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~エピソード4~ ① 陽葵ちゃんを夢から戻しましょうか。

 俺は思い出した。


 『そうだ!。新島先輩に三鷹先輩のことをDMするのを忘れていた…。』

 俺は棚倉先輩から届いたDMのインパクトが強すぎて彼にこのことを報告するのを忘れてしまった。


 まだ、三鷹先輩と、とりあえず繋がったがDM等の連絡はない。

 彼女のことだから何か悪巧みがあるのか、距離感を測りかねているのか…。

 それとも締め切りに追われているか…だろう。


 まずは新島先輩にDMを送った。


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   新島先輩、三鷹先輩の件で声かけが遅れて申し訳ないです。

   投稿を見る限りでは相変わらずお元気そうで何よりです。

   それよりも、すみません…。

   この前の投稿は陽葵が好きすぎて暴走しました。


   ところで、三鷹先輩と棚倉先輩がSNSで繋がって頭の痛い事態が起きてます。

   俺もこれから仕事があるので、棚倉先輩のメールをそのまま転送します。


   三鷹先輩が俺をフォローしてきた直後で無反応であります。

   彼女も仕事…というか…色々とあって忙しいかも知れません。

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 俺は新島先輩にDMを送った後、仕事をしようと思ったら直ぐに返事がきた。


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   三上…それは固まって俺の存在を忘れるわ…。

   いつもの三上なら速攻でDMがくるもんなぁ。


   お前が三鷹と繋がって俺への反応が遅いから、

   こっちから何か突いてやろうと思ってな…。

   スマホを見たらDMがあったのですぐ分かった。


   しかし、美緒も何を考えているんだか。


   そういえばさ、例の伝説の告白のとき、

   三上と陽葵ちゃんがズレまくっただろ?


   復学して美緒や棚倉先輩などはアレばかりを

   話すから、その後が全然…分からないんだよ。


   俺の恋愛経験上、あれだけズレまくったら

   お前らは話しが合わなくて別れていた。


   どうやって軌道修正したんだ?


   復学した当時、お前らはイチャラブ過ぎて、

   聞こうにも聞けない状態だったからさ。

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 新島先輩からこのメールを受け取った瞬間、俺は休日の仕事の取りかかりが2時間ずれると覚悟した。

 これは棚倉先輩の女子寮の案件と同様、当事者として話す義務がある。


 ひたすらPCの目の前で長文を打つしかない。


 確かにあの轟沈直後の話は誰も語ろうとしないだろう。

 アレこそ、恥ずかしくて誰も言えなかった…。

 いや、三鷹先輩は特に言えなかったんじゃないかと…。


 俺は新島先輩に短いDMを送った。


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   先輩、かなり長くてDMが幾つか分割されます。

   それでも良いなら送ります。

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 返事はすぐに返ってきた。


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  三上、いいから寄越せ。

  昔からお前はパソコンのキーボードを打つ

  スピードが異様過ぎるぐらい速い。


  俺は、伝説なんかよりもソッチが気になる。

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 さてと…。

 どこから初めて、何処で終わらせようか…?。俺は頭の中の整理を始めた。


 ***********************


 時を戻して19年前。

 霧島陽葵が轟沈して学生課のミーティングルームが20分ぐらい沈黙していた時だった。


 学生側の大人側と三上恭介以外が(精神的に)悶え死んでいた。

 アレは核爆弾級の破壊力だった。


 恭介は(精神的に)悶え死んでいた三鷹にお腹をさするジェスチャーをした。

 察しの良い三鷹先輩なら分かってくれると確信していた。

 食いすぎてトイレに駆け込みたかったのだ。


 咄嗟に察した三鷹は、恭介が立ち上がった事で、一緒に立ち上がろうとする霧島陽葵を制した。

 そして、すかさず恭介が座っていた椅子に三鷹が座った。


 三鷹先輩は気を利かして陽葵にこう言った。

 「三上くんは他のところに用事があるけど、すぐに戻るわ。」


 三鷹美緒は女子寮内で恋愛相談を良くされる。

 『このままでは…すれ違いが酷すぎてマズいわ』


 恭介がミーティングルームのドアを閉めたのを確認して霧島陽葵に声をかけた。


 恭介がいなくなった事で空気が少し安定した。

 それぞれが少し気持ちが楽になった気がした。


 三鷹は告白が成功したと思っている霧島陽葵を現実に戻す言葉を考えていた。

 自分の経験上、恭介と時間をかけて恋愛を育む方が最善と考えた。


 陽葵は独断場で三上恭介に公開告白をしたような形だから皆が応援する。

 三鷹は2人をゴールインまで導かせてあげたいし、周りもそれは同意見だ。


 三上のほうも霧島陽葵が彼にベタ惚れな事を教えなければいけない。

 その最適人物を三鷹は探していた。


『恐らく棚倉先輩は少し駄目だわ。適切じゃない』


 棚倉は漢気があるから

 『バカ。お前は漢として惚れられた女に一生を託せ』

 と、言ってしまって、恭介の気持ちの整理をさせずに放り投げてしまう。


 仮の話だが、新島がいても不適切だっただろう。

 おそらく鈍感な三上に碌でもないことを教える。

 三上がそれをすることで、陽葵に下心を見せたと勘違いされて蹴飛ばされる。


 ネックなのは恭介が霧島陽葵をどう思っているのか分かりかねる。

 恭介に気持ちの整理をさせて、今は無理でも陽葵を好きになる契機を作る必要がある。


 恭介の性格だと奥手だから積極的ではないのは分かる。

 『荒巻さんは学生課で学生から相談される事も多いから慣れているわ』


 これは三鷹が考えたベストに近い方策だった。

 三鷹の選択と行動は全く間違ってない。

 恐らく彼女の機転がなければ2人の関係性は瓦解しただろう。


 三鷹は霧島陽葵に声をかけた。

 「…霧島さん…」


 「はい…」

 陽葵は小さい返事をした。

 まだ夢から覚めきっていない感じで耳まで朱色に染めている。


 「すこしお話があるの…」


 「あっ…霧島さん。。。その前に…ごめんね…」

 陽葵は夢から覚めてないので周りの状況が見えてない。


  三鷹は荒巻さんの目をジッと見て声をかけた。

 「そういえば…荒巻さん、三上くんに話があるって言っていたような…?」

  経験豊富な荒巻さんは全てを悟った。


 「三鷹さん…すまん、すっかり忘れていた。」

 荒巻さんは恭介に声をかけるべく動いた。

 時間稼ぎを含めて、彼に声をかける言葉を考え始めながら席を立った。


 松尾さんは、その空気感から、ここは女性同士で話しをする場と察して

 「棚倉君。荒巻さんと一緒に話をしよう」

 松尾さんは棚倉に席を立たせて一緒に学生課の外に出た。


 3人が廊下に出た。少し声を落として松尾さんが言う。

 「棚倉君、お前は三上に何も言うな。荒巻さんが三上君に簡単に話をすれば、彼はすぐ分かるはずだ。」


 寮幹部や大学側の大人を含めて、三上恭介と霧島陽葵を幸せにしてあげたかった。

 だから、みんなは、そのための労力を惜しまなかったのだ。


 ***********************

 新島先輩のDMをキーボードで打ちながら恭介は独り言を漏らした。

「当時の俺、やっぱり鈍すぎだろ…。」


 後の話になるが、彼らは結婚式に松尾さんや寮母さん、荒巻さんや高木さんを呼ぶのを忘れなかった。


 新島先輩には、できるだけ簡潔に、ツッコまれそうな所は詳しく書く。


 先ずは、ここまで話をまとめて新島先輩のDMに送信する。

「これは思ったよりも時間を使うなぁ…。」


 俺はPCの目の前でぼやいていた。

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