三鷹は男性全員がミーティングルームから出ていったことを確認すると、もう一度、陽葵に言葉をかけた。
「霧島さん…。」
三鷹は女子後輩から恋愛相談を受けたときに真面目に話す体勢になった。余計なおしゃべりをすると相手も傷つく。女心もあるから難しい。三鷹にとって性格を殺すので緊張感が半端ない。
「あなたが三上君を好きなのは私達も凄く分かるわ。」
「はい…」
陽葵は頬を赤くして小さい声で答えた。
「…霧島さん…。ちょっと現実に戻すようで、ごめんね。いきなり出会った人が、あなたの性格も顔もよく知らないのに好きになると思う?。」
頭の回転が早い陽葵は、三鷹の言葉を聞いて一気に現実に戻されて気付いた。そして彼女の目を見て『…失敗した…』という顔をしていた。暫くすると『…どうしよ…』と、悲しい顔をした。
三鷹は『素直な子で良かった』と、安心した。同時に『恭ちゃんは良い子を貰った』と、確信した。そこで彼女に一押しの言葉をかけ始めた。
「…私も寮長だから立場上はそうだけどさ…。三上くんは寮長という責任感から、あなたを助けたの。そして、自分の力で霧島さんの傷ついた心を救おうと考えたのよ。
三鷹は心の奥底で溜息がでていた。相当に精神が疲れてきた。
「三上くんが霧島さんに言った言葉だけどね。寮長として、とか、みんなのために…。そんな言葉を入れて考えてみて。」
陽葵は三鷹の言葉を聞いて、すぐにそれを悟った。
「三鷹さん…どうしよ…。私は三上さんに嫌われてしまうかも。」
彼女は泣きそうになった。
三鷹は陽葵に少し笑みを含めてこう言った。
「三上くんはね、本当は優しいから、そんな事で嫌う子ではないわ。」
三鷹は恭介をあまり知らないが願望を含めて賭けてみた。
「霧島さん…いや、ちょっと陽葵ちゃんって呼ばせて?」
陽葵はうなずいた。彼女はやりにくかったので、フレンドリーになっても構わないと考えた。
「陽葵ちゃんさ、恭ちゃん…三上クンのことね。恭ちゃんが、陽葵ちゃんに他意がなくて純粋に守った事に惚れ込んだのよね?」
「はい。それが本当に、本当に…好きでたまりません!!。彼の優しい眼差しと皆んなの為に必死に立ち向かう姿が好きです。」
陽葵は少し顔を赤らめながらも、周りが女性なので本音を出し始めた。
「私もさっきまで、恭ちゃんが、あんなに凄い子だったなんて知らなかったけどさ…。あれは私もチョッと…本当に惚れるよ。」
三鷹美緒の本音が入ってしまったが、周りはアドバイスの一環だと思って誰も気付かない。彼女の言葉は真っ当だった。大抵の彼氏持ちの女性は『三上みたいなことを彼氏にやって欲しい』なんて想像してしまう。
「恭ちゃんは少し変な子だけど、たぶん優しいわ。厳しい言葉を投げたり、簡単に陽葵ちゃんを捨てるような事をあの子が言ってきたら、私が思いっきり彼の頬を叩くわ。」
陽葵は三鷹を見上げた。
「そしたら陽葵ちゃんも、あの子の頬を叩きなさい。でも、わたしは、その結末にはならないと思うわ。」
三鷹の本音は、三上恭介の事をあまり知らないので女の勘を信用した。
具体的には、三上の変わった姿を見ても、自分には彼氏がいると打ち消して平常心を保てている。でも、三鷹美緒の心の奥底では、少しばかり彼の存在を意識せざるを得ない部分に賭けてみたのだ。
陽葵は少し安心した。そして、一抹の不安をぶつけた。
「三上さんって、あんなに格好よくて優しいから彼女がいるのですか?」
三鷹は、三上の核爆弾を見たのが今日だったので、ある種の笑いをこらえながら言った。
「あの子は彼女なんていないわ。これは絶対に補償できるわ。」
「良かった…」
陽葵の目がパッと明るくなった。
一方で学生課から少し離れた廊下で、三上恭介が荒巻と漢の話を始めた。少し離れて松尾さんと棚倉先輩も立って様子を見ていた。
荒巻はこう考えた。
『彼は人の心を察するのが上手い』
荒巻は三上恭介に単刀直入にぶつけるほうが早いと思った。
「三上くん、霧島さんの事で話がある。」
「霧島さんがどうしましたか??」
俺は少し心配そうに荒巻さんの目を見た。
「単刀直入に言う。霧島さんは、三上くんが他意がなく彼女を救ってくれた事に惚れて好きになってる。霧島さんとの会話を彼女が好きだと解釈してみてくれ。向こうも、たぶん同じことを三鷹さんが女の子同士でしている。」
俺は思考を巡らした途端、そのことが分かると膝を抱えて廊下に座り込んだ。色々な気持ちがこみ上げてきた。
俺は複雑な感情を整理すると、立ち上がって荒巻さんに切り出した。
「あちらも話が長いと思いますから、俺も時間つぶしに色々と語って良いですか?」
「三上くん、構わないよ。たぶん三鷹さんは喋りまくってるだろうから。」
荒巻さんは苦笑いしながら俺に言う。
俺は普通の三上恭介に戻っていた。色々な感情がこみ上げてきたが、歯がゆくて嬉しい感情が少し勝った。彼の表情を三人から見ると、本当に優しげだった。
俺も荒巻さんのように単刀直入に話すことにした。
「先に結論を言うと、俺は霧島さんを好きだと思います。その前に、彼女に誤解を与えたことや、俺が鈍かった事も謝らないと。そして、俺を好きになってくれた事に対して…ありがとう…と、彼女に言いたい。」
それを聞いて松尾さんと棚倉先輩が俺のもとによってきた。本当になんだか3人とも嬉しそうだ。
そして、3人に向かって俺は言った。
「長くなるけど聞いてください。」
3人が俺の話に耳を傾けた。