて大泣きした。


 俺は担架で救急車に運ばれながら棚倉先輩に聞こえるような声で叫んだ。


「寮のことは任せました。しばらく大変でしょうから、諸岡に寮のことを手伝わせてください。」

 棚倉は泣いているから言葉を出せない。大きくうなずいた。


 そうして、俺は霧島さんと共に救急車に乗り込んだ。


 彼女は私が同乗すると言って譲らなかった。それは彼女の真っ直ぐで少し強情な性格そのものだった。


 ***********************

 俺がDMを打っていると頭を撫でられる感触があった。


「あなたは、今でもそうだけどね、みんなのことを考えるあまりに自分の身を犠牲にするのよ。悪い癖だわ。」


 後ろからメールを見ていた陽葵は俺の頭を撫でていた。


「すまん…陽葵。」


 俺は一言だけ謝った。

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